「どうして自分はこんなにも諦めてしまうのだろう」
私がこの10年思い続けてきたことでした。
ePARA(イーパラ)では3度目の寄稿です、ライターの希央(きお)と申します。
私は発達障害と双極性障害を併発し、日々障害や病気と付き合いながらライターをはじめ、自分の障害特性を生かした仕事を中心にしています。
ePARAの記事では、以下2点を執筆しています。
発達障害を持つオンラインゲーム初心者が挑戦!PUBG MOBILEの世界に飛びこんでみた!
発達障害持ちのライターがPUBG MOBILEの対人戦にチャレンジ!
そんな私ですが、2020年5月31日に開催された「バリアフリーeスポーツePARA2020」(以降、ePARA2020)に、スタッフとして参加しました。
いくつか困難もありましたが、このイベントを通して私は「確かな自信」を得ることができたのです。
今回の記事では、私の「確かな自信」につながるまでの日々を、綴っていきたいと思います。
過去の自分を超えるため、イベントスタッフに3年ぶりの挑戦
2020年4月の終わり頃。
「ePARA2020の開催に向けたスタッフ会議に参加してほしい」と打診がありました。
5月31日のePARA2020では、私はスタッフとして参加することになったのです。
実はこれまでプレイヤー側で参加して記事を書いてきたのは、もともとスタッフとして参加したいという強い想いがあったからです。
もちろん、ライターとして関われているだけでも嬉しかったのですが、これからの「eスポーツイベントを作る仕事」に向き合うことは、「過去の自分と向き合うこと」でもあったので、余計に気合が入りました。
私の芯を形作った、「まちおこし」に捧げた7年間
今回のスタッフとしての参加が、どうして過去の自分と向き合うことにつながるのか。理由は私の経歴にあります。
私は、大学中退後の7年間、地元のとある町の「まちおこし」に関わっていました。
イベント企画・運営はもとより、観光ガイドや取材対応、売店の販売業務もやりました。
果てにはご当地キャラのお世話係とステージの司会まで。経験した分野は多岐にわたります。
この7年間は今の自分を形作る大きな基礎となったと同時に、苦い経験も数多くありました。
「自分の弱さゆえの過ち」や「世の中の厳しさ」から逃げたことも何度もあって。
実際、自らの発達障害と双極性障害による特性をクローズして就労していたこともあり、体調不良時などに理解が得られませんでした。
当時は職場内のコミュニケーションもうまくとれず、苦戦しました。
そういった状況が重なり、最終的に人間関係がうまく行かずに現場を離れることになったのですから、苦さのほうが勝っています。
それでも「イベント終わりの達成感」というのは、私にとって数少ない成功体験でもありました。
だからこそ、そんな過去の自分と向き合い「絶対に諦めない」こと。それが、密かに私が自らに課した「今回のミッション」でした。
完全オンライン開催だからこそ実現した、スタッフ参加
ePARA2020は新型コロナウィルスの影響を受けて、スタッフも選手も1箇所に集まらない完全オンライン開催。
全国から参加者がオンライン上で集まり、その模様はYouTube Liveで配信されます。
そのおかげで、地方在住の私も金銭的・身体的負担なくスタッフとして参加することができました。
あらかじめ、「今回は裏方として様々なことをやってもらう予定」だということは聞かされていました。
「まちおこし」時代も基本的に現場スタッフとして仕事することが多く、裏方の重要性は人一倍認識しています。
完全オンラインで参加することへの不安もなかったわけではありません。
すべての仕事をインターネット越しに行うわけで、ちゃんとこなせるかも不安でしたし、本番で回線トラブルがあれば最後、そこでゲームオーバーですから。
しかし、不安以上に久しぶりに感じる「また、イベントを作る仕事に関われるんだ。」という期待感が上回っていました。
こうして、私にとって重要な意味を持つ、3年ぶりのイベントスタッフのお仕事がスタートしました。
「イベントは仕込みが肝心」 事前準備は前向きに
「イベントは仕込みが肝心」などと言われることが多いですよね。
本当にそのとおりで、当日を迎えるために必要な事前準備は数え切れないほどあります。そして、ここをしっかりやらないことには当日の成功はありません。
大枠はePARA実行委員会のみなさまが進めていただいているとのことで、私はひとまず第3部として開催される「ブロスタ大会」の一部を担当することになりました。
参加者向けの資料を作ったり、実際にプレイしてゲーム上の仕様を確認したり。
この時点では、「案外楽だな…」などと、余裕を見せていたのですが、そう簡単に行くわけはなく。準備を進めていくうちにどんどん状況が変化していきます。
「未知の世界」 リアルタイム字幕チームへの参加
「希央さん、リアルタイム字幕チームにも入ってみませんか?」
と告げられたのは、たしか開催10日前だったでしょうか。急な話ではありましたが、リアルタイム字幕への興味から、すぐ参加させてもらうことにしました。
ePARA2020では聴覚障害のある方や、発達障害で視覚優位性(聴くより見るほうがわかりやすい特性)をお持ちの方のために、アクセシビリティ向上の取り組みとしてリアルタイムの字幕配信を実施することになっていました。補助的にですが、私はその担当チームに加入することになりました。
リアルタイム字幕システム「UDトーク」との出会い
ePARA2020で採用された「UDトーク」というシステムは、AIが基本的な文字起こしを行い、そこに修正者が手を加えるという、AIと人力のハイブリッドで成り立つリアルタイム字幕システムです。
詳しい説明は公式サイトにおまかせするとして、なにしろ全く知らない、触ったこともないシステムの運用チームに入ることになったので、最初はわからないことだらけ。優しい精鋭スタッフさんたちに支えられ、なんとか当日に向けたシステムを理解することができました。
なんと、eスポーツイベントでのリアルタイム字幕配信は日本初。その上、第1部のパネルディスカッションについてはYouTube Liveの画面上とUDトークアプリ上に字幕の同時配信を行うという、先行事例が数例しかない意欲的な取り組みも盛り込まれていました。
自然な流れで「現場ディレクター」に
そんな初めて尽くしの中で、事前に実施した配信技術部分のリハーサルでは、私がYouTubeLiveのスタジオ役になるなど、いつの間にか全体把握をするポジションに。
というのは、修正担当スタッフは目の前の修正から目を離すことができず、そのほかの状況把握を行う余裕がほとんどないのです。
私は発達障害の特性上、タイピング速度が非常に遅く修正担当には不向きということもあり、現場ディレクター的な位置づけで字幕チームに関わっていくことになりました。
実はこの「現場ディレクター」的位置づけこそが、今回のイベント運営で重要な鍵になるとは、このときは知るよしもありませんでした。
「全力」で向き合うことの大切さと、周囲の優しさを感じたイベント本番
字幕まわりの細かな作業や、ブロスタ大会参加者への事前インタビューを経て迎えた当日。
前日夜も不安で眠れず、少し寝不足のまま迎えることに。開始1時間前から、会議システムでスタッフが集まり、各部署の最終チェックが始まりました。
しかし、ここで想定外のトラブルが字幕システムに発生してしまったのです。
「最悪のトラブル」と「最善の選択」 ギリギリで試された決断力
「あれ? 字幕、送り込めない。このままだと画面表示出せないよ?」
なんと、数日前のリハーサルでは問題なかったUDトークをライブ配信画面に組み込むシステムが、本番環境では正常に動作できないことがわかったのです。凍りつくスタッフたち。
字幕を送出する担当のスタッフとあれこれ試すも、開始時間が迫ります。
ここでパニックになるわけにはいかないので、内心焦りながらもできる限り冷静に復旧作業を進めました。
それでも、うまくいきません。
「残念ですけど、画面表示、中止しましょう。直接配信に切り替えます。」
復帰は難しいとの判断から、私は全体にそう告げて、配信方法を急遽切り替えることにしました。
チームみんなでリハーサルしてきたので正直悔しかったです。しかし、「その場での最善の選択だった」とあとから言われて安堵しました。
ブロスタ大会の真っ只中で起きた、自らの異変
その後、担当チームの頑張りもあってリアルタイム字幕配信が復旧。
UDトークアプリのみでの配信とはなりましたが、無事に字幕を必要としている人に届けることができました。
その様子を横目に私は、第3部のブロスタ大会の運営のため字幕チームを離れ、ペアを組むスタッフと合流します。(といってもオンライン開催なのでもちろん席から動くことはなく)
ここからの私たちの役割は、選手がバトルロイヤルで脱落した順番を記録し、順位を集計していくこと。予選・準決勝は3試合1セット、決勝は5試合1セット。順位ごとに獲得したポイントの合計で競う、ランキング制です。
つまり23試合、しっかりと順位集計を行わなくてはいけないのです。もちろん、全体の順位に大きく影響するのでミスは許されません。
これが当初の予想以上に大変で。iPadに表示されるゲーム画面に向かってひたすら記録を取り続けるのです。
そんな集中状態を続けるうち、だんだん体調に不安を感じるように。さすがにつらくなってきた私は、スタッフ回線のマイクにこう声をかけました。
「体調が不安です。このままだと途中でだめかもしれません。」
「ただ感謝」運営チームの判断
ブロスタ大会は、4ブロック計12試合の予選が終了したところで、5分ほどの休憩に入りました。「あれ、スケジュールにこんなのあったかな…」そう思ったのですが、その場では疲労が勝り、休むことを優先しました。
この休憩のおかげでなんとか復調し、その後は無事決勝の最終試合まで業務を務めきることができました。
あとから知らされたのですが、この休憩は私の状況をスタッフ回線で知った運営チームがとっさの判断で用意してくださったものでした。この臨機応変な対応、「合理的配慮」とでもいうべき心遣いに、熱い思いを感じたのでした。
「確かな自信」を得た、達成感と今後への思い
無事全日程が終了し、再度スタッフが集まってのオンラインミーティング。
ミーティングが始まるなりePARAの加藤代表が「希央さん大丈夫?」と声をかけてくださり、驚いてしまいました。
もちろん私の状況を把握してくださっていたからこそ、なのですが、MCで一番気苦労が多かったはずの代表からのこの声掛けは非常に嬉しかったです。
当日夜に急遽開催された関係者打ち上げでも、ePARAの中心スタッフの方々から「逃げずによく頑張ったよね」とか、「向き合い方がよかったよね」と、非常に嬉しいお言葉を数多くいただいた一日となりました。
「逃げと諦め」にとらわれてきた自分を超えて
嬉しさの理由は先述の通り、今までの人生で「あんたは現実から逃げている」、「お前はすぐ諦める」と言われ続けてきたからです。
私は発達障害と双極性障害を併発しているため、これまでなかなか物事を安定して続けることができませんでした。大学中退もそうですし、大好きだった仕事すら、投げ出さざるを得ないことが多くありました。
そういった事態が起こるたびに先程のような辛辣な言葉をかけられて、余計に落ち込み症状が悪化。自分に存在価値を見いだせなくなり、自傷をしたことも何度もありました。「死にたい」と思ったことなんて数え切れません。
だからこそ、今回は諦めずにやりたかった。途中で投げ出したくなかった。倒れるわけにはいかなかった。実際、弱音も吐きました。何度かピンチにもなりました。でも今回はまわりの支えも今まで以上に大きく、暖かかった。
結果的に最後まで、みんなでやり遂げることができました。本当に実りある一日だったと思っています。
スタッフ参加で得た「確かな自信」は、これからのための財産
全体的にも個人的にもドタバタはあったものの、無事に終えることができたePARA2020。
まだ余韻に浸りながらこの文章を書いていますが、本当にいいイベントだったと思っています。
今回のイベントを通して、私自身が「まだちゃんと世の中でひとりの人間として戦えるんだ」と確かめられたことは、私にとって絶対にこれから生きていく上での財産となると思います。
いままでの私なら投げ出していたであろう危機的状況も機転を利かせて乗り越えられたことは、今後に向けての「確かな自信」につながりました。
この10年苦しんできた「諦めてしまう自分」とは、これを機にサヨナラしたいと思います。
そう思えたことが、ePARA2020における、私、希央の最大の収穫でした。
幸いなことに、今後もePARAには関わらせていただく予定なので、これからもみなさんとともにしっかりと前に進んでいきたいと思います。
最後になりましたが、ePARA2020に関わってくださったすべての皆様、本当にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。