2025年9月20~21日、ePARA主催で開催されたバリアフリー・格闘ゲームイベント「ハチエフ25」。第3回を迎えた今回、2日間で約400人が参加し、かつてない熱気に包まれました。そんなイベントの様子を、格ゲーをこよなく愛する難病(若年性パーキンソン病)当事者のsanakenが、前後編の二部に分けてレポート!着実に規模を拡大しつつ、クオリティや考え方までアップデートを遂げていた「ハチエフ25」。障がい✕eスポーツの「理想のあたり前」を考えさせるものでした。
【後編】は、来場者やゲストの声から知るハチエフや、筆者が感じたハチエフをお届け。
【前編】はこちら。イベントの様子と2on2トーナメントをお届けしています。

来場者の声から知るハチエフ
2日間合わせて400人もの人が訪れた「ハチエフ25」。プレイヤーだけではなく、子ども連れのファミリーや車椅子の人など、さまざまな人が楽しんでいました。そんな来場者のみなさんにインタビュー。イベントでどんなことを感じたのでしょうか?

まるぽすさん
「ePARAの関連会社で働いていて、ePARAのFPSチーム・FPS Fortiaのキャプテンもしています。Jeniさんの活動を近くで見ていたし、イベントへの想いも感じていたので、今年は自分も参加したい!と思って北海道からやって来ました。ハチエフの印象は、とにかく熱気がスゴイ!格闘ゲーマーは熱い人が多いからかな?NAOYAさんとのチームでトーナメントに参戦するんですが、勝ちたい熱が高まりました。そして、障がい関係なく、みんなが格闘ゲーマーとして一つになっている、そう感じました」
車椅子の少年のお母さん
「息子がJeniさんと同じ筋ジストロフィーという難病なんですが、『今年も見に行きたい』と昨年に続いて2回目の参加。今回はマイコントローラーを持参しました。心眼ブースでNAOYAさんと対戦しましたが、見えているみたいな動きでビックリしました。去年よりも人が多い気がしますし、障がいがあってもウェルカムなイベントなのでありがたい。まだ息子は格闘ゲームはしていないですが、本人が希望するなら、ぜひやらせてあげたいですね」

安室さん
「ハチエフは第1回から来ているのですが、最初は『福祉関連のイベントかな?』と思っていました。けど、今回はトーナメントがメインになっていて印象が変わりましたね。東北にも10~20人の対戦会はありますが、ここまで大規模なイベントは他にないと思います。普段は障がいを持つ方や福祉の世界に触れる機会がないし、イベントを通じてゲームアクセシビリティの認知が広がるのは良いこと。障がいを持つ方が健常者の方と同じようにプレイできることを、もっと発信していってほしい。みなさん、プレイヤーとしても強いですし!毎年開催して欲しいです」

ゆうたろうさん
「EVO JAPANでJeniさんと初めてお会いして、今回ハチエフにもやって来ました。私も体に麻痺があるのですが、ゲーム好きでいろんなタイトルをプレイしてきました。『スト6』は初の格闘ゲームではあるものの、参加できて楽しかったです(注:著者と一緒にトーナメントへ参加)。誰でも歓迎なイベントの空気が良いと思うし、配信台にスロープがあることも、いち車椅子ユーザーとして素晴らしい工夫だなと。みんなフラットにゲームを楽しんでいるし、来年もまた来たいなと思いました。今後はもっと障がいを持つ方に来てほしいですね」

DAIJIRO君
「昨年に比べてすごく人が多い!しかも、東北以外の有名プレイヤーがかなり来ているし、トーナメントのレベルが上がってると思いました。今回のチーム戦の結果は二次予選止まり。けど、LEGENDクラスのプレイヤーに1勝できてよかった!以前は、ボッチャで国体にも出場したことがあるのですが、格闘ゲームの方が夢中になっていて、2年間で2000時間近くプレイしてます(笑)。自分が強くなっている実感が持てるし、格闘ゲームにハマって生活が変わりました。今度は決勝トーナメントまで進みたいです!」
ゲストの声から知るハチエフ
一般来場者だけではなく、豪華なゲストが来ているのも「ハチエフ」の魅力。毎年常連のゲストもいれば、今年初登場のゲストも。イベントを通じて何を感じたのか、お話を聞いてみました。

NOモーション。氏(お笑いコンビ)
「ePARAさんとは、数年前に開催された『心眼CUP』に呼んでもらった時からのお付き合い。ハチエフには初めて来たんですが、第一印象は『会場が広い!対戦してる人も多い!』でした。障がいを持つプレイヤーもたくさんいましたが、みんな同じ立ち位置。何も気になりませんでした。格闘ゲームの良さって、そんなところにあるのかも知れない。いろんな人がいて良いし、ボーダレスに楽しめるコミュニティになるべきだなって。もっとたくさんの人にハチエフを知ってほしいし、岩手県を挙げて盛り上げてほしいと思います。あと、配信台へのスロープをレッドカーペットにしても面白いんじゃない?格闘ゲームの可能性を感じるイベントだし、もっと大きくなる未来が見えますよ!」

べてぃ氏(ストリーマー)
「私は秋田県出身。東北の格闘ゲームシーンを盛り上げたいと思って、初参加させていただきました。『どれぐらいの人が来るんだろう?』と思ってましたが、会場は人でいっぱい!強豪プレイヤーもたくさんいたし、東北にこんな大きなコミュニティが育っていたことが嬉しいです。障がいを持つプレイヤーもいらっしゃいましたが、みんな同じ格闘ゲーマー。境界は全くないんだなと。今後もイベントを続けてほしい。東北出身として応援しています」

石井プロ氏(+1F ディレクター)
「昨年よりも規模が大きくなり、参加者も多くなりましたね。爆発的な増加ではなく、しっかりと根を張っているような印象です。そして今回、特に『一つ上のステージに来たんだな』と感じました。1回目は“障がい者のためのイベント”という雰囲気でしたが、回を追うごとに“格闘ゲームイベント”としての質が上がり、今回は障がいがある人も、ない人も、『とにかく、みんなで一緒にやろうよ!』というメッセージを感じました。その考えに至り、実現するスピードに驚きです。特別な個性を持つ人へのアプローチとして発展してほしいし、もっと広まってほしい。そして、東北の『EVO』へ。プロが自発的に参加したくなるような、日本を代表する大会へ成長してほしいと思います」

ハンサム折笠氏(ハンサム)
「今回の盛り上がりは昨年以上!熱量もクオリティも格段にアップしていると思います。会場の天井に掲げられたスポンサーロゴの多さがその証拠なのかな。Jeniさんから出演依頼をもらった時、『今年は格闘ゲームの大会として推す』と聞いたんですが、しっかり実現されている。やはり、その原動力になっているのがJeniさんの“熱”なのかなと。全力で走る彼の姿を見た人に熱が伝わり、多くの人が巻き込まれている。私もその一人です。“熱”は、障がいに関係なく、人に宿る。これだけは平等なんだと感じました。ハチエフはもっとすごいイベントになるポテンシャルを持っているし、私の想像なんか遥かに超えて伸びていくと思います。来年も『うわっ!』と驚くイベントになることを祈ってます」
最後に。一人の障がい当事者が感じたハチエフ。
今回のハチエフでは、トーナメントに参加し、いろんな人からお話を聞かせてもらいました。初日だけでしたが、誰よりもイベントを観察させてもらったと思います。そんな私が感じたことを。
まず感じたのは、多くの人が言う通り、昨年より参加人数やクオリティが格段にアップしていること。「格闘ゲームイベント」としての成長に驚きました!本当に素晴らしいことだと思います。しかし、同時に、ある違和感を覚えました。それは「障がい×eスポーツ」のテーマ性をあまり感じない、ということ。
「心眼」ブースや「ゲームアクセシビリティ岩手県立大学」などのコンテンツはありましたが、イベント全体の中での印象は小さなもの。正直に言うと、格闘ゲームイベントとして推すために「障がい×eスポーツ」のアピールは控えめにしたのかな…と、少し寂しく感じてしまったんです。しかし、その考えは取材が終わる頃には変わっていました。
今回のコンセプトは、「誰もが挑戦者として並び合える場所」。具体的に言うと、どんな人であっても、同じ場所で、同じプレイヤーとして、対等な関係で挑戦できるイベント。実際にゆうたろうさんとトーナメントに参加しましたが、健常者と全くフラットな土俵で戦い、一人の格闘ゲーマーとして挑戦することができました。障がいを持つ他の参加者も同じだったと思います。
そう、「ハチエフ」では、障がいを持つ人に対する“特別扱い”がないんです。その代わりに、違いに対する“工夫”がある。配信台に設けられたスロープ、アクセシビリティコントローラーへのハード面の対応などです。“工夫”をあたり前に備えているから、障がいを持つ人を特別扱いする必要がない。だからこそ、「障がい×eスポーツ」をことさら強調する必要もない。自然に溶け込んでいるんです。
大柄な人、やせ型な人など、みんな体形が違います。けれど、誰もが自分の体に合った服を着て生活している。なぜ、それが可能なのか?それは、多種多様な服がお店に並び、簡単に手に入るから。それが“あたり前”なんです。障がいという違いに対する選択肢を、服を選ぶような自然さで、自由に選べる世界が来てほしい。その一つの理想が「ハチエフ」であり、「誰もが挑戦者として並び合える場所」のコンセプトに表れているのではないでしょうか?
最後に。障がいを持つことにより、「自分は人と違う存在なんだ」と、自分自身に悲しいラベルを貼ってしまうことがあります。その認識はいつしか、“特別扱い”してほしい気持ちへ変わってしまう。本当は同じ場所に立っていたいのに……。「はじめの一歩が、届く場所」に立つためには、自分自身を磨く必要がある!これからは心を新たにして、モダンザンギエフのワンボタンスクリューを擦り倒そうと思います!(わかってない)







