私カンナと他の3人は、認定NPO法人育て上げネットの支援プログラムのひとつ、「マイクラ・キャンプ」に集まった、マインクラフトには一過言あるメンバーです。みんな面談やセミナー、体験型プログラムなどを通じて自分を高めています。
さる2022年5月28日に行われた、障害のある当事者が中心に運営する“ゲームの文化祭”、「ePARA CARNIVAL 2022 SPRING」に、マイクラ関係で参加を打診された私たちは、何をしたらいいか話し合っていました。
そのなかで、全員がぜひ会いたいと思ったのが、全盲ながら強くて、そしていきいきとゲームを楽しんでいるゲーマーのいぐぴーさん。私たちを魅了してやまないマイクラを、どう工夫してプレーしているのか、楽しいところ、難しいところはどこか。聞きたいことは尽きず、オンラインの対談は深夜におよびました。その模様をお届けします。
カンナ(20代、マイクラ歴2年くらい)
マイクラ購入よりもずっと前から動画を見ていました。そのおかげで知識は豊富です
マイクラの世界を見て回るのが大好きです。建築にもこれから力を入れていきたい。
ちがや(20代、マイクラ歴2年くらい)
何故かジャングルと海底遺跡をよく見つけます(海底神殿と難破船も……気のせいかもしれませんが)。牛乳を無限飲みできるのが楽しいです。
クロ(20代、マイクラ歴4年)
マイクラとは実況動画で出会いました。好きなのは回路づくり、ハマっていることは城や要塞などの大規模建築です。
ミドリ(20代、マイクラ歴はブランクありつつの8年くらい。SE)
シナリオを大事にするタイプで、地理歴史の知識を当てはめて「この町の名産品は?」「村人たちの暮らしは」と設定を考えながら街づくりします。建設した施設や道路に地名をつけるのがこだわりポイントです。
いぐぴー
生まれつき全盲のゲーム好き20代女子。
幼少期から音楽に親しみ、NHKのど自慢に出場してグランドチャンピオンを受賞した経験を持つ。 ゲーム実況の配信を聞きまくるうちにマイクラの実況の豊かな効果音に惹かれて自分もゲームをしてみようと思った。
音を聞きわけて、地面の状態をつかむ
立ちふさがるのは「壁」
ミドリ:私も目をつぶってマイクラをプレーしてみたのですが、そもそも向きたい方向を向くのがもう難しい! いぐぴーさんは最初に触ってみてどうでしたか?
いぐぴー: たしかに、アイテム関連はすごく分かりづらくて。たとえばインベントリ系は読み上げ機能を使っても、具体的にどんなアイテムが入っているのか分からない。いったいどうなってるんだと。あと、ベッドを設置して寝る場合も音がしないから、画面の共有で誰かに教えてもらわないと。
ミドリ: 足音とかブロックを壊す音とかは?
いぐぴー:それは土のブロックだったら土の音がするとか、いろいろな音はちゃんと区別されているので。
ミドリ:地面がどうなっているかはわかるんですね 。
カンナ:私も向いている方向、上下方向とかがわかるのか、気になります。
いぐぴー:左右はヘッドホンからの音で分かりますよ。たとえば右の方から音がしていたら、真ん中から聞こえるようにすれば音の方を向ける。でも上下は変化がないので難しいです 。
カンナ:あー、なるほど、すごい。
いぐぴー:マイクラにもフォートナイトみたいにカメラリセット、真正面を向けるようにするって機能があれば、視点を安定させられるのかなっていう気がします。
ちがや:たしかに向きは難しいですよね。
いぐぴー:ボイスチャットとかでこっち向いてと言ってもらえても、目印がないというか、音の情報がかなり少ないので。
カンナ:なるほど、ありがとうございます。
クロ:段差を上るときって、どうしていますか?
いぐぴー:自動でジャンプするようにしています。
クロ:段差を上ったかどうかは分かるんですか?
いぐぴー:走っている音がしていて、ジャンプする瞬間にちょっと間が空くので、ジャンプしたってことは段差があったんだなって認識ができますね。
クロ:目の前に壁があったら気づきますか?
ちがや:段差が高くて自動ジャンプができないときはどうするんでしょう?
いぐぴー:うん、壁とか障害物とかがあっても、ぶつかる音は何もしなくて足音だけが聞こえると、動けているのかどうか不安になりますね 。
クロ:そうなんですね。ありがとうございます。
ちがや:壁や高い段差にぶつかっても分からなくて、通れる方向を探る感じですね。
キーボード&マウスでいくか、コントローラーか
スティックが「戻る」感覚に着目
いぐぴー: さっきの自動ジャンプのようなオプションや設定の変更画面は、テキストなので「UIのテキストを読み上げる」をオンにすれば読んでくれます。
ミドリ:なるほど、使えますね。
いぐぴー:最近のマイクラってコントローラーでも操作はできるようになっているので、インベントリもキーボードとマウスだと難しくても、それなら何とかなるのかなっていう気はしています。
ミドリ:マウスとキーボード操作だと、真横に移動するのは結構できるけど、コントローラーの3Dスティックでは微妙に進行方向がななめになってしまったら真横に移動するのって難しい。だから、キーボードのほうが操作しやすいのかな?とみんなで話していたんですけど、どうですか?
いぐぴー:移動のことだけ考えると、たしかに真横に動くのは簡単かもしれないですね。でも、視点を動かす場合だと、コントローラーの3Dスティックならその動かしたい方向に倒して手を離したら真ん中に戻ってくるじゃないですか?それが基準になってくれるっていう、この感覚が大切。マウスを動かしているだけだと、ちゃんと向きたい方向に向けてるのか、ものすごくわかりづらい。
ミドリ:視点変更にマウスを使わざるを得ないのが、すごく大きな障壁になっていると。コントローラーか、マウスとキーボードの併用かで一長一短っていう感じですかね?
いぐぴー:そうですねー、いっそのことキーボードで移動してコントローラーの3Dスティックで視点を動かしたらどうなのかな、と実験したい。
ミドリ:いいですね、ハイブリッドでいいとこ取りして。
いぐぴー:もう、いいとこ取りできるデバイスを作りたいぐらいです(笑)
生き物も楽しいマイクラの世界
「釣り」をおすすめされると……
ちがや:素材をとる場面について伺います。モンスターや動物、例えばニワトリとかブタとかキルするのって結構難しいですか?
いぐぴー:じつは動物をキルするの、経験したことはなくて。ウシぐらいならなんとかできるかなと。動物の大きさと動きの速さって反比例しているイメージがあります。
ちがや:うんうん、そうですね。さすがにニワトリとかだと厳しいかも。羽もあるし、的が小さいですもんねえ。
いぐぴー:それはあります。あと倒すと経験値って出るじゃないですか? 経験値が手に入るときって金属音系のちょっときれいな音がするので……。
ちがや:キラキラした音がしますよね。
いぐぴー:その辺は音がわかりやすいんです。でもアイテムが落ちたかどうかがわかりづらいのは、ちょっと辛いところですね。
ちがや:たしかに。それと動物を増やすときも大変でしょうね。どのウシにエサをあげたとかもわからなくて
いぐぴー:あー、そうなんですよ。
ミドリ:繁殖したときに音が出るわけじゃないですから。
ちがや:子どもの声が増えたら、まあ生まれたかなーみたいな感じかな。
いぐぴー:そこ、動物もモンスターもすごくこだわってるんだ! とびっくりしたんです。子ウシや子ブタなんか音が高いんで。
ちがや:モォーッ!みたいな
いぐぴー:子ゾンビもすごーくわかりやすい。わりと高い声で“ウェー”とかって(たくみに声マネ)。
ちがや:かわいい(笑)。あと生き物系でいうと、釣りなら移動しないし、水場に浮きが沈む位置で視線も固定させてできるのでやりやすいかなと思ったんですが。
いぐぴー:じつはマイクラで釣り、したことがないんですよね。音で魚がちゃんとかかったか判断ができるものなんですか。
ちがや:浮きが沈んだ音や寄ってくるとき水の音がちょっとずつ大きくなって引っかかるので結構分かりやすいかなと……。
いぐぴー:なるほど。釣りをする時は、コントローラーを使ったほうがいいかもしれないですね。きっと振動がするはず。想像ですけど。
ちがや:マウスなので完全に動かさないようにやってますね。あと私、もともと視覚情報の処理が苦手で、画面を見てると疲れちゃうので、釣りは目を閉じてやっています。
いぐぴー:なるほど、ちがやさんも音で分かるんですね。
ちがや:そうです。楽ですし、永遠に続けられます。でも、マウス動かしちゃったら視線動いちゃって「やばい、やらかした」ってなるので、コントローラーのほうがやりやすいんでしょうね。
いぐぴー:マイクラで釣りかー。ちょっとやってみたい、要検証ですね。どうなるんだろう(ほほ笑む)。
ものすごいヒーリング効果のある「音」とは
斬新なイベントとその「結果」
カンナ:いぐぴーさんがマイクラで、もしもできるならやってみたいっていうことは何かありますかね?
ミドリ:いい質問だ (笑)
いぐぴー:まぁ、マイクラがあまりにも、音から把握できる部分が少なすぎて、したいことってあんまり考えていなかったんですけど。もしそのための工夫とか方法があるなら、ブランチマイニングはしたいなって思います。
カンナ:え、ブランチマイニング、ですか?!
いぐぴー:マグマの音がしたら近づかない、みたいな工夫を他にも思いつけば、うまく利用してブランチマイニングができたらいいですね。あれってすごい広い洞窟の中をぐるぐる、地下の複雑なところをずっと掘ってるみたいなイメージがあって、どうにか全盲で覚えられるルートを作ってやってみたいとずっと思っています。じつはですね、ブランチマイニングの音を配信で聞くと、すごく落ち着けるんです
ちがや:へえー。
ミドリ:掘り進んでいるときの音か。
いぐぴー:あのポコポコポコポコっていう、ひたすら掘り進めるあの小気味のいい音、夜に聞いてるとめちゃくちゃ気持ちが落ち着くので、寝落ち状態に入りまして。
ちがや:友人も、あの音はASMR的に正しい、結構上質でいいみたいだと言ってました。
いぐぴー:そうなんですよ! それをただ聴くのもいいんだけど、自分の力でその音が出る動きができるならやりたいっていう思いが、マイクラを音だけを頼りにどこまでできるのかなって考え出したあたりからずーっとあって。
ミドリ:おぉー、ブランチマイニングセラピー !
一同:(笑)
ちがや:でもなんか、音がいいのはわかります 。
いぐぴー:たとえば何人かで対抗するなら、各自が一か所掘ることにして、動くルートを、真っすぐなら真っすぐに決めちゃって、ずーっと掘り続けるとかは。
ちがや:そうですね。真っすぐ掘っていって、取れた素材ごとに得点を決めて対抗する、みたいな感じですか。完全に運ゲーになりますけど。マグマの音がしたら撤退だから。
いぐぴー:決められた直線上を掘っていって、素材のレア度の得点で競うのはありかも。そうすると方向を変えるよりもちょっとハードルは下がるかな。
ちがや:そうですね、たしかに運ゲーではある。全然取れない人とめちゃくちゃ取れまくる人と、それを含めておもしろそうです。
いぐぴー:やっぱり地下といえばマグマがあるのでマグマダイブしてしまうかも……。
ミドリさん:恐ろしいですねー、マグマダイブ。
一同:(笑)
その後、5月28日にePARA CANIVAL 2022 SPRINGのなかで、私たちのチームは発案者のいぐぴーさんをお迎えして「ブランチマイニング」を実施しました。いぐぴーさんはあまりに調子よく掘り進んでいったのですが、なんとその結果、みごとにマグマダイブ! 全員が初めての経験ばかりでしたが、いぐぴーさんも他の参加者もおおいに楽しんでいただけました。