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光過敏性発作とアニメとゲーム~Dr.GAMESが「ポリゴンショック」を医学的見地から解説~

バリアフリーeスポーツ「ePARA」では、地域・年齢・性別・障害の有無の壁を打ち破るeスポーツカフェ、Any % CAFEのオープンに向けて準備を進めています。(Any % CAFEオープニングイベント7月20日、正式オープン2021年11月予定)
新型コロナウィルスの脅威がある中、ePARAでは一般社団法人 Dr.GAMESに感染予防策のアドバイスをいただきながら、障害を持つ方々にも安心していただけるカフェ運営を目指しています。

今回の記事では、ePARAのメディカルパートナーとしてお力添えいただいております一般社団法人 Dr.GAMESの杉山大岳氏に寄稿して頂きました。

(関連記事:Dr.GAMES理事・阿部智史、ゲームが導いたキャリア ~ガチゲーマーはこうして医師になりました~)

Dr.GAMESイメージ画像。

「いけ!ピカチュウ!10まんボルトだ!!」

この決めゼリフは皆さん聞き覚えがあるでしょう。

2本のゲームソフトから始まり、いまや日本のみならず世界を席巻する一大コンテンツにまで成長を遂げた、『ポケットモンスター』。その主人公、サトシと相棒ピカチュウは、これまで幾多の強敵と戦い、勝利し敗北し互いの絆を深めつつ彼らの世界を冒険してきました。私も一視聴者として、また一人のゲームプレーヤーとしてポケモンに触れてきました。通信ケーブルが無ければ隣の家の友達とも対戦できなかった平成初期は遠く過ぎ去り、今や部屋にいながら世界中の人々とポケモン交換・対戦し、つながることができるまでになりました。また、テレビ東京系列で放送されているアニメシリーズは24年目を迎え、その人気は衰えるところを知りません。

皆さんはポケモンが日本で巻き起こした大きな事件、ご存じでしょうか。

アニメ放送に伴うけいれん

時は1997年12月16日、アニメ『ポケットモンスター』第38話「でんのうせんしポリゴン」の放送日、いつもと同じように食卓を囲み、家族団らんのなか子どもたちがテレビをつけてサトシとピカチュウの冒険に胸を躍らせていました。この回ではコンピュータの世界を表現するために、ストロボやフラッシングなどの激しい点滅が多用されました。突如として画面が赤や青にまぶしく点滅を繰り返し、その直後「頭が痛い」「気持ち悪い」と大人も子どもも体調不良を訴えました。この現象は日本全国で確認されており、一説によると10000人以上が何かしらの体調不良を訴え、600人以上が救急搬送、数人が入院したということがのちに報告されました¹⁾。この事件はのちに「ポリゴンショック」として、公共放送によって生じた健康被害の最たるものとして広く知られることとなりました。

この「ポリゴンショック」による症状は、少々気持ち悪くなる程度から、嘔吐してしまったり、目がちかちかしたり、ひどい場合はけいれんが生じてしまったりするなど個人差はありますが、どれも等しく光刺激により生じたものです。これらの一連の発作様式、症状は「光過敏性発作」と名前が付けられています。以前より、「てんかん」を持つ患者がまぶしい光にさらされることでけいれん発作を生じるなど、光刺激に伴う光過敏性発作については知られていました。しかし、そうした疾患の指摘が無かった人も発作が誘発されたこの「ポリゴンショック」をきっかけに、この症状は世間に大々的に知られるようになり、既知の「てんかん」と光刺激の関連や、「てんかん」の診断を受けていない健常者と光刺激との関連について詳しく調べられるようになっていきました。

光過敏性発作の種類
欧米の成人男性のおよそ0.5%
12歳から14歳にピーク、男性より女性に多い
純粋光感受性てんかん
1.光刺激のみでけいれん、光刺激が無ければけいれんは起きない。
2.光感受性てんかん、光刺激の有無によらずけいれんが起きる。
3.体質性光感受性者
脳波の異常はあるがけいれんは起きない。

物理学的側面から見る光過敏性発作

光刺激、と一口に言えど、すべての目に入る光がリスクになるわけではありません。研究の結果、特にけいれんを誘発しやすいとされる光の特徴は、「波長の長い赤色の光」と「一定の周波数で生じる光」、そして「強度が高い光」の3点だと分かりました。

体に影響のある光というと、ブルーライトや紫外線を真っ先に思い浮かべるかもしれません。しかしながら、光過敏性発作については波長の短いブルーライトの反対、「波長の長い赤色の光」がリスクとされています。アニメ放送から間もない時期は、赤と青の点滅が交互に繰り返された直後の発作が多かったことから、赤色と同様に青色の光も影響を及ぼしている可能性が指摘されていました。しかし、色相の違いによる影響よりも、特定の光を感受する細胞への刺激がより発作に直接的な影響を及ぼしているとのデータもあり、現在では赤色の光、特にそれが15Hz程度の周波数で点滅刺激を生じると最も発作のリスクが高まると言われています。

Hz(ヘルツ)の話題が出たところで、「一定の周波数で生じる光」の説明に移ります。日本のアニメーションは現在に至るまで24fps(フレーム・パー・セカンド)で構成されています。1秒間に24枚の画像を表示するわけですね。厳密にはアニメーションごとやアニメ内でのキャラクター、背景ごとにfpsが違うのですが、大まかに24fps程度とお考え下さい。「ポリゴンショック」を生じた回では、赤と青の強い光の点滅が瞬時に繰り返されていました。仮に1秒間に24枚の背景画像が赤・青で交互に表示されるとすると、赤色の画像は1秒間に12枚表示されることになるので、単純計算で12Hzの赤色光の点滅が生じます。光過敏発作を生じるリスクがあるとされる周波数は10-20Hzとされており、赤色光に加え周波数の上でも高リスクな光刺激となり、まさに危険な放送内容であったと言えます。

 そして「強度が高い光」ですが、これは想像に難くないと思われます。輝度がおおよそ1000lx(ルクス)を超える光は光過敏発作のリスクを高めるとされています。これは一般的な事務所内の明るさや、机に参考書を広げて勉強をするときに適した明るさであり、日常でも体験する明るさです。

「ポリゴンショック」を機に作られたガイドライン

「ポリゴンショック」は上記のような、放映にはやや不適当であった光信号の条件が重なってしまったために生じた事件であることがわかります。この「ポリゴンショック」を受け、日本放送協会(NHK)および日本民間放送連盟は「アニメーション等の映像手法に関するガイドライン」を事件の4か月後に発表しました。内容は概説のみとしますが、鮮やかな赤色の使用を避けることや、点滅表現使用の制限などが盛り込まれ、以降のアニメ放送における制作規範となっています。このガイドラインにはそのほかにも、「渦巻きや縞模様、同心円模様などの規則的なパターン模様」も光過敏発作の一因となり得ることが明記されており、同様に放映の規制対象とされています。

 では、光過敏性発作について、テレビ視聴者である我々はどのように考え、対応すればよいのでしょうか。現在は、先述の通りアニメ放送についてはガイドライン作成がなされており、今後「ポリゴンショック」のような事件が再発する可能性は極めて低いと考えられていますが、ゲームプレイ時には引き続き注意が必要です。

光過敏性発作の予防策とは?

 予防策としては、大きく分けて①画面から離れて見る、②テレビの明るさを落とす、③リラックスして視聴する、の3つが挙げられます。

 ①テレビから離れて見る、は近年のテレビ放送ではよくテロップで注意喚起がなされているので、心当たりのある方が多いと思われます。光過敏発作を生じる一つの原因として、「視野における画面占有率」、つまり自分の視野いっぱいに光り輝くテレビ画面が大きく映れば映るほど症状を発症する可能性が高まってしまうとされています。適度に距離を保つことによって視野占有率の改善であったり、光強度の減弱を期待できるため、②テレビの明るさを落とす、という意味も含めて、このテレビからの距離を置いての視聴、ゲームプレイは有用とされています。

 ③リラックスして視聴する、という部分に関しては前2者と比しやや抽象的な内容となってしまっていますが、幼い子供たちが夢中でテレビにかじりついて色んなアニメを視聴する姿、あるいは前のめりの格好でゲームに熱中する姿は、比較的よく見かける光景と思われます。一心に画面を見続けている中でその画面がいきなり強い光を発して点滅しだしたとすれば、おそらくその子供たちは思わず目を覆って泣き出してしまう事でしょう。それだけ集中してテレビを見ている証左ということですね。光過敏性発作のみならず、そのほかのてんかん傷病者の方などで、精神的情動がけいれんやその他症状のトリガーとなることは往々にして報告されています。夢中になってテレビを見る、ゲームをする、本を読む、などの動作が精神的緊張を生じさせ、結果としてけいれんなどの症状を表出しやすい状態を生み出していることが考えられています。そのため、ソファーに座ってお茶でも飲みながらリラックスして視聴する、ということは、殊の外大切な行動であることがわかります。

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光過敏性発作は日常のすぐそばに

このように、光過敏性発作は日常のすぐそばに存在しながらも、実は気づかれていない可能性のある病気です。しかし、その特徴、発作の誘因を学習し、適切な対処をすることで日常生活に害をなすことなく過ごすことも可能であることから、日々の予防策が重要視されます。既に放送上の対策を取られているアニメもそうですが、ガイドラインの存在しないゲームをプレイする中では、光過敏性発作を生じてしまうような表現がとられている可能性は存在します。どんなに負けられない切迫したゲームに挑むときも深呼吸して肩の力を抜いて挑めるように、どんなに楽しみにしていたアニメの放送を見るときもちゃんとソファーに座って飲み物片手に視聴できるくらいの余裕を持ちながら、これからのデジタルライフを楽しみたいですね。

1)高橋剛夫 光感受性てんかんの臨床神経生理 新興医学出版社 2002年

参考URL

公式サイト:一般社団法人Dr.GAMES
Twitter:Dr.GAMES【公式】医療×ゲームで人々を健康に
Youtube:ぴろりんげねらるtube

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杉山 大岳

ゲーム好きの総合診療医。RPGを中心に幅広いジャンルを嗜む。医療情報やゲーム実況などを幅広くYouTubeで配信中。

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