ePARA大会 イベントレポート

参加して、声を聞いて考えた。「ハチエフ25」から描く、理想のあたり前【前編】

2025年9月20~21日、ePARA主催で開催されたバリアフリー・格闘ゲームイベント「ハチエフ25」。第3回を迎えた今回、2日間で約400人が参加し、かつてない熱気に包まれました。そんなイベントの様子を、格ゲーをこよなく愛する難病(若年性パーキンソン病)当事者のsanakenが、前後編の二部構成でレポート!着実に規模を拡大しつつ、クオリティや考え方までアップデートを遂げていた「ハチエフ25」。その挑戦は、障がい×eスポーツの「理想のあたり前」を考えさせるものでした。

【前編】は、イベントの様子と2on2トーナメントをお届け。
【後編】はこちら。来場者&ゲストの声や、筆者が感じたことをお届けします。

ハチエフ25の参加者集合写真。手前中央にプロデューサーのJeniがおり、まるぽす氏やだいじろう氏が並び、その後ろに参加者が集まっている。イベントタオルを広げている人も。

ハチエフって、こんなイベント

「ハチエフ」ってなに?

障がいの有無や年齢・性別などの区別なく、格闘ゲームを通じて交流・競技を行う共生型eスポーツイベント。2022年に岩手県八幡平市で第1回が開催されて以降、毎年同地で開催しています。対戦格闘ゲーム「ストリートファイター6」(以下、スト6)を用いたトーナメントのほか、アクセシビリティコントローラーの体験、最新ゲーミングPCの展示など、多彩な出展も楽しむことが可能。東北最大級の格闘ゲームイベントとして成長しています。

ハチエフ25のキービジュアル。

今回のハチエフは、どんなイベント?

今回で第3回を迎えた「ハチエフ25」のコンセプトは、「誰もが挑戦者として並び合える場所」。今までもその想いを持って開催されていましたが、今回はより明確に打ち出しています。実は、開催にあたって私もコピーライティングに協力。「はじめの一歩が、とどく場所」というキャッチコピーと、イベントの想いを言葉にしたステートメントを書かせてもらいました。

会場の壁にポスターが並べて貼ってある様子
ポスターにキャッチコピーが使われていて歓喜!

本大会のプロデューサーである、筋ジストロフィーの格闘ゲーマー・Jeniさんと打ち合わせた時、Jeniさんが「『自分には無理かもしれない』と感じていたプレイヤーが、『出てみたい』『挑戦したい』と思えるイベントにしたい」と言っていました。老若男女、プレイレベル、障がいの有無を問わず、あらゆる人の挑戦の第一歩となり、未来のバリアフリーeスポーツの世界基準になる。そんな想いをキャッチコピーに込めました。

さらに、開催にあたって実施されたクラウドファンディングでは、180万円以上の支援が集まり無事にサクセス!多くの人にイベントの想いが共感されています。
未来は、遊んでつくる。eスポーツ大会「ハチエフ25」の開催に力を貸してください - クラウドファンディングCAMPFIRE

来場者400人超!熱気に包まれた高原リゾート

岩手県の山間に、こんなに格ゲーマーが!

前置きが長くなってしまいましたが、ここからは当日の様子をレポート。私は初日に開催される二人一組のチーム戦「2on2」へ参加するためにやって来ました。私が住む大阪から、会場である岩手県八幡平市の「安比リゾートセンタープラザホール」までは、新幹線やバスを乗り継ぎ約7時間。なかなかの距離!冬にはスキー場として賑わう高原リゾート。残暑厳しい大阪とは違い、秋の気配がしました。去年に続いて参加は2回目。「今年もやって来たな」と気持ちが昂りました。0

イベント会場へ足を踏み入れると「えっ、暑い!?」。すでに多くの参加者がやって来ていて熱気充満!そして、会場にはサイコム社製の最新ゲーミングPCがずらり!これからトーナメントが行われることもあり、秋風が吹く屋外とは別世界です。

会場を引いて撮った写真。多くの人でにぎわっている。
どこのテーブルでも対戦する人の姿が!盛り上がっていました
廊下に置かれたハチエフへの思いが書かれたパネルと、その前に並ぶ参加者の列
開場前から待機列が!イベントの人気ぶりが伺えました

充実したブースと体験コーナー

トーナメントのスタートまで時間があったので会場をぐるり。壁面に沿うように、たくさんのブースが出展されていました。まずは、イベントに対戦用ゲーミングPCを提供している「サイコム」ブースでは、同社オリジナルグラフィックボード・デュアル水冷システムを搭載した最新ゲーミングPCを展示。PCでゲームをプレイする人も増えているし、興味を持つプレイヤーも多いはず。僕も最新スペックPCに釘付けになってしまいました!

サイコム社のゲーミングPCを試すことのできるブースの写真
「スト6」の試遊で最新ゲーミングPCの性能を試すことができました

その他には、格闘ゲーマーに人気のアパレルブランド「+1F」ブース、コントローラー用ボタンをずらりと並べた「ななまる工房」なども賑わっていました。

カラフルなボタンがたくさん付いたボックスタイプのコントローラーが所せましと置かれている
コントローラーのボタンってこんなにあるの?と驚く「ななまる工房」ブース
黒地に「8F+1F」と書かれた、プラスワンフレームとハチエフのコラボTシャツを着たべてぃ氏の写真
「+1F」ブースでは、同ブランドの服を着たゲスト・べてぃちゃんの姿も

ハチエフらしい出展としては、ePARAのスタッフでもある全盲の格闘ゲーマー・NAOYAさんと対戦できる「心眼」ブース。音声情報だけで対戦する「スト6」のサウンドアクセシビリティの体験コーナーで、アイマスクをしてNAOYAさんと対戦。多くのプレイヤーが返り討ちにあっていました(笑)。障がい者へのアクセシビリティに対応したゲームなどを体験できる「ゲームアクセシビリティ岩手県立大学」ブースなどもあり、対戦の合間も暇を持て余すことはありませんでした。

NAOYAさんと、アイマスクをした参加者が対戦している様子
「心眼」ブースで連勝を重ねるNAOYAさん。まさに心眼の使い手!
ノートPCやモニター、アクセシビリティコントローラーなどが置かれたブースの様子。
地元大学が参加した「ゲームアクセシビリティ岩手県立大学」のブース

トーナメント開始!ハイレベルな戦いの行方は?

初顔合わせの二人でトーナメントへ挑戦

いよいよ、2on2トーナメントの時間がやってきました。僕がペアを組んだのは、大阪在住のパラ水泳選手・ゆうたろうさん。普段はパラ水泳選手として活動しているアスリートなのですが、普段からさまざまなゲームを楽しんでいるそう。二人とも大阪在住の縁で、チーム「パラOSAKA’s」として組ませてもらう事になりました。

ハチエフ25のキービジュアルパネルの前で、微笑む車椅子のゆうたろうさんとピースサインで笑顔のさなけんさん
フォトパネルの前で記念撮影(左・ゆうたろうさん、右・著者)

実は、顔を合わせるのは今日が初めて。「はじめまして!ゆうたろうです」と声を掛けてくれたゆうたろうさんは、笑顔の素敵な好青年。優しそうな人で良かった(笑)。ちなみに、「スト6」は上級者の証でもあるMASTERランク。最強のパートナーです!

挨拶が済んだところで「試合が始まる前に一度対戦しましょう!」と対戦台へ。もちろん、これが初手合わせです。ゆうたろうさんのキャラクターはDJ(モダン)、対する僕はザンギエフ(モダン)。何本か連戦してみて、お互いに勝ち負けを繰り返す良い勝負!「相手がめちゃくちゃ上手だったら迷惑かけるかも…」とお互いに思っていたのでひと安心。プレイの感触もつかめたし、いざ決戦へ!

さなけんさんとゆうたろうさんがプレイしている様子
はしゃいでプレイする著者と、落ち着いたゆうたろうさん。落差がスゴイ

白熱のトーナメント開始!会場の熱気も上昇

「2on2」はその名の通り、2名1組のチームで戦う方式。一次予選は、4チームごとにブロックに分かれて総当たり戦を実施し、上位2チームが二次予選へ進出。さらに二次予選を勝ち抜いた8チームが、優勝を決める決勝ステージへ進みます。

「パラOSAKA’s」が戦うのは一次予選Gブロック。開始時間になり、続々と選手たちが集まってきます。「みんな強そう…」と緊張している僕の横で、「緊張しないタイプなんです」と平常心のゆうたろうさん。さすがパラ水泳選手!と驚いているうちに、他チームの試合が始まりました!!プレイヤーは真剣な表情で画面を見つめ、バチバチッ!とボタンの音が響きます。明らかに上級者の動きだ…。

試合が進み、僕たちの番がやって来ました!初戦の対戦相手はチーム「覇者とBest Jamie」のジェイミー。先鋒としてゆうたろうさんが出陣!DJの強みである高速ドライブラッシュや相手の虚をつくジョスクールを駆使するも、相手のキレッキレなプレイで惜しくも負け。次は僕の番です。敵を討つべく席に座るも、相手のプレイを見ているだけに超緊張!…正直、試合の内容は全く覚えていません(ごめんなさい)!ただ言えることは一瞬で負けたことだけ(笑)。強かったー!続く試合もなんとか善戦するも敗退…。

ゆうたろうさんがプレイする様子を横から撮った写真
ゆうたろうさんの雄姿。残念だったけど、ナイスプレイでした

そして迎えた最終戦。一回戦突破は厳しい状況でしたが、ある意味吹っ切れた僕のザンギエフ。ドライブラッシュで近寄りまくって、ワンボタンスクリューを連発!対戦相手が思わず笑ってしまうほど、ただひたすらそれを繰り返して何とか1勝をゲットできました!

真剣な顔でプレイするさなけんさんと、楽しそうに笑う対戦相手の二人の様子
真剣にワンボタンスクリューを擦る著者と、吹き出す対戦相手!落差がスゴイ

 一次予選の結果は1勝2敗で敗退。残念ではありましたが、大会の緊張感を味わえ大満足。そして、ゆうたろうさんと一緒に戦えたことが何より楽しかった!今日が初対面なのに、一緒に笑って、一喜一憂して。友達の家でゲームに夢中になっていた放課後みたいな時間。格闘ゲームは、一瞬で人との垣根を超える最強のコミュニケーションツールなんだと、再確認できました。

その後もトーナメントは続き、優勝したのはチーム「あたさば」のあたーうさん、しめさばさんの二人!GG!!ちなみに、僕たちが対戦した「覇者とBest Jamie」チームのお二人は、昨年のハチエフのチャンピオンと、その決勝戦の相手だったと後で判明。今回も決勝トーナメントまで残っていたし、そりゃ強いはずだわ!

トロフィーを両手で掲げてうれしそうな優勝者の二人
優勝したチーム「あたさば」。会場から大きな拍手が送られました

トーナメントの配信がアーカイブされているので、気になる人は是非チェックを。

【後編】では、来場者やゲストの声から知るハチエフや、筆者が感じたハチエフをお届けします。

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sanaken

1981年うどん県生まれ、大阪在住。フリーランスの編集者・ライター。若年性パーキンソン病の当事者。ゲーセン歴25年以上という格闘ゲーマーだが腕前は永遠の初心者。最もやりこんだ格闘ゲームは「ストリートファイターⅢ 3rd」。(一社)パラサイクリング連盟の広報スタッフも務め、パラ競技を広めることを頑張り中。

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