2024年9月14〜15日、ePARA主催で開催された「ストリートファイター6」のオフライン大会「ハチエフ HACHIMANTAI 8 FIGHTS '24」。この記事では、格ゲーをこよなく愛する難病当事者(若年性パーキンソン病)のsanakenが、来場者やゲストの声を交えながらイベントの様子を前後編にわけてレポート。そこには、バリアフリーeスポーツイベントの理想像がありました。
前編はこちら
格闘ゲームが持つ無限大の可能性 -「ハチエフ」に見たバリアフリーeスポーツの理想像-(前編)
次世代のJeni? 格ゲーに青春をぶつける少年
手と足で操作するDAIJIROO君
多くの車椅子のプレイヤーが来場していたハチエフ。そのなかでも、特に僕の目に留まった少年がいます。それは、地元岩手県在住の16歳、DAIJIROO君。手と足で2台のAccess™️コントローラーを器用に操りながら「スト6」をプレイする姿に釘付けになりました。しかも、めちゃくちゃ強い! 話を聞いてみると、格闘ゲーム歴9ヶ月にしてMASTERランクとのこと!(僕は格闘ゲーム歴30年近いですが、MASTERの一つ下のダイヤランクです…)。
「ゲームは5歳くらいからやっていて、DSのマリオカートとかSWITCHのApex Legendsとか。スト6を始めたきっかけは、Jeniさんの家へ遊びに行ったこと。Access コントローラーでスト6をプレイさせてもらった後、コントローラーとPS5を貸してもらえることになって」。
プレイをはじめる前は「格闘ゲームは操作が難しいし、自分にはできない」と思っていたそう。まずは、自分の体に合わせてAccess コントローラーのボタン配置を決めるところからはじめて、少しずつ練習を重ねます。最初は手でコントローラーを使っていましたが、より操作レベルを高めるために手と足の二刀流に変更するなど、工夫を凝らしながら地道にプレイ。「こんなにハマるとは思ってませんでした。格闘ゲームっておもしろい!」と笑うほど、気が付けばスト6にのめり込んでいたそうです。
実は、ボッチャという競技で国体に参加したことがあるDAIJIROO君。ですが、ボッチャの練習や大会が夏期しかないようで「常に打ち込めるものが欲しかった」と思っていたところ、目の前に現れたのが「スト6」。季節を問わないうえ、自宅で練習できるとあれば、国体に行くほど一つの競技を極めた彼だけに、一気にMASTERランクまで駆け上がるのも納得です。
共に戦える嬉しさと、本気の悔しさと
DAIJIROO君は「2on2大会」へも参戦。ペアを組んだのは、ゲストとして来場していた超人気ストリーマーの布団ちゃん。「配信を見ていたし、ペアを組めるのがすっごく嬉しかった! 今日のためにめちゃくちゃ練習して、使用キャラのルークを仕上げてきました!!」と、本気でハチエフに挑んでいました。
一次予選、DAIJIROO&布団ちゃんの試合がスタート! プレイする彼の目はリングに上がる格闘家と同じ。何としても勝ちたいという気迫が伝わります。布団ちゃんも彼の横にしゃがんで目線を合わせ、声援とアドバイスを送ります。彼が布団ちゃんのプレイを見守るときも、誰よりも真剣な表情で画面を見つめ、大きな声で声援を送っていました。
試合の結果は、奮闘するものの二次予選で敗退。決勝ステージに立つことは叶いませんでした。
「本気で悔しい!! こんなに負けず嫌いな自分が出たのは本当に久々。布団ちゃんからも『来年一緒にリベンジしような!』と言ってもらえたので、来年は一緒に優勝したいです!」
とDAIJIROO君は悔しさをにじませつつ、来年の雪辱を誓います。
ハチエフに参加してみての感想は?
「ペアが見えるところにいるのが嬉しい。僕が勝った時に布団ちゃんが肩パンしてくれたり(笑)。リアルに声を掛け合って、勝ったら抱き合えるのってほんとに良いなって」。
オフライン大会の魅力について笑顔で語ってくれました。
ハチエフのゲストや関係者のことば
ここからは、来場してくれたゲストやイベント関係者の声をご紹介します。ハチエフに訪れてみての感想や想いなど、どんな印象を持ってくれたのでしょうか?
豪華ゲストが語るハチエフ
KBD氏(アーティスト/梅田サイファー)
「Jeniさんと2on2に挑みましたが予選負け!勝つ気で来ていたので悔しい!もっと強くなりたいです! “自分のやりたいことのために生きる”というJeniさんの姿勢は本当に素晴らしいし、Jeniさんにとってのゲームが、僕にとってのHIPHOPなんだなと。挑戦するスタンスに梅田サイファーと通じるものを感じました。ハチエフは来場者の客層が広くて、どんな人も受け入れる器がある。何度でも来たくなるようなイベントにしていって欲しいです!」
布団ちゃん氏(ストリーマー)
「DAIJIROOと一緒に2on2に参加して、彼が全力で戦い、自信をもって挑み、『よっしゃー!』と咆哮を上げる姿に元気をもらいました。僕は元作業療法士でもあってその目線で見ると、ゲームの楽しみ方の提案は、本来は地域のサポーターの役割。けれど、コントローラーやPCなどの知識がない人も多いと思うし、ゲーム=健常者にフォーカスしがち。もっといろんな人たちに届いて、参加者が増えればいいなと。ハチエフに来て新たな可能性を感じました。ぜひ来年も参加させてください。」
ハンサム折笠氏(ハンサム)
「Jeniさんがコントローラーの工夫によって『自分のせいでしかない勝負ができる』と言っていたのですが、これは“平等に悔しくなれる”ということでもあると思うんです。自分以外の”何かのせい”にはできないですから。“悔しさ”があるからこそ楽しめる。ハチエフはゲームのすそ野を広げる意味でも素晴らしい。素敵なイベントに参加させていただきました。岩手県は私の地元でもありますし、来年もぜひ!」
石井プロ氏(格闘ゲーマー/映像クリエイター)
「昨年からハチエフに協力していますが、昨年と比べて来場者も増えているし、順調に成長しているなと。対戦会は全国で開催されていますが、格ゲーマーだけではなくて、障がい者も気兼ねなく対戦できるイベントは唯一無二。しかも、この会場にはホテルもあってアメリカの『EVO』に近い環境ですし、おもしろい大会に育てられるんじゃないでしょうか? 500人、1000人規模の東北大会として根付いて欲しいと思います。」
大須昌氏(格闘ゲーマー/eスポーツカメラマン)(写真左)
「30年近く格闘ゲームシーンを見てきましたが、ハチエフのような大会は初めて。全盲の方、手と足で操作する少年、顎コントローラーのJeniさんなど、障がいを持つゲーマーのイメージを越えてきました。イベントを撮影するカメラマンとしても動いていましたが、車椅子に座った人をいかに”カッコよく”撮るか? そんなことを考えたのも初めてでした。コントローラーの工夫と、『スト6』のモダンモードのような技術を組み合わせれば、健常者と障がい者の距離を縮められるんだなと。ハチエフは違う視点を貰えたイベント。自分の愛する格闘ゲームの可能性を感じられたし、本当に来てよかったです。」
イベント関係者が語るハチエフ
田村泰彦氏(八幡平市 副市長)
「八幡平市ではSDGsを推進するなかで、健常者と障がい者の交流も歓迎しています。多様性を受け入れ、障がいを持つ人が住みやすい街になるにはさまざまな選択肢が必要。これからも新しい試みに挑戦しながら、障がい者eスポーツの聖地となっていけばと思います。3回目の開催にも期待したいです。」
河野考史氏(株式会社サイコム 代表取締役)
「私はePARAのステートメント”本気で遊べば、明日は変わる”が好きなんです。代表の加藤さんの人柄と熱意に惹かれてお付き合いがはじまりましたが、今回のイベントもクラファンで支援を集めて挑んだ『EVO』と同様に、Jeniさんの熱意が人を巻き込み、成し遂げられたのだと思います。サイコムとしても社会に対してインパクトのあることをしたいと思っていますので、ハチエフのお手伝いができてよかったです。これからもサポートしていきたいと思います。」
加藤大貴(ePARA 代表取締役)
「ハチエフを開催するきっかけは、『車椅子でも楽しめるような、ストリートファイターのイベントが地元岩手で開催できるなら死ぬ気で頑張れると思う』というJeniの言葉。実現のために、官民連携事業研究所を頼って八幡平市様と相談させていただき、なんとか開催にこぎつけたのが昨年のハチエフでした。今年はそこからブラッシュアップし、規模を拡大して開催できたのは、みなさまの協力があったからこそ。八幡平市を障がい者eスポーツの聖地として盛り上げていきたいと思います。」
Jeni(ePARA/ハチエフ・プロデューサー)
「初めての大会開催ということもあり、手探りで準備を進めてきました。結果として、エントリー枠が埋まるほど多くの人に参加してもらえたし、『来年も参加したい』という声がたくさんもらえて嬉しかったです。アクセシビリティコントローラーについても、当事者だけではなく、格闘ゲーマーにも興味を持ってもらえたり、さまざまな人に障がい✕eスポーツのことを知ってもらえたと思います。来年も開催に向けて動いているので、東北の大規模格闘ゲーム大会として、障がいの有無に関わらずゲームアクセシビリティを体験できる場にしていきたいです。」
最後に。ハチエフで感じたこと
2日間に渡って現場を見て、体験して、声を聞いて思ったことがあります。それは、「ゲームには可能性しかない」ということ。ありふれた言葉かも知れませんが、強くそう思いました。
40代の私は、ゲームセンターで格闘ゲームをプレイしていた世代。そこには、年齢も、性別も、仕事も違う、多種多様な人が集まっていました。共通項はゲームのみ。そして、ゲームをプレイするうえでは、あらゆる違いは意味を持ちませんでした。
ハチエフで感じたのは、そんなボーダレスな空気。私たちはゲームを楽しむプレイヤーとして平等であり、そこには障がいがあろうが、無かろうが関係ない。ゲームを通じて感情を交わし、「ただの人」としてコミュニケーションする。とても健全で、真っすぐで、心地よい空間でした。
そして、もう一つ印象的だったのは、DAIJIROO君との出会い。一勝する度に「よっし!!!」と車椅子から落ちそうな勢いでガッツポーズを決め、負けたときには「くそっ!」と大きく体をよじり、布団ちゃんと勝利の喜びも敗北の悔しさも分かち合う。そんな彼の姿を見て、胸が熱くなりました。
そこから感じたのは、何かに夢中になることの尊さ。同じ空間と時間を共有しながら、心が繋がることの大切さ。これは障がいの有無なんて関係なく、人として忘れてはいけない部分。情報を摂取するだけで満足し、他者とのコミュニケーションがオンラインに置き換わる時代に、大切なものを思い出させてくれた気がします。
ゲームはボーダレスなコミュニケーションツール。健常者や障がい者という境界線をなくし、未来をおもしろくするもの。可能性の塊です。来年の開催を心から期待しています!
大会パートナー
協賛
株式会社サイコム
株式会社Yogibo
株式会社JAPANNEXT
株式会社インフォアクシア
ジャパンエナジー株式会社
上新電機株式会社
株式会社バイオマスレジン北日本
SAINT EVOLUTION
技術協力
岩手eスポーツ協会
Beat
開催協力
ストリートファイター6 ©CAPCOM