ついに開幕した東京オリンピック2020。
開会式では選手入場に日本のゲームミュージックのメドレーがBGMとして使われ、ネット上やゲーム界隈で大きな話題となりました。
ゲームミュージックが流れることにより沸いた人たちは全ての国民ではなかった一方で、多くの人がゲームをプレイする昨今、多くの日本人の心を沸き立てる魅力ある演出であったと言えると思います。
そんな中、今回は双極性障害を持つ彼岸花が、東京オリンピック2020の開会式BGMに採用された一曲、NieRシリーズの「イニシエノウタ」に焦点を当てて執筆します。
参考記事:双極性障害の彼岸花が体験したMMO×出会い×子育て
NieRシリーズとは? ~ドラクエ、FFに続く人気RPG~
開会式の選手入場では、スクウェア・エニックス社のドラゴンクエストやファイナルファンタジー、カプコン社のモンスターハンターの楽曲など、たくさんのゲームの名曲が使われました。
その中で、唯一のボーカル入りで流れた楽曲「イニシエノウタ」。
NieR Replicant(ニーアレプリカント)とNieR Gestalt(ニーアゲシュタルト)という2010年発売のゲームの楽曲です。2人の女性の声が奏でる美しい楽曲で、物語の中でも鍵を握る双子の女性のキャラクターが歌っていました。NieRシリーズファンの私には、オリンピックの開会式でも、美しいボーカル曲として一際輝いて聞こえました。
続編となるNieR :Automata(ニーアオートマタ)も全世界で600万もの出荷数を記録し、ドラクエ、FFに次ぐスクウェア・エニックス社の看板タイトルになっています。
また、ニーアレプリカントは2021年にバージョンアップ版が発売され、バージョンアップに過ぎないのにもかかわらず100万本の出荷数を記録。ニーアオートマタからニーアシリーズのファンになった人たちの心を掴みました。
2021年2月には「NieR Re[in]carnation」(ニーア リィンカネーション)として、スマホアプリ版の続編も配信されています。
「NieRシリーズ」は人類が滅亡するゲーム
人気タイトルとなったニーアシリーズですが、決してその世界は明るく希望に溢れたものではありません。ですがその美しい世界のや、隠された真実、残酷ながらも一抹の希望を捨てずにはいられない物語に多くのファンを虜にしてきました。
ニーアレプリカントでは「一人のために全てを滅ぼす」というキャッチコピーが示すように、その世界は滅びる運命を辿ります。
異世界より謎の巨人と共に飛来したドラゴン。それは戦いの後、自衛隊機により撃墜され東京タワーに深々と刺さりました。そのドラゴンの死骸から放たれた魔素によって、死に至る病が全世界に流行し、人類滅亡の危機に瀕します。これがニーアレプリカントの下地となる設定です。
このドラゴンはニーアシリーズの前身となるゲーム「ドラッグオンドラグーン」に登場する主人公と共に戦うドラゴンでもあり、ダークで衝撃的な設定に心戸惑うほどでした。
そのゲームの中では死に至る病を患う妹を救うために旅に出る主人公と、差別をされながらもマモノの力を得て戦う女戦士のカイネ、主人公を慕い仲間を助けるために異形の姿になった少年のエミールたちで戦いを繰り広げます。
このキャラクターたちも、一癖二癖ありながらも愛らしい内面を持っていて、物語をさらに引き立て時には笑いさえもたらす絶妙のバランスです。
「イニシエノウタ」の本当の意味
さて、そんな不穏な空気を纏ったニーアシリーズ。
よりによってコロナ禍の今にふさわしくないのではないか?と思われるかもしれませんが、実は違うのです。
作中では「黒の書によってもたらされた病により滅びかけた世界を、白の書によって救うという古の伝承を伝える」という意味を持った歌。それが「イニシエノウタ」なのです。
ニーアレプリカントの世界では、人類は滅亡に向かいます。しかし主人公たちは絶望に覆われ続けるのではなく、妹を救うなどを通じて確かな希望へと向かう複雑な物語です。その中で「イニシエノウタ」は、古の伝承により世界に救いと希望を与える歌として重要な役割を担っています。
開会式の選曲は、病で困窮した世界を救う「イニシエノウタ」になぞらえ、「オリンピックがコロナ禍の世界を良い方向へ牽引する力となってほしい」という願いが込められてるのだと、私は感じています。
NieRで「イニシエノウタ」が伝える、差別と心のバリアフリー
また、「イニシエノウタ」が流れるニーアレプリカントでは、差別の問題も取り上げられています。本作のメインヒロインとも言えるカイネ。その体はマモノに取り憑かれてしまい、その部分を包帯を巻きながら下着姿。マモノからのこれ以上の身体への浸食を防ぐために、肌を光にさらしています。
更にカイネは、両性具有という身体の特徴から、過去に酷く差別されてきました。迫害を受け、生まれ育った村から出ていくことも余儀なくされました。
カイネは普通と少し違うだけで、普通に生きていくことができなかったのです。
ですが、優しくも強い主人公は、カイネを仲間として大切に接し、仲間のエミールと共に絆を深めていきます。エミールはカイネを救うために、異形になってしまったほどです。ですが、異形となったエミールの怪物のような見た目も主人公とカイネは受け入れます。
「エミールはエミールだ、私は間違えぬ」と。
たとえ体に障害や他の人と違う面があっても、普通じゃなくても分かり合える、つながり合える、大事にしあえる。普通じゃなくても仲間たちがいれば大丈夫。孤独でも負けない強い気持ちでいれば打ち勝つことができる。
ニーアレプリカントは、障害や特性のある相手に対しても優しいメッセージを含んだ、強くて優しいキャラクターたちの物語だったのです。
東京オリンピック2020と「イニシエノウタ」
NieRシリーズは、世界が滅ぶといったセンセーショナルな内容のゲームではあります。
しかし同時にNieRシリーズは、病から世界を救う鍵となる「イニシエノウタ」の存在と、障害や見た目からくる差別をなくして仲間と共に歩む世界観で、復讐心や憎しみも抱えながらも(攫われた)妹を救う希望を胸に一歩一歩前進していく物語です。
コロナ禍で世界中が苦しむ中で開催される東京オリンピック2020。
基本コンセプトのひとつに「多様性と調和」を掲げるを東京オリンピック2020。
NieRシリーズの「イニシエノウタ」は、開会式に最も相応しい曲のひとつだったのであると思います。
東京オリンピック2020は平和とスポーツの祭典として、コロナ禍の中で一筋縄にはいかないながらも、各種競技の一流アスリートが人々に勇気と希望を与えてくれることでしょう。その後にはパラリンピックも控えています。
差別、いじめ、病気。
さまざまな問題が噴出したからこそ、皆で心を一つにしてそれらを踏み台にし、多様性と調和・未来への継承ができる世界への足掛かりとなればと祈るばかりです。