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全盲の格闘ゲーム大会「心眼CUP」を観た聴覚障害・くらげが「障害者の限界ってなんだろうね」と改めて考えた

私はネガティブな性格をふんだんに抱えた障害者なので「障害があってもなんでもできる」という「キレイゴト」のようなものを好まないのだけど、一方で「障害があるということで過剰に『デキナイヒト』として扱われる」とも考えている。

これらをシンプルにまとめると「障害による『デキナイコト』というものは健常者が考えていることより遥かに小さい」ということでもある。つまりは「障害者をナメるな」ということだ。障害があってもできることは無数にある、勝手にその可能性を甘く見積もって過保護になっているのが健常者というものだろう…、といいつつ、私はいま、何度も首を傾げている。これは何もおかしくないがゆえに、何かがおかしいのである。私も「障害の意味」をまだまだ見誤っていたかもしれない

そもそもが正気の沙汰ではない

ePARAが2022年4月17日(日)に開催した「心眼CUP powered by SYCOM」は全盲者による格闘ゲーム『ストリートファイターV CE(SFV)』のeスポーツ大会だ。繰り返すが「全盲者」による「格闘ゲーム大会」である。日本語には「この単語とこの単語を組み合わせてはいけないだろう」というものがいくつもあるが、「ろう者のカラオケ大会」みたいなノリの「無理さ」がある。とはいえ、実のところ、カラオケを好むろう者もいるし、以前、視覚障害者ゲーマーの座談会の記事を書いたことがあったので「格闘ゲームやスポーツゲームを楽しむ視覚障害者がいる」ということは知っていた。しかし、全盲で格闘ゲームを楽しめるゲーマーを6人も集めて、ましてやそれを「イベント」として成り立たせようとするのはあまり正気の沙汰ではない。

Youtubeで配信された大会概要を説明する画像。「心眼CUP」とは視覚情報を一切使用せずに音声だけで状況を判断して戦うeスポーツ大会です。本配信ではストリートファイターV チャンピオンエディションを使用し、全盲のeスポーツプレイヤー6名による、熱い試合の模様をお届けします。」と書かれている。

「障害があるからできないことは過剰に見積もられる」ということは私自身も色々感じていて、たとえば音楽であるけど「全部を健常者と同じように楽しむ」ということはできないけど、聞こえる範囲で楽しむことは可能だし、なにもうまく歌うということだけが歌の楽しみではない。「完璧ではないけど、楽しめること」というのは無数にあるのもわかっている。

だけども、「全盲」で「格闘ゲーム」というのは子供の頃に格闘ゲームが全く理解できずに諦めた私からすると正直、理解の範疇を完全に超えている

まず、自分のキャラが右にいるのか、左にいるのか、相手のキャラとの距離をどう測るのか、攻撃が当たっているかどうかをどう判定するのか…とわからないことが無数にありすぎる。しかも、この大会では誰かが同時に画面に映っているものを教えてくれるわけではない。すべてを「音」で判断して戦うものだ。ずっと視覚のない世界で生きている方々は、目の見えている人よりずっと音に敏感で、まるでコウモリやイルカのように「エコーロケーション」を行える人もいると聞いているが、その世界は耳の悪い私にとってはどう「構築」されているのかがちょっと想像ができないのである。

「見えてない」ってなんだっけ

前置きが長くなったが、「心眼CUP」の配信を早速見てみよう。なお、今公開されている動画は、バリアフリープロジェクト「Fortia」の新ユニットとして結成された聴覚障害×ゲームの活性化を目的とした「Deaf Fortia」の初の取り組みとして字幕がついているので、聴覚障害があったり聞こえていても言葉の理解が難しい、という方でも楽しめるようになっている。ぜひ、驚愕の戦いを目にしてほしい。

YouTubeで配信されたUDトークについて説明する画像。UDトークによるリアルタイム字幕は、音声を人工知能でテキスト化し、編集チームで修正して表示されていることが写真やイラスト付きで説明されている。

まずは選手紹介である。今回の参加者は6人で、ePARA所属で声優・エンジニアなどマルチな才能をもつ『なおや』選手、NHKのど自慢大会グランプリの経験をもつ『いぐぴー』選手、大学院にて言語学を学ぶ『チョコタルト』選手、視覚障害者でも楽しめるゲームを開発するGalaxy Laboratoryのリーダーの『MM』選手、今回の心眼CUPのBGMも担当したサウンドクリエイターの『KYO』選手、カナダ在住でストⅡからの格闘ゲーマーという『クレ』選手、とさまざまな分野での才能がある方々が集っていた。改めて顔ぶれを見ると、普段から「音」に関する仕事をしている方が多い。だからこそ音だけでゲームを楽しむことができるのだろうか。

MC・実況はお笑いコンビ「NOモーション。」とePARAの加藤代表が担当し、格ゲー好きならかなり楽しめる(と思われる)モノマネ芸が多いので「障害者のイベント」にありがちな説教臭さはないので純粋にエンタメとして楽しめる。

さて、ゲーム大会の内容であるが、さっきも書いたが私自身は格闘ゲームはさっぱり詳しくないので、「普通に面白い格闘ゲーム大会」であってすごかった。以上。くらいの感想しかない。いや、「どこが見えてないのか」がわからず、口を半開きで「すごいなー」くらい言うことがないのである、まじで。普通に攻撃は当たるし、ガードもこなす。ストリートファイターでは「Vトリガー」というケージがあり、このケージが溜まったタイミングで特殊効果が発動するんだけど、もちろんそのケージがどれくらい溜まっているかは見ることもできないのに難なく発動させて逆転勝利したりする。また、合わせてNOモーション。の実況を聞いてるとそれがどれだけ驚くべきかわかってくる。YouTubeのチャット欄にも「実際は見えているんでしょう」というコメントが相次いだのも当たり前である。

いぐぴー選手とクレ選手の試合の様子
©CAPCOM CO., LTD. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

生きるためのテクニックと遊ぶための努力と

選手のインタビューを聞くと、ちゃんと戦略を組み立てて、それにあわせて試合を重ねるたびに修正をして精度を高めている。最初から「見えている」わけではなくて、彼らの中にある「ゲームの世界」と戦うことで少しずつ組み上げていっているのだろう。おそらくそれは私達のような「見える人」が見ているゲーム画面とは別物で、選手一人ひとりが独自に組み上げた「見え方」をしているのだと思う。これは「目が見えないからこそ常日頃から磨いてきた生き延びる術」と「ゲームを楽しむための努力」が組み合わさった成果と言えるのではないだろうか。

しかし、そういう難しい理屈は抜きで、心眼CUPはゲーム大会として見ていて面白い。一方で、実況で「見えないからこそ画面のモーションに気を取られず冷静に切り替えて反撃していた」という解説もあったが、そういう「見えないからこその駆け引き」というものも入っていたりする。5月28日には第2回心眼CUPが開催される予定だが、そういう「見えないからこその駆け引き」を意識して見てみてはいかがだろうか。障害とは必ずしも「できることの引き算」だけで捉えられるものではない、ということがもっとよく分かるのではないだろうか。

大会の決勝戦でクレ選手がMM選手にKO勝ちした場面のスクリーンショット。
©CAPCOM CO., LTD. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

今回の大会ではカナダから参戦のクレ選手が優勝した。クレ選手からは「見えなくてもゲームを楽しめることを伝えたい」というコメントがあったが、この大会がもっと広まれば視覚障害者自身が「できること」の可能性に気づくことも増えるのではないだろうか。ぜひ、2回、3回と重ねて大きな大会にして行ってほしいと思う。

<告知>心眼CUP powered by SYCOM団体戦は5月28日(土)11時00分~START

5月28日(土)に開催する障害×ゲームの文化祭「ePARA CARNIVAL 2022 SPRING」
メイン企画では、心眼CUP powered by SYCOM団体戦が行われます。その模様はライブ配信されますのでぜひご視聴ください。

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くらげ

山形県出身、東京都在住のサラリーマン兼物書き。
聴覚障害・発達障害(ADHD)・躁鬱病があり、同じく発達障害・精神障害・てんかんがある妻(あお)と自立して二人暮らし。
著書「ボクの彼女は発達障害―障害者カップルのドタバタ日記 (ヒューマンケアブックス)」「ボクの彼女は発達障害2 一緒に暮らして毎日ドタバタしてます! (ヒューマンケアブックス)」があるほか、様々なコラムや記事を執筆している。 現在、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」(https://sunnybank.jp/)のアドバイザーを務めている。 公式note(https://note.com/kura_tera)

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