イベントレポート

全盲の声優・北村直也が車椅子eサッカーチームの応援団(サポーター)に挑戦

皆さんこんにちは。視覚障害を持つ声優・ナレーターの事務所「ePARA Voice」の北村直也です。
今まではeスポーツプレイヤー・NAOYAとしての記事を書いており、こちらに声優として寄稿するのは初めてかもしれません。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、2023年2月7日に、Jリーガーの小林悠選手とePARAユナイテッドのコラボ企画「11人制eサッカースタジアム -車椅子イレブンがプロサッカー選手と創る『新しい景色』-」が大盛況の中行われました。ご来場いただいた皆さま、ありがとうございます。
その中で私は「ePARA Voice」として、入場時の選手紹介と、試合中の応援を行いました。今回は、人生で初めて「サッカーの応援団」に挑戦したことを振り返っていきたいと思います。

川崎フロンターレ小林悠選手とePARAユナイテッドメンバー ©黒田菜月

全盲はサッカーを理解するのが難しい

私は野球が大好きです。しかし、サッカーは全く分かりません。昨年行われたワールドカップのニュースも結果だけを聞いて、「へえ、勝ったんだ」と思う程度でした。たまたま早起きしてラジオで日本 VS スペインを聞いていたのですが、Twitterが盛り上がっているから聞いてみようかなと思う程度でした。

全盲とサッカーとの間のバリア

なぜサッカーに興味がないかというと、サッカーの場合はほとんど休むことなくプレイが続いているために状況の把握が難しいこと、また、フィールドのこともよく分かっていないので、いつがチャンスで、逆にいつがピンチなのかを音で判断できる材料が少ないということがあったように思います。野球であれば、ランナーが3塁に行けばホームベースが近くて得点する確率が高いと分かりますし、ツーストライクになれば打者が打ち取られそうだと瞬時に分かります。このように「状況が言葉で分かる状態」がサッカーには少ないという印象がありました。

また、私の全盲の友人たちは圧倒的に野球好きが多いです。一緒にラジオを聞いたり、その日の試合結果についてSNSで語り合ったりすることもよくありました。もちろん、全盲の人全員がサッカーよりも野球が好きということはないでしょうが、全盲の仲間からサッカーの魅力を聞いたことがないというのも、私がサッカーに興味を持たなかった要因かと思います。

そんな状態でePARAユナイテッドのサポーターとしての活動を全うできるのか、自分が会場の雰囲気を壊してしまうのではないか、そんなことになれば多くの人に迷惑をかけるのではないかと、過去のePARAイベント史上最大の不安を抱えながら当日に臨みました。

本番直前に光が差した2つのできごと

当日はePARA Voiceのメンバーで集合し、昼食兼作戦会議をしてから現場に入り、リハーサルをして本番、という流れでした。リハーサルから本番前にかけて、不安が少し和らぐ2つのできごとがありました。それは、「リハーサルでの予想以上の手ごたえ」と、「川崎フロンターレのコアサポーター・パインさんとの出会い」です。

ePARA Voiceのメンバー3人
応援団として会場を盛り上げたePARA Voiceのメンバー。中央が北村直也

リハーサルでの予想以上の手ごたえ

そもそも、試合中にどんなミッションがあったかというと、

1.ePARAユナイテッドのメンバーがゴールを決めたら、指定のチャントを歌って会場を一体化させる
2.逆にゴールを決められたら、会場を盛り上げつつ選手を鼓舞する
3.チャンスが訪れたときに会場を盛り上げる
4.それ以外にも、必要があれば適宜声を出す

というものでした。リハーサルの際は、1番と2番について実況の馬人(うまんちゅ)さんとの連携を確認しました。

この4つの中でやることが明確に決まっていたのは、1番のチャントのみです。それ以外は、会場を盛り上げる言葉や声のトーンを私の引き出しから引っ張り出し、対応しなければなりません。私は、失点時は選手を鼓舞しつつ、会場の皆さんには大きな拍手で応援してもらうというスタイルをとりました。その練習をリハーサルで行ったのですが、その場にいた方々が本番さながらに拍手をしてくださり、このやり方で大丈夫なんだと手ごたえを感じることができました
また、小林悠選手の入場時とゴール時にチャントを歌う際、歌うのが恥ずかしい人がいることも想定して、「歌うのが難しければ手拍子で盛り上げてください」と呼びかけることにしました。こちらもリハーサルから盛り上がりましたし、結果的に成功の大きな要因だったのではないかと感じています。

川崎フロンターレのコアサポーター・パインさんとの出会い

応援団活動をするに当たり、川崎フロンターレおコアサポーターであるパインさんが私に力を貸してくれました。パインさんは、いわば川崎フロンターレを応援するスペシャリストです。そんな方が来訪されると聞いて、最初は応援は私ではなくパインさん主導でお任せしたほうがいいのではないか、私が邪魔にならないかという不安がありました。しかし、事前の打ち合わせで「君のタイミングに私もあわせて盛り上げるよ」というお言葉をいただき、ある意味の覚悟ができたのかもしれません。そこで、私から一つのお願いをしました。それは、「私はサッカーに詳しくないので、どんなときがチャンスか分かりません。ePARAユナイテッドがチャンスのときは教えてください」というものでした。結果的に、これがきっかけで試合中はまるでラジオの実況中継のような細かい解説を聞くことができ、チャントを歌うタイミングの迷いが大きく軽減されたように思います。

当日かけつけてくださった川崎フロンターレのサポーター・パインさん、小泉さん

いざ本番、「私の疲労は最大の勲章」

チャレンジマッチは3試合行われ、1試合目は完封負けだったものの、2試合目と3試合目はePARAユナイテッドが大勝しました。ゴールを決めればチャントを歌います。さらに、実況解説の声を聴いて、キーパーのスーパーセーブのときや、コーナーキック時にもそれぞれ名前をコールしました。

3試合を終えた後にどっと疲労が襲ってきました。それだけ会場を盛り上げられる要素があったということ。これは勲章だなと感じています

とはいっても、「ここは実況に割り込んだら申し訳ないかな」と思って応援を遠慮してしまったこともたくさんありました。次に同じようなイベントをやる際は、もっと応援団として前に出られるようにしていきたいです。リアルスポーツでは実況と解説と応援団が絡むことが多分ないので、実況席と応援団の連携自体が新しい取り組みかもしれませんよね。その片方を視覚障害者がやっているということが、まだまだこのプロジェクトが面白くなる一つのポイントなのかなあと、当事者として考えております。

「全盲がサッカー観戦を楽しむには?」に対する一つの答え

応援とは少し違った話になりますが、今回のことを通して全盲の人がサッカー観戦を楽しむにはどうするべきかという問いに対して、3つの要素が重なり合って実現できるのではないかという答えが出ました。それは、「公式の実況・解説(今回なら馬人さんと、ePARAユナイテッド監督のGENKIモリタさん)」、「隣で情報をカバーしてくれる人(今回はパインさん)」、「観客の歓声」です。

声が戦況を伝えてくれる

公式の実況・解説があるからこそ、特に選手名やイベント全体の状況を把握することができます。特に、今回はチームに深くかかわっているGENKIさんが実況席にいらっしゃり、試合に出場しているメンバーのことを事細かく伝えてくれました。その結果、試合中でも個々のストーリーが見えて、応援団として試合を楽しむことができました

上述した通り、パインさんには試合の細かい状況を教えていただきました。チャンスの状況だけではなく、今は誰がボールを持っているのか、シュートをしても得点が入らなかった理由は何なのか、誰がシュートを決めそうかなどなど、厳選された詳細な情報で私をサポートしてくださいました

そして、試合中の歓声も大きな要素です。プロスポーツでも少しずつ声出し応援が解禁されている昨今ですが、やはり周りが盛り上がるから自分も盛り上がる、一緒に盛り上がっていて楽しいというのは、その場で同じ試合を見ているからこそ起きることだと思います。私は年に何日かはプロ野球の試合を球場に見に行きます。球場に行っても結局はラジオの実況から情報を得ますし、間近でプレイを見られる臨場感が味わえるわけでもありません。それでも、やっぱり同じチームのファンの人たちとその楽しい空間を共有するために自分は球場に行くんだと、今回のイベントを通して感じることができました。

メンバーの情報があって、試合の状況が分かって、その場を共有する空間がある。その一つでも欠けることなくそろっていれば、サッカーだけでなく、いろいろなスポーツ観戦を楽しむことができるのかもしれません

パインさんの音声解説を受けながら会場を盛り上げる北村直也 ©黒田菜月

気づけば「MC」という点でたくさんの先人を参考にしていた

最後に、サッカーの話ではなく、MCの技術的な話をしたいと思います。今回、「応援団」という表現をしましたが、いわゆる「スタジアムMC」に近いことをしていたと思います。その中で、私は多くの先人たちを参考に当日に臨んでいたことに後から気づきました

まずは、東京ドームのスタジアムMCである高橋大輔さんです。そもそも、「スタジアムMC」という言葉を自分で勝手に使っているのは、高橋大輔さんとやっていることが近いと思っているからです。そんな高橋大輔さんは、イニングの間でホームチームであるジャイアンツの応援を呼びかけるのですが、状況に応じて、このまま勝ち切るための応援なのか、逆転を願う応援なのかなどを巧みに操っています。それらはとても参考になりました。

次は、心眼CUPでもご協力いただいたお笑い芸人のNOモーションです。団体戦の際には一緒に実況席に座らせていただきました。NOモーションの実況は、試合の勝者が決まったときなどの盛り上げポイントでは語尾を伸ばす特徴があります。そうすることによってテンションをつなぐのですが、いつの間にか自分もその手法を取り入れていました。何度も心眼CUPを見ていたからでしょうか。
(心眼CUP団体戦とNOモーションのお二人の実況については、「心眼CUP powered by SYCOM 団体戦」の動画をご覧ください)

最後は、プロ野球OBでユーチューバーの里崎智也さんです。里崎さんが運営している「里崎チャンネル」では、プロ野球のシーズン中に試合をまとめて振り返る「総チェック」という企画があり、週のベストナインを里崎さんが独自に決めているのですが、その発表の仕方をコピーさせていただきました。それは、「ポジション 名前 一言」で、「ピッチャー 佐々木朗希 ミスターパーフェクト」のような言い方です。それを真似して、私はチャントを歌った後に何かしら一言、「まだまだ頑張れ」「もう少し」などと付け加えてみました。「ナイススライディング」と言って会場を笑わせたりもしました。後で会場の方に聞いたところ、「次はどんな一言を言うのかなと考えることができて、面白かった」とのことでした。やっているそのときには里崎さんの真似をしようとは考えていなかったのですが、「あれ、このやり方ってなんかなじみがあるなあ」と、翌日に振り返っていてぴんときました。

耳に入れる機会が多いと、自然と似てくるものなのでしょうか。

まとめ:ePARA Voiceは続くよどこまでも

ここまで2月7日のことを振り返ってまいりました。応援団やサポーターは、ファンと選手の橋渡しをする存在であるべきだと私は考えています。今までは目立ちたがり屋で選手として前に出ていた私がどの程度の橋渡しができるかは分かりませんが、この機会を大切に、ePARAユナイテッドの公式サポーターとして歩んでいきます。

そして、視覚障害を持つ声優・ナレーターの「ePARA Voice」は始まったばかりです。こちらの挑戦もぜひ応援してください

それでは、本日はこの辺で失礼いたします。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ePARA Voiceのメンバーが並んでマイクの前に立ち応援している
会場の音声情報で状況をつかむePARA Voiceの二人
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北村 直也(きたむら なおや)

声優、エンジニア、大の野球好き。
不可能を可能にする男というキャッチコピーのもと、誰もなしえなかった「視覚障害を持つ声優」に挑戦中。その状況を日々SNSで発信しているのだが、フォロワーから「野球の人」という印象が持たれるほど、野球ツイートも熱い!さあ、野球アニメに出よう。
Twitter:@noy_0207

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