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ePARAレポート 障害とゲーム

全盲社員の実里が振り返るePARAの2023年

皆さん、こんにちは。ePARAの全盲社員、実里です。

皆さんにとって、2023年はどんな1年でしたか?ePARAは、2023年もたくさんの活動を行いました。挙げればきりがないほどですが、この記事では私が深く関わった活動を、私なりの感想を織り交ぜて振り返りたいと思います。せわしなく時間が過ぎていく時期かと思いますが、あたたかな部屋でみかんでも食べながらゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

クロスライン-ボクらは違いと旅をする-SEASON2

クロスラインSEASON2のキービジュアル。空にレーサーの横顔が描かれており「レーサーに夢を馳せる」の一文が重ねられている。それを手前にあるレーシングコースにいる5人が見つめている。5人のうち2人は車椅子、1人は白杖を持っている。片隅にePARAロゴのレーシングカーも停まっている。

障害当事者のユニット「Racing Fortia」発足

「クロスライン-ボクらは違いと旅をする-」は、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金主催のアイデアコンテスト「Mobility for ALL〜移動の可能性を、すべての人に。」部門の採択を受け、ゲームの切り口からモータースポーツの世界への「旅」をつくり、Mobility for ALLの道を切り拓く、実証実験的な長期プロジェクトです。

クロスラインは、バリアフリープロジェクトチーム「Fortia(フォルティア)」の中でも、モータースポーツに強い思いを持つメンバーが中心となって支えてきました。

2022年に行われたSEASON1では、有識者チームとしてプロジェクトをサポートしていたメンバーたちでしたが、SEASON2に突入し、長期事業となることが確定したことで「Racing Fortia」と名称を変え、レーサーやチームスタッフ、ファンとしての個々のモータースポーツに対する目標や憧れを形にする活動に積極的に動く体制を整えました。

かくいう私も「全盲でも運転がしたい。eモータースポーツを使えば私もレーサーになれるのではないか」という目標を抱いているRacing Fortiaメンバーの一人です。

Racing Fortiaと共にePARAが開催したクロスラインSEASON2では、さまざまな要素が交差する、まさしく「クロスライン」な企画を2つ行いました。

Racing Fortiaロゴ

【企画1】S耐レースに協走 クロスラインレース

「eスポーツで誰もがレーサーに挑戦できる社会へ」をテーマとして、レーシングシミュレーター「iRacing」を用いたバーチャルレースを開催。「第5戦もてぎスーパー耐久 5Hours Race」と同時開催することで、リアルレースとバーチャルレースとの融合の実現を目指しました。この2つを同時にスタートさせるためには、バーチャルレース側がリアルレースのスタートのタイミングに上手く合わせる必要があります。難しいと思われていましたが、本番では見事にほとんど同じタイミングでレースをスタートさせるという奇跡を起こすことができ、バーチャルレース会場は大きな盛り上がりに包まれました。

クロスラインレースに参加した皆さんの集合写真。みんな片手をあげている。
クロスラインレースに参加した皆さんの集合写真

クロスラインレースには、Racing Fortiaチームに加え、TEAM REAL RACERS、KDDIチーム、テクノツールチームが出場し、3名のチームメンバーのうち1人はオンラインでの参加も可能という、eレーサー×リアルプロレーサー、オフライン×オンラインの融合も実現させました。TEAM REAL RACERSは、岩澤優吾選手(Yogibo Racing)、塩津祐介選手(GAINER TANAX GT-R)、塚本ナナミ選手(日比野塾)が出場してくださいました。

また、実況・解説・MC・クリエイティブの作成などで、Racing Fortiaメンバーを中心とした障害当事者の皆さんが大活躍しました。

【企画2】当事者が実証に協力 クロスラインミニツアー

クロスラインミニツアーでも、視覚障害当事者と車椅子ユーザーの皆さんが活躍しました。

「より多くの方にモータースポーツの楽しみを」を目的として、筑波技術大学の視覚障害のある学生の皆さんにインターンとして、バーチャルレースを体験していただいたほか、「Mobility for ALL〜移動の可能性を、すべての人に。」にエントリーしている他の団体の実証にも協力しました。その後、学生の方一人一人に、ePARAでの企画アイデアをプレゼンしてもらう時間を設け、たくさんの発想力に富んだアイデアを発表していただきました。本企画に参加した学生の方に記事も寄稿していただいていますので、そちらもぜひご覧ください。

視覚障害のある筑波技術大学の方々がスマートフォンのアプリを操作している様子。
筑波技術大学の皆さんが他チームの開発アプリを試している様子

視点を変えれば世界は無限に広がる―明日を変えるヒントが詰まったクロスラインミニツアー
視覚障害者弱視がツアーで体験した運転、レース観戦、移動の「可能性」!

レースが行われている横で、触感ディスプレイを触る実里さんと手を取りガイドする担当の方。
触覚ディスプレイを触り、レース情報を得る体験

また、車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」のメンバーも各実証に協力し、クロスラインレースのMCとして活躍したり、もてぎの会場を動き回って情報発信したりしました。

ePARAユナイテッドの3名がレーシングコースをバックにポーズする様子。
実証実験に参加したePARAユナイテッドのメンバー

HACHIMANTAI 8 FIGHTS

HACHIMANTAI8 FIGHTSのロゴ

Jeniさんを中心に広がる格闘ゲームコミュニティとの連携が軸に

2023年9月に岩手県八幡平市で行われた「HACHIMANTAI 8 FIGHTS」は、筋ジストロフィー当事者であるePARA社員のJeniさんがプロデューサーを務めるバリアフリー格闘ゲーム交流会です。

Jeniさんの、長年積み上げてきた格闘ゲームへの熱い思いを形にし、格闘ゲームコミュニティへの感謝を伝えたいという意志でスタートしたこの企画は、Jeniさんの格闘ゲーム仲間の皆さんを中心にどんどん賛同者が集まり、最終的には東北の格闘ゲームコミュニティを巻き込んだ大プロジェクトになりました。

イベントを開催するまでの詳しい流れについては、Jeniさんのnote記事をご参照ください。

格闘ゲームコミュニティにありがとうを伝えるためにHACHIMANTAI 8 FIGHTSを開催した話。

この記事は、Jeniさんの格闘ゲームへの情熱や、「好きなことを諦めない」という強い気持ちに溢れた記事で、私は初めて読んだときと、この振り返り記事を書くために読み返したときの2回、泣きました。このプロジェクトが進んでいく様を見ていて思ったことは、熱い思いと行動力があれば、気づいてくれる人や一緒に目標に向かって歩いてくれる人が現れるものなのだということです。準備期間にJeniさんから「こんな人が協力してくれることになりました」と報告をもらう度に「これがJeniさんが今まで積み上げてきた思いと人脈の力なのだ」と、一人で圧倒されていたのはここだけの秘密です。

Jeniさんの周りを加藤代表含め5人のスタッフが囲んで撮った写真。Jeniさんの頭の上にePARAのキービジュアルボードを掲げている。
Jeniさん(中央)、加藤代表(左上)と準備を手伝ってくれたスタッフの方々

格闘ゲームが秘めた無限の可能性に触れて

イベント当日。会場には8つのエリアが設けられて、私は、視覚情報を用いずにストリートファイターをプレイする「心眼エリア」のスタッフとして来場者の皆さんと対戦・交流しました。

私は格闘ゲームを始めたばかりで、格闘ゲームの交流会に参加するのもこれが初めてでした。プロeスポーツチーム「IBUSHIGIN」の皆さん、格闘ゲームのベテランプレイヤーから初心者の方々、障害当事者の皆さんが、それぞれ隣り合って格闘ゲームで対戦して盛り上がっている様子は圧巻でした。特に、完全ランダムでペアをつくって行った2on2のトーナメント戦は、実況の力も相まって、観戦者も巻き込んだ盛り上がりを見せました。

たくさんの方が来場して賑わう会場の様子。車椅子ユーザーも多く、手前では車椅子ユーザーの方とそうでない方が一緒にプレイしている。
たくさんの方が来場し、障害の有無に関わらずゲームを通して交流し盛り上がる

私がいた心眼エリアでも、たくさんの方が視覚情報を用いない格闘ゲームのプレイに挑戦してくださり、楽しんでくれた方、心眼プレイに真剣に向き合ってくれた方、何度も心眼プレイでの対戦に挑戦してくれた方と、大盛況でした。さまざまな立場、事情、思いを持った人たちが、格闘ゲームの前では対等に1対1のコミュニケーションをとる。そんな場面を見ていると、格闘ゲームの人と人をつなぐ力と、そのつながりからうまれる無限の可能性を感じずにはいられませんでした

実里さんとNAOYAさんがプレイしている様子。
心眼エリアを担当する実里とNAOYAさん

加えて、とても個人的な感想ですが、今回のイベントに参加してくださっていたコスプレイヤーの皆さんとコミュニケーションをとれたのが一番嬉しかったです。視覚障害者と、ビジュアル重視のコスプレイヤー。普段はなかなか接点を持つ機会がない分野で活動されている方との交流は刺激的でした。同性同士の特権で、コスプレイヤーさんの衣装や装飾、髪型などに触らせていただけたのも貴重な経験でしたね。

自分で見ることはできないけれど、キャラクターになりきり、いつもとは違う自分になれるという意味で、私も一度はコスプレしてみたいかもと心が踊りました。

3人のコスプレイヤーが大きいクッションの上でくつろぐ様子。
Yogibo体験エリアでくつろぐコスプレイヤーの方々

心眼PARTY 2023 powered by JEXER

心眼PARTY 2023 powered by JEXERのキービジュアル。

視覚情報を用いない「心眼」の世界

「心眼」とは、目が見えない人がゲームの音を頼りにプレイするところから、視覚情報を用いないプレイ方法の総称として我々が用いている言葉です。ePARAでは、主に格闘ゲーム「ストリートファイターシリーズ」を視覚障害当事者(ブラインドeスポーツプレイヤー)が精力的に練習しています。2022年には、先天性全盲のプレイヤーのみが「ストリートファイターV」で闘う「心眼CUP powered by SYCOM」を開催しました。

また、2023年6月に発売された「ストリートファイター6」に搭載されたサウンドアクセシビリティ機能の開発にePARAが協力し、そのサウンドアクセシビリティを使用することによって、より戦略的な心眼プレイが可能になりました。

「目が見えないとゲームはできない」という固定概念(これは、ePARAに出会う前の私が思っていたことでもあります)を真っ向から覆す心眼は、これからも多くの人の心をつかむコンテンツです。

「見えない」ことで開けた新しい景色

2023年10月、視覚障害の有無に関わらず参加者を募集し、参加者全員が視覚情報を用いない格闘ゲーム交流会「心眼PARTY 2023 powered by JEXER」をJR東日本スタートアップ株式会社と共同で開催しました。

団体戦出場参加者が集まっている様子。
視覚障害者と晴眼者がチームを組んで団体戦を行いました

これまでの心眼CUPとは異なり、参加者は視覚障害者に限定せず、普段はゲーム画面を見ながらプレイしている人たちにも心眼の世界に触れてもらいました。視覚障害者がゲームを楽しむためのツールであった心眼は、アクセシビリティの枠を超えてゲームを楽しむためのプレイ方法の一つとなり、誰もが気軽に楽しめるものへと間口を広げたのです

NAOYAさんの隣でアイマスクとヘッドホンをしてプレイする参加者。
ブラインドeスポーツプレイヤーNAOYAさんの隣でアイマスクをしてプレイする参加者

普段視覚情報を用いてゲームをしている人が、その視覚情報を封じられると不便なだけかと思っていましたが、参加者の中には「視覚情報がないほうが、プレイ中の情報処理がしやすくて楽かもしれない」という感想を教えてくれた方もいて、私はかなり驚きました。

五感のすべてを使って情報を身体に取り込むことは便利なことばかりだと思っていましたが、人によってはそれが情報過多になってしまい、五感の一部を封じることでより高いパフォーマンスができる場合もあるようです。この記事をお読みのあなたも、一度心眼の世界に触れてみませんか?実はあなたも心眼と相性が良いなんてことがあるかもしれませんよ。

ストリートファイター6をプレイ中の実里さんと参加者の方の後ろ姿。
参加者の方とプレイする実里

視覚情報に頼らない格闘ゲーム交流会「心眼PARTY 2023 powered by JEXER」参加レポート
頼れるのは己の聴覚のみ!?eスポーツ交流イベント「心眼PARTY 2023 powered by JEXER」参加選手による体験レポート!

まとめ

夢の種を大切に育てた2023年

さて、ここまで2023年のePARAの取り組みをイベントごとに振り返ってまいりましたが、いかがでしたでしょうか?

それぞれの活動において、誰かの思いに突き動かされ、次第にたくさんの人の思いが重なって大きくなり、道が造られる。一つの大きなイベントが終わればそれで終了ではなく、ePARAやFortiaに関わる個々の夢や目標、憧れが大きな花になって咲き誇る時のための準備期間、一つ一つのイベントや日々の活動は、未来への種まき。そんな1年でした。

今回取り上げた活動だけでなく、「川崎フロンターレ」とePARAユナイテッドや、プロeスポーツチーム「REJECT」と「FPS Fortia」が交流を深めたほか、毎週のFortiaミーティングやオンライン部活動でもメンバー同士のコミュニケーションを大切に重ねてきました。

川崎フロンターレ・2023ファン感謝デー特別企画「FOOTBALL TOGETHER Powered by eFootball™️」に参加した川崎フロンターレの選手やePARAユナイテッドメンバー、来場したサポーターの皆さん全員で撮った集合写真。
川崎フロンターレ・2023ファン感謝デー特別企画「FOOTBALL TOGETHER Powered by eFootball™️」に制作協力・出演

また、視覚障害当事者がナレーターとして所属する音声制作事業「ePARA Voice」がスタートしたり、慶應義塾大学理工学部牛場潤一研究室および高橋正樹研究室によるBMI技術の研究に協力したり、「H.C.R.2023 第50回国際福祉機器展&フォーラム」でワークショップ等を実施したりするなど、新たな挑戦も多々ありました。この種も、きっとこれから一つ一つがさらに大きな花になっていきますので、見守っていただけると嬉しいです。

Yogiboに座ってトークショーを行なっている加藤代表と実里さん、観客の皆さんの様子。
H.C.R.2023 第50回国際福祉機器展&フォーラム」でミニトークショーに出演する実里

成長し続ける2024年

さて、そんな2023年を経て、2024年が始まりましたね。今年のePARAも、既にイベントや新事業の準備が着々と進んでいます。

ePARAの主事業の一つであるバリアフリーeスポーツ事業にも力を入れ続けるのはもちろん、ePARAらしさと新たな挑戦を掛け合わせて、成長を止めない2024年。改めて、応援をよろしくお願いいたします。

私個人としても、今年はさらなる成長の一年にしたいと考えています。JeniさんやNAOYAさんのように堂々と表に立てる力を蓄えていきたいです。そのために、積極的な情報発信をして、皆さんに私を知っていただくべく、noteやXを活発に動かしていこうと思います。ePARAとFortiaとあわせて、私のこともちょっぴり気に留めて応援していただけると小躍りして喜びますので、よろしくお願い申し上げます。

ここまで、長文にお付き合いいただきありがとうございました。

皆さんにとって、そしてePARAにとって、より良い2024年になりますように。

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実里

中途失明。ePARA社員兼ePARA Voice所属タレント(盛永実里)として活動中。
好奇心の強さは人並み以上で、やりたいゲームもたくさんあります。
Twitter: @misato3310eg

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