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障害とゲーム

ePARA×筑波技術大学共同研究プロジェクト~2023年活動報告

皆さんこんにちは。全盲のeスポーツプレイヤーの北村直也です。
2023年5月1日より、ePARA×筑波技術大学での共同研究プロジェクト「インクルーシブなゲームの実現に向けた、ブラインドeスポーツに関する研究」が始まりました。まだ具体的な論文発表は行っておりませんが、約10カ月の間ディスカッションを重ねてまいりました。

そこで、今回は2023年のePARA×筑波技術大学の共同研究プロジェクトについて、活動報告というかたちでご紹介いたします。
どうぞ、最後までご覧いただけると嬉しいです。

イーパラTシャツを着てイヤホンを装着しコントローラーを操作する北村

共同研究プロジェクト立ち上げの背景

以前、プロジェクトの立ち上げをプレスリリースで発表させていただきました。その際にも担当者のメッセージとして掲載いたしましたが、目が見えないのにゲームができてすごいという声が聞こえてくる一方で、視覚情報がなければチュートリアルすら突破できないゲームがたくさんあります。また、ゲームがプレイできたとしても、かなり限定的なモードが遊べる状態であったり、ストーリーを進めることはできてもやりこみや探索といったゲームのだいご味を体験できなかったりします。

ePARAは、2023年6月2日にカプコン社より発売された『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティ機能の開発に協力しました。その一方で、プレイヤー視点だけではなく開発者・研究者視点が加わることで、ブラインドeスポーツから、その先のインクルーシブなゲームの実現に向かう発信が強化されると考えました。

また、個人的な理由ではございますが、北村自身が学生時代に研究者を目指していたということもあります。2022年12月にはHCGシンポジウム2022にて「音と先読みで戦う ~ 全盲eスポーツプレイヤーの挑戦を支える技術とコーチング ~」というテーマで発表をさせていただきました(HCG:電子情報通信学会 ヒューマンコミュニケーショングループ)。このお話をいただいて以降、ePARAにてバリアフリーeスポーツの研究・共創プロジェクトを進める流れができたのと相まって、本共同研究が開始されました。

共同研究でのディスカッション内容

ここからは、主に共同研究で行っているディスカッションの内容について、かいつまんでご紹介いたします。

全盲のゲームプレイについてのディスカッション

本共同研究には、私を含め3人の全盲ゲーマーが参加しています。そこで、

・普段はどのようにゲームをプレイしているのか?
・特定のシチュエーションではどのような工夫をしているのか?
・同じゲームを長期間やり続けて変化はあるか?

などのディスカッションを行っています。時には「その音には気づかなかった」「その視点はなかった」という声も飛び出し、視覚障害の有無を問わず、発見の多い時間となっています。
また、逆に筑波技術大学の方々から「その結果は○○の理論に似ている」のような声が飛び出し、1時間のディスカッションで5時間分の学びが得られたような感覚です。

ゲーマーのデータ収集・分析

障害の有無やゲームへの習熟度を限定せずにアンケート調査とプレイしている様子のビデオ撮影を行い、統計解析手法などを用いて分析いたしました。
まだこちらではお見せできませんが、とても目からうろこな分析結果が多く得られました。

個人的に驚いたのは、「晴眼者も調査対象にする」という方針だったことです。ブラインドeスポーツの研究なので、全盲のプレイヤーに限定しないと研究成果になるデータがとれないのではないかと思っていたので、その方針には良い意味で裏切られました。

実施したイベントなどの振り返り

昨年、ePARAでは

HACHIMANTAI 8 FIGHTS
心眼PARTY 2023 powered by JEXER

を行いました。また、筑波技術大学では『ストリートファイター6』の学科内大会が行われました。
これらのイベントに関して、参加者の声や共同研究メンバーの所感を共有し、改善点などを含めてディスカッションいたしました。

直也と、アイマスクを着けた参加者が並んでゲームをプレイしている様子
「心眼PARTY powered by JEXER」でアイマスクを着けた参加者と対戦する北村(写真奥)

HACHIMANTAI 8 FIGHTSでのデータ収集について

ディスカッション以外の具体的な活動としては、HACHIMANTAI 8 FIGHTSでのデータ収集が挙げられます。
同イベントでは『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティを体験することができる「心眼エリア」が設置され、本共同研究のメンバーが接客とアンケート調査・ビデオ撮影を行いました。
イベントは2日間行われ、老若男女、障害の有無、プロアマ等、立場に関係なく多くの方にご来場いただきました。

まず、体験者はヘッドセットを着用し、サウンドアクセシビリティの効果音を聞きます。その後、私を含めた心眼エリアのプレイヤーと対戦していただきました。また、体験中は同意を得てビデオカメラで手元を撮影しました。
そして、対戦終了後にはGoogleフォームを用いたウェブアンケート調査にご協力いただきました。

ベテランゲーマーからこの日初めて『ストリートファイター6』を触った人まで、プレイスタイルが十人十色なのはもちろんのことですが、とても貴重なデータを収集することができました。

2023年の心残りを一つ上げるとしたら、そのときのアンケート調査を他のイベント時にも行えばよかったなということです。データは多いに越したことはないそうなので、2024年はもっといろいろな方のデータをとってみたいです。

広いホールにゲーミングPCが並べられ、大勢がゲームをプレイしている様子
「HACHIMANTAI 8 FIGHTS」会場の様子。この一角に心眼エリアが設けられた

今後の展望

本共同研究は、タイトルにもあるようにブラインドeスポーツを起点として最終的には「インクルーシブなゲームの実現」を目指しています。そのため、今まで記してきたようにブラインドeスポーツを多角的に捉え、データ収集をしてきました。2024年は、これらの分析結果を国内外の学会で発表し、発信する予定です。

また、『ストリートファイター6』に加え、2024年1月26日に発売が開始された『鉄拳8』にアクセシビリティ関連のオプションが追加されるなど、ゲームアクセシビリティへの気運が日本でも高まってきました。今後の内部のディスカッションや学会での議論を通して、

・ゲームメーカーへのアクセシビリティ向上の働きかけ
・ゲームアクセシビリティガイドラインの作成
・ブラインドeスポーツ競技規則の設計

など、視覚障害者がゲームを趣味としても競技としても取り入れられる環境の向上を目指して活動をしてまいります。

昨年、EVOにて全盲のプレイヤーが『ストリートファイター6』の予選を突破したことが話題になりました。また、それから2カ月弱後には同じプレイヤーが『ストリートファイター6』の最高ランクであるマスターに到達したことがウェブメディアにて紹介されました。日本の外に目を向けると、世界は研究のネタや面白いことで溢れていると思うので、たくさんの出会いを楽しみに本共同研究を続けていきます。

引き続き応援のほどよろしくお願いいたします。

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北村 直也(きたむら なおや)

声優、エンジニア、大の野球好き。
不可能を可能にする男というキャッチコピーのもと、誰もなしえなかった「視覚障害を持つ声優」に挑戦中。その状況を日々SNSで発信しているのだが、フォロワーから「野球の人」という印象が持たれるほど、野球ツイートも熱い!さあ、野球アニメに出よう。
Twitter:@noy_0207

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