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イベントレポート

聴覚障害者くらげのPUBG戦記(3)~企業交流戦編~

チームプレーは苦手だ

私はとことん「チームプレー」が苦手だ。小学生のときからサッカーをさせれば相手チームにパスを渡したり、なんなら自軍のゴールにシュートするくらいだし、なんなら運動会のマスゲームで一人コケて演技そのものを大惨事に追い込んだりする人間だ。
人間は大きな生き物を狩って生きていくために集団化して社会性を育んできたというが、私が太古の昔に生まれていたらとっくに群れから放逐されていたに違いない。

そもそも、協調性というのは「声」がかなり重要だ。私はADHDと聴覚障害があって、ADHDだけでも協調性が無いとみなされやすいが、そもそも集団で活動するのに必須な話し声をうまくキャッチできない障害もあるので、そりゃ「集団活動」が苦手で当然だ。
以前の私はいわゆるオフィスワーカーだったけど、周りに同僚が常にいるという状況自体がかなりストレスだった。現職ではリモートワークで殆どの時間は一人で仕事をしていて、これはこれで大変だけども、少なくとも「協調性」において悩むことは以前より大幅に減っている。

というわけで、ePARA2020前日に行われた「ePARA PUBG MOBILE企業交流戦」では「サニーバンク選抜チームで出場してください」と担当者から告げられたときは「マジですか」と(チャットで)聞き返した。

確かに、障害者向けeスポーツのライターとして参画することになったけど、いつの間にかeスポーツに参加することになって、PUBG MOBILEのオンライン大会に参加して、そのレポートも書いた。だけども、「4人一組のチームで企業交流戦」まで任されるとは思っていなかった。繰り返すが、私はチームプレーが大の苦手なのだ。

担当者に「流石に聞こえにくい状態でチームとして戦うのはきついですよ?」と別な人にしてくれという意味で抗議したのだけど、「くらげさん、いろいろ工夫をしてがんばってるじゃないですか。そういう工夫をぜひ企業の皆さんにも知ってほしいのですよ」とか言ってくる。前から思っているが、この担当者は軽くサド体質だ。まぁ、「勝敗はあまり気にしませんから」ということだし、交流戦まで日がないこともあって承諾した次第である。

練習で死ぬ

ePARA PUBG MOBILE企業交流戦の前日の2020年5月28日(木曜日)、チームで練習をするためにZOOMにログインした。サニーバンクのチームは障害者向けのPUBG MOBILE体験会で上位に入った人から選抜したもので、私はその大会で最高10位というしょぼい戦果しかあげていないくらいにはあまりうまくない。

練習ではSQUAD(4人組)というモードでプレイしてボイスチャットを使ってチームで動くことを体験した。私は初のチームプレーということもあって、チームメイトについていくのに精一杯で何もできなかったが、さすが選抜されたメンバーで構成したこともあって、チーム自体はドン勝(最後まで生き残ること)できた。担当者が「これは本番でも期待できますね!」とテンションを上げていた。

ただ、やはり「情報保障」がないとチームプレーはかなりしんどい。一応、スマホに入っているUDトークという文字起こしアプリを使ったみたのだけども、PUBG MOBILEは音質があまりよくないのかうまく音を拾って読み上げない。しかも、画面が小さいのでゲームをしながら見るのが難しい。そういうわけで、大会本日までウチにあるさまざまなガジェットを組み合わせてセルフ情報保障環境を組み上げて行くことにした。

PUBG MOBILE企業交流戦 当日のこと

さて、本番の2020年5月30日(土曜日)である。
この企業交流戦は関係者限定のYou Tubeの実況中継を行う形式のイベントで、プレイヤーはLINEグループで歓談しつつ待機していた。

そこで知ったのだけど、この企業交流戦に参加するのは「BASE株式会社」「ビーウィズ株式会社」「グリービジネスオペレーションズ株式会社」「株式会社凸版印刷(E1 HEROES)。いずれも社内にeスポーツチームがあって、そこに所属するメンバーがガチでPUBG MOBILEを練習して挑んでいるという。この時点で私はもう冷やせが止まらなかった。
なお、このガチっぷりは聞き逃したのか担当者があえて言わなかったかは定かではない。

セルフ情報保障

セルフ情報保障の状態は、WindowsPCとAndroidタブレット(正確にはChromebookにAndroidのアプリをインストールした)、それとプレイ用のスマホを組み合わせたものとなった。

技術的な話は省略するが、WindowsPCでYou Tubeの実況を自動文字起こしして、ゲームの中のボイスチャットをAndroidのGoogle謹製文字認識アプリで文字起こしする、という仕組みだ。これだとボイスチャットの文字が大きく出るため、目を凝らさなくても読むことができる。しかし、実戦で使えるかどうかはまだ試していなかったので未知数だった。

第1戦 電磁パルスに屈して4位

企業交流戦は各社SQUAD(4人)1チームで、3回試合を行うもので、早速、第1ゲームが始まった。PUBG MOBILEは飛行機から飛び降りてマップのどこかに着地するところから始まるのだけど、サニーバンクチームはさすが急造チームということでどこに降りればいいかとかも打合せできていなかった。とにかく誰かが飛び降りてみんなそれに続いたけど、マップのかなり端っこに着陸することになった。

PUBG MOBILEは時間制限があって、ある程度の時間が立つと電磁パルスが発生し、その中にいると徐々に体力が削られてゲームオーバーになる。とりあえず武器を拾えるだけ拾って安全地帯に向かおうとするのだが、電磁パルスがかなり早く展開される設定だったこともあって、他のチームとエンカウントする前に4人中3人が倒れてしまった。(残りの一人も途中で敵に倒された)

この間、ボイスチャットは比較的快調に動いてたのだけども、まず何を話していいかわからず意思疎通が取れていない、という「情報保障」以前の問題が発生していた。後からYou Tubeのログを見ると実況者から「サニーバンクチーム、敵と戦う前に電磁パルスと戦っております」とイジられていた。どうもチームごとネタ要員になったらしい。
ゲームオーバーになってからは実況を見ていた。どのチームもかなりスムーズに動いているが、凸版印刷が圧倒的に強い。車両を効果的に使っているようだ。一戦目は凸版印刷が勝利した。

第2戦 時に仲間を救えるも4位

2戦目が開始されると、流石にサニーバンクチームもある程度反省し、連携して中央寄りに降下していった。まずは近くの建物に侵入し、アイテムを集めていく。あとはPUBGが上手い人が先頭に立って進んでいくので、私も必死についていく。
ボイスチャットの内容も意味がつかめるようになって、「山の上に行く」とか「先に注意」というチームメイトの指示に従って動けるようになった。安全地帯に常にいるように注意しつつ前進していくと、15分くらいでマップがだいぶ狭くなった。

そろそろ他のチームと交戦か、と気を引き締めて集落に近づくとどこからか撃たれたらしく、他のチームメイトが気絶した。なにか言われているのでボイスチャットのログを見てみると、「一番近くにいるくらげさんが手当してくれ」という内容が読み取れれたので、慌てて近寄って、ケアするボタンを押すとチームメイトが息を吹き返した。もし情報保障がなかったらどうしていいかわからなかっただろう。
コレは本当にすごいことだ。ちょっと前まで誰かの声を文字にするというのはとても手間のかかることだし、他の人を必要とした。しかし、今では自動的にそれを行なってくれるのだ。テクノロジーバンザイ。

そして、再び敵側に向かって攻撃しようとしたら、私達の集団のど真ん中に敵チームの車両が飛び込んできた。驚いて反撃しようとしたが、その車両から銃撃されてたちまちチームは壊滅してしまった。もう、練度の差としか言いようのないもので正直、負けて「悔しい」と思う暇もなかった。突っ込んできたのは混乱していたのでよくわからないが、これも凸版印刷チームだと思う。そして、2戦目も凸版印刷チームの圧勝であった。

第3戦 番狂わせの生き残り、大健闘の2位

しばらくして休憩を挟んで3戦目がはじまったのだけども、3戦目の最中にどういうわけか音が聞こえなくなってしまった。
普通の音すら聞こえないし、ボイスチャットも反応しない。おそらく、音声を中継していたBluetoothレシーバーの電源が想定より早くバッテリーが尽きてしまったようだ。事前に充電していたがいくつものコードを通していたのがまずかったようだ。

全く連携が取れず、とりあえずついていくだけついてこう、と目を凝らしながら動いていたが、試合開始数分でどこかのチームと戦いが始まった。私はもうどう動いたらいいかもわからないし、どこから攻撃されているかもわからない。そうしているうちに他のチームメイトが次々倒れていくので「これはもう反撃をしたところでやられるだけだ」と判断して、ひたすら一人で逃げることにした。

そもそも私のPUBG MOBILEのゲームスタイルはひたすら戦闘をやり過ごして後半まで生き残り、そこからしぶとく10位くらいまでサバイバルすることで、チームメイトがいるとそういう戦術が取れない。その結果、どう動いていいかわからず困惑する、という流れだったので、一人サバイバルしていくことは逆にストレスはない。(これだから協調性が無いと言われるのだけど)

また、生き残ることに対してどうも「意地」みたいなものもあった。
この交流戦ではサニーバンクチームは唯一、全員何かしらの障害がある人達で集まったチームだ。これが他のチームになすすべもなく終わるのもどうも「障害者がなめられる」という対抗心が湧き上がってきたのも事実だ。とにかく、意地汚くでも生き延びて、最後のほうで特攻しようと方針を定めた。

慎重にマップを進んでいると、順調に他のチームが戦って脱落しているようで、自動的に生き乗っている私がいるサニーバンクチームの順位が上がっていく。安全地帯が殆どなくなっても、木と草むらをうまく利用して隠れ続け、最後には火炎瓶を投げて特攻して果てる、という最期を遂げることができた。その結果だが、「ビーウィズ」チームのほかは全滅していたので、サニーバンクチームが2位というある種の番狂わせが発生した。

担当者によると実況は「くらげさんはまだ生き残っているの!?」とたいへん盛り上がっていたようだ。やはりネタ要員として面白みはあるようであった。

感想 時にはハンデが欲しい

さて、ざっとプレイ戦記を書いてみたが、なかなかにしんどい試合であった。
情報をできるだけ文字にするが、目を酷使することになるのでとても疲れる。また、同時に音を拾わざるを得ないときもあったので、耳をすませる必要もある。交流戦が終わった後は3時間寝込んでしまったくらいだ。もともと協調性が無いこともあるが。

ただ、チーム戦でもボイスチャットもうまく文字化できればある程度戦えることもわかったし、やり方次第ではとても面白い戦いができることもわかった。次回の交流戦があるのならば、チームで戦略を練り込んで戦いたいと思った。

最後に提案であるが、この企業交流戦は私のような障害があって不利がある人についてハンデのようなものがなかったので、チームに障害者を入れるインセンティブのようなものが発生しなかったように思う。
もし、時間があるなら障害の種類や人数に応じてポイントを付与するなどの工夫があると障害者をチームに何人入れるかなどで戦略の幅が増えると思う。ぜひ工夫していただきたい。
では、また。

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くらげ

山形県出身、東京都在住のサラリーマン兼物書き。
聴覚障害・発達障害(ADHD)・躁鬱病があり、同じく発達障害・精神障害・てんかんがある妻(あお)と自立して二人暮らし。
著書「ボクの彼女は発達障害―障害者カップルのドタバタ日記 (ヒューマンケアブックス)」「ボクの彼女は発達障害2 一緒に暮らして毎日ドタバタしてます! (ヒューマンケアブックス)」があるほか、様々なコラムや記事を執筆している。 現在、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」(https://sunnybank.jp/)のアドバイザーを務めている。 公式note(https://note.com/kura_tera)

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