ePARAユナイテッド所属のライター・アフロが綴るePARAユナイテッドSEASON2で生まれた3つの”物語”。今回は2つ目の物語【足でコントローラーを操作する男・たけちゃん編】です。
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夢はサッカーボールパフォーマー!ーサッカー愛が生んだひとつの出会いー
選手の夢を応援する企画を…!
ePARAユナイテッドのGM、細貝は考えた。そんな想いを巡らせているとあるメンバーの顔が浮かび、そして思った。「夢追う選手にさらなる夢を見せることが次の仕事だ」と。
きっかけは商店街の挨拶回り
たけちゃんが細貝に明かした、ある選手との出会いー。
2人の出会いは今から4年前。川崎フロンターレの恒例行事である商店街の挨拶回り。平間商店街に川崎フロンターレの選手が来ると知ったたけちゃんは、選手の来訪まで店内で待ち続けた。選手の来訪後、当然のことながらその選手はすぐに他の来客者に囲まれた。車椅子に乗るたけちゃんは近づくことができず、遠目に眺めていた。そんんなたけちゃんに選手の方から近づいてきてくれた。写真撮影をお願いしたところ、ひときわ快く応じてくれた。それこそが2017年のJ1得点王であり、年間MVPにも輝いたフロンターレのエース、小林悠選手だった。
このエピソードを思い出し、細貝の心は固まった。
「川崎フロンターレの小林悠選手と“新しい景色”を創りたい」
障害や怪我を越えていく
こうして企画が本格的に始動したのは2022年12月。しかしそれは必ずしも順風満帆ではなかった。
ただでさえコロナ禍による様々な規制がある。Jリーグの開幕を控えた選手とチームに、我々の企画が迷惑をかけてはならない。そんな緊張と共に準備を進めていた。そんな中で飛び込んできた1月15日のニュース。小林悠選手の左第5趾基節骨骨折。全治8~10週間で、イベント開催日時には間に合わない。
たけちゃん自身も「もしかしたら中止になってしまうのでは…」という不安に駆られ始めていた。
しかし、そんな心配も杞憂に終わった。イベントの実施にGOサインが出た。
それは紛れもなく、想定外の状況下でもePARAユナイテッドとの交流に価値を見出し、実現に向けて尽力して下さった川崎フロンターレ関係者の皆様。そして何より、自身が逆境の最中にも関わらず、企画を快諾して下さった小林悠選手のおかげだ。
そんな緊迫の舞台裏を全メンバーが知ったのは、1月下旬の練習日のこと。それからというもの、チームは練習のピッチを上げ、小林悠選手との共闘に備えた。たけちゃんとのエピソードを知った面々は口々に当日への期待感を口にし、全員が小林悠選手との対面を心待ちにするように。
こうして1人の選手の想いが仲間を揺り動かした結果、当日を迎える頃にはチーム内で着実にフロンターレファン・小林悠ファンが増え始めていた。
その熱量は細貝の想像をも超えるものだったが、このことがフロンターレサポーターであり、小林悠選手ファンである細貝を喜ばせたことは言うまでもない。
俺のこと、憶えてくれているのかも!?
当時高校生の青年と、心優しきエースストライカーの出会いが生んだ今回のイベント。あの日を境に2人の交流は人知れず続いていたのか。
「悠さん、俺のこと覚えてくれているのかも!?そんな選手とプレイできるなんてヤバいよね!!ドキドキする…」
たけちゃん
イベント前の練習中、たけちゃんがチームメイトの私たちに繰り返し発していた言葉だ。
あれから5年後の2023年。川崎フロンターレの商店街の挨拶回り。小林悠選手が来訪した向河原商店街で、たけちゃんは小林悠選手と目が合った。少し微笑みかけてくれた気がした。
ePARAユナイテッドの練習はもっぱらオンライン。たけちゃんの声からひしひしと伝わってくる喜びと興奮。そんな彼の想いは、間違いなくメンバーの士気を高めた。
川崎フロンターレを愛し、仲間を想い、フォワードとして奮闘する小林悠選手。2017年に初優勝を遂げた川崎フロンターレ。ユニフォームの左胸の星は、5年間で6個も増えた。その躍進を支えるエースの姿を見て、たけちゃんはこんなふうに思っていたという。
「俺も夢を追いかけていいんだ!」
そして、ある想いを一層強くした。
「俺はサッカーボールを使ったパフォーマーになりたい!」
願わなければ始まらない
障害があることで泣く泣く夢を諦めたり、どこかで我慢をしなければならないことも多かったかもしれない。でも、願うことは自由。願わなければ始まらない。たけちゃんやあーりんを見ていると、そんなふうに強く思う。
たけちゃんはまるで、魔法の両脚の持ち主だ。先天性の脳性麻痺という特性を考慮して両手こそ車椅子に固定されているものの、電動車椅子も操るその足で器用に行うリフティング。タイプは違えど、同じ障害を持つ筆者も実は嫉妬してしまうほどの足技だ。一見の価値がある。
問い合わせから掴んだメンバーの座
たけちゃんがePARAユナイテッドに加入したのは2022年6月。
それまでもその噂はなんとなく知っていたし、日頃から「何かできるものないか」と(2〜3年ほど前から)【障害者 eスポーツ】で検索もしていたが、全くヒットせず。
そんな中、2022年4月末にヒットしたのはePARAユナイテッド活動開始のプレスリリース。たけちゃんは自ら、株式会社ePARAのフォームから連絡。しかしその時はePARAユナイテッドが初めての舞台を直前に控えていたこともあり、その特性に対する対応も十分に保証できなかったことから、泣く泣く加入を見送った。
5月に実施されたバリアフリーeスポーツの祭典「ePARACARNIVAL2022」で、ePARAユナイテッドは初めて舞台に立った。イレブンの活動を見て感銘を受けたたけちゃんは、再度ePARAにアプローチした。彼の積極性とその文面から改めてチームに対する並々ならぬ想いを感じ取ったePARAは、彼のePARAユナイテッド加入を決めた。
同じ舞台に立った価値
『人生で1番緊張した!』
そう語った舞台。観客の注目を一身に集めてプレイする、eスポーツプレイヤーのとしてのデビュー戦だ。
普段からゲームも足でプレイするたけちゃんは、技巧派の左ウイング。昨年のカタールW杯での活躍が記憶に新しい、三笘薫選手と同じポジションだ。
センターフォワードには小林悠選手。普段は画面越しで応援している選手だ。緊張と興奮が重なり合った舞台に立ち、たけちゃんは最初は思うようにプレイできず、いつもの笑顔を出すのにも時間がかかった。
同じ舞台で決めたゴール。一生忘れられない宝物になることだろう。
最高の仲間とともに挑んだデビュー戦。最後にはとびきりの笑顔があった。
大好きな川崎フロンターレと大きな力をくれた小林 悠選手との出会いが生んだ物語。これからはチームメイトとともに、もっともっと成長して夢を叶えるその日まで、たけちゃんは挑み続ける。
Exceed ーこれから始まる物語ー(謝辞)
ePARAユナイテッドSEASON2で生まれた物語【足でコントローラーを操る男・たけちゃん編】、いかがだったでしょうか?【スマイルインフルエンサー・あーりん編】および【神の手・はる編】もぜひご覧ください。
今回の活動に共感・背中を押して下さいましたYogibo様、日々の練習や今大会運営にあたり高性能のBTOパソコンをご提供くださっているSycom様、謹んで御礼申し上げます。また、今回の企画を快諾して下さり、実現に向けて最後の最後まで尽力して下さった川崎フロンターレ関係者ならびにサポーターの皆様。そして、どんな場面でもチームのためにエースとしてゴールを決め、渾身のガッツポーズで会場を盛り上げて下さった小林悠選手、心より感謝申し上げます。ご自身も大変な状況の中、1人ひとりに心を寄せて下さるその人柄に、チーム全員が心を打たれたことは言うまでもありません。
ここで、そんな小林悠選手からいただいた”もう1つの物語”を皆様にご紹介したいと思います。
そして今度はフロンターレイレブンと試合を出来たら最高だと思いました😌👍
小林悠選手 公式ブログより抜粋
僕はもちろんePARAユナイテッドチームで😁💪笑
川崎フロンターレのイレブンと試合!?!?
しかも小林悠選手は、ePARAユナイテッドの一員として!?!?
そんな夢のような未来は訪れるのでしょうか。
今回のイベントで、想像を超える舞台に選手である私たちも驚いています。しかし同時に、もっともっと「新しい景色を見てみたい!」メンバー一同、そんな想いに駆られています。
発端は、1人の選手(青年)の想いに突き動かされてスタートした本プロジェクト。多くの方々のお力添えによってたくさんのドラマが生まれ、最高の空間となりました。ePARAユナイテッドにはまだまだ魅力的な選手がたくさんいます。今後ともぜひ、選手個々が持つ無限の可能性を披露することができる素晴らしい舞台を、私たちと一緒に創り上げていただけたら幸いです。
こうして多くの応援をいただいていることを幸せ感じ、皆様の応援を力に変え、ePARAユナイテッドはこれからも走り続けてまいります。
(後編【神の手・はる編】に続く)
(文:アフロ/ePARAユナイテッド所属、CB,#4)
Photo by 方司音