2023年5月30日。プロ野球は日本生命セ・パ交流戦 2023(以下、交流戦)が開催されます。パリーグ首位で交流戦を迎える千葉ロッテマリーンズ。(2023年5月27日時点)
ePARAは2022年12月、千葉ロッテマリーンズ主将・中村奨吾選手から寄付金を受贈いたしました。
今回の記事では、交流戦に向けて中村奨吾選手へのエールを届けるべく、ZOZOマリンスタジアムで行われた贈呈式の感動と、後日開催した対談の模様をお届けします。
2022年12月:中村奨吾選手との対面
京葉線の海浜幕張駅から徒歩で向かったZOZOマリンスタジアム。車椅子でのルートがわからず道に迷い、焦りを抱く一行。しかしそんな不安は、これから起こる出来事に対する期待感、ワクワク感に比べれば、些細なもの。
全盲のeスポーツプレイヤー・NAOYA、ePARAユナイテッドの羽飛(つばさ)とアフロ(長野僚)の3名は、バリアフリープロジェクトチーム「Fortia」の中でも随一の野球好きだ。
球場に着いてまもなく丁重に通された会議室。中村奨吾選手はいた。
到着が遅れた我々が撮影用のePARA Tシャツに着替える間も、ずっと笑顔で立ったまま待っていてくれるという紳士ぶり。こちらが見事に恐縮したのは言うまでもない。さすがは現キャプテン(2021年シーズン〜)、そして「NPB史上15人目の全打順本塁打達成者」である(Wikipediaより)。
そんな懐の深さに感服していると、改めてマリーンズの球団広報の方より今回の経緯が語られた。
きっかけは、2022年3月にePARA代表・加藤が登壇したKumamoto eSports Conference(KeSC)。ここでの出会いがきっかけで中村奨吾選手とのご縁をいただき、寄付金の受贈を受けたことから、今回の訪問が実現した。
随所で中村奨吾選手の優しさと千葉ロッテ球団の厚意に触れながら、同席した各々が野球を好きになったきっかけを伝えた。
まもなく球団の仕事納めが迫った師走の折。寄付金の贈呈式のみだと想定していた私たちだが、サプライズはこれで終わらない。
中村奨吾選手から「グラウンドに降りてみませんか?」とのご提案が。一同歓喜!
ある者は千葉ロッテマリーンズのユニフォームを着用し、またある者は中村選手のサイン入りバットとユニフォームを持って、グラウンドに飛び出した。
2023年3月:当時の心境を振り返る
2023年3月某日。プロ野球2023シーズンを直前に控える中、当日の参加メンバー3名に千葉ロッテマリーンズの有識者・中川さんを加え、中村奨吾選手座談会を開催。中村奨吾選手と対談した感想や、グラウンドにも足を踏み入れた時の想いを聞いてみた。
普通ではあり得ない体験
インタビュアー:みなさん、昨年末に中村奨吾選手とお話したときのこと、振り返ってかがですか?
羽飛:率直に嬉しかったですね!キャンプに行っても選手と話せるのはせいぜい一言二言。それが、普段話せない話題や自分たちの野球に対する想いなんかも伝えることができて最高でした。普通じゃあり得ないんですよ、こんなこと!
おまけに中村選手から頂いたサイン入りバットをいただいて。それを持ってバッターボックスに入ってみたり。とにかく「こんなことやった人いないんだろうな!」という経験をたくさんできて嬉しかったです。
インタビュアー:羽飛さん、中村選手と手の大きさ比べてましたよね?
羽飛:はい!やっぱりプロ野球選手って手も大きいイメージがあって比べてみたんですけど、まさかの同じか、僕の方が少しデカいくらいで(笑)でもプロの手というか、練習でバット振り込んでるなというのは感じました。あと、中村選手がユニフォームではなくスーツ姿で来られていたのでその場に馴染みすぎて、最初は球団関係者の方かと…(笑)いい意味でプロ野球選手っぽくなく、内に秘めたタイプでありながら、その落ち着きと野球に取り組む姿勢でキャプテンとしてチームをまとめている。実際にお会いして「あぁ、こういうことか」と思いました。
インタビュアー:NAOYAさんは、振り返ってかがですか?
NAOYA:まず、球場の関係者入口から入るのって楽しいですね!目が見えない僕に限らず、(関係者入口の内部を)見ることができない人の方が多いとは思いますが、普通の人が絶対に経験できないことができるのは嬉しい(会議室の位置とか、グラウンドまでのルートとか)。ZOZOマリンで寝転んだ男としては、「ここのグラウンドは寝転んでも汚れないんだな」とか、けっこう芝生がツルツルしていて足を取られにくいなとか、「だから選手たちはここでスライディングするんだな」とか。これは実際に行ったからこそ分かったことだし、マリンは風が強いって言われていたけど実際には球場の外から関係者入口に行くまでが1番風が強くて、ePARAから持参したスローガンボードが何度揺れたことか。でもグラウンドは本当に暖かくて。
アフロ:当日(ツバサと私の車椅子組の)到着が少し遅れてしまって…。中村選手をお待たせする形になったにも関わらず、自分たちが ePARAのシャツに着替える間もずっと直立不動でまってくださっていて。帰り道にみんなで「この謙虚さは凄い!」と話していました。そして今回の機会に関していえば、まさかグラウンドに降りられるなんて思ってもいなかったので、感動しました。
僕はマウンドの手前まで行ってシャドウピッチングをしてみましたが、思い思いに自分がやりたいことをやっている光景を間近で見ているのも新鮮でした。「グラウンドから無人のスタンドを見上げる」という経験も本当に貴重でした。今、自分たちがやっていることがいかに非日常で凄いことかというのを噛み締めながら楽しんでいました。
熱狂的なファン、中川さん
インタビュアー:今回の中村奨吾選手とのつながりをきっかけに接点を持たせていただいた、中川さんにもお話をうかがいます。千葉ロッテマリーンズの熱狂的ファンである中川さん。好きになったきっかけは何ですか?
中川:はじめまして、中川です。現在千葉在住で、2012年にたまたま引っ越してきてからのファンです。ファン歴が長い方ではないのですが、偶然行った試合で外野席の熱い応援を目の当たりにし、それに惚れ込んでしまったことがきっかけで応援するようになりました。
インタビュアー:中川さんにとっての、千葉ロッテマリーンズの魅力を教えてもらえませんか?
中川:球団とファンとの距離の近さや応援の凄さです。ファンになった当初は当日券でフラッと観に行ける手軽さも魅力の1つでした。SNSを通じてロッテファンの友人がめちゃくちゃ増えて、1年間で150人くらい増えた時期もありました。パ・リーグの各球場の本拠地で知り合った人たちも多いですね。5年ほど前からは球場のボランティア活動にも参加し、千葉県のマスコットキャラクター:「ちーばくん」の中に入ったりもしていました(笑)千葉ロッテマリーンズは私の大好きな球団なので、多くの方にその魅力を知ってもらえたらなと思っています。
インタビュアー:今後、ePARAが千葉ロッテマリーンズ関連のプロジェクトを行う際は中川さんにアドバイスをいただけたらと思います。
中村奨吾選手との出会いから、夢を馳せる
インタビュアー:最後にみなさん、今回の中村奨吾選手との接点をきっかけとして、いつかやってみたい夢を教えてください。
アフロ:今年実現できそうなこととしては、ZOZOマリンスタジアムに「中村奨吾選手応援ツアー」(仮)と題して公式戦の観戦に行きたいですね。また、ePARAユナイテッドで小林悠選手とサッカーゲームで共闘したように、シーズンオフに野球ゲームでの対戦・共闘とかできたら楽しそうです!
羽飛:せっかくePARAメンバーと関わってもらえるならば、何か僕らの生活環境や強みを活かした形(ブラインドや車椅子の状態)で一緒にゲームができたら面白いと思います!あとは、いつか始球式とかしてみたいです。(届くかはわかりませんけどw)」
NAOYA:私はふだんの声優活動の経験を活かしながら、カラスボーイ(ウグイス嬢の男性版)をやってみたいです。(全盲の場合、読み上げのきっかけがわかないので)名物ウグイス嬢の谷保さんに読み上げタイミングの指示出してもらって、中村奨吾選手をコールしたいです。
特別な経験への感謝
NAOYA:今回、本当に貴重な機会を提供してくださった千葉ロッテマリーンズの球団関係者の皆様、そして中村奨吾選手。本当にありがとうございました。
羽飛:中村奨吾選手から対談中、「今日をきっかけにシーズン中も様々な形で交流をしていきたい」という言葉をいただきました。本当に嬉しかったです。そして、その想いはもちろん私たちも同じです。
アフロ:2023年シーズンの中村奨吾選手の更なる躍進と今後の展開に、夢は広がるばかりです。ePARAと関わったことが中村奨吾選手にとってもプラスになれば嬉しく思います。
中川:いろいろな企画、少しずつ実現に向かっていけるといいですね!私もできることをサポートします。
編集後記
野球やサッカーなどのスポーツを好きになることに、障害の有無や年齢、性別は関係ない。
目が見えるかどうかや、身体が自由に動くどうかに関係なく、スポーツを通じた感動はたくさんの力を与えてくれる。
パラeスポーツプレイヤーとして活動を始めている彼らは、スポーツに力をもらいながら、自分たちがeスポーツを通じて誰かの力・元気になりたいと思っている。
だが、彼らの力はまだまだ微力だ。実力も知名度もトップ選手のそれとは遠く及ばない。
そんな自分たちの活動を応援してくれるプロ野球選手がいる。
その選手に夢を乗せ、応援することができる。
そしてそこから、新しい夢が生まれる。
中村奨吾選手が届けてくれた思いは、彼らの活動の幅と笑顔をより豊かにしてくれることは間違いない。
それにしても、「夢が叶う」とは、なんともワクワクする響きだろう。
eスポーツをきっかけにリアルで繋がり、そのストーリーが誰かの希望となる。
今回の出会いが、そんなポジティブな感動サイクルを生み出す第一歩となることを心から期待したい。