昨年大成功で幕を閉じた「クロスライン—ボクらは違いと旅をする—」の第二弾が、2023年9月2日(土)〜3日(日)、栃木県「モビリティリゾートもてぎ」で開催された。その名も「クロスライン—ボクらは違いと旅をする—SEASON2」(以下、クロスライン2)。
株式会社ePARAが、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の「Make a Move PROJECT」での採択を受けて実施する実証実験だ。
シーズン2となる「クロスライン2」は、「障がいの有無に関係なく、誰もがレーサーになれる社会を目指し、より多くの人にモータースポーツの魅力を知ってもらう」という目的で実施され、今回は大きく分けてふたつのプロジェクトが同時進行した。
ひとつは市販の四輪車両に改造を施した車両で勝敗を争うスーパー耐久(S耐)と併走するバーチャルレースを実施する「クロスラインレース」。
もうひとつは筑波技術大学と連携して、視覚障がい者および車椅子ユーザーが実証協力を実施する「クロスラインミニツアー」だ。
筆者は ePARA Voice 事業部長の北村直也氏とともに、「クロスラインミニツアー」に参加する筑波技術大学の学生に同行。その様子をお届けしよう。
参加メンバー
まずは「クロスラインミニツアー」に参加した情報システム学科7名の学生を紹介していこう。
河野さんのゲーム歴は高校生から。iPadでできるRPGをよくやっているとのこと。「クロスラインミニツアーでは、いろいろな知識を持ち帰って今後に生かせるようにしたい」とイベントへの意気込みを語っていただいた。
岡田さんは幼稚園にいたころからPlayStation Portableで「太鼓の達人」シリーズをプレイ。さらにはNintendo DSやWiiといった数々のコンシューマー機から、PCやタブレットでのゲームなど幅広いジャンルをプレイ。最近では『ストリートファイター6』でブランカを使い、晴眼者の教師を倒すなど実力も折り紙付き。そんな彼女が今回の「クロスラインミニツアー」で楽しみにしていることは「点字を使って楽しめるプロジェクト」。レースが見えなくても楽しめる、体験できるものがどれだけ進化してきているのかを身につけていきたいとのこと。
一方、小学〜中学生時代は「ぷよぷよ」シリーズや「テトリス」といった落ちものパズルゲームや音ゲーをプレイしていた佐藤さん。「クロスラインミニツアー」では、実際にさまざまな実証実験を体験して吸収していきたいとコメントした。
平さんが初めてさわったゲーム機はニンテンドーDSi。「スーパーマリオ」シリーズや「太鼓の達人」シリーズといったゲームにふれ、スマホを持ち始めてからは『テトリス』をプレイしたようだが、視力をうまく使うことができなくなってからは疎遠になってしまう。そんな彼女が今楽しんでいるゲームは、筑波技術大学の松尾先生が開発した、さわって楽しむ落ちものパズルゲーム「タクトリス」。「レースの知識はないけれど、最新のレースゲームや技術にふれられればと思います」と意気込みを語っていた。
藤井さんのゲーム歴は20年で、初めてさわったゲームはスーパーファミコンの『スーパードンキーコング』か『超魔界村』とかなりのベテラン勢。今回の「クロスラインミニツアー」を通じて「僕よりも視覚障がいのある人が楽しめるようなアクセシビリティーや機能を見つけていきたい」と述べた。
ゲーム歴14年で主にNintendo系のゲームをプレイしてきた長島さん。そのほかに『モンスターストライク』を6年以上プレイしているとのこと。カーレースを実際に体験できること、視覚障がい者がどれだけ楽しめるようになっているのかに興味があると語っていた。
ゲーム歴は15年。幼稚園の頃からゲームをプレイしているという楢崎さん。最近ではPCやiPad、Nintendo SwitchなどでアクションやRPGといったジャンルのゲームをプレイしているとのこと。ゲームや映像作品における視覚障がい者向けアクセシビリティーについて興味があるので、実証実験やレースを通じて知識を深めていきたいと意気込みを語っていた。
彼らが体験するのは「モビリティリゾートもてぎ」で開催される、アイデアの社会実装プロジェクト「Mobility for ALL 2023」で展開される実証実験。今回は5カ所の実証実験に参加したので、それぞれ紹介していこう。
【Dot Inc.】点字でレースが楽しめるDot Pad
世界初の触覚映像ディスプレイ「Dod Pad」を展示していたDot Inc.。俯瞰で見たコースマップが点図で表示され、実際にコースで走っている車の情報も点字で楽しむことができるほか、手書きの文字や絵を点図で表現できる機能などがある。
現在車が走っている部分のコースが太くなり、その太くなっている軌跡をたどれば、今レースで走っている車の現在位置が確認できる仕組みのようだ。
さらにiPadと連携することで、iPadに書いた手書きのイラストや文字を瞬時にDod Padに反映させることもできる。レスポンスがいいので、晴眼者と視覚障がい者の意思疎通にも使えるかもしれない。
今回はDod Padでレースの実況を楽しんだり、リアルタイムで転送される文字や映像を学生の皆さんに体験してもらい、彼らに感想をうかがってみた。
河野さん
全盲の人や点字使用者にとって、とてもいい試みだと思いました。私は弱視ですが、車の色は把握できても、ディテールまでは把握できないことが多いです。観戦しながら、どんな形の車でどんなメーカーの車が走っているのかというのをDot Padで知ることができるのはうれしいですね。
岡田さん
レースの全体像が把握しやすいのはいい点だと思います。視覚的な映像というよりも、手と耳を同時に使いながら、車が今どの辺を走っているのかを確認できるのは視覚障がい者にとってもわかりやすいですね。
一方で問題点もありました。視覚障がい者にとって、自分が今どの角度から、どの辺で観戦しているのかというのはわかりづらいです。例えばゴールの手前なのかもしれないし、出発したばかりなのかもしれない——。ディスプレイの下側にも点字を表示するスペースがあるので、あとゴールまでどれくらいなのかといった情報が同時にわかるといいなと思いました。
またボタン操作の難しさも懸念があります。6つの物理ボタンがあるのですが、ふたつのボタンを同時に押す操作もありました。慣れればもちろん使いこなせるようになるとは思うのですが、初めての方が使うのには難しいのかなと感じました。
手書きの文字や絵がDot Padに転送される機能は、指を離した瞬間に表示されるので、レスポンスが良かったです。逆にiPadから指を離さないとDot Padに表示されないというのは問題点のようにも感じました。例えば一筆書きをしたい場合、一筆書きが完成してから一気にDot Pad側に表示されるというのは、なんか違うじゃないですか。
あとは円を描いても角張って表示されてしまうので、丸みのあるデザインを正しく表示するのは難しそうでした。
佐藤さん
私は目で見ることが多く、指先の感覚がそこまで鋭くないので、(使いこなすのは)難しかったです。もっと視覚的にもわかりやすかったら私でも使いこなせそうだと思いました。また車が走っている軌跡が表示されるので、指先の感覚が優れている人には便利だと思います。
手書きの文字や絵がDot Padに転送される機能は驚きました。その場で説明したい時なんかに便利そうですね。
平さん
私が通っている大学にも似たように点字を表示するデバイスがあるので、新鮮味はありませんでした。ただ大学で使っているデバイスは製造中止になっていて、リアルタイムで点字が表示されるデバイスが新しく出てきたらいいなと思っていたので、Dot Padは有力ですね。
またDot Padは動きが再現できるので、レースだけでなくゲームとかでも使えたら面白いなと思いました。
藤井さん
出場している車種のフロントビューやサイドビューをさわって確認できるというのは画期的で感動しました。フロントのエンブレムも点図で再現されるので、車種の違いがわかって面白かったです。
レースの状況を確認する場合、ファンクションキーを自分で入力して、手動で状況を更新する形だったのですが、これが自動で更新されたらもっといいデバイスになるのではないでしょうか。
自動が難しい場合でも、更新のタイミングをあらかじめアナウンスしてくれるという機能があると便利かもしれませんね。
あとは物理ボタンについて、これがファンクション1で、これがファンクション2だとわかるように、キーの上に文字なり点字なりで説明があると便利だと思いました。
手書きの文字や絵がDot Padに転送される機能は、コミュニケーションの拡張性を感じました。晴眼者と点字ユーザーがよりコミュニケーションを取りやすくなりそうです。
長島さん
手書きの文字や絵がDot Padに転送される機能は、普段点字を読まない僕でもわかりやすかったです。全盲に限らず、弱視の人でも使えるんじゃないかなと感じました。学習にも向いてそうで、地図の理解が深まるのではないかと思います。
楢崎さん
点図と音声を使って車の位置や状況がわかるのは楽しいですね。ただ操作が難しいのが難点でした。ボタンの数が多く、どれがどのボタンなのかがわかりにくいのと、同時押しを要求される操作もあったので、ボタンをわかりやすくするなど改善点は必要なのかなと感じました。
【株式会社 JDSC】リアルとSNSの融合でより没入感を!Groove Partner(仮称)
視覚障がい者でもより没入感のある観戦が楽しめる「Groove Partner(仮称)」を展示していた株式会社JDSC。Groove Partner(仮称)は、実際のレースを観戦しながら、SNSやYouTubeのライブチャットを収集。その内容をユーザーに伝えるという機能が備わったアプリだ。
実際レースが開催されると、レースに観戦に来ているお客さんがSNSで発信したり、YouTubeのライブチャットにコメントをしたりする。その内容が分析系のコメントなのか、それとも感情系のコメントなのか、はたまた事実系のコメントなのかをAIが分析し、それぞれのコメントに適した声色や音量で読み上げるといった機能を楽しむことができるとのこと。
今回は過去に行われたレースの映像を元に、当時のライブチャットやSNSの声を分析。実証実験に参加したユーザーに聞いてもらうという形で実証実験が行われた。
音声だけでレースの没入感を感じるのは非常に難しい試みだと感じるが、Groove Partner(仮称)を体験した学生の皆さんがどのように感じたのかをうかがってみた。
河野さん
ライブ配信のように映像を見ながらコメントを追うというのは、私たちのような弱視だと難しいです。コメントを音声で聞き取ることで、「ああっ!」とか「今の大丈夫か〜!」みたいな感情的なコメントを瞬時に聞き取ることができたり、目の負担をかけずに映像と同時にコメントを追うことができたりするのは便利だと思いました。
映像を見ながらコメントを追えないという視覚障がい者の問題点が改善できるのではないでしょうか。
一方で、外の環境音やインタビューの音声、たくさんの音声に加え、コメントの読み上げも同時に聞こえて来るので情報量が多すぎる場面もありました。そういった場面では情報量を減らしてほしいなとも感じました。聞きたい情報を自分で選択できるようになったら、より使いやすくなるような気がします。
岡田さん
左右から別々の音声が流れて、さまざまな情報を聞き取ることはできるのですが、どうしても本放送の音声がメインになってしまうので、コメントの読み上げは聞き取りづらい点はありました。
例えば音声が混線しないよう、ミキサーのような個別にボリューム調整できる機能があると使いやすくなるんじゃないかなと思いました。
佐藤さん
個人的には情報量が多すぎて聞き取りづらいとは感じました。左右から別々の声が聞こえてくるので「あっ、こっちからも声が聞こえてくるっ」ってびっくりしちゃいました(笑)。
コメントの読み上げに感情があることで臨場感が得られるというコンセプトだとは思いますが、個人的にはもうちょっと単調でもいいのかなと感じました。
平さん
YouTubeのような配信でも、チャットを読み上げソフトを使っている人もいるので、そういった配信を聞き慣れている人にとっては便利な機能だと思います。
ただ左右に音声が割り振られているのですが、コメントで音声がゴチャゴチャしてしまうこともあり、ライブ本来の音声に耳が集中できないこともありました。
音声が重なるというのは、たくさん情報を拾ってくれているという意味でもありますが、情報が多すぎて頭が追いつかないこともあるので、チャットを拾いすぎないのも大事なのかなと思いました。
あとはチャットの音声を左右に割り振る必要はないのかなとも感じました。左右から別々のコメントが流れることで疲れやすい印象です。ライブの音声と一緒に中央から聞こえた方が聞き取りやすいようにも感じました。
藤井さん
実況に加えライブコメントまでもが読み上げられるというのは、視覚障がい者にとって楽しめるポイントだと思いました。実際にその場にいって、そこの歓声を聞いているような気持ちになれるので、面白い実験だと思いました。
またコメントの内容をAIが判断して声色を変えてくれている試みもよかったです。考察をしているコメントは男性の声が、歓声のようなコメントは女性の声だったのは個人的に楽しかったです。
ただ情報過多な部分もあったので、考察だけを読み上げるモードとか、歓声だけを読み上げるモードとかコメントを絞れる機能があるといいと思いました。
長島さん
正直僕には合わなかったです。車の音と実況の声、それにコメントを読み上げる音声という3つの音声が同時に流れていると頭の中での処理が追いつかなかったです。
ボタンで音声を切り替えられるシステムもあったんですけど、コメントを読み上げる声が機械音声なので、あんまり感情が伝わりづらかったです。この辺がよりリアルな音声になるとより楽しめるんじゃないかなと感じました。
楢崎さん
リアルタイムで盛り上がっているコメントが読み上げられるのは楽しいですね。実況音声とリアルタイム読み上げの声質が似ていると、どちらか一方にかき消されてしまうことがあったので、そういった部分が改善されると聞き取りやすくなるんじゃないかと感じました。
【パナソニック株式会社】VRで障害物が見えるようになる弱視支援グラス
パナソニック株式会社が開発しているのは、周辺視野が欠損しているような、弱視の人をターゲットにした「弱視支援グラス」だ。
VRゴーグルのような形状をしていて、前面に内蔵されているカメラで空間の映像を認識して映像を映し出すといったデバイスだ。障害物がある場合は、周囲を囲むようなアイコンで表示されたり、矢印が表示されてあらかじめ視野外の障害物を認知できたりと、白杖を持たなくても移動ができるような仕組みになっているとのこと。
そんな弱視支援グラスを体験した情報システム学科の学生および、いちほまれ選手に感想を聞いてみた。
河野さん
さまざまな視覚障がいに応じて見え方が調整されるというのはすばらしいと感じました。弱視でも視野が欠けている人でも、どこに何があるのかが鮮明にわかるのは良かったです。
弱視の場合、通常の光でもまぶしく感じることがあるのですが、ゴーグルで輝度を調整することで、障害物との距離感がつかみやすくなりました。
藤井さん
周囲に障害物がある場合は矢印でお知らせしてくれるので、弱視の僕にとってはとても使いやすかったです。ただ重さによってズレてくることもあったので、もう少し軽量化できたらうれしいですね。
いちほまれ選手
目の前にモニターがあって遠くの映像を近くで見られるようになっているので、白杖を使わずに歩くことができるのは大きなメリットだと感じました。
モニターを歩きながら見ていると画面がぶれて違和感を感じるので、その辺が改善されたらうれしいです。画像だけでなく音や振動などと組み合わせて周囲の情報が取れたらもっと使いやすくなるんじゃないかと感じます。
【Lighthouse Tech】障害物を振動でお知らせするスマートグラス
サングラスのような形状でありながら、障害物を感知するとバイブレーションで知らせてくれるスマートグラスを展示するLighthouse Techのブース。
非常にシンプルな形状にも関わらず機能性に優れ、多くの学生さんが絶賛していたデバイスだ。特に周辺視野が欠けている弱視の人にとって、日常的に使えるデバイスになりそうだというコメントが挙がっていた。
実際に装着した学生の意見を紹介していこう。
河野さん
視覚障がい者が使う機器ってどうしてもゴツかったり重かったりするのですが、こちらのスマートグラスはサングラスの形状で軽量なので、日常的に着けていても違和感がないのはうれしいですね。
また映像的に障害物を知らせるのではなく、振動でお知らせしてくれるので、全盲の人でも使うことができるのもメリットだと思います。
ストラップがおしゃれで気に入っています!
平さん
左右にセンサーがついていて、障害物がある方が振動するのが良かったです。視覚情報がなくても、振動を頼りに障害物がない方を選びながら歩けるのはうれしいですね。
基本的に白杖は足下しか探ることができないですが、このスマートグラスだと顔の位置にくる障がい物も検知できるので、車のサイドミラー的な役割を担えると感じます。
私的には100万円出してでも買いたいって思うほど便利でした。最後の方で価格を聞いたら1,400ドルとのことだったので「えっ、1,400ドルで買っていいの?」って思っちゃいました(笑)。
藤井さん
自分たちのような視覚障がい者にとって一番身近ですぐに製品化してもらいたいデバイスだと感じました。実際に装着して歩かせてもらったのですが、事前にバイブレーションで障害物を感知してくれるのでとても歩きやすかったです。
説明を受けている間も、隣に人がいる場合、常にバイブレーションでお知らせしてくれるので、周辺視野が欠けている人も安心して人混みの中でも歩行できると思います。感覚的には盲導犬を連れて歩いているのと同じくらいの安心感でした。
このまま製品化してもいいんじゃないかというくらいの完成度でしたが、ゆくゆくは自分が普段使っているメガネに装着できるようなマウント型の開発にも期待したいです。
楢崎さん
視力を使わなくても周囲の障害物を察知することができるのはうれしいですね。僕はまぶしい時に視力が機能せず、障害物に当たってしまうことがよくあったのですが、これがあればそういった心配も軽減されるんじゃないかと思いました。
【株式会社ePARA×テクノツール株式会社】誰もがレーサーになれる世界を目指す
最後は株式会社ePARAとテクノツール株式会社が共同で実施したクロスラインレースの会場を紹介しよう。
VIPルームではオンラインレーシングシミュレーター『iRacing』を使った本格的なレースが体験できるコーナーを株式会社ePARAとテクノツール株式会社が共同で展示していた。
テクノツール社・VERSUS姫路店の協力のもと、本格的なプレイシートが設置され、実際のサーキット場を目の前にして、同じコースを『iRacing』で走ることができる。
今回は視覚障がいを持つ学生にも、重度肢体不自由のある人たちが利用できるプレイシートにふれてもらい、どのように感じたかをうかがってみた。
河野さん
私は車椅子用のシミュレーターを体験しました。安全運転で進もうと思ったのですが、ちょっとした操作ですぐに100kmに到達してしまうので、アクセルの感覚をつかむのが難しかったです。「あれっ、そんなつもりじゃなかったのに……」って(笑)。ちょっと右手の力を抜くとアクセルを踏んだことになってしまうので、両手で運転する大切さも知れた気がします。
ただ操作しているうちに段々慣れてきて、左コーナーや右コーナーといった曲がり角をしっかり曲がって走れるようになったのはうれしかったです。
視覚障がい者が運転を楽しむのであれば、今回スタッフさんが声をかけてくれたように、ゲーム内で操作のアシストをしてもらえる音声があると便利だと感じました。
岡田さん
映像的に縁石があったみたいなのですが、縁石に乗り上げると「ガガガガガ」っとハンドルに振動が伝わったり、芝生の上だとスルスルとタイヤが進んでいるのを感じることができるのは、すごかったです。
ハンドルの振動を通じてコースアウトしたのを感じることはできるのですが、私のように全盲のユーザーの場合、ある程度サポートが必要なのかなと感じました。
曲がるポイントとか、コースの中心からずれたタイミングでアナウンスがあるとうれしいですね。例えば中心から常に音が鳴っていて、コースからズレると、左右のいずれかに音もずれるみたいな。その音を中心に合わせるように調整する感じでプレイできれば、重度の視覚障がい者でも楽しめるような気がしました。
佐藤さん
今までさわったことのないデバイスだったので、ちょうどいい感覚を身につけるのが難しかったです。(ハンドルを切る操作って)あんな感じなんだっていう発見もありました。
私は視力が残っているのですが、先がどうなっているのかまでは知ることはできないので、あとどれくらいでカーブに差しかかるのかとか、もう少し状況がわかりやすかったらより楽しめるような気がしました。
平さん
ゲームセンターのレースゲームと同じような感覚でした。個人的にはもう少し臨場感がほしかったなあという印象です。
ハンドルの操作は手伝ってもらっていたのですが、アクセルやブレーキを自分で操作しているだけでは車を運転している感はないなというのが正直な感想です。自分ひとりでもハンドル操作が楽しめるようになるといいですね。ハンドルのほかにシートも振動できればより臨場感があり、うれしいです。
あとは誰かにアシストしてもらうよりは、機械的に一定の間隔で制御されると、コースの感じが伝わりやすいのではないかと感じました。
藤井さん
「グランツーリスモ」シリーズといったレーシングゲームを多少嗜んでいますが、今回体験したシミュレーターの方が格段にプレイしやすかったです。
タイヤに負荷がかかっているのをハンドルで感じることができるので、よりリアルで直感的な操作が楽しめました。視覚情報よりも振動や感覚で操作できるというのが自分にとって、いい補助になっていたと思います。
自転車が乗れるようになった時と同じような感覚で上達が実感できて、今までで一番レースゲームを楽しむことができたんじゃないかな。
長島さん
ダートに入るとすぐにクラッシュしてしまうので、思ったよりも難しかったですね(笑)。
カーブもなかなか難しくて、『マリオカート』のようなカジュアルなレースゲームの感覚でプレイするとクラッシュしまくっちゃいますね。ハンドルの振動も含め、リアルな挙動の難しさを体験することができて楽しかったです。
(画面がしっかり見えないことで)逆走してしまったこともあったので、どちらが進行方向なのかがわかる標識があると助かりますね。
楢崎さん
このような本格的なシミュレーターで運転するのは初めてだったのですが思った以上に操作が難しかったです。縁石に乗り上げたりコースアウトしたりとトラブル続きでしたね。
映像的にコースにガイドがあるのですが、それに加えて音が鳴ると視覚障がい者でも運転しやすくなるのではと感じました。例えばビープ音で減速ポイントがアナウンスされるとか、音の強弱で表現してハンドルをどれくらい切ればいいのかとかあると便利ですね。
———
ということで今回は筑波技術大学 情報システム学科の学生さんとまわる「クロスラインミニツアー」の様子をお届けした。視覚障がいを持つ人が、どこまで晴眼者と同じようにレース観戦やレース体験を楽しめるかという課題から、実用性のあるテクノロジーの体験など、さまざまな実証実験に参加することができた。
視覚障がいがある人にとってレースを体験するのは難易度が高いと感じる一方で、あともう少しの工夫で晴眼者と同じようにレースを楽しめるようになるのではないだろうかという可能性も感じた。
多くの学生さんから高い評価を得ていたLighthouse Techのスマートグラスが非常に革新的で、テクノロジーの進化を肌で感じることができた学生も多かったはず。今回の実証実験で得られた知識をどのように生かしていくのか——。今後も彼らが開発する新しい技術にも期待したい。