イベントレポート

格闘ゲームが持つ無限大の可能性 -「ハチエフ」に見たバリアフリーeスポーツの理想像-(前編)

2024年9月14〜15日、ePARA主催で開催された「ハチエフ HACHIMANTAI 8 FIGHTS '24」。「ストリートファイター6」のオフライン大会をメインとしたこのイベントは、2日間で延べ約300人の来場者が訪れ、大盛況のうちに幕を閉じました。この記事では、格ゲーをこよなく愛する難病当事者(若年性パーキンソン病)のsanakenが、来場者やゲストの声を交えながらイベントの様子を前後編にわけてレポート。そこには、バリアフリーeスポーツイベントの理想像がありました。

300人の格闘ゲーマーが高原リゾートに集結!

「ハチエフ」ってどんなイベント?

「ハチエフ HACHIMANTAI 8 FIGHTS '24」(以下、ハチエフ)が開催されたのは、岩手県八幡平市にある「安比リゾートセンタープラザホール」。冬はスキー場として賑わう高原にあり、ホテルも併設されています。残暑厳しい時期でしたが、秋を感じさせる風がふわり。熱いゲームイベントが開催される場所とは思えない、高原リゾート感たっぷりの場所でした。

「ハチエフ」の開催は、昨年に続き2回目。イベントのテーマは「闘い方は無限大。ゲームやろうぜ八幡平」。対戦格闘ゲーム「ストリートファイター6」(以下、スト6)を用いたトーナメントをメインとして、アクセシビリティコントローラーの体験や最新ゲーミングPCの展示なども実施。障がいの有無に関わらず楽しめるイベントです。

会場となった「安比リゾートセンタープラザ」
会場の裏には青々としたゲレンデが広がっていました

対戦の熱気が充満する会場の様子

会場に入ってみると、広々としたホール内にサイコム社製の最新ゲーミングPCがずらり! 30台はあるでしょうか? まだ大会開始前でしたが、PCはフリー対戦台として開放されており、多くの人が対戦に夢中。すでに熱気に包まれていました。

来場者もさまざま。中学生ぐらいの子もいれば、僕と同世代であろう40代の人もいるし、車椅子の人の多さも「ハチエフ」ならでは。後で聞きましたが、2日間の来場者数は延べ300人。大会には90名を超える人がエントリーしていたと聞き、会場の盛り上がりに納得!

若い来場者がゲームを楽しんでいる様子
「スト6」の人気もあり、幅広い客層が訪れていました
サイコム社の白いゲーミングPCと、スト6が写っているモニター
対戦で使用されたサイコム社の「スト6」推奨スペックのゲーミングPC

待望の東北での「スト6」大規模大会

2人で来場していた、地元岩手のhonryouさんとRiskyさんにお話を聞いてみました。

なぜハチエフに?

スト6の対戦をしたい気持ちはもちろんですが、障がい✕eスポーツのイベントを応援したい気持ちもあって。これだけの人が集まることがスゴイし、それが地元岩手なのが嬉しい。とても貴重なイベントだと思います」(honryouさん)。「来ているプレイヤーは強い人ばかりだし、東北にこんなに猛者がいたとは(笑)。ゲームイベントが岩手で行われること自体が珍しいし、障がい✕eスポーツは他にはない特別なイベントだと思います」(Riskyさん)。

「#ハチエフで呟いたりポストしよう」と書かれた自筆のカードを持つRiskyさん
コメントをもらったRiskyさん。
自作のボードで会場を盛り上げてくれました


東京や大阪などの大都市に比べてゲームイベントが少なく、さらに格闘ゲームのオフライン大会となるとさらに少数。東北のプレイヤーが待ち望んだイベントだったようです。むしろ、障がいの有無を問わず、気軽に一緒に戦える大会となると「ハチエフ」が日本唯一なのでは!?とも思いました。

見て、触れて、楽しむ豊富な出展エリア

「サイコム」の最新ゲーミングPCたち

会場内には、さまざまな展示&体験エリアも設けられていました。まずは、ハチエフに対戦用ゲーミングPCを提供している「サイコムエリア」。最新GPUや水冷クーラーを搭載した超ハイスペックPCから、手の平に収まるサイズながら「スト6」がプレイ可能なミニPCまでズラリ。かつて自作PCにハマっていた僕にとっては、ワクワクが止まらないブースでした。

サイコムPCが並ぶ
ハイスペックのゲーミングPCが4~5台展示されていました
サイコムゲーミングPCの内部の様子
CPUとGPUに水冷クーラーを搭載したモデル

また、アクセシビリティコントローラーの一つであるSONY製の「Access™️コントローラー」の試遊も実施。プレイしていた車椅子の少年Y君のお母さんは「息子は、ハチエフのプロデューサーでもあるJeniさんと同じ筋ジストロフィー。イベントに来てみて、障がいがあってもプレイしやすい環境になってきていて、工夫すればできるようになるんだなと。とってもいい機会になりました」と話してくれました。

Accessコントローラー
「Access コントローラー」。PS5のほかPCでも利用可能

"心眼"の使い手とスト6で対戦

続いては、ePARAの「ゲームアクセシビリティエリア」。音声情報だけで対戦する「スト6」のサウンドアクセシビリティの体験コーナーがあり、ePARAのスタッフで全盲の格闘ゲーマーNAOYAさんとの組手を実施。「本当は見えてるんでしょ?」と疑いたくなるプレイで来場者と対戦していました。

NAOYAさんと対戦したミャンマー出身のウェイさんは、「はじめは目が見えないと知らずに対戦していたけど、途中で気付いて驚き!僕は画面を見ながらプレイしていたのに15戦0勝(笑)。アイマスクをしてサウンドアクセシビリティも体験したけど、まったく状況がわからない。目に頼れないから不安だし、慣れるのには時間かかりそう。NAOYAさんはすごいです!」と、驚きの様子でした。

モニターに向かっている晴眼者プレイヤーの隣で違うところを向いているNAOYA選手のツーショット
画面へ向かずに音だけでプレイするNAOYA氏

ByoWave社「プロテウスコントローラー」

「ゲームアクセシビリティエリア」では、本イベントで日本初公開となったアクセシビリティコントローラー「プロテウスコントローラー」の試遊も可能でした。本機はアイルランドのByoWave社が開発したコントローラー。キューブ状のモジュールの各面に、好みのボタンやレバーを取り付けられることに加え、キューブ同士も接続可能。障がい特性に合わせて自由自在に変化させられる夢のようなデバイスでした。

プロテウスコントローラーを試遊した岩手在住のたかはしさんは、「ガジェット好きの目線から見て、カッコいい!欲しい!と思いました。コントローラーの進歩によって、いろんな方がプレイできるようになれば、垣根なく誰もがゲームをプレイできますね」と、キラキラした目で答えてくれました。

プロメテウスコントローラー
丸みを帯びたキューブ状でプロダクトデザインとしてもおもしろい
プロメテウスコントローラーを試す来場者
珍しいコントローラーに興味津々で立ち寄る人が多かった

EVOに挑んだJeniの写真展&物販エリア

そのほかのブースも簡単に紹介します。今年8月、ラスベガスで開催された世界最大の格闘ゲームイベント「EVO2024」に参加した、ハチエフのプロデューサーでもある難病の格闘ゲーマーJeniの「EVO2024写真展」。「ハチエフ」の公式グッズやJeniのオリジナルグッズを販売する「物販エリア」も人気を集めていました。

「EVO2024写真展」壁に貼られたたくさんの写真を見る来場者たちの様子
EVOへの旅のさまざまなシーンが写真展示された「EVO2024写真展」
イベントTシャツ、Jeniオリジナルyogiboなどが販売された「物販エリア」の様子
イベントTシャツ、JeniオリジナルYogiboなどが販売された「物販エリア」

Yogibo MAX体験エリア

会場内には、快適すぎて動けなくなる魔法のソファ「Yogibo(ヨギボー)」を体験したり、休憩しながらコミュニケーションができるリラックスエリアも設置されていました。ゲームで疲れたり、休息したいという時に自由に利用することができ、長丁場のイベントを楽しめるよう工夫されていました。

手前から青、黄色、赤のYogiboMAXが並べられ、一人の来場者が赤のYogiboに寝そべってくつろいている様子
疲れた心身を癒してくれた「Yogibo MAX体験エリア」

100名近いプレイヤーの熱気に包まれた「2on2」大会

いよいよ大会スタート!開幕の挨拶

会場を一通りチェックしたところで、メインイベントの「2on2大会」が始まる時刻に。まずは開会宣言ということで、前方のステージに主催者が勢揃いしました。登壇したのは、ePARA代表の加藤大貴、イベントのプロデューサーであるJeni、八幡平市の副市長である田村泰彦氏、サイコム代表の河野孝史氏、同社マーケティング担当の佐藤明氏。それぞれの登壇者からイベントへの想いなどが語られました。

壇上で開会の言葉を話すJeni
壇上でコメントするJeni。イベントへの想いは誰よりも強いはず

ここではJeniの言葉をピックアップします。

「昨年よりも多くの人が来てくれたことが嬉しいです!ハチエフのテーマを“遊び方は無限大”としたように、障がいを持っていても工夫すれば遊べることを知るきっかけになれば。そして、障がいの有無に関係なく平等に楽しみ、ゲームで対戦することでコミュニケーションが生まれて欲しい

と、ハチエフへの想いを語ってくれました。

大きな拍手の後、「2on2大会」の開催です!

室温すら上がる!?大熱戦がそこかしこで!

「2on2大会」はその名の通り、2名1組のチームで戦う方式。一次予選は、4チームごとにブロックにわかれて総当たり戦を実施し、各ブロックの上位2チームが二次予選へ進出。さらに二次予選を勝ち抜いた8チームが、優勝を決める決勝ステージへ進みます。

参加人数は48チーム96名!マイコントローラーを抱えたプレイヤーたちが、少し緊張した面持ちでテーブルにわかれました。準備が整ったところで一次予選スタート!「バチバチッ!」とボタンを叩く音が会場に響き渡ります。時には「よっしゃー!」という歓喜の声、時には「くっそー!」という悔しがる声、時には「いける!いける!」と応援する声。先ほどまでの和やかなフリー対戦とはがらりと空気が変わり、熱気と緊張感が充満。心なしか会場の気温が上がりました(比喩ではなく!)。

対戦会の様子。多くの人がゲーミングPCの前に並んで座り対戦を楽しんでいる
ブロックが割り振られたテーブルごとに対戦開始!
対戦会の様子。薄暗い会場は多くの人で賑わう
広々とした会場のあちこちで真剣勝負が行われていました

一次予選、二次予選と大会は順調に進み、勝ち残った8チームによる決勝ステージが始まりました!ここまで勝ち上がったチームだけに、プレイヤーの腕前はプロ顔負けの超ハイレベル。ちなみに、対戦台はステージの上。巨大なスクリーンにもプレイの様子が映し出され、観客が見守る中で激戦が繰り広げられました

決勝ステージの前にゲストの梅田サイファー・KBD氏が『CONTINUE』を披露する様子。来場者も手をあげて盛り上がっている。
決勝ステージの前には、ゲストの梅田サイファー・KBD氏による『CONTINUE』も披露されました!
決勝トーナメントをスクリーンで見る来場者たちの様子
スクリーンの試合には実況も入り、会場は大いに盛り上がりました

東北の強豪2チームで優勝決定戦!

強豪同士がしのぎを削り合った結果、優勝を争う2チームが決定。チームKSG(ジェレミー選手&ゆうき選手)とチーム優勝(ないお選手&VERYkomatsu選手)。エントリー情報によると、どの選手も「スト6」のランキングの中でも最上位のMASTERランク。戦績を数値化するMRも全員が最高到達値が1900越え。これは、「スト6」における最高レベルの腕前と言っていいと思います。

第1試合のジェレミー選手(ジェイミー)対ないお選手(キンバリー)は、接戦を制したジェレミー選手の勝利。第2試合は、ゆうき選手(マノン)対VERYkomatsu選手(ベガ)が激突。ゆうき選手の投げが次々と決まってマノンが尻上がりに強化されていくも、ベガの高火力コンボが決まってVERYkomatsu選手が勝利。

優勝をかけた2チームが壇上で対戦する様子
優勝をかけた2チームが激突!会場も固唾を飲んで見守ります

両チームとも一つずつ勝ち星を獲得し、ジェレミー選手対VERYkomatsu選手の優勝決定戦へともつれ込みました。第1ラウンドは、互いに体力残りわずかの局面で両者のSAが交錯し、VERYkomatsu選手が辛勝。第2ラウンドは、ジェレミー選手のジェイミーが相手を画面端に追い込みリードを奪うも、VERYkomatsu選手がベガの高火力を活かしてリードを奪い返すシーソーゲームへ。そして、またもお互いの体力が残りわずかの展開に!最後の勝負をかけたジェイミーの一撃を、勇気を振り絞ったベガのSAで切り返してVERYkomatsu選手が勝利!地元岩手県の「チーム優勝」がその名の通り「優勝」を収めました!!(ちなみに、VERYkomatsu選手は2日目の「1on1大会」でも優勝を果たし、「ハチエフ二冠」を達成!)

優勝したないお選手(左)とVERYkomatsu選手(右)
優勝した二人。左がないお選手、右がVERYkomatsu選手

大会には車椅子のユーザーの参加も

ちなみに、プロデューサーのJeniも、ゲストとしてイベントに来ていたHIPHOPグループ・梅田サイファーのKBD氏とタッグを組んで「2on2大会」へ参戦。両者健闘するも一次予選敗退という結果でした。

タッグを組んで大会に挑むJeniとKBD氏
タッグを組んで大会に挑むJeniとKBD氏

冒頭にも 書いた通り、車椅子のプレイヤーが多いのも印象的。大会に参加していた車椅子の少年・リボ払い君に話を聞いてみました。

大会の感想は?「オフライン大会は初めてだったけど、とっても楽しかったです。運動はできないこともあるけど、ゲームなら自分の努力次第で、健常者と同じ環境でプレイできる。むしろ、努力の部分しかない。来年はもっと腕を上げて挑みたいです」と、意欲に満ちていました。

リボ払い君の対戦の様子。後ろから見守る仲間たちが声援を送る
リボ払い君の対戦の様子。後ろから見守る仲間たちが声援を送る

後編では印象に残った少年の活躍やゲストの声をお届けします。

後編はこちら
格闘ゲームが持つ無限大の可能性 -「ハチエフ」に見たバリアフリーeスポーツの理想像-(後編)

大会パートナー

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sanaken

1981年うどん県生まれ、大阪在住。フリーランスの編集者・ライター。若年性パーキンソン病の当事者。ゲーセン歴25年以上という格闘ゲーマーだが腕前は永遠の初心者。最もやりこんだ格闘ゲームは「ストリートファイターⅢ 3rd」。

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