PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社の総称として、多様な業界のビジネスを支援しています。そのグループにおいて、法人企業に対し戦略の策定から実行まで総合的なコンサルティングサービスを提供するファームがPwCコンサルティング合同会社です。
今回インタビューさせていただいた方は、PwCコンサルティング合同会社で働きながらeスポーツプレイヤーとしても活躍する安部勇気さん。自身が最高顧問をつとめる社内クラブ活動『PwC Funs』のeスポーツ部のメンバーは100人を超えるなど、ダイナミックに活動しています。今回は、安部さんのeスポーツへの関わり方やデータに基づいた分析と戦略を仕事に応用する方法まで様々なことをお聞きしました。
取材させていただいた方
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー PwC Funs eSports部 最高顧問
安部勇気さん
PwCコンサルティングのeスポーツに対する取り組み
森:まず、自己紹介をお願いします。
安部:PwCコンサルティング合同会社エマージングテクロノジーというチームに所属している安部勇気と申します。現在、役職はマネージャーを務めています。他にも社内クラブ活動『PwC Funs』のeスポーツ部の最高顧問を務めています。
森:御社はどのようなeスポーツ活動をされているのでしょうか。
安部:大きく2つ、eスポーツに関わっています。
まずはビジネスとしての観点です。『eスポーツ事業推進室』と呼ばれるもので、eスポーツとビジネスをシナジーとして捉え企画推進します。eスポーツ事業推進室では大きく3つ柱があります。
1つ目は、事業展開支援です。これからeスポーツのビジネスを進めていきたい戦略を含めたアドバイザリーを行います。
2つ目がチーム強化支援です。例えば心拍数などのバイタル情報やノウハウなどの様々なデータを取得しゲームにとってどのような影響を与えているのか、というデータアナリティクスの支援をしています。
3つ目がセカンドキャリア支援です。eスポーツのゲーマーは反応速度が必要であるので、やはり若者が中心になって活躍しています。
年齢を重ねたプレイヤーのセカンドキャリアの構築には我々としても課題意識を有しています。eスポーツ選手のセカンドキャリアはいくつか考えられますが、そのうちの一つとして、セキュリティ分野との親和性があります。PwCコンサルティングではこの仮説をもとにいくつかの実証実験を行い、レポートを出しています。第一線を退いたeスポーツ選手に対してサイバーセキュリティのスキル向上の機会を提供し、セカンドキャリアの構築を検討しています。
eスポーツに関わる観点のもうひとつが、社内交流と組織活性です。『PwC Funs』として社内のeスポーツに関連する交流活動を組織化したところ、多くのメリットが顕在化しました。
PwC Funsのeスポーツ部の成り立ちと、グローバルカンパニーだからこそのメリットとは
森:PwC Funsのeスポーツ部はどのような成り立ちで作られたのでしょうか。
安部:元々私が様々なゲーム大会に個人的に出場していました。あるパズルゲームの世界大会では「インドで数学を研究するプレイヤー」もいるなど強力なライバルも多く存在しました。PwCコンサルティングで業務を行い成果をだす一方で、1日中ゲームを行うライバルに勝つということにも達成感がありました。
会社の中でレクレーションや新卒採用なども担当しているのですが、eスポーツに興味があるという声をたくさん聞いていたので、コロナ禍に入る前(2019年2月)にホテル会場を貸し切ってeスポーツ大会を主催した際に「私もそういう活動に参加したい」という声もたくさん出てきました。そういう経緯もあり、クラブを立ち上げました。
50人ほどからスタートしたメンバーも現在は100人を超え、日本企業のeスポーツクラブの中でも大きな規模となりました。メンバーの中には各ゲームの日本チャンピオンや最高ランク保持者もいます。ただみんなで集まってゲームをやるだけでは楽しくないので、ゲームタイトルごとにリーダー社員を設定し、目標を持って活動していけるようにしています。
ゲームをプレイできる時間は少ないため効率的に練習する必要があります。目標設定として、まずどのような大会に出たいのか、大会に出る事でどうしたらいいのかということをみんなで話し合い、プレイした後に議論を重ねて効率的な練習をする形で進めています。
普段は話す機会のないメンバーとも同じ目標を持つことでコミュニケーションのきっかけが生まれます。海外のメンバーと話すと視野が広がりますし、目標を決めて実現のためのプロセスを構築する中で課題解決力も養われます。組織的にグローバルな接点をもつメリットともいえます。
ゲームの世界では上司や部下もおらずフラットな関係であることも重要な点です。個人の成長機会を楽しみのなかで無理なく創出することができます。
eスポーツを通してコミュニケーションが生まれる
森:社内eスポーツ部を立ち上げて、どういったことにメリットを感じていますか?
安部:弊社は社員数が多いのですが共にゲームをプレイすることにより、初めて業務を共にする際に共通の話題があることでコミュニケーションが生まれるようにもなりました。また、コロナ禍によってまだ出社できていない新卒社員や中途社員も社内のeスポーツ部で社員同士の繋がりを持てるようになった方もいます。
若手社員をリーダーに任命し、社内で役職の高い人とも相対しながら、限られたリソースの中で、大会で結果を出すにはどうすればよいのか。その点を一緒に考えています。そうすることにより、通常の仕事とはまた違った形での能力やマネジメント能力、限られたリソースの中でしっかりとコミットしていくというマインドが身につきます。
コンサルタントに求められるコミット力というのはとても高いレベルを求められます。業務上では顧客に損害を生むような失敗をしてはいけません。一方、ゲームであれば失敗してもいいと考えがちでしょう。どのように目標やプロセスを設定すべきか自分で計画を立て、その計画を修正していくことがゲームを通じて疑似体験できるのはとても面白いのではないかと考えています。
現場の課題感を活かし、エコシステムを形成する
森:安部さん自身もゲーム大会に出場されていたのですね。
安部:昔からゲームは好きだったのですが、私の兄がプロゲーマーであったことも大きく影響していると思います。兄が海外の大会に出場する際に同行し、英語のサポートやマネジメントをしているうちに私も実力がついてきて、様々な大会に出場するようになりました。現在はあるパズル型アクションゲームのオンラインランキングで世界1位を保持しています。
そのゲームは海外のプレイヤーが多く、英語でのコミュニケーションが主になります。世界中の一流eスポーツプレイヤーと英語でコミュニケーションをとることで、様々な視野が広がることを伝えるために、コロナ禍になる前はより多く若手プレイヤーをアメリカに連れていくことを試みました。ビジネス英会話では使うことがない独特な表現もあり、英語や文化に対してより興味を持って自己研鑽してくれている方もいます。
私はテクノロジーコンサルタントですが、過去にはフルスクラッチで何年もコーディングを行ってきた実績があるため、現場の課題を体感することの重要性を理解しています。eスポーツにおいても同様です。自身もプレイヤーになることで、どういうところを改善すべきか、改善するためのサイクルを作ることが大事です。
eスポーツスキルの育成においては、ノウハウを蓄積するための仕組みが講じられていないことが多いです。どこに原因があるのか、その過ちを改善するためのサイクルがうまくできていないケースがまだまだ多いということです。
そのため、参加者が循環的に改善の好スパイラルを生み出す『サイクル』を形成することが重要です。誰がどんな役割で進めていくのかを定義するということは、我々の強みが活かせる分野です。エコシステムを形成し、クライアントがeスポーツに関わりたいとなった際に関わるプレイヤーそれぞれにメリットが創出できるような環境を作っていきます。
eスポーツへのアプローチが結果的に社会問題の解決のヒントに
森:大会というところだけではなく、事業としてeスポーツの先を見ての活動をしていらっしゃるのですね。
安部:PwCコンサルティングでは脳科学の産業応用支援にも取り組んでいます。eスポーツでも、一流のeスポーツプレイヤーの脳画像をMRIを通じて取得、画像解析し、思考の特性と脳の構造変化の関係をみたプロジェクトがありました。結果、戦略を考える部分や状況判断能力など、それぞれの選手に優れている部分が見つかりました。
現状では、脳科学から見たeスポーツ選手の特徴を明らかにする段階ですが、さまざまなバイタルデータや試合結果などデータに基づいたプレー改善やコンデイション向上を行い、どうすれば最大パフォーマンスを出るのか支援しています。そういったアプローチは、一般的なオフィスワーカーや他にも様々なところに応用ができます。
働き方含めパフォーマンスを向上させ、社会課題の解決に繋がっていくと考えています。
森:定量的なデータに基づいた分析・戦略に取り組まれているという部分にとても驚きました。現状ではその分析を進めていくにあたっての課題はあるのでしょうか?
安部:国内の市場規模です。
世界のeスポーツ市場はアジア各国、欧米市場の成長を背景に年率20%超で伸び続け、2022年には約16億米ドルにまで拡大する見込みです。進展する海外諸国に比べると日本の市場規模はまだ小さいものの、他国を上回る成長率での伸長が見込まれていることから、新たに参入するプレイヤーも増加しつつあります。
障害者や高齢者も楽しめる空間作りを目指していく
森:今後の社内eスポーツチームの展望をお聞かせください。
安部: PwC の海外オフィスとも連携して、今後海外にも行き来できるようになった時にそのeスポーツコミュニティで通じて知り合った人と一緒にオフラインで仕事をしたいなという展望があります。
森:障害を持つ方へのeスポーツの取り組みは何か考えていますか?
安部:健常者の方と変わらずにプレイができるというのはよく言われていますが、もちろん垣根がないというのは素晴らしいことだと思います。障害を持たれているからこそ、eスポーツで光る部分もあるのではないかと思っています。例えば、eスポーツを基にした調査で、特定の障害を持つ方が健常者に比べて秀でているエリアがあるというデータがあったら、そこを上手く伸ばしてそれが雇用に繋がったりするのではないかと考えています。
障害を持つ方や高齢者の方でもみんながとっつきやすいUIやUXを構築することです。
いいところを組み合わせて世の中の課題を解決するためにはどうすればいいのかという観点で、地方創生や、社会課題を解決するためにということを意識しています。そのために、他の企業とコラボレーションをして進めていく文化形成など発信を行っていきます。
今、メタバースという言葉の認知が拡がっています。仮想空間で自分のアバターを使い、足が不自由な方でもメタバース空間では自由に走り回ったりテレポーテーションもできたりするので、楽しいなと思ってもらえるような世界を作っていければなと考えています。
森:障害がある方でもフェアに自己実現ができる世界ができるといいですよね。
取材を終えて
自身も現役のeスポーツプレイヤーとして活躍し、仕事でもeスポーツに深く関わっている安部さん。eスポーツや仕事の両面において付加価値創出を最大限発揮できるような仕組み作りはとても興味深いお話でした。また、とにかく楽しそうにお話しされていたことが印象的です。
シンガポールにもクラブチームがあり、コロナが収束し海外にも行き来ができるようになったときに、仕事含め渡航する機会を楽しみにされているようです。
社内研修においても、ゲーミフィケーションを取り入れ「難しいものを柔らかく学習していく」ことを大切にされているそうです。ゲームをプレイすることで適性を観るということも、業務におけるチーム組成において効果的だそうです。
eスポーツをビジネスに取り入れる多様な手段を実践されているPwC Japanグループ、PwCコンサルティングの取り組みに注目してください。
安部さん、ありがとうございました!