障害とゲーム

両腕のないドライバー・jukeとの旅は驚きの連続だった-「諦めの悪い男」と過ごした11時間-

「諦めの悪い男、、、ですかね。」

jukeは自身をそう称した。
2023年12月16日、jukeと私は鈴鹿市に向かっていた。
鈴鹿市役所内に45台のレーシングシミュレーターが並ぶイベント「SUZUKA eMOTORSPORTS EXPERIENCE 2023」に参加するためだ。

jukeは生まれつき両腕がない。
多くのことを足で行う。
そんな彼との時間は、驚きと学びの連続だった。

Racingシミュレーターを足で操作するjuke

足の可能性は無限だ

「できる方法を探すのが楽しいんです。」

jukeは、フットワークが軽い。多くのことを自分でやる。
足でバッグの開け閉めを行い、口でチケットを取り出し、改札口に通す。
お茶を飲みたければ足で蓋を開け、口でペットボトルを操作して飲む。
足でスマートフォンも操作する。デバイスがPCに代わっても同様だ。
jukeの足は、手の役割も兼ねた二刀流なのだ。

切符を口にくわえて改札機に通すjuke
改札口でのひとコマ
足の指でお茶のペットボトルのふたを明ける様子
足でペットボトルを開ける様子

スポーツ歴も豊富

「水泳、トランポリン、テコンドー。レーシングは最近です。」
jukeは幼少期、保育園のプールで溺れかけた。小学4年生のとき、トラウマを乗り越えるために水泳をはじめた。24時間テレビで二宮和也さんの応援を受けながら100メートルを完泳したのも良い思い出だ。高校時代には、障がい者水泳選手権に出場し、水泳とバタフライで金メダルを獲った。小学1年生から高校卒業まではトランポリンも練習しており、今でも難なく10メートル以上飛べる。
12/9に新潟市の福祉イベント「FUKUSHI FES 2023」でとりちゃん・アフロさんとトランポリンをやったことを話すと、こう言った。

「今度、みんなで一緒にやりましょうよ。」

それが日常だから

「足の指って、手の指より太いですよね?操作しにくくないんですか?」

jukeに尋ねると、jukeは少し考えて言った。
「操作しにくいのかもしれませんが、慣れてます。僕にとってはそれが日常ですから。

足で操作するなんて、スマートフォンやPCのメーカーは想定して開発しているのだろうか。jukeはつまずきもなく足でフリック操作を繰り返しながら言った。

「練習すれば、できるもんですよ。」

足の指でノートパソコンのキーボードを打つ様子
足でのタイピング(ブラインドタッチ)

ケガは新しいスキル獲得のチャンス!?

「足をケガすると、生活が一変します。」

スポーツにケガはつきものだ。それは障害者スポーツでも変わりはない。jukeは高校2年の夏にトランポリンで技に失敗し、左ひざの全十字を断裂して出術。全治1年を要している。

2020年には道路のくぼみに挟まり、利き足である右ひざと靭帯の剥離骨折を負った。

二刀流のjukeにとって、足が動かないのは腕・足が動かないのと同義だ。足をケガするとできることが急激に減る。利き足となればなおさらだ。

「左半身でできることが増えたんですよ。人間ってすごいもんですよね。

まるで他人事のように言うから面白い。右ひざの骨折は約3か月の全介助状態を余儀なくされたが、その期間に左足での食事やスマホ操作を習得した。字も時間をかければ左足で書ける自信を得た。

ドラクエの主人公がモンスターを倒して呪文を習得するような感覚。jukeの話を聞きながら私は、利き手交換を行った神の手・はるちゃんのことばを思い出した。

「右でできなくなったら、左でやればいいんです。」

 フットワーク・ドライバー誕生

「足だけで実車を運転、できるんですよ。」

決して違法行為ではない。
jukeは普通免許を取得し、マイカーも所有している。jukeの車は、左足でステアリングができ、助手席には補助ブレーキが搭載されている。Honda・フランツシステムに代表される福祉車両が、jukeのようなドライバーの可能性を拡げている。ePARAとの出会いを産んだH.C.R. 2023(会場:東京ビッグサイト)にも自らの運転で来場した。

jukeの車の運転席
左足でステアリングを行うjukeのマイカー

そんなjukeだから、eモータースポーツの世界にも足で飛び込む。しかも、普段の運転と違うスタイルで飛び込む。

一見、写真で気づかなかった方もいるのではなかろうか。jukeは腕で運転しているように見えるが、実際は腕の高さに足を上げて運転している。足で巧みにコース取りやコーナリングを行っている。ZENKAIRACINGの林寛樹代表も目を丸くしながらjukeの走りを応援してくれた。

jukeは2台目として、車の振動が大きく伝わるアクティブシミュレーターに挑戦した。加速やコーナリングのたびに実車さながらの重力がかかるこのモデル。車の動作に合わせて、車体全体が大きく揺れ動く。

不安定な体勢で運転するjukeには、臨場感と没入感の代替で身体の負担が大きかったようだ。jukeの上半身からは尋常ではない量の汗が流れていた。

レーシングシミュレーターを足で操作するjuke
VERSUS姫路店のVS-EX100-ENTRYを体験するjuke

ランチで作戦会議

「パスタ、巻いてる?」⇒「はい、足で」

Hi-Hiの上田浩二郎さんのネタのようなやりとりも、jukeの日常だ。Racing Fortiaメンバー4名で鈴鹿市役所そばのカフェ CALDiEで昼食。jukeはパスタを注文した。
パスタの右横に足が上がると、同席者は最初はびっくりする。「それはそうだよな」と思い直してふと、その難しさに気づく。フォークを操るのも難しいから、パスタを巻いて食べるのは簡単ではない。jukeと同じ食べ方に挑戦したが、身体の硬い筆者は、そもそも足で口までフォークを運べなかった。

jukeが右足をテーブルに載せ、その足の指にはさんだフォークでパスタを食べようとしている
足でパスタを巻くjuke
テーブルに載せた右足で目をこする様子
食後の眠気に眼をこするjuke

器用に食べるjukeとのランチの話題は、足で運転するドライバーの呼称についてだ。足ドライバー?下半身ドライバー?フットドライバー?どれもしっくりこない。ただ足を使うのではなく、体幹や股関節の大きな動きから指の細かな操作まで必要だからだ。議論の結果、Racing Fortiaでは「フットワーク・ドライバー」と称することにした。

シミュレーターのハンドルを足の指で挟んで操作する様子
フットワーク・ドライバーは、指使いも重要になる

足の運転で、レースイベントに出場

「レース、出場してみる?」
VERSUS姫路店の坊垣伸一代表が、jukeに提案してくれた。「SUZUKA eMOTORSPORTS EXPERIENCE 2023」で14時から実施される「Novice Challenge Race 2」にjukeも参戦させてくれるのだという。ゲストとして来場したイゴール・フラガ選手にも挨拶し、デビュー戦となる舞台に胸躍らせていた。

デビューの刻

「ドキドキしますね」

初舞台に興奮と緊張が伴うのは誰もが一緒だ。14時の出走を控えるjukeは、VERSUSのVS-EX100-ENTRYにまたがり、その時を待った。フットワーク・ドライバーは通常よりも下半身を多用する。アスリート歴のあるjukeは入念にストレッチをした。

その時が来ると、チームメイトと肩でハイタッチをした。少し汗ばんだその肩に、強い情熱を感じた。

レーサーの血

予選を終えたjukeのタイムは出場者12名中6位とまずまずの位置につけるも、本戦のスタートで出遅れたjuke。1台をオーバーテイクし、もう1台を視界に捉えたjuke。距離を詰めるも、なかなか捕えきれない。焦りからインを突いたクロスラインを図るも、ショートカットによるペナルティとなり、追い抜くところまで至らずに終戦となった。
「楽しかったです!もう少し順位を上げたかったですけどね。」
9位という順位は、本意ではないのだろう。額から汗が滴るその顔は、充実した笑顔とともに悔しさも滲ませた。
一方でその笑顔と額に伝う汗には、両腕のないフットワークドライバー・jukeの大きな可能性を垣間見た。

シミュレーターを操作するjukeと、その様子を見る人
レースに出場するjuke。会場内での注目も高かった
ZENKAIRACING社YouTubeチャンネルで紹介されているSUZUKA e-MOTORSPORT EXPERIENCE 2023

旅を振り返って -2024のFortiaを考える-

「言われたらイヤなことって、ありますか?」

新幹線が小田原を通過したころ、私はjukeに聞いてみた。

「ボクは、Fortiaの中でも特に『気にしない』人間だと思います。何を言われても自分は自分なので。
ただ強いて言うならば、(両腕がないからという理由で)『できない』と決めつけられるのはイヤです。

諦めない仲間たちと歩む旅

「できるかどうかは、自分で決めたい。」

ふと、Fortiaのメンバーひとりひとりの顔が浮かんだ。
「挑戦」の形はひとそれぞれ。成功の形も十人十色。人の生き方・障害のあり方・合理的配慮の形も千差万別。みんな違う。それと向き合い、時にくじけたりうまくいかずに苦しんだりすることはあるし、対人関係のトラブルがおこることもある。
毎週開催しているFortiaのミーティング。十名前後が参加するが、いつも半数以上は体調が悪い。ePARAユナイテッドやRacing Fortiaの週次の練習会でも、参加できるコンディションを整えるのが難関だ。
「うまくいかないことも冒険のひとつとして、楽しめるかどうか。」
そんな前向きさはいつも、障害とともに生きる仲間たちから、学ばせていただいている。

2023年9月、HACHIMANTAI 8 FIGHTSの終わりのこと。
ePARAのJeniは、「好きなのに諦めなければならないことほど、残酷なものはない」と語った。
そんなJeniは今年、ラスベガスで開催されるEVO 2024に参戦する夢を叶えるため、道を開拓している。

ePARAユナイテッドのあーりんは、今冬に念願のウィーンへの旅を決めた。
「絶対に行きます。」
強い言葉を実現すべく、あーりんはウィーンでの舞台に向けて日々、コンディション調整を行っている。

いずれも渡航だけでもハードルが多い「挑戦」。だから、舞台に立つだけですごい。そのプロセスを見てきた応援者は、自然と心を揺さぶられ、涙が出る。

ePARAは、好きな力を仕事に変え、新たな道を拓いていく人たちを応援している。そこには、勝敗や強弱に縛られない感動が待っている。その感動は、将来的にはもっともっと多くの人に元気や勇気を与えられるものだと信じている。2024年は諦めない仲間たちと、どんな旅ができるのだろうか。「諦めない男」jukeとの旅は、Fortiaのこれまでを象徴する時間のように思え、なんだか嬉しくなった。

揃いのジャージやポロシャツを身に着けて記念写真に収まる5人
Racing Fortiaメンバーとの記念写真
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Hoso

ePARAのCMO。企画/マーケティング担当。バリアフリープロジェクトチーム「Fortia」マネージャー。ePARAユナイテッドGM。欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞で優勝経験を持つ。

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