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自分の世界を広げる旅〜全盲真しろのイングランド留学体験記①

Long time no see! 海外広報担当の真しろと申します。久しぶりに、こちらで寄稿する機会をいただきました。

私は生まれつき視覚に障害があります。一昨年(2022年)の9月下旬から、イングランド東部のエセックス大学に留学する傍ら、ePARA海外コミュニケーション部門の数少ないメンバーの一人として活動してきました。今回は『イングランド留学体験記』と題して、英国滞在約9ヶ月の日々での経験や感想、ePARA海外広報担当として活動したことについて記していきたいと思います。初回は、大学での学習や生活の様子、英国の視覚障害者支援について感じたこと、そして留学中に挑戦した「旅」について書いていきます。

大学での学習について

私が留学していたエセックス大学には、Student Wellbeing and Inclusivity Serviceという窓口があり、教材の支援やキャンパス内の移動支援、生活支援などの相談に応じてくれます。

以下、授業中の支援と移動および生活支援の2つにわけて記します。

教材支援

私は、普段パソコンの音声読み上げソフトと点字を使って生活しているので、このどちらかで読めるデータで提供していただけるようにお願いしていました。たいていの場合、先生方は授業で使用するスライドをポータルサイトにアップしてくださるので、私だけでなく、受講者全員がデータにアクセスできます。また、課題の提出やフィードバックも全てオンラインで行われます。ただ、副教材や参考文献に関しては自分で手に入れなければならず、私の場合は、上記のサービスの方を通して図書館にお願いし、データがあったりオンラインに公開されていたりするものに関してはリンクやファイルを送っていただきました。

一番苦労したのはスペイン語の授業でした。私は言語学関連の学部に留学していたので、言語科目を履修する必要がありました。スペイン語は特殊な文字があるので、できれば点字で学習したかったのですが、点訳が間に合わなかったため、PDFのデータを図書館の方からいただき、自分の持っているソフトで自分の読めるフォーマットに直して学習しました。なんとか授業についていくことはできましたが、最初のうちは特殊な文字の書き方がわからなかったり、ページが見つからなかったりと大変苦労しました。また、英語でスペイン語を学ぶという、視覚障害とは関係のないバリアもありました。

いずれにせよ、今回の経験を通して、教材の支援を求める際には、100%自分の思ったような支援が受けられなかったり、新たなバリアに阻まれてしまったりすることもあるので、自分なりに解決できる手段を用意することが大切なのだということを学びました。また、少しでも困ったことがあったら、窓口や図書館の方に相談すれば解決策を提示してくれる点で、とても安心できました。

落ち着いた照明の店内に赤いクロスが敷かれたテーブルが並び、クリスマスクラッカーや赤いペーパーナフキンが用意されている。
クリスマス時期の大学内レストランの様子

移動および生活支援

エセックス大学は日本で私が通っていた大学とは比にならないほど広いので、授業を受ける際の移動やキャンパス内での買い物は、上記の窓口の方を通して学生サポーターの方にお願いし、手伝っていただきました。とはいえ、授業がない日や授業とは関係のない用途の場合はこのサポートは使えないので、自分で寮からキャンパスへ移動する必要もありました。

最初のうちは、道ばたで出会った学生さんに案内をしてもらって対応していましたが、自分がよく使う道は、一人で歩いているとだんだん覚えてくるので、そのうちに一人で歩けるようになっていました。学内には点字ブロックなどのありがたい目印はないですが、基本的に石畳と芝生が道の両側にあるので、それらを頼りにして歩くことができました。また、買い物の際には、お店の方やお客さんに声をかけて商品を購入していました。

そのほか、私は留学中、キャンパスから歩いて5分の寮に住んでいて、家事はほとんど自分でする必要がありました。最初のうちは、現地の支援団体に歩行支援やホームヘルプをお願いすることも考えており、大学にもそれをすすめられていましたが、料金も高いのと、何をどの程度お願いしたらいいかもわからなかったので、家事については自分なりに少しずつ慣れていくことにしました。日本では実家暮らしで、しかも慣れない国での初めての一人暮らしだったので、最初は料理もほとんどしていませんでしたが、そのうちにネットスーパーで買い物をして、朝と夜だけ簡単な料理をするようにもなりました。キッチンは私の他に3人の学生さんと共同で使用しており、私の他にもう一人視覚障害のある学生さんも共同で使っていることもあり、IHや電子レンジに音声機能があって非常に助かりました。

学生寮を外から撮影した様子。手前に2階建の建物と奥に3階建の建物があり、赤茶色の煉瓦造り。
学生寮の様子

長期留学の場合、このような生活の支援をどのように受けるのかは授業支援よりも大変悩ましい問題です。たいていの場合、大学側が直接授業と関係ない活動の支援は提供していないことが多いからです。これから長期留学を検討されている方で何らかの特別な配慮が必要な方は、事前に自分で情報を集めたり、現地の団体へ電話やメールで連絡したりすることをおすすめいたします。

英国の街のバリアフリー

ここまで留学中に受けた支援について書いてきましたが、ここからは英国の街を歩いていて感じるバリアやバリアフリーな点について書きます。

まず、英国の街には点字ブロックがほとんどなく、信号のそばに警告ブロックと呼ばれるぶつぶつのブロックが少しあるだけです。また、音響信号は付いているのですが、音が非常にわかりにくいので、慣れないと使いにくいのが難点です。

そして、ロンドンの地下鉄は古いものが多く、階段しかない駅が多いです。そのため、車椅子を使っている方やスーツケースを持っている方には不便かもしれません。

ロンドンの地下鉄のベイカーストリート駅のホームでベンチに座るましろの様子。壁にはシャーロックホームズの横顔が黒のドットで描かれている。
地下鉄を利用する真しろ

さらに、ロンドンを除いた街のバスや一部の電車は、音声放送が流れないので、自分が降りる駅なのかどうか判断できないこともあります。その際は、バスの運転手さんやそばのお客さんに降りたい駅を申告しておくと教えてくれます。

これだけ列挙していると、日本のほうが住みやすいと思われるかもしれません。しかし、英国のよさとして感じるのは、とにかくたくさんの人が声をかけてくれることです。大学のキャンパスでもそうですが、一人で歩いていると必ず声をかけられます。ロンドンでスーツケースを持って階段を上がろうとすると、障害者や健常者に関係なく周りの人が手伝ってくれます。駅のスタッフの方と一緒に歩いていても、一緒に歩こうかと声をかけてくれる一般の方もいます。お節介が苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、私は個人的に、一人で街を歩くときには非常に安心できる点だと感じていました。

そして、英国では駅で流れている音が日本に比べて少ないので、情報量がちょうど良いのも歩きやすい点の一つです。こちらの記事も併せてお読みいただけると幸いです。

関連記事:喧噪に関する日本とイングランドの比較~ましろの草子1

英国の視覚障害者支援とコミュニティー

英国にはRNIBという組織があり、視覚に障害のある人々の生活をサポートしています。

私は留学中に直接この組織の提供しているサービスを利用していませんでしたが、間接的にお世話になった点もいくつかあります。

まず、RNIBは、イングランドの地域ごとに、交流できるフェイスブックグループを作成しています。このフェイスブックグループには、英国の住所を持っていて、いくつか視覚障害に関する質問に答えれば参加できます。私はEast Englandのフェイスブックグループに参加することにしました。そのおかげで、視覚障害者に特化したツアー旅行のお知らせを受け取ることができ、そのうちの一つに英国から参加することができました。

フェラーリの運転席に乗りハンドルを握る笑顔のましろ
視覚障害者に特化したボローニャ(イタリア)行きツアー旅行でフェラーリに試乗する真しろ

また、RNIBは、アクセシブルなゲームを購入できるサービスも提供していて、かなり豊富な品揃えのようです。日本には出回っていない支援機器なども、このRNIBを通して購入できるようです。ただ、日本から購入したり、日本のクレジットカードで決済したりすることはできず、現地のショップに出向いて対面で購入するか、英国のカードで決済する必要があるようで、私は何も購入していません。日本にRNIBの商品がほとんどないのはこのためでしょう。

関連記事:ボローニャ旅行記1日目~五感で楽しむ街探検

もう一つの挑戦

そしてこの留学中、私は大きな挑戦をしました。それはなんと、英国北部を一人で電車やフェリーを使って旅するというものです。具体的には、スコットランド、北アイルランド、アイルランド、ウェールズ、そしてイングランドを5日ほどかけて、ほぼ一人で回るという内容です。

私は日本にいるときから鉄道旅や旅行が大好きで、イングランドでもそういうことをしてみたいと思っていました。なかなか勇気が出なかったのですが、留学も終盤になり、そろそろ大きな挑戦をしてみたいと思い、マンチェスター在住のePARA顧問である大坪陽一先生にお会いする目的も兼ねて実行しました(マンチェスター訪問については第2回で紹介します)。

移動線が描かれた、イギリスとアイルランドの地図。エセックス、ロンドン、グラスゴー(スコットランド)、ベルファスト(北アイルランド)、ダブリン(アイルランド)、リバプール、マンチェスターの順に移動している。
英国北部とアイルランドをぐるっと移動

全盲一人で異国の地を旅するのは正直簡単とは言えませんし、トラブルにもたくさん巻き込まれました。だからこそ、旅を終えたときには途方もない達成感に包まれていました。詳しくは、こちらの私のnoteなどをご参照ください。
関連記事:英国ましロードを作るたび 序章

実は留学期間の最後の最後、とうとう英国を飛び出し、大陸ヨーロッパへの旅に出た話も、併せてお楽しみください。
関連記事:『インターましロードを作るたび』開催のお知らせ

おわりに

今回は、私の大学での生活や英国の障害者支援について幅広く書いたので、少し長くなってしまいました。少しでも、視覚障害者として英国で生活することの一端を知っていただければ幸いです。次回は、ePARA海外広報担当として私がどんな活動をしてきたのか、より詳しく書いていきます。

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真しろ(ましろ)

生まれつきの全盲です。「言葉で世界をつなぐ旅人」。 大阪で生まれましたが、この春で関東に住んで18年になります。 現在は大学院で英語教育の研究をする傍ら、ライターの見習い業をしたり、ワークショップのファシリテーターをしたり、たまにゲームで遊んだりと、自分のやってみたいことに一つ一つ挑戦しながら生活しています。 格闘ゲームをプレーし始めたのは最近ですが、効果音や演出のかっこよさに見せられてプレーしてみようと思いました。

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