イベントレポート

世界に発信する障害×ゲーム -ゲームアクセシビリティが拓く可能性-【H.C.R.2024トークショーハイライト①】

2024年10月2日から4日にかけて、東京都・東京ビッグサイト東展示ホールにて開催された「国際福祉機器展(通称「H.C.R.」)」。そのなかで、年齢や障害などの垣根を超えて、誰もが楽しめる遊びを紹介・体験することができる「エンジョイアクティブゾーン」が設けられ、さまざまなテーマのトークショーも実施されました。本稿では10月3日に開催された「世界に発信する障害×ゲーム -ゲームアクセシビリティが拓く可能性-」の模様をライターのノイ村さんがお届けします。

「世界に発信する障害×ゲーム -ゲームアクセシビリティが拓く可能性-」

[登壇者]
真しろ(株式会社ePARA 海外広報担当)
Brandon Blacoe(ByoWave CEO&Founder)
Jeni(株式会社ePARA イベントプロデューサー)
NAOYA(株式会社ePARA ブラインドeスポーツプレイヤー)
ファシリテーター:加藤大貴(株式会社ePARA 代表取締役)

ましろ、ブランドン氏、ジェニ、なおや、加藤大貴の顔写真
(左から)真しろ、Brandon Blacoe氏、Jeni、NAOYA、加藤大貴

こちらのセッションでは、さまざまな形で世界と繋がる活動を続けるePARAのメンバーと、今回のH.C.R.で都内初展示となったアクセシビリティコントローラー「Proteus Controller」の開発元であるByoWaveのBrandonさんによる、グローバルな視点で捉えたゲームアクセシビリティがもたらす可能性についてのディスカッションが実施されました。

日々の生活からe-sportsまで、アクセシビリティを起点とした世界との繋がり

セッション前半のテーマとなったのは、世界と繋がるePARAのメンバーを中心とした、ゲームアクセシビリティが持つ可能性について。2022年9月から2023年7月にかけてイギリス・エセックス大学に交換留学し、併せてePARAのイングランド支部としても活動していた真しろさんは、2023年4月に開催されたThe Game Accessibility Conference(通称「GAConf」)への参加や、現地のePARAの関係者や顧問を務める先生との交流を通して、今後の展望について議論を深めることができたというエピソードを語りました。その中でも印象的だったのは、そうした活動と併せて、日々の生活の中で障害に対する海外の人々の向き合い方に触れたことも、自身にとっての大きな学びになったということです。

真しろ「イタリアからオーストリアまで旅をしていた時に、うっかり目的地を通り過ぎてドイツまで行ってしまったことがありました。とても困ってしまったのですが、周りのおじさんやおばさんが、ドイツ語しか話すことができないのに親切に話しかけてくれて、助けようとしてくれたんです。「自分の行きたいところは何回も言っておくと案内してくれるから言った方がいいよ」とアドバイスをしてくれる方もいて、すごく励みになりました。やはり最後は、人のあたたかさが助けになるということを実感しましたね」

バッキンガム宮殿の前に立つましろ
真しろさんのイギリス留学中の1コマ。バッキンガム宮殿前にて

ブラインドe-sportsプレイヤーとして活躍するNAOYAさんは、自身やePARAのメンバーも開発に携わった『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)のサウンドアクセシビリティ機能について紹介(こちらはNAOYAさん自身が語った通り、それだけで一つの記事ができてしまうほどのボリュームなので、詳しくはこちらの記事をご覧下さい)。さらに、「自身のライバル」と語る、全盲プレイヤーとして世界のe-sports大会で活躍するオランダのBlindWarriorSvenさんと、カナダのクレメントさん(通称クレ選手)についても触れ、『スト6』をきっかけにして、世界中のプレイヤーが障害と国境の垣根を超えて競い合い、繋がることができる喜びを語りました。

また、「今後はブラインドe-sportsプロジェクトをさらに大きくしていきたい」と語るNAOYAさんは、自身も関わっている「バリアフリーeスポーツスクール」(ePARAがJR東日本スタートアッププログラムの一環として実施している初心者・初級者を対象としたゲーム体験企画・コーチング)を事例として執筆した論文(「社会包摂に向けた当事者と共にする変革の実践:「バリアフリーeスポーツスクール」を事例として」)が日本ソーシャル・イノベーション学会で「優秀論文賞」を受賞(参考記事)したことについても語り、イベントだけではなく、アカデミックな分野における世界との繋がりの可能性についても力強く提示していました。

教室の前に立ち、マイクを持って話す直也
日本ソーシャル・イノベーション学会で発表するNAOYAさん(右から2人目)

1つ前のセッションにも登場したJeniさんが語ったのは、e-sports大会におけるレギュレーションの変化についてです。

Jeni「これまで、e-sportsの大会では、デバイスの違法な改造を防止するために、ボタンやレバーの数に制限が設けられることが多かったんです。私が2023年のEVO JAPANに参加した際にも、自分が普段使っている環境では参加することができなかったのですが、今年は『スト6』という最新タイトルに変わったことで操作性が変わり(※筆者注:『スト6』では従来のコマンド入力を簡易化した「モダン操作」が導入されました)、ルールについても見直しが入ったことで、障害のある方でも自分に合ったコントローラーを使ってオフラインの大会に参加できる環境が整えられてきているように感じています」

車椅子に乗ったジェニと、その前後に立ってコントローラーを調整する二人
2024年のEVO JAPANには顎でレバーを操作するオリジナルのコントローラーを携えて参戦

シリーズで初めてアクセシビリティ機能を搭載した『スト6』のようなソフト側はもちろん、大会のレギュレーションにも変化が起きている。それは、日本を含めた世界各地の障害を持つプレイヤーが、積極的にe-sportsに挑戦してきた歴史の積み重ねによる結果であることは間違いないでしょう。そして、こうした動きが国境や障害を超えた繋がりをさらに促進し、きっとまた新たな可能性を生み出していくのではないでしょうか。

友人への想いから生まれたProteus Controller

セッションの中盤では、Proteus Controllerが生まれた背景や製品に込めた想いについて、Brandonさん自らが語ってくれました。元々、「世界に貢献したい」という想いで、大学でバイオメディカルエンジニアリングを専攻していたBrandonさんは、幼少期の頃にいつも一緒にゲームを遊んでいた友人と久しぶりに再会したことをきっかけに、アクセシビリティコントローラーの開発に挑戦することを決めたそうです。

Brandon「彼女には障害があり、従来のコントローラーでは30分以上操作を続けることができませんでした。当時の彼女は自分でも使うことができるように改良したコントローラーの計画を考えていて、それについてすごく熱心に語ってくれたんです。私はエンジニアリングの知識を持っているので、その場で「君に合ったコントローラーを作ってあげるよ!」って言ってしまったんですよ」

当時は「お酒の勢いもあった」と笑いながら語っていたBrandonさんでしたが、あくまで個人に対する想いがアクセシビリティコントローラーを作るモチベーションとなったというのは、とても重要なポイントなのではないでしょうか(個人的には、真しろさんのエピソードとも通じる部分があるように感じています)。この出来事をきっかけに、コントローラーの開発を始めたBrandonさんは、プロジェクトに賛同してくれた方々や、友人と同じ障害を持つ方々の協力を受けながら、Proteus Controllerの開発を進めていきます。そこで分かったのは、コントローラーを使う一人ひとりがまったく異なる悩みを抱えているということ。そうして生まれたのが、モジュールを自由に組み合わせて好きな形を作ることができるという、カスタマイズ性の高いコントローラーでした。

ByoWave Proteus Controller(動画)

Proteus Controllerはサイコロ型のモジュールを組み合わせて形を作り、モジュールの各面にボタンやスティックを配置することで、利用者の身体やニーズに合った形状のコントローラーを自分で作ることができるという、画期的なアクセシビリティコントローラーです。さらに、3Dプリンターを使って利用者が自由に持ち手などのアクセサリーパーツを作ることができる環境が用意されていたり、それぞれのモジュールの組み合わせや設定、3Dプリンター用のデザインなどをオンラインのコミュニティ(URL)に共有することもできるようになっています(さらに、コントローラー関連のソフトウェアについてもオープンソース化されているとのこと)。

ByoWaveのロゴ。黒色のBYOWAVEというアルファベット大文字がゲームコントローラーの形に並んでいる

ゲームアクセシビリティを起点にして、世界のコミュニティが繋がっていく

コントローラー単体のカスタマイズ性の高さはもちろんですが、利用者同士が情報を共有することができるコミュニティが存在するということが、Proteus Controllerの大きな特徴です。Brandonさんが開発に取り組む上で特に重要視していたのが、「アイディアが一つのところに留まるのではなく、さまざまな人と共有される」ということでした。

Brandon「コミュニティには素晴らしいアイディアを持っている人たちが本当にたくさんいます。そうしたアイディアは、困っている方はもちろん、そうではない方にも広がっていくべきだと思います。だからこそ、私はこのようなモジュール型のコントローラーを作りましたし、これをきっかけにしてさまざまなアイディアが生まれたり、さらにそれを改良する人が出てきたりと、良いアイディアの連鎖が生まれると考えています」

実際に、発売後にBrandonさんがProteus Controllerがどのように使われているのかについて調べたところ、同じような使い方をする利用者が一人として存在しないということに気付いたそうです。さらに、利用者側で試行錯誤を重ねながら、より使いやすい形を模索していくという場合が多く、そのプロセス自体をとても有意義なものであると感じているとのこと。そこには一人ひとりが自分に合ったコントローラーの使い方や形を考え、作り上げていくというクリエイティブな循環があり、その動きをより大きなものにしていくためにも、アイディアを広く共有していく取り組みが重要なのでしょう。

ボタンやレバーが付いたサイコロ型のモジュールを縦2つ、横2つ組み合わせたプロテウスコントローラー
ボタンやレバーが付いたサイコロ型のモジュールを少し曲がったT字型に組み合わせたプロテウスコントローラー
ニーズに合わせて自由度高くカスタマイズできるProteus Controller

そこで、大きな課題となるのが「どのようにしてコミュニティを広げていくのか」ということ。セッションの後半では、Brandonさんの話を受けて、この製品をより多くの人々に届けるためにはどうすれば良いのかについてのディスカッションが重ねられていました。Brandonさんは、アメリカのAbleGamersや日本のePARAといった世界各地のさまざまなアクセシビリティ・コミュニティと連携したり、作業療法士のような障害の現場で活動している人と協力を重ねたりといった活動を続けることで、コミュニティの拡大を目指していきたいと語りました(今回の来日もその一環とのこと)。また、ePARAの海外広報を担当する真しろさんも、そうした情報を共有するために、改めて世界各地のコミュニティとの連携や、海外に向けての情報発信といった活動に積極的に取り組んでいきたいといった想いを語り、まさにゲームのアクセシビリティを起点にして、世界が繋がっていくポジティブなムードが生まれていました。

ステージ上に登壇者5人が並んで座っている様子。ブランドン氏の斜め後ろにはもう1人いる。背後の大きな画面にはプロテウスコントローラーが映っている。
ゲームアクセシビリティについて国境を越えて意見を交わす登壇者の皆さん

また、セッションの終盤には、NAOYAさんから「Proteus Controllerはカスタマイズ性が高いので、これまでのようにソフト側から(設定画面を通して)キーコンフィグを変えるのではなく、ハード側から自分にとって使いやすい形でゲームを楽しむことができるのではないかと思う」という興味深いコメントも。アクセシビリティコントローラーといえば、数年ほど前まではXbox Adaptive Controller(PC、Xbox向け)やFlex Controller(Nintendo Switch向け)のように、利用者にとって使いやすいスイッチやデバイスと繋ぐための「ハブ」として機能するものが主流となっていましたが、近年ではAccess™️コントローラー(PlayStation 5向け)や今回のProteus Controllerのように、コントローラーそのものを利用者に合った形にカスタマイズできる製品が増えています。「ハード側が利用者に合わせる」というのは、これからのゲームにおけるアクセシビリティの一つのキーワードになっていくかもしれません。

とても有意義なトークセッションが開催されたH.C.R.でしたが、「エンジョイアクティブゾーン」では、今回のセッションでも話題となった『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティ機能体験や、Access コントローラーやProteus Controllerといったアクセシビリティコントローラーの試遊も実施され、たくさんの来場者がゲームアクセシビリティの世界に触れていました。ゲームアクセシビリティには、障害の有無を超えて、さまざまな人々が同じ喜びを共有し、繋がることができる可能性が詰まっています。今回のH.C.R.は、その魅力がさらに多くの人々や世界へと広がっていく、とても大きなきっかけとなったのではないでしょうか。

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ノイ村

音楽・ゲームを中心に活動するライター。以前よりゲームのアクセシビリティに関心を抱き、執筆・取材などを実施している。活動歴 : リアルサウンドテック、『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)、東京都人権プラザ 企画展『人権カルチャーステーション』など。 note:https://note.com/neu_mura/

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