こんにちは。自閉症スペクトラム(ASD)のイラストレーター、Racing Fortiaの茶鏡(ちゃかがみ)です。
株式会社ePARAでは、「クロスライン-ボクらは違いと旅をする-」SEASON2(以下、クロスラインSEASON2)※1の実証実験として、モビリティ×ゲームのバリアフリーな文化祭「クロスラインフェス」およびバリアを越えてモビリティを楽しむ旅「クロスラインツアー」の企画検討・調整を行っています。本記事では、「クロスラインツアー」の活動のひとつ、図解グラフィックについてご紹介します。
※1 クロスラインSEASON2は、一般財団法人 トヨタ・モビリティ基金主催のアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」内の「Mobility for ALL - 移動の可能性を、すべての人に。」部門のファイナリストへの採択を受けて実施する実証実験です。
「クロスライン-ボクらは違いと旅をする-」SEASON1を振り返る
2022年10月15日〜17日の3日間、岡山を舞台に「クロスライン-ボクらは違いと旅をする-」SEASON1(以下、クロスラインSEASON1)が開催されました。全国津々浦々から、障がい当事者であるメンバーが岡山に集まり、eモータースポーツ(レースゲーム)・モータースポーツのリアル現地観戦を体験しました。クロスラインSEASON1では、障がい当事者が旅の企画運営に関わり、モータースポーツの体験を通して、モビリティや移動の新しい可能性を見出すべく、旅本番の約3か月前からさまざまな活動を行っていました。
「有識者チーム」の誕生!
いざ観戦しようにも、モータースポーツの現地観戦には、全く初めての人にとっては高いハードルがあります。アウトドア的な装備が必要なことや、他のスポーツにくらべ、ルールや基礎知識の専門性が高いことなどです。ひとりでも多くの初心の参加者にモータースポーツやS耐の楽しさを伝えたいと、障がい当事者メンバー内で結成されたのが、モータースポーツや自動車、レースゲームに造詣のある「有識者チーム」です。
モータースポーツをわかりやすく伝えよう!「図解グラフィック」の始動
後にSEASON2でバリアフリーeモータースポーツチーム「Racing Fortia」へと進化する「有識者チーム」では、「iRacing」などのレースゲームの練習や検証をしたり、YouTubeに公開されているS耐の過去の試合をみんなで観る「観戦会」を企画したりと、メンバー各自それぞれの得意分野を持ち寄って、モータースポーツの楽しさを参加者に伝えていきました。
その中で、初心者の方にも短時間で簡単にモータースポーツの魅力を理解してもらうために実施した施策が、「図解グラフィック」です。
観戦に必要な知識を絵でわかりやすく伝えるべく、わたしはイラストレーターとしての経験を活かしてビジュアライズしながらチーム内でさまざまな内容を議論し、それをもとに、PCで大まかな構成と文字入れ、iPadでイラストを制作していきました。
図解グラフィック7選 ~モータースポーツ初心者の方でも手軽にモビリティを楽しむために~
クロスラインSEASON1で制作した「図解グラフィック」の一部をご紹介します。
声に出して読みたいS耐
クロスラインSEASON1およびクロスラインSEASON2において、モータースポーツ現地観戦をするレースカテゴリーが「スーパー耐久シリーズ」(以下、S耐)です。
S耐は日本の「耐久レース」の1カテゴリーで、簡単に言うと「時間内に、サーキットを何周周回することができるか」を競います。「時間」が3時間、5時間、中には24時間走るレースもあることから「耐久レース」と呼ばれます。何人かの選手が交代で走り、チームで勝利を目指します。
この図解はS耐の初心者向けに、見どころや豆知識などを、Q&A方式でまとめました。
フラッグの役割〜ドライバーの命を守る〜
危険な状況をドライバーに知らせ、指示を出すフラッグの色と役割についてです。レース観戦に、これは最低限押さえておこうという旗をまとめました。
これだけはおさえよう レース観戦を楽しむキーワード
モータースポーツはレース中の実況解説にも専門的な用語が多いので、レースのスタートからフィニッシュまでに何が起こるかをイメージした用語集にしました。
S耐のクラスって何?
耐久レースを難解に感じてしまうのが「クラス」の存在。S耐におけるクラスの違い、どんな車が走っているかを大まかに分類しました。
レーシングチームって何人ぐらいいるの?誰が何してるの?
チームスタッフや関係者にどんな人がいるのかを描きました。チームカラーの青色はePARAをイメージ。S耐のキャラクターを入れることによってS耐らしさも表現。
TOYOTAのここがおもしろい
MORIZO選手やe-Racerなど、クロスラインに近い取り組みとトヨタの理念を絡めて紹介。
トヨタの考えが垣間見えるように考えました。当時の豊田社長はMORIZO選手のゆるキャラに似せました。
クロスラインSEASON1の舞台・岡山国際サーキット レース&トリビアMAP
クロスラインSEASON1の舞台となった岡山国際サーキットの図解グラフィックですトリビアやコースレコードを織り込んだ地図に仕上げました。
リアルに想像してもらうため、事前視察をした加藤代表に感想をいただきました。
コースレコードは、eモータースポーツを体験する際のベンチマークとするため、参考タイムとして掲載しました。
クロスラインSEASON2では、モビリティリゾートもてぎの図解グラフィックを制作予定です。
クロスラインSEASON2に向けて~Mobility for ALLへの、図解グラフィックの可能性~
専門性が高い・難解なことを「図解グラフィック」にすることで、理解を進める一助、また、「なんだこれ?」という関心のフックとなります。
クロスラインSEASON1では、グラフィックを見た方から、概ね「わかりやすかった」「モータースポーツへの理解に役立った」「家族に自分の取り組みをわかってもらえた」とのお声をいただきました。特に旅前の「観戦会」では、有識者チームメイトのわかりやすい解説も相まって、関心を深めてもらえる材料になったと思います。
「Mobility for ALL」の観点では、グラフィックは、聴覚障がい、発達障がいなどの障がい特性による「コミュニケーションや理解のバリア」を解決する糸口になります。特に視覚優位の特性の人には有用です。
旅の体験談ですが、ASDの特性で、他者とコミュニケーションがうまく取れないことがあるわたしも、グラフィックをきっかけに、指差しをしながら、会話が生まれたということがありました。視覚障がい者には伝わらないという課題がありますが、音声付きの動画にするなど技術と工夫次第で広がっていきそうです。
グラフィックを共通言語にすることによって、新しいコミュニケーションが生まれる手段となれば、イラストレーターとしてうれしく思います。
クロスラインSEASON2では「クロスラインツアー」でモータースポーツとの新しい出会いが多く生まれる予定です。モータースポーツの初心者の方々にとってより良い体験と深い感動を得ていただくべく、引き続き図解グラフィックによる挑戦を頑張ります。