023年9月27日(水)~29日(金)、東京ビッグサイトにて「H.C.R.2023 第50回国際福祉機器展&フォーラム」が開催されました。バリアフリーeスポーツを提唱するePARAは「エンジョイアクティブゾーン“Gotcha!”」において以下の取り組みを行いました。
- バリアフリーe-sports体験 の運営 2023年9月27日(水) ~ 29日(金) 10:00~17:00
- トークショー「本気で遊べば、明日は変わる。」 2023年9月28日(木) 11:00~
- 夢の車いす創造ワークショップ 2023年9月28日(木) 13:00~
本記事は、H.C.R.2023に来場者として参加した聴覚障害・ADHDのライターくらげさんの「夢の車いす創造ワークショップ」参加レポートです。(ワークショップの概要は、プレスリリースまたは本記事末尾をご参照ください)
夢の車いす創造ワークショップ/トークショー登壇者の集合写真
第1部: 各開発担当者の取り組み紹介 -車いす開発の最先端を探る-
「夢の車いす創造ワークショップ」は3部に分かれ、第1部ではトヨタ自動車社・慶應義塾大学理工学部・メルカリ社の車いす開発に関わる取り組み紹介が行われた。
まず、トヨタ自動車株式会社の井上正太郎氏から同社が多様化技術として開発中の「自由な電動車いす『JUU』」の紹介があった。JUUはトヨタの自動車技術を応用した、階段の上り下りや凹凸路の走行ができる車いす型モビリティである。
また、井上氏はトヨタの自動車の設計を担当していたが、福祉関係に興味を持ち、2023年からJUUの開発に携わったという経緯の話があった。車いすというよりも新しいモビリティを開発するという姿勢が強いところにトヨタらしさを感じることができた。
「JUU」を紹介するトヨタ自動車社井上氏
ePARAユナイテッドはる選手が「JUU」の試乗走行に参加する様子
次に、慶應義塾大学理工学部の「Humonii」代表である川崎陽祐氏から、Humoniiで行っている「Feeling」と「BrainGo」の説明があった。同氏のコアな研究テーマは『ロボットと人の調和』。同氏は「人と機械の調和により、人の活力を引き出す」を使命とするHumonii社を創設し、電動車いすの知能化に取り組んでいる。
紹介があったのは脳波を読み取り念じるだけで動く車いす「BrainGo」と、体重移動で操作し体の一部のように乗りこなせる半自動運転車いす「Feeling」。最先端技術を応用した車いすは実用化が待ち遠しく感じた。
「Brain Go」と「Feeling」について説明するHumonii代表川崎氏
「Brain Go」の実証実験に参加するePARAユナイテッド鱒渕羽飛選手と川崎氏
メルカリグループの研究開発組織である「mercari R4D」に所属する山村亮介氏からは『poimoプロジェクト』の説明があった。poimoとは、インフレータブルボディ(空気圧により膨らむ風船構造)で普段はボディを畳んでおいて必要なときに膨らますという新しい電動モビリティ。空気で膨らますことから可変性があり、自分の体に合わせてカスタムメイドすることも容易だという。「社会実装」という観点からどうすれば実際に新型モビリティとして使われるようになるのか?という点からのアプローチを強く行っているところが特徴的であった。
ちなみに「poimo」の着想には、同氏が幼少期に好きだった人気アニメ・ドラゴンボールの「ホイポイカプセル」があり、ドラゴンボールのオフィシャルサイトでも対談記事が掲載されている。
「poimo」について説明するメルカリ社・山村氏
ePARAユナイテッドのメンバーがリサーチに協力。(左上から時計回りに)メルカリ社・山村氏、ePARAユナイテッド・アフロ、ePARA・実里、ePARAユナイテッド・根本ありさ
第2部:公開ワークショップ -車いす利用者の声-
第2部では車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」のメンバー4人(鳥越勝・長野僚・はる・根本ありさ)が登壇。大阪国際大学准教授の早川公氏をファシリテーターとして「 車いすの『未来』を考える」というワークショップを行った。
今回のワークショップは、未来の可能性や問題を探求するためのアプローチである「スペキュラティヴ・デザイン*」を用いて未来の車いすを考えるというもので、メンバーはランダムに4枚のカードを引き、そこにあるキーワードを元にどんな車いすを考えることができるかを考えて発表した。そのキーワードは「持続可能エネルギー」「拡張現実」「5G」「人間中心としないデザイン」「シンギュラリティ」など普段はあまり使わない単語が多く、メンバーはかなり悩みながら考えていたようである。
スペキュラティヴ・デザイン:「未来はこうなると予測される」または「未来はこうあるべきだ」という問題解決型の将来像を提示するのではなく、「未来はこうもありえるのではないか」という臆測を提示し、問いを創造するデザインの方法論。未来を予測することを目的とするのではなく、「私たちに未来について考えさせる(speculate)ことでより良い世界にする」ことが目的。
「スペキュラティヴ・デザイン・ワークショップ」で未来の車いすについて考えるePARAユナイテッドメンバー
このワークショップからは「そもそも車いすが車いすの形である必要があるのか?」といったそもそも話から「昼は太陽光で発電し、夜や室内ではアイドルやポップスターでも使えそうな光り輝く車いす」「音声入力でトランスフォームする車いす」というポップなアイデア、「金属や化学物質を使わない天然素材で作った車いす」というSDGsにつながるものなどさまざまな意見が膨らんで出てきて、聞いていてとても面白かった。また、ところどころで「車いすをコミュニケーションのアイテムとする」といった内容が出てきていて、「福祉のため」だけではなく「魅せるもの」としての車いすのアプローチも大事になっていくだろうことに気付かされた。
今回のワークショップを通じて、未来の車いすを考えることはSF的なテクノロジーの発想のみならず、持続可能性や「コミュニケーション」といったこれまでにない観点から検討する必要があり、そのためには開発する側も使う側もさまざまなフレームワークを用いて柔軟に考えなければいけないのだろうと感じた。
また、課題としては、バッテリーの性能の限界で遠くに外出するときに不便があることなどの技術的な問題だったり、制度上一度購入すると短くても6年前後使い続けるのが前提となり、気軽に買いかえたりすることができないが、6年先を見据えて購入するのは難しく、途中で変えたくても変えられないという問題もあるという話題も出てきた。未来を考えるためには「社会的な制度」についても目を向ける必要があるのだろう。
キーワードを元に考えた未来の車いすについて発表するePARAユナイテッドメンバー
第3部・パネルディスカッション -開発担当者 × 車いす利用者-
第3部は「パネルディスカッション」としてトヨタ自動車社の井上正太郎氏、慶應義塾大学理工学部/Humoniiの川崎陽祐氏、メルカリ社の山村亮介氏の3氏が再び登壇。第2部の内容を受けてのディスカッションが行われた。また、第2部の登壇者4名も、観覧席からマイクを手に参加した。さまざまなトピックがあったが、パネリストからは「当事者の声をより聞いていく必要性」を改めて認識したという点が強調されていた。どのように声を聞いていくか、その声をどのように形にして、どのように社会実装に向けて研究や開発を進めていくのかは、これからの大きな課題になっていくと思われる。
また、やはりいろいろな電動車いす型のモビリティを開発しても、日本の道路をはじめとしたインフラが大きな障壁になるという指摘があった。車いすだけの問題ではなく、社会全体のバリアフリーをどのように達成するかについては技術的な面からだけでは解決できないのであろう。同時に「車いすが排除されない社会」が実現するためには心のバリアフリーも重要だということが話題になっていた。
技術的なことについては、脳波でどれだけの情報を処理できるかや、車いすの防水の難しさ、駆動系の設計とコストの問題など、専門的な話が多かった。特に充電の問題については、電動キックボードなどにも絡めて街なかに充電スポットがあったりワイヤレスで自動給電できたりしたら良いのだが、安全性やコスト面の課題などでなかなか難しいようである。
面白かったのは、ePARAユナイテッドのメンバーから「現在はベビーカーのデザインなどが良くなっているため、ベビーカー向けのアクセサリーなどを車いすにつけるユーザーが多い。本来の車いすの性能に影響するかもしれないが、誰もメーカーに確認はしない。カスタマイズはどれくらいしていいのだろうか」という話題提供があったことである。話題を受けてパネリストの議論があったが、細かくカスタマイズするのはやはりコスト的に簡単ではないらしい。いろんな取り決めもあるので研究段階ではともかく、工場で生産するときにデザインするのも難しいそうだ。
また、そもそも「車いす」という表現が利用者を限定してしまっている旨の議論もあった。「車いす」が障害当事者のみが利用するものでなく、多くの生活者が使用する「マイクロ・モビリティ」として進化し、形状や役割を変えることでベビーカーや高齢者の移動機器にもなりえれば、手軽な金額で一家に一台置かれる「マイクロ・モビリティ」となる可能性もあるというものである。2023年時点では発展途上の「マイクロ・モビリティ」が将来的にどう普及し、「車いす」とどう融合していくのかは楽しみだ。
全体を通して、いろいろ新しいコンセプトを考えても技術的・コスト的・制度的・社会的に大きな壁があることが見えてきた。しかし、未来を考えなければ課題も見えてこない。そういう意味でも未来の車いすを考えることはさまざまな壁を乗り越えるという意味でも絶対に必要な取り組みなのだろう。
まとめ ‐聴覚障害/ADHDのライター・くらげの視点‐
今回は「車いすの未来を考える」というイベントであったが、研究者・技術者・障害者当事者という立場で見えていること・考えていることが全く違う、ということがよくわかり、だからこそ「さまざまな立場の人たちが集まって物事を考える」ことが大事だ、と強く感じた。
また、障害者サイドからはさまざまな意見や要望が出されていたが、技術的な制約などから現在はまだ実現が難しいものが無数にあることもわかり、まだまだ車いすは技術的にチャレンジする余地のある分野でもあるのだなと感じた。ぜひともさまざまな企業やエンジニアに参入してもらいたいし、そのためには障害者自身も要望を述べていくことが大事なのだろう。障害者ライターとしても何か意見を伝えられるように文章の力でできることを考えていきたい。
本番前に一緒にゲームをする登壇者のみなさま
夢の車いす創造ワークショップ概要
- 主催:全国社会福祉協議会 保健福祉広報協会
- 企画:株式会社ePARA、ePARAユナイテッド(車椅子eサッカーチーム)
- 日時:2023年9月28日(木)13:00~16:00
- 会場:東京ビッグサイト
東6ホール エンジョイアクティブゾーン"Gotcha!"内トークショーエリア - ・プレスリリース:
- 9月28日「夢の車いす創造ワークショップ」をH.C.R.2023(会場:東京ビッグサイト)内で開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000056567.html
タイムスケジュール:
13:00~13:45(15分×3社) | 第1部:各開発担当者の取り組み紹介発表:トヨタ自動車、慶應義塾大学理工学部、メルカリ |
13:50~14:50 | 第2部:公開ワークショップワークショップ① 車いすの「今」を考えるワークショップ② 車いすの「未来」を考える 出演:鳥越勝、長野僚、はる、根本ありさ(ePARAユナイテッド)ファシリテーター:早川公 氏(大阪国際大学 准教授) |
15:00~16:00 | 第3部:パネルディスカッション・まとめ 出演:トヨタ自動車、慶應義塾大学理工学部、メルカリファシリテーター:早川公 氏(大阪国際大学 准教授) |