株式会社ビーウィズロゴマーク BTOパソコンのサイコムロゴマーク ヨギボーロゴマーク ジョイサウンドロゴマーク

インタビュー

eスポーツを文化として根付かせるために 〜教育的価値向上にむけたサードウェーブ社・尾崎社長の思い〜

株式会社サードウェーブは、製造業としてゲーミングPC GALLERIA(ガレリア)や、クリエイター向けPC raytrek(レイトレック)を 始めとするオーダーメイドPCを中心に、他にもワークステーション・サーバーの開発の他、コンピュータ―ショップ「ドスパラ」の運営を行っています。

また、eスポーツという言葉が一般化する前の黎明期からeスポーツ文化を普及する取り組みを行っています。サードウェーブグループでは教育現場へのeスポーツ普及にも注力し高校eスポーツ部支援プログラムとして、ゲーミングPCの貸し出し、全国高校eスポーツ選手権の特別協賛をしています。

今回はePARA代表・加藤大貴が、サードウェーブグループの代表、尾崎健介氏にお話を伺いました。

お話しくださった方

サードウェーブ代表尾崎さま
株式会社サードウェーブ
代表取締役社⾧ 兼 最高執行責任者
尾崎 健介氏

eスポーツを文化として根付かせるために

加藤:貴社は高校生向けのeスポーツ大会の企画運営や、様々な企画に取り組んでいらっしゃいます。eスポーツを文化として発展させるために、どのような手段を取ってこられたのでしょうか?

尾崎:当社は eスポーツを「エコシステム」と捉えています。これまでeスポーツは単発のイベントに出場して入賞すれば賞金は貰えるものの、多くの選手がそれだけで生活していくことが出来ず職業として成り立ちにくい状況でした。日本でeスポーツが根付かなかった要因はここにあると考えています。また、気軽に親しめる環境が成長過程にないことも、一因ではないかと思います。

一方、野球はプロ野球のように職業として成立しているものから大学、高校、中学、リトルリーグまで大小様々な団体があり、文化として定着しています。これは日本中に、誰もが野球に親しめる環境があるからです。

eスポーツも同じく文化として根付かせるならば、プロチームを支えるスポンサー企業を増やしたり、野球と同じように気軽にeスポーツに親しめる環境を多く作る必要があると思っています。

もちろん野球の場合、誰もがプロになれるわけでありません。選手にならずに、関連する職業に就くこともあります。先ほどエコシステムと申し上げましたが、eスポーツも同様で、プロになれる人ばかりではありません。ゲーム制作者、実況や解説者、運営サポート、様々な関連する仕事があり、eスポーツをきっかけとしてそれらの職業に就く人が多く出てくる。それがエコシステムです。

また、発表の場も大切です。全国高校eスポーツ選手権、これも全国の高校生にeスポーツで活躍できる場を提供したいという想いから端を発し、毎日新聞さんと2018年から開催しました。他にもRascal Jester(ラスカル ジェスター)というプロチームの支援や、別のプロチームも支援しています。

ゲームに対しての課題意識

加藤:尾崎さまご自身のゲームに懸ける想いをお伝えください。

尾崎:ゲーム業界やPCゲーム業界に携わっていく中で、リアルな運動部の生徒と比較し、ゲーム好きな高校生にあまり陽が当たっていないと感じていました。

ゲームが上手いことも他のスポーツと同じように長所のひとつとして捉えられてもいいという意識があり、ひとつの社会課題として捉えるようになりました。娯楽としての「ゲーム」ではなく、競技として「eスポーツ」が確立できれば、今まで私が社会課題として捉えていた事柄の解決がなされるのではないか。そうなれば、全ての高校生が得意な分野で脚光を浴びることができるようになる・・。そういう想いがずっとありました。

教育的な価値創造へ ~ 全国高校eスポーツ選手権開催の背景~

子ども達がやりたいことを学べる環境を用意したい

加藤:非常に感銘を受けました。全国高校eスポーツ選手権でも仲間と高みを目指している過程のなかで多くの方が救われるのだと感じました。中高生に対してeスポーツならではの特徴やメリットとはどのようなものがあるのでしょうか?

尾崎:私の世代と今の中高生とでは、ゲームの定義は根本的に異なるのではないかと思っています。以前は個人対コンピューターという図式でしたが、今の中高生はネット上でコミュニケーションを取りながら仲間と一緒にゲームをプレイすることがほとんど当たり前になっていますよね。eスポーツのメリットとして、楽しいという感情が起点となりコミュニケーション力を磨くことができます。

良い面は他にも多くありますが、そのような特徴を伸ばすためにも、趣味のサークルやコミュニティを残しつつ、かつ、全国規模で継続して行われる大会が必要だと考えました。企業が主催し、教育機関も認めて、永続的に続くような大会に、高校生達が参加できるようにすることが必要だと考えています。結果だけでなく、競技として優勝を目指し恒常的に努力していく「目的を実現するためのプロセス」を大切にしています。

ゲームは教育の良し悪しをめぐって様々な意見が存在します。どのような意見があるにせよ、高校生が、自分達で本当にやりたいと思ったことを実現できる環境を用意してあげたい。そのような想いから、まずは全国高校eスポーツ選手権を行いました。

全国高校eスポーツ大会の様子
第一回全国高校eスポーツ選手権大会の様子  提供:全国高校eスポーツ選手権

加藤:未成年に対する教育的配慮についてはいかがでしょうか。

尾崎:教育的観点での配慮は、全国高校eスポーツ選手権でも常に気をつけています。この大会に参加するチームには、できるかぎり学校の中に部活や同好会を作っていただき、そこに顧問の先生を付けてもらうということを推奨しています。教育現場の中で部活として顧問の先生がいてくださることが大事です。

きちんとマナーやスポーツマンシップを教えてくれるような先生が、教育的観点からeスポーツを自己研鑽の場としてご指導くださる環境づくりを目指しています。公教育に対し、eスポーツを教育に活かす手段の啓蒙を行っています。当社としては高校eスポーツ部支援プログラムという形で、学校から認められた部や同好会にパソコンを一定の期間レンタルしています。部活動に必要なゲーミングPCの導入は、部活動を始めるのに一番のハードルであるため、このような支援プログラムを実施することで、学校の負担を軽減できればと考えました。

アメリカの先進事例を教育現場に生かす~NASEF JAPANの設立・活動~

加藤:特別支援学校の校長から授業の中でeスポーツを取り組みたいという相談を受けました授業のプログラムで取り組むときもサポートを受けることはできるのでしょうか?

尾崎:当社が立ち上げた北米教育eスポーツ連盟 日本本部「NASEF JAPAN(以降ナセフ・ジャパン)」という団体があります。これは、教育的見地からeスポーツを通した取り組みを行っている団体であるNASEF(North America Scholastic Esports Federation)という北米にある団体の日本本部です。

ナセフジャパンでは、アメリカのeスポーツを使った先進事例の紹介や、eスポーツを学習や教育に活用していくための側面支援を行ってま北米ナセフで行っているeスポーツを通した教育的プログラムの他、日本ならではのカリキュラムなどを、ナセフジャパンを通して各学校の先生に広めています。特別支援学校や、各高校の形態にあわせ、eスポーツを活用いただけます。

教育現場には教科書を用いて指導するというよりも、ベースとなる考え方をお伝えし、教育現場の教師や教育機関に共に考えてもらうことを大切にして活動しています

ナセフジャパンでは、学校に情報をご提供する他、先生同士のネットワークを形成して情報交換していただける環境づくりを行っています。ディスコードを利用し、200名以上の先生方による闊達な意見交換が行われています。

地方創生と教育価値の向上を目指して

加藤:子どもたち、教育以外に例えば高齢者、障害者向けのような取り組みがあれば伺いたいです。

尾崎:eスポーツはどなたでもフェアな形で参加できるプラットフォームだと考えています。団体への支援、コミュニティづくり、資金を提供することもあればネットワークを作るお手伝いや、大会のシステムを提供させていただくこともあります。障がいを持つ方や、高齢者の方はもちろん、eスポーツをしたい方たちに支援をさせていただくことでeスポーツ文化をさらに広げていきたいと思っています。

加藤:今後のeスポーツの世界はどう発展していけばいいのか、何かお考えがあれば教えてください。

尾崎:現在、取り組みが多岐に渡るのでいくつかに絞るのは難しいのですが、ひと言で目指す形をお伝えするならば、地方創生と教育を相乗効果で高めていくことが重要だと考えています。

コミュニティは、オンラインとオフラインそれぞれの良さがあります。オンラインは距離に関係なく支援できるので、地域ごとの特徴を活かした地方創生を目指すことができると考えています。オンラインでも実現可能なeスポーツ大会も有効な手段となると考えています。

あとは教育的な観点です。教育に関してeポーツは懐疑的な声があることも事実です。しかしながら、eスポーツはうまく活用すれば現代教育と非常に高い親和性があります

現在、教育現場でSTEAM教育(※1)という考え方が広がっています。このSTEAM教育をeスポーツやゲームで実現可能です。例えば、フォートナイトの中で島を作ったり、マインクラフトの中で新しいプログラムを試してみたり、アートと創作意欲と数学的な考え方とコミュニケーションを磨くことができます。

eスポーツは、子ども達が自分達から入りたくなるような入り口であることが強みです。「楽しい」をきっかけとしてより良い教育につなげることができることが価値ではないかと思いますこの、『地方ごとの特徴を活かした地方創生』と『教育価値の向上』この2つを高いレベルで実現することで、eスポーツが日本にも文化として根付いていくのではないかと考えています。

※1 STEAM教育・・・サイエンス(SCIENCE)・テクノロジー(TECHNOLOGY)・エンジニアリング(ENGINEERING)・アート(ART)・数学(MATHEMATICS)といった理数と創造性を併せた先端教育理念。

取材を終えて

10代を取り巻くゲーム環境は日々、変化しています。一人でクリアを目指していくゲームが主流でしたが、現在は仲間とコミュニケーションを取り、勝利を目指すゲームも数多く存在します。尾崎さん自身も、自身がゲームをプレイしていた時代とは大きく変化していると仰っていました。

eスポーツと地方創生を繋げていくお話はとても壮大で、聞いていてとてもワクワクしました。オンラインでeスポーツを楽しむことが普及する今だからこそ、子供たちの成長にeスポーツがうまく働きかける可能性を感じました。その指針には、eスポーツをビジネスとだけ捉えるのではなく、尾崎さんのように『人の成長、地域の成長』と捉えるビジョンが必要です。

これからもサードウェーブグループの教育現場へのeスポーツ普及の取り組みに注目です。尾崎さん、ありがとうございました。

【参考URL】

サードウェーブグループ
http://info.twave.co.jp/

インタビュアー:加藤 大貴(バリアフリーeスポーツePARA代表) 
Twitter: https://twitter.com/koken_3
Facebook: https://www.facebook.com/koken3Kato

-インタビュー
-

© 2024 ePARA