2025年10月8日から10日にかけて、東京ビッグサイト南展示ホールにて開催された、 H.C.R.2025(国際福祉機器展)。
その中で、年齢や障害などの垣根を超えて誰もが楽しめる遊びを体験・紹介する「エンジョイアクティブゾーン」のePARAブースでは、3日間さまざまなテーマのトークショーが実施されました。
ここでは、三日目の10月10日に開催された「バリアフリーeスポーツダイエット 2か月の活動報告」の模様をお届けします。
ePARAは、「挑戦の、連鎖(コンボ)を決めろ。」というステートメントのもと、障害当事者一人ひとりの挑戦が次の挑戦につながり、社会全体を変えていく連鎖を生み出す活動をしています。今回のイベントでは、2か月間にわたって行われたバリアフリーeスポーツダイエットプロジェクトに参加したメンバーが成果を報告し、今後の展望について話し合いました。

ePARAの挑戦:「ゲームで健康に」
バリアフリーeスポーツダイエットとは、障害当事者が“体を動かすゲーム”を継続してプレイすることで、楽しみながら健康的な生活習慣を身につけることを目指す取り組みです。
運動へのハードルを下げ、日常の中に無理なく体を動かす時間をつくることを目的としており、ゲームならではの達成感や継続のしやすさが特徴です。
今回使用されたゲームタイトルは、以下の3種類です。

- 「Fit Boxing 3 -Your パーソナルトレーナー-」
- 「Fit Boxing 北斗の拳 ~お前はもう痩せている~」
- 「Fit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょにエクササイズ-」
ePARAでは、全8名の参加者が、障害当事者の健康管理をテーマにバリアフリーeスポーツに取り組む「Healthcare Fortia」というチームを結成し、活動を行っています。今回はその中から4名の参加者が登壇し、2ヶ月間の成果を報告しました。司会は、ePARA代表の加藤さんです。
登壇者紹介

(写真左から)
夕立P
Healthcare Fortiaキャプテン。統合失調症と発達障害。バリアフリーeスポーツダイエットのプロジェクト開始から2か月で7㎏の減量に成功。
さこつ
Fit Boxingシリーズのプレイを日課とし、過去には25kgの減量に成功!その後もePARAのサイトで記事を執筆。統合失調症および発達障害。
Mayca
パニック障害、うつ病、耳管開放症を抱え、Deaf Fortiaという聴覚障害者向け情報支援ユニットのリーダーを務める。「Fit Boxing」は2025年8月から開始。
NAOYA
全盲のeスポーツプレイヤー。普段は「ストリートファイター6」をプレイ。今回は視覚を持たない中で、「Fit Boxing」にどこまで取り組めるか試行錯誤しながら挑戦。
2か月間の活動内容
発表会では、各メンバーが2か月間に行った活動内容や日々の工夫について報告しました。
日々のスケジュールと取り組み
- 夕立P:朝早く起きて行うか、仕事後の夜に行うか、休憩時間中に軽く10分間行うなど、柔軟に継続。
- さこつ:朝起きてすぐに行い、できない日はストレッチだけで対応。
- Mayca:朝弱いため、仕事後に時間を空けてから実施。日付をずらす機能で余裕を持って取り組む。
- NAOYA:朝が最も元気な時間帯のため、毎朝取り組む。
活動時間の調整
当初、Maycaさんと司会の加藤さんは、毎日24時までに活動を行おうとしていましたが、26時までを1日の範囲として扱えるゲーム内の機能を活用することで、好きなタイミングで無理なく継続できるようになりました。日付の調整により、活動を途切れさせずに続けられるようになったとのことです。
成果と変化

身体的変化
- 夕立P:朝に運動できた日はパフォーマンスが良く、肩こりの改善や寝つきの良さを実感。
- さこつ:以前の減量後は現状維持状態。飽きずに継続でき、体重の増加を防止。
- Mayca:腰痛や膝の痛みが軽減。
- NAOYA:頭痛の頻度や強さが軽減。二日続けて休むと再発することから、継続の重要性を実感。
生活習慣の変化
- 夕立P:間食を控え、プロテインを取り入れる。
- さこつ:食事制限は意識せず、体重計に毎日乗る習慣を維持。
- Mayca:介護・視覚障害同行援護の仕事で体力を使うため、無理せず実施。
- NAOYA:朝の運動ルーティンを固定化し、朝食前に「Fit Boxing」を組み込む。
他のダイエット方法との比較
各メンバーは、過去に試した他の運動やゲームと比較して、「Fit Boxing」の続けやすさや楽しさを評価しました。
- 夕立P・さこつ:「Fit Boxing」はキツすぎず、コントローラーを追加で買う必要がなく、場所もあまり取らないため手軽。
- Mayca:運動が苦手でも、音楽を聴きながらできる点が楽しく続けやすい。
- NAOYA:目が見えないためジムに行くハードルが高いが、「Fit Boxing」は自宅で手軽に始められる。
チーム全体の取り組みと今後の展望
夕立Pから、Healthcare Fortiaとしてのチーム全体の取り組みが紹介されました。
- 毎日のダイエット成果を「#bfeスポーツダイエット」でSNSに投稿
- バリアフリーeスポーツダイエット交流会を開催ー車椅子ユーザーや全盲の参加者が初めて「Fit Boxing」を体験
全盲の方が「Fit Boxing」をプレイすることに関して、NAOYAさんは、音声指示に従ってボクシングを行う際、動きが合っているか不安になることがあると述べました。そのため、可動領域や無理のないフォーム・動きについて、作業療法士など専門家に見てもらうことで、安全に、かつ効果的に活動を続けられる可能性があると話しました。
誰でも楽しめる工夫
「Fit Boxing」は四肢の一部が動かない場合でも、胴体の動きで参加可能であり、障害の有無に関わらず楽しめることが発見されました。これにより、視覚・聴覚・四肢の障害者でも参加できる可能性が示されています。

車椅子サッカーチーム「ePARA ユナイテッド」のメンバー

研究プロジェクトの開始
夕立Pは、ゲームを活用した障害者や病気を抱える方々へのバリアフリーな健康促進プロジェクトを紹介。コミュニティ活動がトレーニングのモチベーションになるか、コミュニティ的アプローチの有効性など、多角的な研究を進めているとのことです。

今後の展望
最後に、登壇者それぞれが今後の目標を発表しました。
- 夕立P:体力作りを継続し、Healthcare Fortiaの活動を広めたい。
- さこつ:「Fit Boxing」を1000日以上続けカウントストップさせること。体重維持。
- Mayca:無理なく「Fit Boxing」を続け、練習や諦めない心を学んだ。
- NAOYA:ヘルスケアやフィットネス系のゲームも、視覚に障害のある方が使いやすくなるよう、メニューの読み上げなどのアクセシビリティ対応について、要望を発信していきたい。
また、ePARA代表の加藤さんは、今回の研究をePARAの福祉事業に展開する構想を共有。特別支援学校卒業後、運動習慣の少ない子どもたちが楽しみながら健康になる取り組みを社会実装したいと語りました。
まとめ
Healthcare Fortiaのメンバーがバリアフリーeスポーツダイエットに取り組んだことで、ゲームを通じて誰もが楽しみながら健康を目指せることを、あらためて実感できました。今回取り組んだ「Fit Boxing」も、場所を取らず物が増えないので始めやすく、自宅で気軽に続けられる“楽しい運動習慣”としてぴったりでした。
今後は、ePARAの福祉事業等の応用も期待され、さらなる社会実装が見込まれています。



