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ePARA大会 イベントレポート

聴覚障害者くらげのブロスタ戦記 ~バリアフリーeスポーツePARA2020編~

前説

思えば私は「スポーツ大会」というものと相性が悪い。
185cmでガッツリ体型という体格だけには恵まれているが運動神経が根本的に崩れており、極端に体を動かすのは苦手だ。運動会やマラソン大会などは地獄のイベントであったし、部活も体育系であったが、試合には積極的に出たくなかったし、出たら出たでまぁひどいことになった。
私にとって唯一誇れる大会といえば、中学生の時に弁論大会の地区大会に出場して準優勝になったことくらいだ。

大人になってからはできるだけスポーツとは距離を置くことにしている。せいぜいサバイバルゲームを少々、というところだ。という私が、36歳になって「ePARA」(イーパラ)で「eスポーツ大会」というものを初めて実体験することになった。人生、何がどう転がるか本当にわからないものである。

ePARA2020とは

さて、私が出場したのはこのサイトを運営している「ePARA運営委員会」が主催する「バリアフリーeスポーツePARA2020」だ。

この大会は障害者雇用の促進と支援を目的としたイベントだ。私は以前、ePARA運営委員会代表の加藤大貴氏と対談記事を書いたが、「企業の採用担当者に就労を希望する障害者のeスポーツの取り組みを見てもらうことで、能力を評価してもらう機会を作りたい」という思いを持って開催されている。

ePARA代表 加藤大貴がくらげ×寺島ヒロ発達障害あるある対談でバリアフリーeスポーツを語るイラスト
くらげ×寺島ヒロ 発達障害あるある対談内、寺島ヒロ氏@terashimahiro作イラスト

昨年(2019年)11月に第1回目の大会が開催され、乙武洋匡氏がぷよぷよで熱戦を広げるなど、大変熱いイベントになった。

今年は新型コロナウイルスの流行により開催が危ぶまれたが、加藤氏らが「こんな時期だからこそ明るいニュースを一緒に出しましょう!」と関係各所を説得して、完全オンラインでの開催にこぎつけた。
本当に苦労したことと思うが、その情熱には頭が下がる思いだ。パートナー企業様および大会の運営に携わった皆様に大会出場者としてお礼申し上げたい。

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練習をしました

そんな運営側のテンションに反して、当日(2020年5月31日(日曜日))の私のテンションは実に低めであった。

前日に行われたPUBG企業交流戦で消耗しきっていたことや天気が崩れそうなこともあって、体調があまり良くなかった。色々な障害から、私は些細なことで体調を崩しやすい。もしオフライン開催だったらかなり辛かったはずだ。
現在、リモートワークで働いているのも出勤が苦しいときが多いからだ。そういう意味ではオンライン開催で自宅から出場できて本当に良かったと思う。

しかし、それ以上に、今回プレイする「ブロスタ」の競技で無様な姿を晒さないか、という心配で気が重かった。ブロスタはプレイに音は関係ないので、聴覚障害があっても特に問題はない。
少なくとも自分がプレイする上では「音が聞こえなくて困った」ということはなかった。ただ、手先の器用さが皆無なので、練習してもある程度のレベルになってからはあまり勝てなくなっていて「どこまで活躍できるかなぁ」と心配になっていたのだ。

今回の大会は「バトルロイヤル」という、8人が最後の1人になるまで戦い続ける形式だ。
ブロスタは簡単そうなプレイ画面と裏腹に「ラッキーヒット」で一発逆転、ということは起きにくく、かなり実力勝負なところがある。ましてや、この大会は10人の健常者と26人の障害者が参加するのだ。
健常者の方はeスポーツにかなり慣れている選手が多い。正直、あまり活躍できずに負けるのではないか…という思いがあった。

サニーバンクの担当者は「くらげさんは特に勝てなくてもいいから見せ場を作って面白いプレイレポートを書いてください!」と圧をかけられていたが、このままでは何一ついいところもなくプレイレポートも面白くならないのではないか、という不安があった。

ただ、唯一の取り柄というか活路というか、予選で使われる「天国と地獄」というマップは隠れ場が多く、近距離戦に強いキャラで隠れ場から急襲すれば、少々細かく操作するのが苦手でも勝つことができる可能性が高いマップだ。

また、私は耳が聞こえない分、比較的動体視力が良い。他のプレイヤーが気づかない動きを捉えて戦略的に立ち回ればなんとか上位まで生き残れるのではないか、という方針を立てた。「ローサ」というキャラで練習してみると10回に3回ほどは1位になれたが、レベルの高いプレイヤーが多いとこれでもまだまだだろうな、と不安だった。

バリアフリーeスポーツePARA2020プレイレポート

情報保障について

ところで、この大会ではUDトークという文字起こしアプリを介して情報保障が行われた。これまで私のレポートでも何度か情報保障について触れているが、コレまでは自分の手持ちのアプリで自動文字起こしのままの状態で見ていた。この状態では誤字脱字が多く、理解できないところも多くなる。(それでも無いよりは全然良い)

今回はこのアプリで自動的に文字起こしを行ったものを、スタッフがリアルタイム修正を行うため、高精度で内容を理解することができる。そのスピードと精度は、情報保障をはじめて体験する人にとってはとても驚くほどだと思う。

ほんの5年ほど前ならこれほどの質の情報保障を行うには熟練した方が4人会場に集まって休みなく打ち込む必要があった。
今回は修正経験者2名と手伝いの方が3名が全員オンラインで自宅から代わる代わる修正を行っていたのだが、それでも十二分に理解できる情報保障になっていた。本当にテクノロジーは障害者を便利にしていると実感する次第だ。

第1部・第2部

さて、ePARA2020年は第一部がオンラインパネルディスカッション、第2部が第1部登壇者によるぷよぷよeスポーツエキシビジョンマッチ、第3部が私も参加するブロスタ大会であった。

第1部はまず、セガサミービジネスサポート株式会社の一木裕佳 氏、グリービジネスオペレーションズ株式会社の福田智史 氏、ビーウィズ株式会社の伊東雅彦 氏が「リモートワークと障害者雇用」をテーマにディスカッション。次に「バリアフリー eスポーツの可能性」に視点を変え、株式会社プレイブレーンのマイク・シタール 氏、株式会社NTTe-Sportsの影澤潤一 氏、一般社団法人ソーシャルインクルージョンの世田谷望月雅之 氏により議論が行われた。

詳細についてはYouTubeの動画を見て欲しい。第二部のぷよぷよのエキシビションマッチについても、岸大河氏の軽妙な実況を楽しみながら観戦していた。UDトークの情報保障のスピートもかなり早く、かなり早い展開をする実況でも内容はかなりよく理解できたと思う。

第3部・予選

さて、お待ちかね(?)の第三部のブロスタ大会が始まった。この大会では予選では9人が4つのグループに別れて3戦行い、上位4人が準決勝に進出。準決勝では16人が2チームに分かれ、3戦してそれぞれ上位4名が決勝戦に挑める。決勝戦では5戦して最終的にポイントが高い順から表彰される、という仕組みだ。
優勝者にはAmazonギフト券30,000円と副賞に玄米×味噌シリアルバー50本が授与されるとあって、参加者も真剣である。

試合回数が多いので、1試合2〜3分でもかなり体力が必要だ。予選では私は最後のD組だったので、横目で試合を見つつ、ブロスタの練習を繰り返していた。
試合の実況は引き続き岸氏が担当していたが、情報保障も以前よりかなり良い状態で見ることができたので、誰がなにをしているのかとてもわかりやすく解説されていた。eスポーツは本当に実況次第で面白さが変わると思うので、よい情報保障が必須だなと感じた。

大きなトラブルもなく3グループの試合が終了し、Dグループの試合が始まる。私は「ローサ」を選択した。ローサは射程距離は短いが強力な攻撃を繰り出せる上、特殊能力を発動すると一定時間ダメージを軽減することができるキャラクターだ。とにかく、懐に潜り込んで一撃必殺を目指す。結構緊張している。

ゲームが始まった。ブロスタのバトルロイヤルは宝箱を壊して中のアイテムをゲットすると攻撃力などが上がるため、最初にどれだけアイテムを手に入れられるかが鍵だ。
このマップでは中央に集中してるので、ええいままよと中央に突撃する。当然、他のプレイヤーも向かってくるが、なんとか距離を起きつつダメージを抑えてアイテムを確保していく。そのまま中央の草むらで様子を伺ってるとダメージを負ったキャラが追われていたので一気に攻撃して倒した。

別のキャラがこちらを追ってくるので必死に逃げる。なんとか振り切ってまた草むらに隠れた。そのまま待機して、草むらの動きなどでキャラが近寄ってきた気配を察して攻撃を行う、ということを繰り返したら、なんと1位になってしまった。
実況では「まさかの勝利」とか「ジャイアント・キリング」などと言われていたけど、自分でもまさか!の展開に呆然としていたら、第2戦が始まった。

2戦目も同じように茂みに隠れて近寄ってきたキャラを全力で迎撃する、というプレイスタイルで、とにかく徹底的に身を隠して情勢を見る。とにかく「待ちの姿勢」をキープ。

最終的にもう一つのローサと打ち合いになったが、アイテムを多く取得してた私が打ち合いで勝利する、という形で2戦目も勝利した。正直こちらも想定外で驚いた。おそらく、戦略が想定以上に大ハマりしたのだろう。この時点で予選通過は確実になった。

3戦目は少し冒険しようか、ということで積極的に攻撃に行ったのだが、中間距離での攻撃を得意とするキャラにあっさり倒された。やはり戦略で決めたこと意外をすると弱いのであった。とはいえ、予選は1位で通過することができた。

第3部 準決勝

さて、準決勝である。

このマップは「天国と地獄」と違って開けていて、遠距離攻撃が得意なキャラが有利だ。逆に言えば接近戦に特化したローサにとっては不利だ。正直、あまり得意なマップではない。
予選通過をするとも思っていなかったのでとりあえず「ボウ」というキャラを選ぶ。このキャラは特段「強い」というわけでもないが特殊能力として見えない地雷を放つことができる。うまく使えばトラップを仕掛けて逆転も可能だ。

というわけで準決勝に挑むが、練習不足というか地力の差はいかんともしがたく、1・2戦と完敗した上に、3戦目ではローサにキャラを変えたが、やはりすぐに負ける、という惨敗であった。悔しい、と思う暇もない負け方であった。

ここに私のePARA2020は終了したのである。予選通過できるとわかってたらもっと練習しておけばよかったなぁ!

ところで、ブロスタで敗北してからは疲れて虚脱しており、ぼーっと流れる実況を眺めていたのだけど、決勝戦ではbot(コンピューターが自動的に動かすキャラ)が強すぎて副賞の「玄米×味噌シリアルバー」がbotに提供されるかも、という話で盛り上がっていたところが一番覚えている次第だ。どうでもいいところばかり覚えている人間なのである。

感想及び今後の展望

さて、ePARA2020の模様はYou Tubeで中継された。常時100人以上の観戦者がいたし、コメント欄も結構盛り上がっていたように思う。ゲームも障害者健常者関係なく、白熱した内容だった。私の目からはかなり成功したように思う。

ただ、やはりeスポーツに対する日頃からの訓練を積み重ねているかどうかで実力がはっきり分かれるので、5月に入ってから参加が決まった私はあまり練習する時間もなく劣勢を強いられた気がする。(言い訳とも言う)。

ePARAで「eスポーツ大会」というものが参加しても観戦していても(情報保障があれば)かなり面白いものだと理解することができた。来年も開催するとしたらもっと練習して参加したい。

また、6月10日より、ePARA実行委員会で「部活」をはじめるそうだ。こちらにも参加して腕を磨きたい。妻よ、コレは遊びではない、仕事なのだ。呆れた顔をしないでくれ。ゲームも仕事なのだ。はい。

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くらげ

山形県出身、東京都在住のサラリーマン兼物書き。
聴覚障害・発達障害(ADHD)・躁鬱病があり、同じく発達障害・精神障害・てんかんがある妻(あお)と自立して二人暮らし。
著書「ボクの彼女は発達障害―障害者カップルのドタバタ日記 (ヒューマンケアブックス)」「ボクの彼女は発達障害2 一緒に暮らして毎日ドタバタしてます! (ヒューマンケアブックス)」があるほか、様々なコラムや記事を執筆している。 現在、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」(https://sunnybank.jp/)のアドバイザーを務めている。 公式note(https://note.com/kura_tera)

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