座談会 障害とゲーム

手と足の二刀流!凄腕格闘ゲーマー・かにゃさんとJeniが対談~難病のeスポーツプレイヤー二人が語る「格ゲー愛」~【UNTAPPED vol.03】

バリアフリーeスポーツ対談UNTAPPED Volume03 Jeni × Kanya

生きづらさを抱えるすべてのマイノリティーのための情報バラエティー番組『バリバラ』。2024年4月4日、NHKで放送された同番組に、ePARA社員のJeniが登場しました。今回の「UNTAPPED」は、番組で共演し、バリアフリープロジェクトチームFortia(フォルティア)の格闘ゲームユニット「Fighting Fortia」への参加が決まった難病の強豪格闘ゲーマー・かにゃさんとJeniとの対談。障がいを持つeスポーツプレイヤーは、どんなゲームをしてきたの?番組出演の感想は?「Fighting Fortia」としての想いは?共通項の多い二人の対談の行方は、いかに。

(かにゃさんとJeniが出演した『バリバラ』の2024年4月4日放送回「バリバラ流 eスポーツで生きていく!」の概要はこちらをご覧ください

かにゃの顔写真

かにゃ
名古屋市在住のeスポーツプレイヤー。関節が動かしにくくなる難病・先天性多発性関節拘縮症の当事者で、手と足を使ってコントローラーを操作する二刀流でゲームをプレイ!「ストリートファイター6」では、上級者の証であるMASTERランクに到達。2024年春より、「Fighting Fortia」のメンバーとしても活躍。

ゲーム大会でコントローラーを操作するJeni

Jeni
デュシェンヌ型筋ジストロフィーのeスポーツプレイヤー。顎で操作するコントローラーを自作し、ストリートファイターを中心とした格闘ゲームをプレイ。「Fighting Fortia」のキャプテンも務める。全盲プレイヤーによる格ゲー大会「心眼CUP」では、優しくも厳しいコーチを務めるほか、ePARAの頼れる社員としても活躍中。

参考記事:

​​壁を壊すのは、いつだって内側からだ。 重度身体障害者の私がePARAに入社し、挑戦したい事

雪辱に向けて日々猛練習中!【Blind Fortia】-心眼CUP団体戦出場チーム紹介Part.3

八幡平市でバリアフリー格闘ゲーム交流会「HACHIMANTAI 8 FIGHTS」を開催しました

オンライン対談の画面のスクリーンショット。Jeni、かにゃ、ライターのsanakenが写っている
インタビューはオンラインにて。左上がJeni、下がかにゃさん、右上が執筆担当のライター・sanaken。

難病少年とゲームとの出会い

Jeni:かにゃさん、『バリバラ』の収録お疲れさまでした!今回は、僕が気になるeスポーツプレイヤーと対談する企画「UNTAPPED」へ改めて登場いただきました。まずは、自己紹介からお願いします。

かにゃ:どうも、かにゃです。先天性多発性関節拘縮症という病気を持っています。今は「ストリートファイター6」(以下、スト6)をかなりやり込んでいますが、そもそもゲーム好きなのでいろんなタイトルで遊んでます。

Jeni:じゃあ、小さい頃からゲームで遊んでました?ゲーム遍歴を教えて欲しいです。

かにゃ:最初の記憶は、病院で遊んだゲームボーイかな。子どもの頃、病気の治療のために何度か手術する必要があって、4歳から7歳くらいまではずっと病院にいました。入院していた病院が山の中にあったうえ、テレビもなくてすごく退屈だったんです…。

それを見かねた14歳離れた兄が、「暇だろうからこれで遊んだらいい」と、お下がりのゲームボーイを持ってきてくれました。「ベースボール」や「SD戦国伝 国盗り物語」とかで遊んでましたね。入院している他の子とソフトの貸し借りもしたな~。その後は、スーパーファミコンやプレイステーションも兄のお下がりで遊びました。

Jeni:お兄さんの影響がすごく大きいんですね。

かにゃ:大きいと思いますね。小学校の中学年の頃、既に実家を出ていた兄の家には、プレイステーション2があったから兄の家に行きたくて、行きたくて!たまに遊びに行った時には、兄とは喋らずにプレステ2ばっかり。

コントローラーを操作しすぎて、気がついたら指から血がにじんでいたこともありました(笑)。それだけ熱中していたというか、ゲームが好きだったんですね。

Jeni:それはすごいエピソードだ(笑)。もう一つ質問。ゲームをプレイし続けていると、オンラインゲームに触れるタイミングが来ると思うんですけど、いつ頃ですか?

かにゃ:初めてインターネットに触れたのは小学校6年の時、両親にノートパソコンを買ってもらったのがきっかけかな。両親は、将来のためにパソコンの知識を身に付けて欲しくてプレゼントしてくれたんですけど、そのパソコンで勉強せずにオンラインゲームにハマっちゃって(笑)。

当時、「ハンゲーム」というオンラインゲームサービスが流行っていて、オセロや将棋をネット対戦するのがおもしろくて、おもしろくて!

Jeni:途中から自分の話を聞いてるのかと思ったくらい、自分と一緒だ(笑)。

かにゃ:仲間ですね(笑)。中学時代には、「Skype」のチャットサービスで会話しながらプレイするようになって、いろんな人と知り合いました。相手は20代後半の人が多かったから、大人と話すのが楽しかったな。当時、学校が退屈だと感じていたので、ネットでの交流に刺激を感じていたのかも。

Jeni:すごくよく分かるな~。僕もゲームには接続してるけど、ずっとチャットしてることが多かった。いろんな人と出会ったり、喋ったり、コミュニケーションを取るきっかけがゲームだったというか。

かにゃ:ゲームで出会った人とオフ会もしてました。障がいのことを言ってなかったから、本当は会いたくなかったんですけどね…。いざ会うとなると、「実は…」って伝えなきゃいけないし、それが心苦しかったな。でも、会ってしまえばすごく仲良くなるんですけど。気持ちの面でハードルが高かったです。

Jeniとの出会いと格闘ゲーム

Jeni:かにゃさんを初めて知ったのは、Twitter(現X)にアップされていた「ストリートファイターV」(以下、スト5)をプレイしている動画。スゴく上手いなって思ったし、どんな動きをすれば勝てるのか動画を見て研究させてもらいました。

かにゃ:僕もJeniさんを知ったのはTwitter。「スト5」の時、「障がい者の中では、俺が1番強いんじゃないか?」って思ってたんです。障がい者界の梅原(筆者注:日本を代表する格闘ゲームのプロゲーマー)だって。けど、同じ障がい者で、同じぐらいのランクまで上がってて、「そんな強い奴がいるの!?」と思ってフォローしました。

Jeni:そうやって相互フォローして、僕から「いつか対戦してください」ってDMかリプライを送った記憶がある。

かにゃ:そうそう、そうだった。すごくシンパシーを感じた一方、「このままじゃ梅原の地位が脅かされる」と思って、プレイに励む原動力になってました(笑)。

Jeni:ちなみに、僕は自作した顎コントローラーで「スト6」をプレイしてるけど、かにゃさんはどうやって操作してるんだっけ?改めて教えてください。

かにゃ:左手と両足で、2つのコントローラーを操作してます。左手は小指でスティックを操作してキャラクターを動かし、他の指で弱、中、強ボタンを担当。足の方は、左足でコントローラーを支えながら投げボタンを押して、右足でインパクト、パリィ、アシスト、必殺技ボタンを押す感じ。

Jeni:めちゃめちゃ器用だよねー!本当にすごい!

かにゃ:時々、頭がパニクりますけどね!「スト5」をプレイし始めた時はザンギエフを使ってて、スティックを一回転させて出すスクリューパイルドライバーも、グルっと高速回転で出してましたよ。けど、「スト5」の最後にエドってキャラクターが使えるようになって、キャラを変えました。複雑なコマンド入力が必要なくて、ワンボタンや連打で技が出るキャラクターだったから。

Jeni:僕も同じ理由でエドを使ってました。「スト5」は発売当初に挑戦して、「この操作方法だと、僕の体じゃプレイできないわ…」と諦めてたけど、エドを触ってみたら「普通に動ける!」って復帰。それくらい、障がいを持つプレイヤーにとって、エドの登場は革命的でしたよね。

かにゃ:本当に!「俺でも戦えるんだ!」って感動しました。

Jeni:かにゃさんも僕も共通の認識だと思うけど、次回作が同じ操作方法でプレイできて、似たような操作で動かせるキャラが登場する保証はないじゃないですか?僕は「ストリートファイターIV」から「スト5」に移行する時に、この問題を感じたんですよね。

かにゃ:本当にそうですよね。僕も「スト6」で格闘ゲームとはお別れかも…って不安でした。けど、いざ発売されてみたら、従来通りコマンド入力で操作する「クラシックタイプ」の他に、エドみたいな簡単な操作でプレイできる「モダンタイプ」も選べる仕様になっていて。言ってしまえば、全キャラがエドみたいなもの!不安を一掃してくれたし、すごく快適にプレイできてます。カプコンさん、ありがとう!

(動画)Fortiaのユニフォームに身を包み、手と足の「二刀流」でコントローラーを操作するかにゃさん

『バリバラ』への出演と、その手ごたえ

Jeni:4月4日、僕ら二人が出演した『バリバラ』が放送されたけど、振り返ってどんな感想ですか?

かにゃ:倉持由香さん(筆者注:共演した女性タレント。夫はプロゲーマーのふ~ど氏)が可愛かった(笑)。じゃなくて、本当に嬉し過ぎました。出られるとは思ってなかったし、まさかこんな機会が来るなんて。出演前に「俺、NHKに出るから」って、友人に自慢してたくらい。出演のきっかけをくれたJeniさんには感謝。

Jeni:スタッフの方から「僕と同じくらいスト6が強くて、障がいを持つプレイヤーはいませんか?」と言われて。その時、一番に思いついたのがかにゃさんでした。

かにゃ:声を掛けてもらった時、「ゲームが上手くて良かった!」って心の底から思いましたもん。

Jeni:番組中でプロゲーマーのどぐらさんとの対戦した時も、しっかり爪痕を残してくれたよね。大舞台で強かった!

かにゃ:すごく緊張したけど、一方的な展開になる訳じゃなくちゃんと戦えたかな。障がい者でも格闘ゲームをプレイできて、Jeniさんみたいに顎でプレイする人、僕みたいに寝た状態で手と足でプレイする人、そして、その二人がプロゲーマーと戦えるくらい強いんだって。そんな姿を全国の人に見てもらえたことは本当に良かったと思う。

ヒヨコの絵が全体に描かれた黄色い服を着て車いすに座る男性
バリバラ撮影当日の1枚

「Fighting Fortia」メンバーとしての夢

Jeni:実は『バリバラ』での共演をきっかけに、かにゃさんにはePARAの格闘ゲームチーム「Fighting Fortia」へ入ってもらうことになりました。

かにゃ:そうなんです。僕も障がいを持つ格闘ゲーマーとして、ただプレイするだけじゃなく、「障がい × eスポーツ」の可能性を知ってもらう仕事に関わりたいと思って、参加を希望しました。ゲームを通して活動の幅が広がるって、すごく夢がありますよね。

Jeni:こんなに格闘ゲームが上手い障がい者って本当に貴重だし、かにゃさんには格闘ゲームをはじめ、いろんなことで活躍して欲しい。コミュニティを広げたり、障がい者がプレイしやすい環境を作るための心強い仲間です。

かにゃ:僕には障がいがあって、片手しかしっかり動かないし、できることはやっぱり少ない。それでも、「ゲームだけはできる」ってプレイしている気持ちがあるんです。「Fighting Fortia」に参加させてもらえて、改めてゲームの腕を磨いてきて良かったと感じています。

チームのキャプテンはJeniさんで、僕は下っ端。年齢は僕が上ですけど、なんでも言ってもらって大丈夫なんで!キャプテン、よろしくお願いします!

Jeni:いやいや(笑)。僕は格闘ゲームの腕前が一番重要だと思ってるので、いいプレイを期待してます!チームに入って、今後の目標はありますか?

かにゃ:誤解を恐れずに言わせてもらうと、「障がい者はゲームが弱い」ってイメージが、世間にはあると思うんです。そんなイメージ、消し炭に変えてやりますよ!僕みたいなハングリーな障がい者がいても良いと思う!!

だからこそ、腕前を見てもらうためにもオフライン大会へ出場したいです。それが一番存在を知ってもらいやすいから。

Jeni:素晴らしい!僕としても、チームのみんなと一緒に挑戦できたらいいなって思ってます。

かにゃ:みんなで切磋琢磨しながら、チームでいろんなことに挑戦したいですね。一緒に大会に出て良い成績を残せたらいいな。

Jeni:eスポーツなら健常者と対等に対戦できるし、それを証明するには、実際に活躍してる人がいなきゃいけない。「Fighting Fortia」のメンバーで壁に挑戦していきたいね!

かにゃ:障がい者に向けられるネガティブなイメージ。チームのみんながいれば変えていけると思ってるんで、一緒に頑張っていきましょう!

世界や多様性を包み込むイメージの赤色の三日月と、スティグマや偏見を打ち破る力のイメージと格闘ゲームを象徴する拳と拳がぶつかり合うアイコンが描かれたの黒の土星が重なり合うモチーフの下に、 Fighting Fortiaの文字

最後に

実は、SNSでの交流や番組共演はあれど、ここまでじっくり話をするのは初めてだったという二人。対談を進めて行く中で、オンラインゲームとの関わりや操作方法の課題など、いろんな共通点が浮かび上がりました。しかし、一番の共通点は、「格闘ゲーム愛」や「強くなりたい想い」だったように思います。かにゃさんの「Fighting Fortia」での活躍、楽しみにしています!

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

sanaken

1981年うどん県生まれ、大阪在住。フリーランスの編集者・ライター。若年性パーキンソン病の当事者。ゲーセン歴25年以上という格闘ゲーマーだが腕前は永遠の初心者。最もやりこんだ格闘ゲームは「ストリートファイターⅢ 3rd」。

-座談会, 障害とゲーム
-,

© 2024 ePARA