プレイレポート 障害とゲーム

オーディオゲーム「The Vale」体験記 ~先天性全盲の遊び人・チョコタルト~

はじめに

こんにちは、チョコタルトと申します。ePARAでは、Blind Fortiaのメンバーの一人として活動しています。

今回は、先天性全盲の私が生まれて初めて本気になってプレーしたオーディオゲーム、The Valeの感想をお伝えします。本記事は、オーディオゲームの初心者として、そして英語を聞きながらゲームを理解するプレイヤーとして、二つのチャレンジにどのように立ち向かったのかを記した、先天性全盲プレイヤーによる体験記となっています。一部ネタバレを含みますが、プレーしたことがない方も楽しんでいただけるはずです。

The Vale: Shadow of the Crownの概要

The Vale: Shadow of the Crownは、オーストラリアのゲームスタジオFalling Squirrelが制作した、音だけで楽しむアクションRPGゲームで、日本では2021年8月20日に公式リリースされました。

プレイヤーは、ある王国の盲目の姫となって、案内役の羊飼いと一緒に、王国を守るために冒険をします。多くのNPCに話を聞いたり、狩りやバトルをしたりしながらストーリーは進んでいきます。なけなしの英語力で聞いているだけでも、なかなか面白いストーリーで、感動あり、スリルありのゲームとなっています。

以下のリンクから詳細を確認したり購入したりすることができます。

https://store.steampowered.com/app/989790/The_Vale_Shadow_of_the_Crown/

チャレンジその1~アクションRPG初心者としての体験

冒頭にも示したとおり、私はアクションゲームはおろか、目が見えなくても楽しめるオーディオゲームすらプレーしたことがほとんどありませんでした。しかし、「盲目の主人公になって旅をするゲームが発売される。」ということをインターネットで知り、ゲームのコンセプトに興味を持って、プレーすることにしたのです。

こうして、ただ楽しみな気持ちだけ抱えてプレーを始めたわけですが、最初から苦労の連続でした。ここでは大きく、二つ苦労したことをご紹介します。

苦労1:ゲーム中の探索

The Valeでは、立体音響などのシステムがフルに使われており、キー操作をすることで、体の向きを変えたり進んだりすると、音の向きや距離感が変わって、自分の進む方向が分かるようになっています。

その原理はすぐ理解できたのですが、対象となる音にうまくピントを合わせて体を進ませることや、なるべく早く行くべき方向を定めたりできるようになるのには、かなりの時間がかかりました。特に、町中の探索をする場合、声や音がそこら中からするので、どこから攻略すべきか分からなくなることがしばしばあって、武器を買わないかと何度も客引きされることもよくありました。現実でこうなってしまったら、すぐに変な物を売りつけられてしまう典型的な例です。

一番やっかいなのは、時間制限のある探索エリアの場合です。具体的な言及は避けますが、蜂の巣で、羊飼いの案内人と蜂蜜を取るミッションがゲーム内にあり、そこでは蜂の羽音のほうに急いで向かわなければ、時間制限に間に合わず、やり直しとなってしまいます。この蜂の羽音の方向を定めるときに、焦りからなのか、うまく聞こえなかったからなのか、私は何度も失敗してしまい、10回以上やり直して、30分以上かけてクリアすることになりました。お姫様にも羊飼いにも、10回以上蜂の巣を探索してもらうことになり、プレイヤーとしても大変つらくなりました。

苦労2:戦闘

最初のうちは、相手をただ攻撃していれば簡単に倒せる場合が多かったので、その戦法でしばらくプレーしていたら、ある戦闘シーンで、全然歯が立たない敵と遭遇してしまいました。攻撃して相手を仕留めても、なぜかこちら側が倒されてしまいます。

理由は簡単で、効果的に防御ができていなかったのです。いつどのように防御をして、どんなときに攻撃をするのか考えない限り敵を倒せないというアクションゲームの基本を会得しないまま戦った結果、3時間やってもクリアできず、数え切れないほど戦うことになりました。

もう諦めようかとも思ったのですが、少し防御のタイミングを変えて、日を改めて再挑戦してみました。すると、しばらくやっていくうちに、だんだん防御と攻撃のタイミングがつかめてきて、なんとか戦闘シーンも素早くクリアできるようになりました。

以上の二つの経験から、ゲームには戦略があって、たくさん学ぶべきことがあると分かり、ますますやりこみたいと思うようになりました。

チャレンジその2~英語を聞きながらプレーする

もう一つ、このゲームをプレーする上で立ちはだかった困難は、このゲームの音声が全て英語であることです。

操作方法もストーリーもすべて英語の音声のみ

The Valeは、キャラクターの台詞のみならず、ゲームの操作方法さえも音声で読み上げてくれるので、画面が分からなくても安心してプレーできる……はずなのです。しかしこのゲームは、海外で作成されており、日本語版はまだリリースされていません(2022年3月時点)。そのため、ゲームの操作方法もストーリーも、全て英語で理解することが求められます。

幸い、私は大学で英語を専門に学んでいたので、多少英語に対して免疫はあるものの、外国人と英会話をしたり、リスニングの試験を受けたりすることとは全く違う英語力が求められるわけです。つまり、英語でゲームのことを理解しつつ、プレーする必要があるのです。

例えば、このゲームにはどんな背景を持ったキャラクターが出てくるのか。彼らと一緒に何をしなければならないのか。どういう伏線が張られているのか。そのような、ゲームに付随するストーリーを考えることもRPGをプレーする一つの楽しみかも知れません。

しかし、ただでさえ初めてのオーディオゲームで不安ななか、今度は大量に英語での情報が提示され、ストーリーを楽しむ余裕がないまま、話は進んでいきます。そして気づけば次なる行動をするように求められるので、情報の処理だけでも一苦労です。1時間もプレーしていると、いい加減脳内処理が追いつかなくなって、気づいたら意識が飛んでいたこともありました。

もっとやっかいなのは、ルールを誤って理解してしまうことです。戦闘シーンのクリアに時間がかかったのは、もちろんアクションゲームに慣れていなかったからでもあるのですが、防御をするときはどう操作するとよいのか、多様な攻撃を組み合わせるときはどう操作すればいいのかを正確に理解しないままプレーしてしまいました。「全部理解できなくてもいいや。」と思っていると、どんどん難しくなって苦労するのは、勉強でもゲームでも同じなのですね。

まとめ~困難を乗り越えて

ここまで、オーディオゲーム初心者として、そして外国語である英語を聞きながら遊ぶプレイヤーとしての二つの困難を、具体例を交えてご紹介してきました。そんな私ですが、町と言葉と宿敵の壁にぶつかりながら、なんとか最も簡単なステージをクリアすることができました。

ここまで読まれた方は、このゲームは英語が苦手だったり、ゲーム自体が苦手だったりするとプレーできないのではないかと思われるかも知れませんが、一通りプレーしてみると、全く心配はないことが分かりました。最後に、初心者ならではの楽しみ方を三つお伝えします。

ゲーム本編を始める前にチュートリアルをうまく活用する
チュートリアルのメニューでは、攻撃のしかたや防御のしかたについて、実戦形式で学ぶことができるので、チュートリアルでうまく操作できれば、操作方法や言語的な不安は軽減されます。

とにかく自分の感覚に身を任せて遊ぶ
ストーリーやルールを理解してゲームをプレーするのも楽しいですが、それが分からなくても、音や声を頼りに進んでいくだけで楽しめるのがこのゲームのよいところです。実際に、このタイプのオーディオゲームを全くプレーしたことがなくて、英語がほとんど分からない全盲の友人に遊んでもらうと、自分の感覚を信じて、どんどんゲームを進めていました。

諦めずに自分なりの方法で安心して遊ぶ
一番簡単なステージだけかも知れませんが、このゲームでは、相手に負けたり時間切れになったりしても、何度もそのシーンを繰り返しプレーできます。操作方法を間違えたり、慣れていなかったりしても全く問題ありません。緊張せずに、楽しんで遊ぶのが一番の近道です。

日本語版もやってみたい

私はまだ簡単なステージしかクリアできていないので、これから日本語版の完成を待ちながら、少しずつ難しいステージに挑戦したり、まだ行っていないクエストに挑戦したりして、The Valeの新たな楽しみ方を探求していきます。そんなふうに書いていたら、また遊びたくなってきたので、そろそろ筆を止めたいと思います。

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真しろ(ましろ)

生まれつきの全盲です。「言葉で世界をつなぐ旅人」。 大阪で生まれましたが、この春で関東に住んで18年になります。 現在は大学院で英語教育の研究をする傍ら、ライターの見習い業をしたり、ワークショップのファシリテーターをしたり、たまにゲームで遊んだりと、自分のやってみたいことに一つ一つ挑戦しながら生活しています。 格闘ゲームをプレーし始めたのは最近ですが、効果音や演出のかっこよさに見せられてプレーしてみようと思いました。

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