2023年6月2日に最新作が発売された、人気対戦格闘ゲーム「ストリートファイター6」(以下、スト6)。ePARAでは、同作から追加された視覚情報を用いずに対戦可能な機能「サウンドアクセシビリティ」の制作に協力。障害当事者による主導の下で、“サウンドエフェクト”の改善に向けた助言レポートを行いました。
今回は、プロジェクトに携わったメンバーや製品版をプレイした4名による座談会。どのように業務を進めたのか? 当事者として気になったことは? プレイしてぶっちゃけどう思った?などなど、メンバーの本音をお届けします。どんな言葉が飛び出すのか!?
◎登場人物
Jeni(格闘ゲーム歴/約12年)
筋ジストロフィー症のeスポーツプレイヤーでePARA社員。顎で操作する自作コントローラーでプレイする筋金入りの格闘ゲーマー。座談会メンバー唯一の晴眼者。本プロジェクトでは、ePARAのディレクターとして活躍。「ストリートファイターに関われて、鼻血が出るくらい幸せ!」
NAOYA(格闘ゲーム歴/約3年)
全盲のeスポーツプレイヤーであり、ePARA Voice事業部長。スト6の使用キャラはケンで、相手の動きに合わせてプレイを変化させる対応型。「ノリノリで決めようとしたターゲットコンボを、ドライブインパクトでパニッシュカウンターされてよく自滅します(笑)」
真しろ(格闘ゲーム歴/約1年半)
普段は大学院生をしつつePARAの業務をサポート。先天性の全盲。留学経験や抜群の英語力を活かして、海外向けの情報発信やSNS運用などを担当。「超初心者ですが、スト6はキャラクターの声や音が大好きなのでもっと遊びたいです!」
実里(格闘ゲーム歴/約1年)
ePARA社員兼ePARA Voiceの所属タレント。18歳で全盲になった視覚障害者。本プロジェクトには不参加ながら、発売後のレビュー役として対談に参加。スト6ではジェイミーを使用。「苦手だったコマンド入力がモダン操作で簡単になって楽しい!」
ビッグタイトルから感じたアクセシビリティへの本気度
――それではみなさん、よろしくお願いします! まず、今回の仕事を聞いた時のファーストインプレッションは?
Jeni 最初に聞いたときはビックリしたよね!
NAOYA ほんとに! デモ映像をみんなで視聴しながら、キックオフミーティングしたのが2021年9月くらいかな。
Jeni 当時、僕はePARA入社直後。まさか人生を狂わされたと言っても過言じゃない、ストリートファイターに携われるなんて! キックオフミーティングの時は、あまりの衝撃に映像を直視できなかった(笑)。
真しろ 自分はどういうことを、どうすればいいのかな?と思いつつ、人気作だし楽しみだなって! あと、ルークの声が大好きな声優・前野智昭さんと気付いて感動(笑)。
NAOYA たしか、前作のストリートファイターⅤ(以下、ストⅤ)にルークが新キャラとして登場する前だったよね。
真しろ そうそう。ストⅤでルークが出た時に、「これこれ! サンドブラストー!」って思いながら使ってた。
――やはり、「ストリートファイター」シリーズという驚きはすごかったんですね。サウンドアクセシビリティの業務についてはどう思いました?
Jeni 「サウンドアクセシビリティ」という機能を考え、開発してくれたカプコンさんの想いが何より嬉しかった。本当に全てのゲーマーに遊んでもらいたいんだなって。開発に携われる嬉しさの一方で、格闘ゲーマーとして絶対に適当なことはできない!と、プレッシャーも感じました。
NAOYA 以前、好きなゲームが音声読み上げに対応して欲しくて、メーカーに要望を送ったことがあるんです。その時は「貴重なご意見ありがとうございます」みたいな定型文しか返ってこなくて、「視覚障害者の意見はマイナーなんだ…」と。けど、今回はマイナーな意見をカプコンさん自ら取り入れようとしてる。しかも、スト6というビッグタイトルで! 本気度を感じました。
Jeni 対人戦を前提としたサウンドアクセシビリティって、今までなかったよね。
NAOYA RPGをプレイするために、メニューの音声読み上げで操作できるものはあったけどね。普通の効果音じゃ分からないキャラの状況とかを、音で知らせるようにしたのは初じゃないかな。
「格闘ゲームの概念」から始まったレポート業務
――続いては具体的な業務について。どんな流れで進めて行ったんですか?
Jeni キャラ同士の距離感が分かる「距離音」のデモ映像を視聴して、まずは理解することから…のはずが、実際は2D格闘ゲームの概念をレクチャーすることからでした。というのも、2D格闘ゲームに詳しくないメンバーもいたから。どんなキャラの位置関係で、どんな動きをしているかとか、基本のキから理解してもらいました。
真しろ 当時、3D格闘ゲームの経験はあったけど2Dは初。Jeniからは「演劇の舞台を想像してください」と言われました。中心に1本の白線があり、その線上で前に出たり、退いたりして戦うイメージと教えてもらって、分かりやすかったです。
NAOYA それ、おもしろかったからツイッターに書いた(笑)。
Jeni デモ映像は動く2人のキャラの距離に合わせて、音が高くなったり、低くなったり。僕は映像を見て理解できるけど、メンバーは目が見えないから映像の内容が分からないので、状況を言葉にして伝えました。
真しろ 距離感って表現が難しいし、想像もできなかった。音を聞いてプレイしていく中で、より具体的なイメージを付けていく感じでしたね。
――デモ映像を見たり、その後はテストプレイもしたと思いますが、どんな意見が出たんですか?
Jeni まずは、デモ映像で感じた意見を出し合い、レポートにまとめて提出しました。どんな事が話題になったっけ?
真しろ 距離音の音色はどういうのが良いのか?とか。人によって、他の効果音と判別しやすい音色が違ったり。あとは、この音の高さの方が分かるとか、もうちょっと重い音が良いとか、「ダン!」じゃなくて「ドーン!」が良いみたいな意見もあった(笑)。
Jeni 目の見える僕よりも、みんなの方が音のディテールを感じる力は格段に上だったな。最初にカプコンさんから来た依頼は、「距離音のシステムを考えたんだけど、どう思う?」みたいな感じ。けど、他にも気になる部分があったから、たくさんの意見を出しました。
NAOYA こんなに要望出してもいいのかな…と不安になりつつ(笑)。そんなやり取りをしながらテストプレイに移り、さらに意見を出していって。テストプレイの段階が進むごとにさまざまな音が追加されて、プレイしやすくなっていきました。
勝つには戦略を立てる「音の情報」が必要に
――サウンドアクセシビリティの音の種類には、どんなものがあるんですか?
NAOYA 最終的に実装されたのは、距離音の他に、上・中・下段の攻撃、体力・OD(オーバードライブ)・SA(スペシャルアーツ)のゲージなど様々です。ゲージ音は全部音色が違うので、「この音だから相手の体力がこれくらい、自分はSAゲージが3本あるからCAコンボ決めよう」みたいなことができる。
Jeni サウンドの音色や音質とかは、みんなから意見をもらったんですけど、どんな「音の情報」があったらやりやすいか?という機能面は、2D格闘ゲームの経験が長い僕から意見を出しました。
NAOYA 追加されて良かった情報が、めくり攻撃音(ジャンプ攻撃が相手を飛び越えて背面に当たり、左右の位置が入れ替わる攻撃)。ストⅤにはめくり攻撃音がなかったから、左右の変化にすぐ対応できなかったんです。スト6ではめくり攻撃音が付いたし、左右で距離音も違うのでより分かりやすくなりました。
真しろ 「今めくった」って分からないと、状況把握にタイムラグが発生するもんね。上・中・下段の音がそれぞれ違うのもありがたい。
NAOYA なぜ上・中・下段の音が必要かと言うと、「意図した操作ができているか」が判断可能だから。自分のガードが間に合ってないのか、下段攻撃を立ちガードしているからなのか、被弾した原因が分かるんです。これまでの格闘ゲームでは、そこが分からないのが悩みだった。
Jeni 攻撃音が1種類だけだと、どんな攻撃か分からない。格闘ゲームの駆け引きで大事な要素だからね。
――勝因や敗因を理解して、プレイを磨くためにもいろんな「音の情報」が必要なんですね。
真しろ ただプレイして、ただ勝つだけだとスッキリしないんです。負けた理由、勝った理由が分からないと困るというか。勝つための戦略を考えるには情報が必要だし、じゃあ必要な「音の情報」は何だろうって。
Jeni いかに音声だけで情報を得るかは意識してみんなで考えました。足りない情報をどれだけ補足できるかが、サウンドアクセシビリティでやるべきことだし、距離音だけがあっても意味がないのかなと。
NAOYA Jeniからの提案は他にもいろいろあって、「現在の戦況」を一気に把握できるボタンを設定できるようになった。ボタンを押すだけで、自分と相手の体力やゲージの状況を表す音が順番に鳴って、戦況が分かる機能です。
真しろ あとは、細かく音量調節ができるようにもなった。これの何が良いって、歩く音、ジャンプの音、環境音などが個別に調整できる。これまではキャラクターの効果音を大きくすると環境音も大きくなって、音が聞き取りにくいことがあったからめっちゃ助かる。
頭がパンク!?処理の限界と海外の反響
――6月2日にスト6が発売されました。実際にプレイしてみて、どう思いましたか?
実里 はいっ、ようやく私の出番! プレイする前に一通りの音は教えてもらってたけど、実際にプレイすると全部は拾い切れない…。なので、今は距離音とキャラの声を意識してます。技を出してもあんまり喋らないキャラが相手だと、「え、技当てられてた?」みたいなこともある(笑)。
真しろ 喋らないキャラって誰?
実里 ブランカ。声は出てるけど鳴き声みたいだから、何の技を当てられてるか分からない…。
Jeni ブランカちゃん人形って技出すとき、「かわいいぞ」って言うよ(笑)。
実里 ブランカのことは置いといて! ストⅤと比べて、今回のサウンドアクセシビリティによる一番大きな変化が、相手キャラと密着状態じゃないと決まらない「投げ技」が決まるようになったこと。距離音で正確な距離が分かるから、「近づいて投げる」ことを意識できるようになったのは大きな成長!
NAOYA 今だから正直に言うけど、距離を音で表すと聞いた時に「ステレオ効果があるし、そこまで需要は高くないかも」って思ったんです。自分のキャラが右端にいたら右端から音が聞こえるし、相手キャラも同じ。音の位置である程度の距離感が分かったから。でも、スト6をやってみると全然違う! 今は「高いシ」の音だから中攻撃当たるとか距離把握の精度が上がったし、判断時間もコンマ何秒速くなった。
真しろ いろんな情報が音で分かるようになったのは、とっても良いこと。だけど、情報量が増えたから頭で処理する時間が足りなくなってきた…。
実里 そうそう、全部の情報を使うと頭がパンクしちゃう!
真しろ 情報があるだけでもダメ。情報をどれくらい頭で考えてプレイに活かすかが大事だし、実戦経験を積むのも大切だと思った。
NAOYA 真しろさんの話にも通じるけど、僕は戦術が増えたかな。相手のプレイスタイルを見て対応していくタイプなので、相手の動きが分かりやすくなって戦いの幅が広がった。摂取する情報量が増えたばっかりに消費エネルギーは激しいけど(笑)。
――情報を使い切るのは難しいですね。真しろさんは海外向けSNS担当ですが、スト6のサウンドアクセシビリティに関する海外の反応はどうですか?
真しろ まず知人の反応から。「ストリートファイターに協力したよ」って言うと、ゲームを知っている人はすごく興味を持ってくれる。留学先の学生仲間は、日本人よりすごくテンションが上がって「今度やろうよ!」と言ってくれる人も多いし、友達作りのネタになった(笑)。
もっとグローバルな視点で言うと、「遊びやすくなった」って海外の視覚障害者の反応はたくさんあります。それに加えて、格闘ゲームのアクセシビリティのディスカッションに火が付いたみたい。Twitterを見てると、使いにくい・使いやすいって発言してる人もいれば、スト6のサウンドアクセシビリティの利点や欠点をまとめてる人がいたり、今後の期待を発信している人がいたり。今回の取り組みが良い意味での議論のきっかけになったと思う。
大きく広がるコミュニケーションツールとしての可能性
――今回の経験とサウンドアクセシビリティを活かして、今後やってみたいことは?
NAOYA ゲームは、人が交流するためのツールであるべきだと思ってるんです。スト6には真剣勝負の面があってもいいけど、「一緒に練習して新しいことを覚えたね」とか、「見えなくてもプレイできるんだ」とか、実際に触ってもらい、いろんな人に感動して欲しい。そんな仲間作り活動をしていきたいですね。
Jeni 僕は「誰かと同じ空間で対戦する場」を作ること。病気の影響で小さい頃から車椅子生活で、格闘ゲームが大好きだったけどゲームセンターでプレイできなかったから、強い憧れがあって。9月にePARAが開催するバリアフリーeスポーツイベント「HACHIMANTAI 8 FIGHTS」にもその想いが詰まっていて、スト6のサウンドアクセシビリティを使った対戦エリアも設けています。
実里 私は視覚障害者向けに、スト6の情報をYouTubeで発信したい。スト6にはサウンドアクセシビリティが搭載されているけど、音声だけで設定まで完了できる訳ではないんです。私はYouTubeの動画を聞いて、何回ボタンを押したら、何のメニューが開くか覚えたりしてるんですが、そういった具体的なノウハウを一つひとつ届けていければ。
スト6のサウンドアクセシビリティは、「もっと多くの人にプレイしてもらいたい」というカプコンさんの気持ちから生まれたもの。広げてくれた入口を、私がもっと広げられたら良いな。あと、個人的な目標は、いつも負けてるNAOYAさんに下剋上したい!
真しろ 僕は2つやりたいことがあって。1つ目は、日本と海外をつなぐこと。スト6を含めたいろんなゲームに関して、海外の人はどう思って、どう楽しんでるかを日本へ届け、逆に日本のことを海外へ。海外のカンファレンスやイベントを視聴したり、機会があれば発表もしてみたいですね。
2つ目が、ゲームを使って交流する場作り。一緒にゲームをプレイすると、あまり話してない人と交流できたり、知らない面を知れたり、苦手なことが分かってサポートにつながったりもする。子どもや年配、障害者とか、見過ごされがちな人たちとゲームで交流したいな。
Jeni 今回の取り組みを通じて、いろんなゲーム会社や開発の方々にサウンドアクセシビリティのことを知ってもらえたと思うし、アクセシビリティの一つの水準になったと思います。いろんなゲームをみんなで楽しくやりたいので、格闘ゲーム以外にもどんどん広がると嬉しいです。
最後に。この記事を読んだブラインドの方で、もし「スト6をプレイしたいな」って人がいたら、ぜひ一緒にやりましょう! WEBやSNSから気軽に連絡してください!
追記:ePARA編集局より
格闘ゲーム交流会「心眼PARTY powered by JEXER」
JR東日本スタートアップ株式会社と株式会社ePARAは、2023年10月29日(日)、JR東日本スポーツ株式会社が展開する「ジェクサー・eスポーツ ステーション」において、視覚情報に頼らないeスポーツ選手たちと格闘ゲームで交流する「心眼PARTY powered by JEXER」を開催します。
詳しくはこちらをご覧ください:
視覚情報に頼らないeスポーツ選手による格闘ゲーム交流会「心眼PARTY 2023 powered by JEXER」がジェクサー・eスポーツ ステーションで開催!