2022年10月15日~17日の3日間、株式会社ePARAによる「クロスライン—ボクらは違いと旅をする—」というイベントが岡山で開催された。
これは一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の「Make a Move PROJECT」での採択を受けて実施する実証実験。
クロスラインは「旅」と称してイベント当日のみならず前後3か月の期間、さまざまな準備や過程を経て、いろいろなことを乗り越えてきた。そこで、ここでも「旅」という言葉を使って私自身、そしてチームMCの紆余曲折に焦点を当てて書いていこうと思う。
任された大役
私もこのイベントに「ドライバー(当事者)」として参加したのだが、この3日間の中の初日に、私はなんとも大きな役割を仰せつかった。
それは、1日目に行われる「ボクらのeスーパー耐久レース」の放送席でMC・リポーターを行うという役割だ。
そう、なんと私もこのチームMCのメンバーなのですよ。
錚々たるメンバーの中に
ePARAユナイテッド(車いす11人のeサッカーチーム)の女子メンバー、涼子さん、みぽりん、あーりんからなる、通称「車いすなでしこ」の3人と、モータースポーツの有識者である、まるぽすさん、希央さんの計5人でMC・リポーターを務めることになった。
この5人の中で一番おとなしい自信がある。そう思うほどに、ほか4人は饒舌で、面白くて、キャラが濃い。
正直、最初は自分に自信がなくてこのメンバーに入れて貰えたことは本当に嬉しいが、実力の差というか、自分のできなさを目の当たりにして落ち込んでしまうんじゃないかという、中学時代の修学旅行の班決めの時のような不安も大きかった。
決意
そんな不安も隠し持ちながらも3か月の「旅」は進んでいき、私たちはこの日のためにROBE JAPONICAさんに特注で作っていただいた2部式の浴衣を着てMCをやることになった。
このお知らせを聞いた時、私自身、和装が好きなことと、みぽりんと「浴衣着たいね!!」と以前話していたこともあって、不安が半減するほどテンションが上がった。(例えるなら、これまた中学生の頃の修学旅行の班別行動で意見が通り、自分が行きたいところに行けることになった時くらいのワクワクとテンションの上がり具合だ。)
ROBE JAPONICAさんの浴衣のデザインはとってもモダンでかっこよくて、椎名林檎さんが着てそうなイメージ。
これを弱者的イメージな車いすユーザーが着たら、車いすのイメージを覆せるんじゃないか!?と思う程、着てる人を引き立てかっこよく見せてくれる浴衣だった。
さらに今回はkimono.kojiさんという、これまたモダンな着付けをしてくださる着付け師さんにも来ていただけることになり、オシャレ大好きあーりんとしては、「この浴衣を着るためにも、何がなんでもMCをやらねば!!必死で食らいついていこう!!」と決意が固った。
ピンチやハプニングは絶えない
9月下旬、緊急事態発生。
エース・中嶋涼子さんの褥瘡(ジョクソウ)が悪化してしまった。涼子さんは療養のため、岡山での現地参加が難しくなり、チームMCもエース・中嶋涼子さん不在で進めていくことになった。
もう、「私はまだ経験値が少ないから…」とか「車いすユーザーになりたてだから…」なんて言い訳は言ってられない。「たとえエースが居なくても、私たちで最高のイベントにしなければ!!」と、今一度気合いが入った。自分の中にずっとあった自信のなさから来る”人の後ろに隠れていたい”というような気持ちが旅立った瞬間だった。
ピンチこそチャンスとはこういうことなのだなと実感した出来事だった。
ピンチは続くよ、どこまでも
だが、ピンチやハプニングが絶えないのもePARA。(チャンスが絶えない理由はこれもある気が。笑)
本番数日前、なんと今度はご家族のコロナ感染により有識者の希央さんも不在になったというのだ。
噂によるとまるぽすさんは喋り出すと止まらないので希央さんがそのブレーキ役になっているそう。アクセルしかない車にみぽりんと乗るような状況なのか。笑
どうなるのか全く想像がつかないまま、あっという間に本番の日を迎え、岡山へ。
まるぽすさんと顔を合わせるのはこの時が初めてだったが、チームMCの団結力の早さは光の速さ並だったので、当日まで抱えていた漠然とした不安も光の速さで飛んでいった。
実は、直前まで現地参加が危ぶまれていた人が…①
実はこのチームMCには、涼子さんと希央さんの現地でのリアル参加が叶わなくなるずっと前から、現地でのリアル参加がギリギリまで危ぶまれていた人がいた
それは…
まるぽすさんだ。
聞くと北海道在住のまるぽすさんは発病以来初の本州上陸だったそうで、今回のこのイベントのために入院療養まで計画的にして挑んだそう。この入院や日頃の体調管理、前泊などの努力や工夫の甲斐あって、まるぽすさんは東京を飛び越して岡山まで行くことができ、現地でのリアル参加が叶った。
実は、直前まで現地参加が危ぶまれていた人が…②
実はこのチームMCには、地でのリアル参加がギリギリまで危ぶまれていた人がもう一人いた。
それは…
あーりんだ。(そう、私もなんです。笑)
私、あーりんも6月末~8月末まで入院をしていた。
退院後は一度良くなっていたのだが、いろいろなことが重なってしまい、わずか3週間で再度悪化。在宅で訪問看護などに対応をしてもらって入院せずに凌ぐも、岡山に出発する日の夜中に入れていた点滴が漏れて腕がパンパンに腫れてしまい、緊急対応をしてもらったがためにほぼ寝ることができず、当日の朝を迎えていた。
それでも私は現地でのリアル参加にこだわらせてもらっていたので、新幹線は事前にに個室を予約させてもらって、横になって寝ながら岡山に向かったり、出発日深夜の出来事をチームメンバーにシェアさせてもらって、無理しすぎないように声をかけてもらうことで無茶しすぎることなく、現地でのリアル参加という希望を叶えることができた。
「本当に当日岡山に来れるのか疑惑」が最後の最後までありながらも、信じて待ち・支え・一緒にできる方法を模索してくださったスタッフの皆さんやチームメイトのみんなには本当に感謝してもし尽くせない。この場を借りて、ありがとうございました。
衣装の魔法
MC3人で浴衣のバランスを見ながらの衣装合わせ、リハーサル、ヘアメイク、着付け…と準備も着々と進んでいき、いよいよ迎えた本番。
直也さんと美里さんによる素敵な声でのドライバー紹介で会場も盛り上がってきたところで、チームMCの入場。会場の扉の前で待っていた時は心臓が飛び出るかと思うほどに緊張がMAXになっていたが、扉が開いた瞬間、この素敵すぎる浴衣の衣装、そしてカッコよすぎる着付けによる魔法がかかったかのように堂々と入場していくことができた。
その後もイベント趣旨説明などMCとしても、いつものようにおどおどすることもなく、会場を見渡しながら話すことができ、リポーターとしてもオンライン参加の方々の声を拾ったり、会場の声を拾いながら話していくことができた。
こんなにも堂々とみんなの前に立って話せたり、台本も読みつつ、アドリブでの実況やリポーターの掛け合いやオンライン・会場・プレーヤーをトークで繋いでいくような役割を果たすことができたのは初めてで、自分でも驚いている。
まるぽすさんも暴走することなく、持ち前の饒舌なトークとePARAの部活動で築き上げてきた信頼感で会場を沸かせ、ミポリンもとびきりの笑顔と明るさで盛り上げながら、「Stand Up!」で磨き上げたツッコミュ力も発揮し、チームMC一丸となってイベントを盛り上げていくことができた。
他の誰とも違う「私」だからこそ
私の今回のMC・リポーターという大役への挑戦は、プレッシャーや不安よりもワクワクや発見がたくさんあり、他人と比較することなく、他の誰とも違う「私」として挑んで行くことができた。
自分に自信が持てない私が、いつもしてしまいがちな他人とのネガティヴな比較もすることなく、度重なるピンチがあってもこうしてMCに挑戦し、1枚殻を破ることが出来たのは、このクロスラインのイベントだったからこそだと感じている。
なぜなら、クロスラインのサブタイトルでもある「~ボクらは違いと旅をする~」の意味に込められた思いが、イベント名だけではなく、会場そしてスタッフ、ドライバーの一人一人がしっかりと思いとして持っていて、「違い」を「悪いもの」とせず共に歩んでゆくという雰囲気・空気感になっていたから。
イベントを一緒に創り上げていく中で、様々な「違い」を尊重し合えたり、発見として価値や強みにしていけたり、お互いに新たな価値観を見出していこう、というみんなの空気や眼差しに励まされ、成功体験としてこのイベントを経験できたのは私だけではないはず。
この「クロスライン」に参加して…
たとえMCとして経験が浅くても、モータースポーツが無知であっても、ほとんどの人が初対面であっても、できないことや苦手なこと、いわゆる障害があったとしても、「モビリティ」や「障害」という共通のテーマを軸に語り合うこと、気づき合うこと、楽しんでいくことができた。自分自身に対しても、相手に対しても、できない・不可能と(”内側で”)思い込み、可能性や未来(“外側”)を決めつけていただけなことに気づくことができた。
またこの旅の中で私は病気や症状によって、やりたいことができなくなる可能性が悲しいほどに次から次へとたくさんあった。それでも諦めずにできる方法をみんなで考え、追い続けて、困難さえも超えられた。そして、イベント当日は難病患者であることをすっかり忘れるほど思いっきり楽しむことができた。
できない・不可能だと”内側”で思い込んでいたことをみんなで、そして一人ひとりが「本気で遊ぶ」ことで、交わりが生まれ、「明日が変わり」、“外側”にあった可能性や未来が内側をも変えていく。見事なクロスラインがここにもあったと感じている。