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ePARAレポート クロスライン

見えなくてもモータースポーツは楽しめる?見えない人の長旅を追いかける <クロスライン特集②>

2022年10月15日(土)、「クロスライン—ボクらは違いと旅をする—」という旅がスタート。株式会社ePARAが、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の「Make a Move PROJECT」での採択を受けて実施する実証実験で、2泊3日の旅を通じて、さまざまな障がい当事者における移動の可能性を探ることが目的のプロジェクトだ。旅の企画や準備も約3か月間、障がい当事者が中心になって行っている。

参加する障がい当事者(ドライバー)はオンラインを含めると35名以上。視覚障がい、身体障がい、精神障がいや聴覚障がいなど、抱えている障がいもさまざまだ。そんな彼らの「違い」を尊重しながら皆が楽しめる旅。1日目はレーシングシミュレーター『iRacing』をプレイ。2日目は岡山国際サーキットで実際のレースを観戦。そして3日目はグループワークで2日間を振り返るという流れだ。

その中でも、筆者は視覚障がいのメンバーに焦点を置いて活動を同行。3日間旅を共にした彼らの活動をレポートしていこう。

メンバー紹介

まずは今回の旅に参加した視覚障がい当事者のメンバーを紹介していこう。ひとり目はePARAの社員でもあり、ePARAが運営するeスポーツユニット「Blind Fortia」のリーダーでもあるなおやさん。彼は生まれつき全盲で、先天盲という立場での参加となる。

北村直也さんの写真
ePARAの北村直也さん。ブラインドプレイヤーのNaoyaとして
eスポーツシーンでも活躍している。いわばePARAの顔でもありムードメーカーとも言える存在

「ブラインドドライバーとしてeスポーツを楽しむのはもちろん、実際のレースイベントを視覚障がいの立場から見てどう楽しめるかを発信していきたいですね」となおやさん。実際体験してみて「ここは楽しめなかったかな」となるかも知れないけれど、移動の可能性を追求していきたいというリーダーらしい意気込みも語っていただいた。

続けて、ePARAのイベントには初参戦で現在大学4年生の実里さん。進路を迷っていたところ、視覚情報を用いない格闘ゲーム大会『心眼CUP』を見てePARAに興味を持ち、今回参加することになったのだという。「以前からなおやさんとは交流があったこともあって、『心眼CUP』を見た当日には熱烈に感想を叩きつけるように送ったのを覚えています(笑)」と実里さん。

実里さんの写真
イベント初参加の実里さん。eスポーツを含め、レースイベントは初体験なので、
予備知識がほぼ0の状態でどこまで気づきを得られるのかを楽しみたいと意気込みを語っていた

18歳頃までは弱視で、ある程度は見えていたという実里さん。今回は中途視覚障がい者という立場で、そして今後はePARAの社員として働きたいという就職活動も兼ねての参加だ。

最後はいちほまれさん。7年前からレースゲームをプレイしているベテランのブラインドeレーサーだ。「網膜色素変性症と診断され、車の運転も制限されてしまう中、ストレス解消にはじめたレースゲームがエスカレートしてしまいましてね」といちほまれさん。旅の直前にお話をうかがった際も、「つい1時間前まで大会に出ていました」とさらり。生活の一部となっているほどのガチ勢だ。

テランブラインドeレーサーのいちほまれさんの写真
御年51歳のベテランブラインドeレーサーのいちほまれさん。
中心がわずかに見える程度の視力ではあるものの、
モニター越しならば健常者とさほど変わらずプレイができるとのこと

画面がある程度見えているとなると、見えていた時代と遜色なくプレイできるのでは? とお話をうかがうと「そうですね。ただ年齢的に段々パフォーマンスが落ちてきていますけど(笑)」とお茶目な一面も。今年の4月に福井県で開催された『障がい者eスポーツスタートアップ講習会』で、ePARA代表の加藤さんと出会い、今回クロスラインに参加することになったのだという。

ひと言に視覚障がいといっても、その度合いはさまざま。今回は生まれながらに視力がない先天盲に、ある時期を境に視力を失う中途失明、そして視界の一部が欠損してしまう弱視という立場からクロスラインという旅路を歩むことになる。

ボクらのeスーパー耐久レース

1日目は「ボクらのeスーパー耐久レース」を開催。レーシングシミュレーター『iRacing』内で、岡山国際サーキット完走を目指す。イベント開始前から慌ただしく打ち合わせをしているふたりを発見。

Yogiboのクッションを使用している実里さんとなおやさんの写真
実里さんになおやさん。なにやらイベントの司会進行を担当するとのことで、
最終的な原稿チェックとリハーサルを行っている模様。Yogiboのビーズクッションがなんとも気持ちよさそう

ePARAのイベントでは、なおやさんが度々司会進行やナレーションを担当されているが、今回は実里さんも司会進行に初挑戦。スマートフォンで原稿をチェックしながら、ふたりの息を合わせていく。直前で原稿の差し替えがあったものの、すばやく点字ディスプレイに原稿を流し込むなおやさん。ベテランのなせる技で実里さんをサポートするシーンも。

レバーレスコントローラーのように見える点字ディスプレイを使う直也さんの写真
レバーレスコントローラーのように見える点字ディスプレイ。
目にもとまらぬスピードで差し替え原稿を流し込む姿は圧巻。
声優、ナレーションとしても活動する彼だからこそなし得る技だ

実里さんと直也さんとePARA代表加藤さんが映っている写真
掛け合いの息もぴったりなおふたり。なおやさんはこの日のために新調した衣装で登場! 
レース旗を彷彿とさせるデザインがイベントにマッチ!

初めての司会を担当した実里さんは「原稿を読むことにしか集中できずドキドキしていたのですが、なおやさんの迫力のあるナレーションに押されて、マイクを持つ手が震えました(笑)」とコメント。「もっともっとうまくなって、機会がいただけるのであれば、今後もチャレンジしていきたい」と次への意気込みも語っていた。

一方なおやさんは「テンション上がりすぎて音が割れてしまったり、肝心なところで声が裏返っちゃったりで悔しいなあ」と自分に手厳しいコメントも。しかしながら、急きょ原稿が差し替えられたことに関しては「イベントでは良くあることなので、特にプレッシャーはなかったかな」とベテランの余裕も垣間見えた。

続けて『iRacing』によるレース体験がスタート。第1走者でもあるなおやさんは、夕立Pさんと共同作業でのプレイ。アクセルの操作をなおやさんが、ハンドルの操作を夕立Pさんが担当しての挑戦だ。

なおやさんと夕立Pさんの2ショットの写真
なおやさんと夕立Pさんの2ショット。
クリエイターでもある夕立Pさんは、イベントのBGMの作曲も担当している

音に精通しているふたりが考えた攻略は、エンジン音を音階として扱い、「キーを上げて」とか「もうちょっとキーを下げて」といった夕立Pさんのサポートを聞いて、なおやさんがアクセル操作を微調整していくというもの。

直也さんがハンドルコントローラーーで操作している写真
なおやさんは実際に自分の声とエンジン音を重ねてアクセル操作を調整。
見えないレーサーならではの攻略法を見せてくれた
操作する直也さんと画面を見て指示を出す夕立Pさんの写真
夕立Pさんは画面を見ながら速度調整の指示を出し、ハンドル操作をアシストする。
なおやさんもハンドルに手を添え、いつカーブにさしかかっているかを感触的に体感することで、
アクセルの調整がしやすい工夫がされていた

「とりあえず完走できてよかったという感想ですね」とだじゃれ混じりなコメントで場を和ませるなおやさん。なんだかんだ練習していたとはいえ、本番ちゃんと音が聞こえるかなとか、そういった不安もあった中、時間内に完走できたのはうれしいと安堵の気持ちも語っていた。

一方で、練習と本番との違いを聞くと「練習では、ギターのチューニングのようにエンジン音に合わせて歌うというやり方でスピード調整をしていたのですが、本番では1番手でちゃんと走り抜けなければというプレッシャーもあって、なかなか歌いながら調整する余裕がなかったですね」となおやさん。後続の模範演技としてミスなく完走できたのはよかったよかった。

いちほまれさんは、エキスパート部門で参加。エキスパート部門では「LBCRacing」所属でリーダーでもある石水選手も参戦。石水選手は2021年全国対抗eスポーツ選手権少年の部において、岡山県代表としての出場経験もある若き現役eレーサーだ。

いちほまれさんがレーシングゲームを操作する様子の写真
自前のレーシンググローブを装着しての参加。
お見事としか言いようがない見事な走りを見せてくれた

タイムは石水選手に軍配があがったものの、年齢の差を感じさせない走りっぷりはさすが。レース後に話を聞くと「大会とは違う緊張感があって、いつもの30%くらいの実力しか出せなかったけれど、楽しく走ることができました」とコメント。また、モニターの後ろに観客がいるというのは初めての経験で、とてもいい刺激になったとも話していた。

会場の様子の写真
走者は観客の視線を感じながら走ることになる今回のイベント。
応援を肌で感じながら、ほどよい緊張感を保って走ることができる

今回スケジュールの都合でレースに参加できなかった実里さんも、「実際に岡山に来るまでは、車運転してみたいなあ。やってみたいなあ。くらいの気持ちだったのですが、実際皆さんが走っているエンジン音とかクラッシュの音を聞いていたら、やってみたいという気持ちが高まりましたね。『心眼CUP』の時もそうだったのですが、やっぱり実際にプレイしているのを見ると、やりたくなるもんだなあと感じました」と、生観戦ならではの迫力や魅力を感じていた。

ボクらのスーパー耐久レース生観戦

2日目は「ボクらのスーパー耐久レース生観戦」と題して、国際サーキットで実際の耐久レースを生観戦するというイベントが行われた。1日目に『iRacing』で走ったコースをリアルで体験できる面白い企画で、まさにeスポーツとリアルスポーツの垣根を越えた内容だ。

もちろん移動もイベントのひとつ。岡山国際サーキットに行く前には、道の駅に立ち寄り昼食を取るという遠足のようなイベントも盛り込まれていた。

実里さんが車の乗り降りをしている写真
移動の可能性を知るというのも今回の旅ではかかせないコンセプト。
視覚障がいを持つ当事者にとって車の乗り降りは困難なのでは? 
と感じる人も多いと思うが、どこに何があるのかを伝えればひとりで乗り降りできる

直也さんと実里さんが車内でお弁当を食べている写真
昼食は車内でお弁当を楽しむ。実里さんとなおやさんが楽しそうに昼食を取る姿を見ると、
なんだかほほ笑ましい。親心のような気持ちで見てしまう筆者であった

岡山国際サーキットに到着するやいなや『スーパー耐久レース』がスタート。鳴り響く轟音と疾走感を感じる風など、ゲームでは体験できないような感覚が盛りだくさん。筆者もサーキット場に来るのは初めてだったので、生のエンジン音の迫力にはビックリ!

実際に目の前に車が走っているのが見えない全盲でも生観戦が楽しめるのかという疑問が筆者の頭をよぎる。視覚情報がない状態での爆音はパニックにならないのか——。そもそも音だけでレースが楽しめるのか——。

直也さんの後ろ姿の写真
「直線の前で観戦するとドップラー効果でエンジン音が大きくなったり
小さくなったりしていたけれど、
カーブの近くで観戦するとエンジン音の聞こえ方が変わるんですよね」と、
エンジン音の聞こえ方の違いを楽しむなおやさん
サーキットでの実里さんの写真
「ゲームとは違って、音の迫力が全然違いましたね。
私はパン、パンって鳴る破裂音がとても好きで楽しかったです」と、
生観戦の楽しさを語る実里さん

同行した筆者も、「実際のレース場って全盲の人でも楽しめるのかなあ」と不安があったが、実際現地で一緒に観戦すると、そんな不安は簡単に消し飛んでしまった。晴眼者の筆者は車の見た目で、全盲のなおやさんは車のエンジン音で共通の車を応援することもできたのが、なによりうれしいポイント。やはり観戦するからにはなにか共通の話題を共有して楽しみたいもの。できないと思っていたことができると分かった瞬間でもあった。

また、岡山国際サーキットには、実際の車が展示されているコーナーもあり、なおやさんや実里さんも試乗することができた。

展示車に乗っている直也さん
「これエンジンかからないですよね?」と不安になるくらい、
今にも走り出しそうな感覚を覚えたなおやさん。
実際の車の運転席に座り、ゲームとの違いを体験

展示車を操作している実里さん
ハンドルとかレバー以外にもたくさんボタンがあることを知った実里さん。
「運転しながらこういったボタンを操作するのかなあ。すごい!」と驚きの声も

早朝からの長旅だったが、特に大きなトラブルもなく無事に完走することができた2日目。改めて障がい当事者による移動の可能性を知った一日だった。

ボクらのMobility for ALL

3日目は「ボクらのMobility for ALL」と題して、2日間のイベントを振り返るイベントが開催。さまざまな障がい当事者の体験を共有するグループワークが開催された。

グループワークの肝になるカスタマー・ジャーニー・マップについて説明する大阪国際大学 准教授の早川公氏の写真
グループワークの肝になるカスタマー・ジャーニー・マップについて説明する大阪国際大学 准教授の早川公氏

簡単に説明すると、当事者がかかえる障がいを大きく3つのカテゴリに分類して、それぞれをグループ化。そのグループ間で今回の旅を振り返るというものだ。「こういう部分が楽しかった」とか「こういった準備が簡単だった」とか、本当に些細なことでも構わない。おのおのが思ったことを発表してそれを具現化していく。こうすることで、違いを感じることができ、また共感することができるのだ。

いちほまれさんの写真
今回のイベントで使用するハンドルコントローラの選定に携わったといちほまれさん。
足が不自由でもハンドル付近のパドルやボタンでアクセル操作ができるタイプを選んだとのこと。
また取り外しが簡単な軽量型を選んだのもイベントならではの気づきだ

視覚障がい当事者を中心に構成されたグループAでは、「眼が見えなくてもレースが楽しめたことに驚いた」とか「私は迫力のある音が好きなので、レース場の爆音を聞いてテンションがあがった」といった全盲ならではの意見を聞くことができた。

また移動支援に関する話も議題に上がっていた。「移動支援者は、技術力の高さよりも相性の良さが大事だということを改めて感じた。長旅になると、当事者と移動支援者が過ごす時間も長くなる。そうなると技術面より、移動中でも退屈しないような話ができることの大切さを知ることができた」といった、支援者についての率直な感想も興味深かった。

実里さんと移動支援者のあやさんの写真
「全盲の方と同じ時間を過ごすのは初めてだったので、実は慌てふためいていました(笑)。
ただ、実里さんがとても優しい方なので、私のしょうもない話を聞いてくれたりして
コミュニケーションが取れたのがうれしかったです」と移動支援者のあやさん。
支援者側の意見も違いのひとつだ

今回、長崎からひとりで岡山まで訪れた実里さんの意見も興味深かった。「ひとりでの長距離移動は初めての経験だったので各駅で駅員さんに助けていただきました。「こうやってやれば、ひとりでも遠出できるんだ」と、今後の行動範囲が広がる経験にもなりましたね」と自信につながる話を聞くことができた。また、「新幹線って種類によっては車掌さんがひとりしか乗っていないことがあって、車内での移動支援が難しい新幹線もあるというのを今回の旅で初めて知りました。今回、私が行きで乗ってきた新幹線がまさにそれだったのですが、その辺も考えて新幹線を選ぶのも大事だなって思いました(笑)」と、新たな発見や課題も知る機会になったのは、大きな成長ともいえる。

一方、なおやさんは今回の旅でナレーションが一番印象に残ったとのこと。「台本もらってから練習をするのですが、本当にこれでいいのかなとか、この話し方でちゃんと盛り上がるかなという不安がありました。ただ、会場でBGMに合わせてナレーションをして、皆も盛り上げてくれたのを目の当たりにして、めっちゃいい仕事したなって自分で自分を褒めたいですね(笑)」と、ナレーションの成功に安堵していた。

今回の長旅について3年前に障がい者就労をしてからはじめての長旅でしたが、家内が介助に来てくれたので、安心してくることができました」といちほまれさん。2日目の岡山国際サーキットについては「車との距離が近いので、体が振動するような感覚や、オイルの香りなども体験することができて楽しかった」と、普段楽しんでいるレースとは違った印象を伝えてくれた。

いちほまれさんと奥様の写真
「いつも部屋でレースをしているんですよ」と奥様の淳子さん。
仲むつまじくイベントに参加している姿が印象的だった

グループワークでは視覚障がい当事者だけでなく、さまざまな障がい当事者の意見を聞くことができたのがとても楽しかった。ひとりでは絶対に知ることがない気づきや、感情の共有など、もっともっと話していたいと思ってしまうほど。

もうひとつの『eスーパー耐久レース』

今回、筆者は視覚障がい者に焦点を置いた取材を行っていたが、2日の移動中ひとりの青年に出会った。彼の名前はabckaiといい、かいという名で今回のクロスラインに参加している。移動中も物静かにしていて、旅を楽しめていないのかなと感じて話しかけてみたところ「実は、1日目のレースに参加する予定だったんですよ」とかいさん。

彼はサルコイドーシスという難病を患っていて、体調によっては体のあちこちに異変が起こってしまうという。前日のレースでもエキスパート部門で参加する予定だったが、体調不良のため大事を取って欠席したのだという。エキスパート部門ってことは、レースゲームが得意なのかなと聞くと「実は、病気になる前は走り屋でしてね。よく車を走らせていました。まあ、人に自慢できる趣味ではないんですけど(笑)」

か細くも車の話をしているときは笑顔を見せてくれるかいさん。そんな趣味も難病によって失われ、それだったらということではじめたのがレースゲームだという。「無理矢理出場して、情けない姿見せられないじゃないですか?」と、ゲーマーらしいプライドを持ちながらも、やはり出場できなかった悔しさも人一倍。2日目には体調が戻ってきたこともあり、岡山国際サーキットへの観戦に参加しているとのこと。

かいさんの写真
サルコイドーシスを患うかいさん。ePARA FPS Fortiaマネージャーでもある縁の下の力持ちだ

薬の副作用で温かいもの以外は食べるのが困難なため、冷めたお弁当ですら食べることができない。そんな状態にもかかわらず、特に体力のいる2日目のイベントに参加したのは、彼の車好きからくる熱意の表れだったのかもしれない。

そして3日目を迎えた朝、ひとりソファーに腰をかけているかいさんを発見。そこで思いがけないひと言を聞くことになる。

「実は、エキシビションで今日走れることになりました」

体調が復活したこともあり、ePARAの粋な計らいで最後の最後にイベントを追加してくれたのだった。「おおおっ! やったね!」と思わず喜びを伝えると「体を壊してでも走り抜きますよ!」と、ここでもゲーマーのプライドを見せてくれる。

そしてイベントも終盤を迎えたころ、なおやさんのナレーションが会場に響き渡る。エキシビションのはじまりだ。応援団長として、まるぽすさんも声援。会場には「かいコール」が響き渡る。

かいさんの走りを見守るメンバーの姿の写真
参加者全員がステージの前まで移動し、かいさんの走りを固唾を呑んで見守る

かいさんがレースゲームで走る姿の写真
エキスパート部門として出場予定だったかいさん。コース内のガイドは非表示に設定され、
プロと変わらぬ環境でスタートした

昨日の疲れを感じさせない見事な走りを見せるかいさん。数々のカーブを難なく走り抜け、加速していくエンジン音が会場に響き渡り、このままゴールを突っ切ることできればあるいは——という最終コーナーでまさかのスリップ

石水選手の記録に追いつくことはできなかったが、強気な走りを見せてくれたかいさん。会場には割れんばかりの拍手が送られ、もうひとつの『eスーパー耐久レース』は幕を閉じた。

笑顔のかいさんの写真
「最終コーナーで力が抜けちゃいました(笑)」とかいさん。
しかしながら、悔いのない走りができたことは、彼の笑顔を見れば一目瞭然だ

最後の最後で決断したレースへの参加。そして見事な走りを見せてくれたかいさんの姿はただただカッコイイのひと言に尽きる。彼の希望をくみ取って、イベント調整をしてくれた運営陣にも感謝!

こうして長きにわたる「クロスライン—ボクらは違いと旅をする—」も終焉を迎えた。参加者全員がそれぞれの気づきを持ち帰ったイベントとなったことは言うまでもない。

もちろん、筆者にも気づきはいくつもあった。視覚障がいと聞くと、なんだかとても特別で遠い存在だと感じていたが、実際一緒に旅をして感じたのは「全然そんなことない」ということ。

「食事の時はどうサポートすればいいのかな」なんて思っていたが、実際は配膳された内容を伝えるだけ。坂道や階段、砂利道だって「ここから上り坂ですよ~」とひと言伝えるだけで危なげなく移動できる。時には見えないことを忘れてしまうほど、普通に雑談しながら歩いていたことも。

彼らの可能性を知ると共に、彼らに少し近づくことができたのかなと、そんな親近感を覚えることができたのはうれしい気づきだった。

まだまだクロスラインははじまったばかり。第二章、第三章と新たな試みが企画されることを願いたい。

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いのかわゆう

ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。
その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。
最近はまっているゲームは『VALORANT』。

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