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ePARAレポート クロスライン

視点を変えれば世界は無限に広がる―明日を変えるヒントが詰まったクロスラインミニツアー

クロスラインレースのキービジュアル。2人の視覚障害者がレーシングシミュレーターを操作している

はじめまして。重度弱視の20歳、平です。私は現在、視覚障害者と聴覚障害者が学ぶ筑波技術大学に通う大学生です。2023年9月2〜3日に行われた一般財団法人トヨタ・モビリティ基金主催のアイデアコンテスト「Mobility for ALL」にてePARAが実施した企画「クロスラインミニツアー」に参加させていただきました。ここではその振り返りとして、私が様々な実証実験を受けて感じたことを書いていこうと思います。

参加のきっかけ

私がクロスラインミニツアーに参加しようと思ったのは、自分の中のゲームの世界を広げたいからでした。正直に申しますと、モータースポーツやeスポーツが特別好きなわけでもなければ知識もありません。むしろeスポーツに対してはあまり良いイメージを持っていませんでした。「ただゲームするだけだからスポーツ要素ないじゃん」と思っていましたし、コンピューターゲームなので視覚障害者が晴眼者のように楽しめるはずがないと悲観していました。それでも参加を決めたのは、視力低下が原因で数年前に離れたゲームの世界を、以前とは違う角度からもう一度覗いてみたくなったからです。そんな、ゲームは好きでもeスポーツのことをスポーツと認めていなかった私ですが、このイベントを通してeスポーツに対するイメージが変わっただけでなく、eスポーツのことをもっと知りたいと思うようになったのです。

いざ、実証実験に参加

レーシングシミュレーターに挑戦

会場であるモビリティリゾートもてぎに到着後、まずはバーチャルのコースをレーシングシミュレーターで走ってみました。カーシミュレーターは、実際の車の座席をイメージして作られており、画面がよく見えないので、ガイドの方にアクセル・ブレーキを踏み込むタイミングやハンドル操作をサポートしていただきました。実際に運転してみると、思っていたよりはるかに難しい。何度か壁に衝突したりコース外に外れてしまったりしました。どれほど踏み込めばどのくらい加速・減速するのか、ハンドルをどの角度まで切ればどれくらい曲がれるのかがわからず戸惑いました。レーシングシミュレーターを体験し終わってから冷静に考えてみると、そもそもの運転経験がないので簡単に想像がつかなかったのだということに気づきました。「やっぱり見えないと厳しいよなあ」というのが正直な感想です。でもその難しさを知れたこと自体が、この実験の大きな収穫でした。運転の感覚をつかむには? 視覚障害者単独でコースを走れる方法は? さらに臨場感をアップさせるためには…? 体験したからこその様々なアイデアが浮かび、頭の中に広がるモーターレースの可能性に心が躍りました。

湾曲した大きい画面とハンドルやレバーなどが一体化したシミュレーター
ePARA実施した「クロスラインレース」の会場に設置されたレーシングシミュレーターの一つ

みんなで盛り上がれるレース観戦

レーシングシミュレーターでの運転を体験した後は、株式会社JDSCさんが開発したツールの実証実験に向かいました。体験したのは、レースの配信視聴中に流れてくる視聴者のコメントを自動で収集・判別し、状況把握に有効なものだけを合成音声として流してくれるというものです。イヤホンを装着すると、真ん中からライブ配信の音声、両サイドからコメントがランダムに聞こえてきます。レース観戦をしたことがなかったのでコメントを聞いてもあまり状況をつかめなかったのが少し残念でした。それでも自分からコメントを拾う必要がなく、かつ自動的に流すコメントを選んでくれるので、ライブ配信を視聴する際の負担が軽減される画期的なツールだと思いました。ただ左右から流れてくるコメントに両耳を集中させるせいか、脳内の情報処理が追いつきません。自分でコメントの出力方法を細かく設定できればさらに聞きやすくなるのではないかと感じました。

夢が広がる!新しい触覚ディスプレイ

次に向かったのは「カーレース用触覚ディスプレイプロジェクト」のブース。ここではDot Inc.さんの触覚ディスプレイを触らせていただきました。実際のレース配信を聞きながら車の進路を手で確認したり、走行中の車の車種や特徴、全体図といった詳細情報を見たりすることができます。道路を走る車を眺めるのが好きな私にとって、車の外観を知れるだけでもありがたかったです。車に直接触れる機会なんてないので、再現度の高い全体図を穴が開くほど触りました。リアルタイムでコンピューター画面の情報を表示できる触覚ディスプレイというだけでも感動的なのですが、私がもっと感動したのは、iPadに接続できるという点です。PCに接続する触覚ディスプレイは使用したことがありますが、iPadの画面を表示するディスプレイは聞いたことがなかったからです。もしこの製品を手に入れられたら、iPadのゲームで遊べたり文字の読み書きを手軽に練習したりできるかもしれません。「あんなこともこんなこともできちゃうぞ」と夢が無限に広がる、わくわくする時間でした。

触覚ディスプレイに表示されたコースを指でなぞる様子
触覚ディスプレイに浮かび上がったサーキットのコース。指でなぞって形を確かめることができる

ストレスフリーな外出を実現するスマートグラス

最後にLighthouse Techさんのブースに向かいました。こちらでは障害物検知機能がついたスマートグラスを使わせていただきました。左右にセンサーがついており、障害物を検知した方向のレンズが振動します。実際に装着して歩いてみましたが、白杖では探れない上半身周辺の障害物を教えてくれるので、前が見えなくても安心して歩くことができました。これさえあれば点字ブロック上に止まっている車にぶつかりませんし、歩道に飛び出している木の枝や葉が顔に刺さって痛い思いをすることもありません。前方に人がいるかどうかもわかるので、列に並んで前の人の動きに合わせて進むことにも神経を集中させる必要がなくなるでしょう。想像すればするほど使ってみたい場面が浮かび、ブース内で100万円でも買いますと宣言していました。上半身を守れるうえに外出時のストレスも減らしてくれるのだから100万円の価値はあると思いました。しかしブースを出る直前に耳にしたのは、この製品が1400ドルで発売されるという情報だったのです。就職したらこれを購入するために働こうと思います。

イベントに参加して変化したこと

今回のイベントでは4つの実証実験に参加し、自分の知識よりアップデートされた技術に触れてきました。将来手に入れたいツールばかりで子供のようにはしゃいでしまいました。新しいゲームの世界というよりはエンターテインメント上の視覚障害者の将来を垣間見たような気がします。しかしゲームのために開発された製品でなくても、使い方次第で視覚障害者のゲームプレイやeスポーツ観戦の助けになるかもしれない。そう考えているうちに、間もなく視覚障害者もゲームやeスポーツを気軽に楽しめる時代が到来するのではないかと希望が湧いてきました。ガイドの方にサポートしていただいたシミュレーターも、いつか視覚障害者1人で運転できる日が来るかもしれません。「eスポーツなんて」と否定的だった私ですが、eスポーツについてもっと知りたい、自分なりにeスポーツの楽しみ方を模索していきたいと考えるようになりました。ゲームのルールや操作法など覚えることが多いので、飽きやすくあきらめやすい私が続けるには少々根気が必要かもしれません。それでも明日を変えるために本気で遊びに興じていきたいです。

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平海依

先天性の重度弱視。ITを勉強中の大学生。幼少期からゲームが好き。モットーは「人生を楽しむ」。

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