今から遡ること約1年半前。2022年11月に慶應義塾大学理工学部 牛場潤一研究室主導で行われた『BMIブレインピック2022』。
Fortnite内のアバターを脳波で操作する形で、各学校から選ばれた高校生の精鋭たちと(決められたコースを完走するまでの)タイムを競い合った我らがePARAユナイテッドの羽飛(つばさ)と猛留(たける)。
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私アフロも当日は広報要員として見守っていましたが、まさしく「こんな世界があったのか…!」と驚嘆する光景が広がっていました。何せゲームをするのに、手足を使わずコントローラーも持たずに挑もうとしているんですから。
ひと昔前なら「ただの念力…!?」と錯覚してしまいそうなこの光景が、今回さらに進化したというのです。
今年もまた、牛場研究室の皆さんにお招きいただき、ePARAユナイテッドのメンバーが慶應義塾大学 矢上キャンパスへと駆けつけました。
前回大会の様子を少しだけプレイバック
こちらは2022年、初回のトライアルで研究室のスタッフにインターフェースを装着してもらう羽飛。
ところで、BMIとは「Brain・Machine・Interface」の略であり、「脳活動を読み取り、コンピュータや義手などを操作する技術の総称」を指す。
言うなれば「身体もほとんど使わず、頭(思考)だけでゲーム内のキャラクター(アバター)を意のままに操ることができるのか」を検証するという、まさしく画期的なプロジェクト。
そしてこの大会ではあまりの難易度からリタイアやコースアウトをする者が続出。一同想定外の展開に会場がどよめきを見せる中、さすがのプレイを披露したのが猛留。
終始落ち着いた「脳さばき」を発揮し、慌てるそぶりも見せずに見事完走。校内選抜で選ばれた並いる高校生を抑えて準優勝を果たした。
「1人のアバターを3人で!?」 言葉なき協力プレイで意思疎通はできるのか
実は2022年、上記の大会において応援団長を務めたたけちゃんも、当初はプレイヤーとして参加する予定だった。しかし、当時は本プロジェクトの発足直後であり、BMI技術の性能が未知数だったこと、実際に彼の脳波の測定に苦慮した(波形が安定せず、脳波が測定されすぎてしまった)ことから、たけちゃん自ら「僕にはできない」と、仲間の応援に回った経緯がある。
本人は今回もそのつもりだったと言うが、直前になって形勢が逆転。牛場教授や助教の岩間さんの熱烈なオファーもあり、たけちゃんもついにプレイヤーとしての参加が決まった。
そして今回、特筆すべきはなんと言っても”3人プレイ”にある。1人のアバターを3人の意思を連携させて動かす。後から聞いた話によると、3人のうち2人の意思が一致していれば、アバターはその意に連動して動くらしい。
まさに助け合い、これぞ究極のユニバーサル。
そんなわけで、初めてプレイするたけちゃんチーム。惜しくも優勝とはならなかったものの、会場を大いに沸かせてくれた。
そして何より、言語の壁を乗り越え国境をも越えて、その多くをノンバーバルコミュニケーションと世界の共通言語である「スマイル」で楽しむ仲間たちを見ていると、より一層技術の進歩を感じずにはいられない。
それでも、MCを任されたからには場内に集いし全員に伝わる手法で、メンバー(ePARAユナイテッド)の魅力を伝えるのが私の役目の一つ。
本番中にも関わらず、英語で通訳をしていた女性にこっそり私の話の通訳もお願いしたのは、ここだけの話。英語を勉強する前に守りに入ってしまったのも、ひょっとしてDF(ディフェンダー)の性なのか。
こうして白熱した戦いは、ご覧のように【Team F】が24秒という圧倒的なタイムを叩き出して優勝。会場からは大きな拍手が送られた。
そして、これも天からの試練か、それともご褒美か。
(こうしたイベントでは極めて珍しい)スムーズな進行により生じた”逆アディショナルタイム”。そこで、最後は我がユナイテッドの面々が団結し、まるで優勝争いに絡むことができなかった悔しさを晴らすかのように日頃の連携を披露し、MCアフロの進行のピンチをカバーした。(このチームでよかった!)
今大会も盛会のうちに幕を閉じました。
まとめ
若い時からもっと英語にふれておけば、留学生の皆さんともう少し対話ができたのではないか。そんな個人的な反省はひとまず棚に上げて、プレイヤーからの切実な声と己の気づきを1つだけ。
初めてプレイしたたけちゃんは一言、「自分がこれでいいのか分からなかった」と苦笑いを浮かべていた。もちろんプレイヤーになれた喜びはあったと思われるが、初体験だからこその素直な感想。
次いで昨夏に新メンバーとして加入したもえは、胸から下の力が入らず体幹が効かずに手も握りづらいといった特性を持つ、(それでいて)ボッチャの日本チャンピオン。
そんな明朗快活な彼女もまた、「アバターに指令が伝わった時には首元(に付けた電極に)電気信号が流れるといい」と新たな工夫を提案。その真意をまとめると、次のとおり。
「(特に先天的な障害特性によって)自力で歩いた経験がなく、その想像が難しい、あるいは分からない人でも、(正しい脳波が出ていることを確認できるように)時に痛みや振動によって自らの感覚に訴えるような形で電気信号が流れたら、もっと分かりやすくなるし、容易に想像しやすくなる」
「自分の想像でアバターが動いている」ことが実感できる。それが何よりのやりがいとなりモチベーションにつながる。まさに、体験したからこその切実な声である。
最後に、所属先からの派遣という形で参加した敦也は技術の進歩に敬意を示しつつ、「今後も継続してブラッシュアップを続けることで色々な可能性が広がると思う」と、やはり未来を見据えた。
ともに戦況を見守った筆者(アフロ)としても、3人プレイをより有意義にする案を提示したい。「各々が左右、そして直進を方向別に担当」するというものだ。その上で、もえの言うような電気信号の使用、あるいは視覚化をすることができたらどうだろう。
今後の発展が楽しみでならない。
番外編
最後に、本プロジェクトのエースであり、我がePARAユナイテッドのエース(※背番号10)、羽飛の近況を少し。
自らを”破天荒大学生”と自認する彼も、今春で大学4年生。現在絶賛就職活動中なのですが、「ブレインピックだけは絶対行く!」と、この日も終盤のチームのエキシビションに合わせるかのように駆けつけてくれました。
しかし、さすがはWエース。本番に間に合わなかったことがよほど悔しかったのでしょう。ご覧のとおり、終演後に志願して1人で練習していました。
この想いは次回大会で必ず報われるはずです。
乞うご期待!
(文:アフロ/ePARAユナイテッド所属、CB,#4)
Photo by 細貝 輝夫(ePARAユナイテッドGM)