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イベントレポート

tenboファッションショー、リアルタイム字幕提供で考えた平和への願い〜聴力障害があっても人と人とが繋がれる時代へ〜

バリアフリーeスポーツ「ePARA」で毎週水曜日21時に行われている「部活動」。discordサーバーにたくさんの障害当事者の方々が集まってeスポーツを共にし、楽しい時間を過ごしています。今回の記事はそんな部活動がきっかけで行われたひとつの活動。リアルタイム字幕修正の取り組みをご紹介します。

tenboのファッションショー『Pray for Peace Collection 』とは?

2021年8月9日、被爆76年目の長崎原爆の日。平和とスポーツの祭典、「多様性と調和」を掲げたオリンピックの熱も冷めぬ中、ファッションブランド「tenbo」のファッションショーが開催されました。今年で3回目になるファッション・アート・音楽で平和を願うイベントである『Pray for Peace Collection 』。テーマは『未来へ継ぐ平和への願い』であり、ファッションの世界の平和の祭典とも言えます。そして、「tenbo」では障害者/難病ファッションも取り入れてます。

折り鶴をモチーフにした衣装を着たキッズモデルと、それに合わせて表示された字幕
字幕と親子のモデル、平和をモチーフにした衣装を着ています
親子のモデル、平和をモチーフにした衣装を着ています

長崎原爆の日に「平和」を考える

大人のモデルだけではなく被曝4世やダウン症の子供達が登場するなど、長崎原爆の日にさわしい「平和」について考えさせられるファッションショーとなった今回の『Pray for Peace Collection 』。ふんだんに取り入れられた千羽鶴のモチーフと、鮮やかな色彩により平和を願う世界観を表現しています。華やかなメイクと、色とりどりの服飾から奏でられるファッションショーから訴うえる、世界平和と戦争のない世界。出演したモデルの方々による「平和とはなにか」というメッセージにより、平和への祈りと優しい空気に包まれた「心温まるファッションショー」となりました。そのtenboのファッションショー『Pray for Peace Collection 』において、Maikaさんとしあんさんがリアルタイム字幕修正スタッフとして参加しました。

字幕と、イラクの小児がんの子供たちの描いたアートと、平和への願いを込めた衣装を着たキッズモデル
字幕と、イラクの小児がんの子供たちの描いたアートと、平和への願いを込めた衣装を着たキッズモデル

リアルタイム字幕修正の様子(Maikaさんより)

手話の通訳もでき、字幕修正業務も豊富な経験を持つMaikaさん。日頃から聴覚障害者のコミュニケーションを支えるお仕事をなさっています。そんなMaikaさんに当日の様子や感想をレポートいただきました。

UDトークとは

コミュニケーション支援・会話の見える化アプリUDトークは、音声を認識しAIによる判断を経てリアルタイムに字幕をつけることができる優れた字幕ツールです。しかし、どうしてもその中にはAI特有の判断ミスが発生します。それをリアルタイムに修正し、正しい言葉に直すのがリアルタイム修正です。ePARAでは、過去にもePARA2020でeスポーツイベントでは類を見ないリアルタイム字幕提供に挑戦。聴覚障害者もイベントに楽しく参加していただくために部員たちが協力してきました。

字幕提供にむけた連絡体制

リモートでの作業となるリアルタイム字幕修正。会場の映像担当のスタッフや本番映像と各修正スタッフはZOOMでつないで連絡を取っていました。
本番中はZOOMの音声を聞きながら修正するので、ZOOMでのやり取りはできません。LINEグループを作って連絡を取り合いました。LINEグループにはtenboのスタッフも1名し、tenboとコミュニケーションが必要な際も連絡が取れる状態ができていました。UDトークの修正をするのが始めての方や、経験が浅い方もいるので、事前に何度か予行練習を行い、本番に臨みました。

字幕提供に大切なのは、事前準備

UDトークの文字修正は、基本的には音声を聞いて文字を修正するだけなのですが、人名や専門用語や造語などは反映できないことがあります。そこで事前に単語登録というのをして、ちゃんと音声認識して反映できるように対策をします。

今回でいうと、イベントタイトルや、出演者の名前、衣装の名前、長崎原爆に関する言葉などを登録しました。そして、修正スタッフが、どんな言葉がでてくるのか、人名や専門用語の漢字表記などを知っておくと修正しやすいので、それをまとめた資料を作ったりしました。今年は、字幕をつけて配信するというのが早めに決まったので、準備に余裕をもって行うことができました。結構、時間を必要とするので、準備期間に余裕があるのは助かります。

事前練習の時間を取れたのも良かったと思います。本番中にトラブルはあったものの、無事、字幕配信を行うことができてよかったです。

字幕提供は、本番の映像を見ながら実施

本番では、字幕修正用の音声をもらうだけではなく映像も合わせてもらうことを大切にしています。今誰が話しているのか、どんな衣装なのかを目で確認しながら修正することで、字幕の精度を上げるためです。また、映像があることでイベントの主旨や思いを理解することができる点も大切な理由のひとつです。今回の場合、修正スタッフ自身もtenboがデザインをした衣装を見て、ファッションショーの視聴者の一人として参加しながら字幕提供をすることで、tenboのイベント自体の理解にもつながり、字幕修正の質にも生きてきます。

『Pray for Peace Collection 』リアルタイム字幕修正を通じて考えたこと

一昨年から開催している平和を願うファッションショーで、嬉しいことに毎年関わらせてもらっています。毎年、感じるのは、今、自分が普通に暮らせていることが平和だということ。特別何か変化が起こることではなく、今、家族や友人と楽しく暮らせること、ご飯が食べられることが平和だということ。

大人になると色々な情報が入ってきて、平和ってどういうことなのか凄く考えてしまうけど、まずは今、平和に暮らせている状況にある私たちは、そこが崩れてしまわないように平和を伝えていく必要があるのだと思います。もちろん、日本でも世界でも、平和に暮らせていない人はいます。平和を脅かす状態が日本、世界からなくなればいいと思っています。そのためには被爆者の方から、原爆の話しをもう一度聞きたいなと思っています。イベントでも主催者の一人の浅田さんがおっしゃっていたように、我々世代が被爆者から直接話しを聞ける最後の世代なのだと思います。

私は広島県の隣の山口県岩国市出身で、広島原爆を通した平和教育を受けてきました。ただ、私は勉強が嫌いだったので、あまり覚えていなくて詳しく知らないところが多いです。学校の宿題で、広島に働きに出ていた祖母から原爆の話を聞くというものがありましたが、残念なことにあまり覚えていません。もう祖母は他界し、話を聞くことができません。tenboのファッションショーに関わったことで、「祖母の話しをもっとちゃんと聞いておけばよかった」と後悔するようになりました。

今は主に聴覚障害者の人と関わることが多いですし、友人には様々な障害者や病気を持っている人が多いです。なので、そういった障害や病気をもった被爆、戦争を経験した方の話を聞いていこうと思っています。

今よりもっと情報が入りづらかった時代の戦禍にどう過ごしていたのか、とても気になるし、伝えなければいけないと感じています。

聴覚障害者とゲーム

障害や特性、難病を持った仲間たちが集い、ゲームやeスポーツとをもに楽しむePARA。そこにも聴覚障害を持ちながら活躍する人もいます。

重度難聴がありながらも、FPSをプレイするyudaiさんは、「​​勝負を通して友人とコミュニケーションを取り、友情を深めるツール」であると言います。ゲームは勝負だけではなくコミュニケーションツールの一つ。eスポーツを通じて人と遊ぶことで、対等にコミュニケーションをし、人とつながっていく。そこには聴覚情報の有無は関係ありません。

関連記事:重度難聴FPSプレイヤーYudaiの音に頼らないPUBG MOBILE必勝法

また、ADHAと難聴で人工内耳を入れているくらげさん(@kurage313book)は、聴覚障害の本質とは「聞こえないこと」よりも「リアルタイムに入ってくる情報の格差の問題」であると言います。音に頼れない分、即時に情報を得ることが難しく、それが聴覚障害の生きづらさでもある。人と人を隔てるのが聴覚障害でるとも触れていて、コミュニケーションの難しさが問われています。

関連記事:聴覚障害者くらげのePARA CHAMPIONSHIP参戦記 ~マンモス狩りの追憶 〜

障害を補い合うことで絆を強くする社会へ

ePARAでは今回のように、障害や特性がある人たちが、違う障害の人をフォローしていく挑戦をとても大切にしています。志ある障害当事者同士が自らの意思で新たな試みに参加し、不足している力は補い合いながら絆を強くし、尊重し合って歩みを共にしていくことは「多様性との調和」のひとつの形であると感じています。オリンピックやパラリンピックのメンタリティとも近いこの心意気は、きっと障害があっても生きていきやすい「心のバリアフリー」を推し進めていくことでしょう。

これからも障害当事者が躍動して行う障害者支援にもご注目ください。

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