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座談会

ブラインドeスポーツ座談会番外編「聴覚障害者とゲームの関係」

ePARA(イーパラ)の特別企画として3回にわたってお届けしましたブラインドeスポーツ座談会。この会には聴覚障害とADHDを持つくらげ氏にも参加いただいていました。くらげ氏は、書籍「ボクの彼女は発達障害」や「くらげ×寺島ヒロ 発達障害あるある対談」、Twitter(@kurage313book)などによる情報発信で人気を集めているライターです。今回のブラインドeスポーツ座談会は、聴覚障害のくらげ氏の眼にはどう映ったのでしょうか。ブラインドeスポーツ座談会の番外編として考えたことを率直に執筆いただきました。

バリアフリー!!eスポーツ座談会番外編のイラスト

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聴覚障害者とゲームの関係?

この原稿を書くに至って、かなり悩んでいる。「聴覚障害者とゲームの関係」というテーマで執筆を依頼されたのだけど、私はあまりゲームに詳しい人間ではない。というか、正直なところ全般的に「聴覚障害があることでゲームに支障が出ること」というものがあまり思い浮かばない。そのため、どこを切り口にしたらいいのか悩んでいるのだ。

そういう中、先日、ブラインドeスポーツ座談会で、視覚障害のある方がどのようにゲームをしているのかをうかがった。視覚障害のある方々からは「BGM」「効果音」の話題が何度も上がっていたのだけど、私は音楽のBGMや効果音はあまり聞こえない。BGMなどがゲームの大切な要素だ、ということはあまり意識していなかった。そして、それで「困った」と意識したこともない。BGMや効果音は「おまけのようなもの」という感じだ。つまり、本来は聞こえないがゆえに「困っていたこと」でも、困りごとにそれほど気づいていないケース、というのも多いようなのだ。逆に、目の見えない方がどうゲームをプレイするか、ということはほとんど想像もできないのだけど、座談会では当たり前のように「視覚障害でもゲームをする」というのが前提で話が進んでいた。これはもう「異文化交流」に近いものがある。そして、異文化交流は「自分のことの特異性」というのはほとんど意識できないものだ。

そこで、もう素直に自分のゲームに関するあれこれを列挙し、そのどこに「おかしなところがあるか」はもう読者の判断に委ねたいと思う。このコラムがもし障害理解の一助になれば幸いである、

聴覚障害者くらげのゲーム遍歴

私のゲーム歴を振り返ると、まず思い出すのは、小学生の時にゲームボーイを買ってもらって、ずっと「スーパーマリオランド」を続けていたことだ。このころは耳がそこそこ聞こえていた頃なので、まだBGMなども聞こえていた覚えはある。小学5年生のクリスマスプレゼントには「赤い悪魔」のこと「バーチャルボーイ」を買ってもらったことがある。なぜ親父がなぜこのチョイスに至ったのかはよくわからない。このバーチャルボーイは当時最先端の3D技術を用いて、奥行きを表現できるゲーム機だったのだけど、画面は真っ赤でずっとやっているとすぐに酔う、という代物ですぐに廃れたある意味伝説のゲーム機である。

くらげ氏の記憶に残る「赤い悪魔」ことバーチャルボーイ

ゲームをしなくなった時期

その後はスーパーファミコンやプレイステーション、セガサターンを買ってもらったり、知り合いから貰ったりしていたのだけど、それほどはまったゲームはなくて、具体的に何をしていたかあまり思い出せない。唯一、桃鉄を一人プレイでずっと遊んでいたことは覚えている。中学2年生のときに地元の聾学校転校して寮に入ったので、テレビゲームをする機会はそれほどなかった。

高校は千葉県市川市にあるろう学校に進学したのだが、ここも寮生活だったのでテレビゲーム機などを遊ぶ機会はなかった。ただ、PCを親から買ってもらっていたので、PCゲームはよくやっていた。ただ、いわゆるパッケージ販売のような立派なものでなくて、今から見れば本当に安っぽいフリーゲームが多かった。

聴覚障害者向けの短期大学時代もやはり寮生活だったので、この間もテレビゲームはほとんどしていない。せいぜい「エースコンバット5」と「メタルギアソリッド3」でどっちもかなり苦労しながら、攻略サイトを見ながらクリアした覚えがある。

ゲームに熱中した時期

一方で、PCゲームは短大時代から妻と同居する前まではいろいろやった。主にプレイしたのはオタク向けゲーム(具体的な内容は察して欲しい)と戦略シミュレーションゲームで、特に後者はどれだけ時間を溶かしたかすら定かではない。金曜夜から月曜の夜明けまで1時間くらいの仮眠を数回挟みつつ、眠気覚ましのコーヒーとタバコ(当時はヘビースモーカーだった)を大量に消費しながら遊んでいたこともある。若い頃の体力の浪費であった。

この時期はMMO(多人数同時参加型オンラインゲーム)も盛り上がっていた時期だったけど、いかんせん人間と接する能力が低い私はコミュニケーションがめんどくさかったり、そもそもRPGの経験がほとんどなかったので経験していない。また、オンラインFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)もいくらか試してみたけど、こちらはあまりにも操作が難しいのと、後述する理由ですぐにやめている。

ゲームが制限された時期

そして、妻と同棲するようになってからは仕事と生活が忙しすぎて、ゲームをする暇がほとんどなかった。というか、上記のゲームにハマりすぎて色々と生活が破綻しかけたこともあり、半強制的に妻にゲーム禁止令が出てしまった。それ以来、ソシャゲを含めて、ゲームとはかなり縁遠い生活をしている。

好んでいたのは「ソロプレイ」

さて、自分のゲーム歴をざっと振り返ると、私が好んだゲームは「ソロプレイ」に特化して、オンラインゲーム機能があるものでもずっと一人で遊べるモードばかりやっていた。他人に時間を合わせるのがめんどくさかったり、コミュニケーションが面倒くさい、という理由が先にくる。

これは聞こえないのもあるが、学生時代の周りの聴覚障害者は、毎週のようにラウンドワンに行ってはボーリングやアーケードゲームでワイワイやるやつも少なくなかった。(寮では常に誰かが麻雀大会をしていたし、学校をサボってパチンコで生活費を稼いでいるやつもいた)私も何度かラウンドワンに連れて行かれたけど、そういう場にどうしても馴染めなかったので、これはもう性格によるものが強い気がする。

聴覚障害で支障が出るのはFPS

FPSは音の情報が勝敗を分ける

ゲームと聴覚障害というテーマに戻ると、一番印象が強いのはFPSだ。何度かトライしてみたことがあるのだけど、こちらは音が結構重要な鍵になっていて、足音や銃撃音が聞こえないと、限られた視界では何が起きているかほとんどわからない。

特に、初期のオンラインFPSが流行りだした頃は私はまだ人工内耳を入れておらず、音が聞こえると言っても、本当に「リズムがある程度取れる」程度でなので「なにかが鳴っている」というのはわかってもそれがなんなのかすぐには理解できなかった。その結果、すぐに倒されて終わり、ということが多かった。それで頼む余地もなかった感じである。

現在はPUBG MobileやCall of Duty mobileをプレイしており、大会にも出場している。(参考記事:聴覚障害者くらげのPUBG戦記(3)~企業交流戦編~)しかし、人工内耳に特殊な機械で聞くことができればある程度は音の区別はつくのだけど、「音がどれほど重要なのか」を直感的に理解できるほどではない。聴覚障害者は現実世界でも物音が起きても方向性がわからなくて危険になることがあるのだけど、それと同じことがゲームでも起きているのだ。

くらげ氏の愛用する人工内耳

ボイスチャットの存在は不利になる

聴覚障害といえばコミュニケーションの問題が大きいが、最近のオンラインゲームはボイスチャットによるプレイヤー同士の連携が前提になっているもの多いようだ。しかし、当然これは聴覚障害障害者にとって大きく不利になる。ある知人は「昔のオンラインゲームはテキストチャットがメインだったが、最近のオンラインゲームはボイチャが多くてオンラインゲームを引退した」と言っていた。技術の進歩が必ずしも良いわけでもない一例だ。

ゲーム実況も楽しみたい人はいる

また、ここ数年、ゲームの新しい楽しみ方として「ゲーム実況」というジャンルが盛り上がっている。これはゲームをプレイしている人の解説や語り口でゲームをより楽しむものなのだけど、当然、字幕などがない限り聴覚障害者がゲーム実況を十分に楽しむのは難しいだろう。(私は最初から諦めているのでほとんど見たことがないので断言はできないのだけど)

音声認識に期待

ただ、このあたりの音や声の問題は、急速に発展している「音声認識」の技術である程度は解決できるのでないか、と感じている。ゲームで音が鳴った方向や種類をAIが教えてくれるとか、ゲーム実況に自動的に字幕がついたりする、ということはそれほど難しくないと思う。実際、私は自前の音声認識アプリでPUBG Mobileの大会に参加してみた。これについては別な記事を参照してほしい。

聴覚障害者は「聞こえない」が当たり前

ざっと書いてみたけど、いかがだったであろうか。正直、「聞こえないと困るのはこの程度かな」と思うだけど、音というのは聞こえる人にとって「自然にあるもの」だから、聞こえないということがどういう問題なのかわかりくい。それに、私自身も「聞こえない」ということが当たり前すぎて、聞こえないことで何が不便なのか今ひとつ理解しきっていないところがある。

おそらく、意識にも上がっていこない「聴覚障害者とゲームの不幸な関係性」はあるはずで、それをすくいあげたら「商機の原石」が入っている気がしないでもない。その原石を、これからもちょっとずつ探っていければ、と考えている。

スマートフォンでゲームしながらもなぜかカメラ目線のくらげ氏
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くらげ

山形県出身、東京都在住のサラリーマン兼物書き。
聴覚障害・発達障害(ADHD)・躁鬱病があり、同じく発達障害・精神障害・てんかんがある妻(あお)と自立して二人暮らし。
著書「ボクの彼女は発達障害―障害者カップルのドタバタ日記 (ヒューマンケアブックス)」「ボクの彼女は発達障害2 一緒に暮らして毎日ドタバタしてます! (ヒューマンケアブックス)」があるほか、様々なコラムや記事を執筆している。 現在、障害者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」(https://sunnybank.jp/)のアドバイザーを務めている。 公式note(https://note.com/kura_tera)

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