ePARA大会

聴覚障害者くらげのePARA CHAMPIONSHIP参戦記 ~マンモス狩りの追憶・前編 ~

2020年10月17日、世界初のバリアフリーeスポーツ社会人チームチャンピオンシップ第1回ePARA CHAMPIONSHIP version:Aim Highの前半戦、チームFPS/TPS部門CALL OF DUTY: MOBILE(5 vs 5 チーム戦)が開催されました。(動画:第1回 ePARA CHAMPIONSHIP"前半戦"ハイライト)
CALL OF DUTY: MOBILEをはじめとするFPS/TPSでは、ボイスチャットによる音声情報が非常に重要視される中、Team-ePARAからはそのバリアを打ち破るべく聴覚障害とADHDをお持ちのくらげさんが出場しました。今回はその挑戦を前編・後編に分けてご紹介します。

協調性ってなんですか

小学校の頃、毎学期末に学校から渡された成績表に「協調性が足りません」と必ず書かれていた人はクラスに一人は必ずいたと思うが、私はそういう子どもの一人であった。いまでも「人と共同でなにかをする」ということが死ぬほど苦手なのだけど、これは私の「耳が悪い」ということもかなり影響している。人間は即時の情報伝達に音声情報を用いることが多く、耳を塞いだ状態で集団行動を取るのは至難の業となる。子供の頃から音声情報が入ってきにくい私は、「協調性」を育てることが難しい環境にあったと言えるだろう。

人を罵倒する言葉に「コミュ障(コミュニケーション障害)」というのがあるのだけども、人はときに「協調性」のない人間にとても厳しい態度を取ることがあるし、仲間と見なさないことも多い。私のようなコミュ障は、こういう「差別」に生きにくさを感じるのだけども、コミュニケーション至上主義ともいえるような現象が発生するのは、なにも不条理な嫌がらせではなく、人類の歴史を紐解けばむしろ必然なのだ。

人類の危機とコミュニケーション

人類の祖先は食料が豊富なところで木の実や種子などを食べ漁っていて、積極的に狩りをする生き物ではなかった。しかし、地球環境の激変により何度も全滅の危機に瀕しているうちに狩猟や火の利用を覚えて生き延びた。

最近の危機は、約7万年前にインドネシアのスマトラ島にあるトバ火山が大噴火を起こし、地球が急激に寒冷化した事件だ。これにより、ともに大型生物の狩猟に長けていたホモ・サピエンスとネアンデルタール人を除いた人類は絶滅してしまった。そして現在、地球上にいる人類はホモ・サピエンスだけで、ネアンデルタール人もまた絶滅した。なぜネアンデルタール人が絶滅したかはよくわかっていないが、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の間に大規模な直接的な暴力的衝突が起きた可能性も指摘されている。

では、ホモ・サピエンスはネアンデルタール人と比べて体格や頭が良かったのかというと、現在の調査では脳の大きさや体格ではネアンデルタール人のほうが優れていたようだ。しかし、ホモ・サピエンスの声帯はネアンデルタール人より柔軟性があり、より複雑な音を出せたため音声による情報伝達能力に優れており、これがホモ・サピエンスとネアンデルタール人の運命を決定した可能性が高い。

よく子ども向けの学習まんがに原始人がマンモスを狩るシーンで「ウホッ!ウホッ!」と叫んでいるけど、その狩りを成功させるためには、少なくとも、「マンモス」に値する固有の名詞は必要だし、「行く」「待つ」「投げる」「倒す」などの動詞も必要だ。そして、それらを一つ一つ正確に発音できなければならない。マンモスのような巨大生物を狩るというのは常に危険と隣り合わせで、一瞬の判断が生死を分ける。そのような状態では短く正確に情報を伝えることが求められるからだ。ホモ・サピエンスの情報伝達力はこの面でネアンデルタール人を凌駕し、暴力的衝突においても大いに役立ったことだろう。

つまり、我々ホモ・サピエンスはコミュニケーション能力を高めることで効率的に「他の人類」を殺戮し絶滅に追い込むことで生き延びたのだ。だから、うまくコミュニケーションを取れない「コミュ障」は人類の進歩に反する存在であり、排斥されるのは仕方ないのではないか…。いやはや、人類はかくも暴力的な存在である…。

マンモスとホモ・サピエンス イメージ(Willgard KrauseによるPixabayからの画像)

CALL OF DUTY: MOBILEでマンモスの気分を味わう

という歴史的なことを考えている間に、私はまた頭を撃ち抜かれKillされた。道を走っているうちに狙撃されたようで、敵の影すら把握できなかった。もちろん、撃ち抜かれたのは自分ではないし、日本でもない。CALL OF DUTY: MOBILEというゲームの中の話だ。CALL OF DUTY: MOBILEでは、殺されると自キャラが撃たれた瞬間を敵の視点から見ることが出来るのだが、これによると、私が走っていった建物の二階にスナイパーライフルを抱えていた敵が潜んでいて、一瞬でエイムされてKillされる結果となったようだ。ここはボスニアのスナイパーストリートか、と毒づく。スナイパーは敵に捕まると拷問されて殺されるため捕虜になれないというが、FPSをやっているとその気持ちがよく理解できるようになる。

さて、なんでこんなエグい事を考えながら「いい大人がスマホで戦争ごっこ(by妻)」をしているかといえば、ePARA主催のバリアフリーeスポーツ大会「ePARA CHAMPIONSHIP」のCALL OF DUTY: MOBILEの部に参加することになり、練習試合に引っ張り出されたからだ。

今年の5月31日に行われた「バリアフリーeスポーツ ePARA2020」やその前日に行われた「企業交流戦」では「ライターとして参加するはずがなぜかプレイヤーになっていた」という経緯で参加したのだけども、ここで起こした数々のハプニング…あるいは活躍…が面白かったから、という理由でこちらにもスカウトされた次第で、とりあえず前回プレイした「PUBG MOBILE」と同じような条件だろうとCALL OF DUTY: MOBILEをインストールして(妻にまたゲームなんぞしおってという白い目で見られながら)バトルロイヤルモードを練習していた。ソロプレイモードで何回か優勝できたのでなんとかなるだろう、と慢心していた。

しかし、条件を詳しく聞くと、5対5のチーム戦で、しかもこのゲームはボイスチャットを使って連携することが前提になるという。私は聴覚障害だが、人工内耳という手術を受けて頭部に機械を埋め込んだことである程度電話などもできる。しかしなにもつけなければ後ろから腹を撃たれても銃撃音は全く聞こえないだろう、というほどに悪い。バトルロイヤルモードで勝てるのは、まともに敵とぶつからないように一人で移動し、広いフィールドを20分以上かけて他のプレイヤーが相打ちで少なくなるまで待つ戦略を取るからだ。

一方、CALL OF DUTY: MOBILEは狭いマップで1回数分間の短期決戦で、銃撃音がこだまする上に足音などが敵を把握しなければならない状態で、更にボイスチャットで状況を把握しながらプレイするというのと全く状況が違う。これで勝てというのは、ピエロが目隠しをして一輪車で綱渡りをするようなものだと思う。そういうわけで辞退しようと思ったのだけども、「聴覚の壁をどう乗り越えて戦うかがバリアフリースポーツとして意義があるのではないでしょうか」と説得されて続行した次第である。

本番二週間前の練習試合では、私が所属している「Team-ePARA」とBASE株式会社のeスポーツ部である「Team-BASE」がオンラインで対戦した。しかし、日本初のパラeスポーツアスリート(障害のあるeスポーツ選手)まで所属する「Team-BASE」と、FPS歴が数ヶ月足らずなうえにチームでの練習経験も不足している「Team-ePARA」の戦力差は歴然で、またたく間に全滅していく。他のチームメイトはボイスチャットでやり取りしているようだけど、ボイスチャットに集中しようとするとゲームの手が止まって倒されるし、画面を見ながらプレイするとなにを言っているかわからずに、はぐれて一人になったところを襲われてKillされる。全くいいところがない状態に陥った。

こうなると生来もネガティブさで「どうせ聞こえないし…自分は昔から協調性のない人間だし…言葉をうまく使えない人間はマンモスやネアンデルタール人のように滅んでいくのや…」という無駄に壮大な落ち込みが来襲し、翌日、熱が出たレベルのストレスを感じた次第であった。(後半に続く)

聴覚障害くらげがePARA CHAMPIONSHIP のCALL OF DUTY: MOBILEに参戦する様子
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くらげ

山形県出身、東京都在住のサラリーマン兼物書き。 聴覚障害・発達障害(ADHD)・躁鬱病があり、同じく発達障害・精神障害・てんかんがある妻(あお)と自立して二人暮らし。 著書「ボクの彼女は発達障害―障害者カップルのドタバタ日記 (ヒューマンケアブックス)」「ボクの彼女は発達障害2 一緒に暮らして毎日ドタバタしてます! (ヒューマンケアブックス)」があるほか、様々なコラムや記事を執筆している。 現在、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」(https://sunnybank.jp/)の広報を務めている。 公式note(https://note.com/kura_tera)

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