2025年10月8日から10日にかけて、東京ビッグサイト南展示ホールにて開催された、 H.C.R.2025(国際福祉機器展)。
車椅子や杖、スロープに電動モビリティまで……最先端の福祉機器が並ぶ光景は、まるで未来都市のショールームのよう。会場には、車椅子ユーザーや福祉を学ぶ学生の姿が多く、熱気に包まれていました。
その中で、年齢や障害などの垣根を超えて、誰もが楽しめる遊びを体験・紹介する「エンジョイアクティブゾーン」のe PARAブースでは、3日間さまざまなテーマのトークショーが実施されました。
ここでは、一日目の10月8日に開催された「夢の車椅子創造に向けて-第3編-」の模様をお届けします。


2025年で3回目の開催となる本トークショー。これまでは車椅子の開発者も交えた議論が中心でしたが、今回は実際に車椅子を利用する3名が登壇。ユーザーならではのリアルな視点から、“夢の車椅子”を自由に語り合いました。

登壇者紹介(写真左から)
- とりちゃん(司会):e PARAユナイテッドキャプテン。ベッカー型筋ジストロフィーで簡易電動車椅子ユーザー。YouTube『とりすま』で障害と挑戦を発信中。バチェラーを目指している!
- 神威龍牙:世界初!車椅子エンターテイナー。歌手・俳優・デザイナーなど多才。先天性両下肢機能障害で自走車椅子ユーザー。
- アフロ:e PARAユナイテッド。脳性麻痺で電動車椅子に20年乗る。今回乗っているのが初めての大型車椅子。普段はアフロのカツラを被ってチームメイトとサッカーゲームを楽しむ。
異なるタイプの車椅子に乗る3人だからこそ見える世界が交わり、リアルで生き生きとしたアイデアが次々と生まれていきました。
はじめに:過去のトークショー振り返り
イベントは、過去2年のトークショーを振り返るところからスタート。リクライニング機能や空を飛べる車椅子など、“夢の技術”ともいえるテーマについて、これまで多くの議論が交わされてきました。
トヨタ自動車が開発した段差や階段を乗り越えられる電動車椅子「JUU」をはじめ、実際に開発が進む車椅子も紹介されました。慶應義塾大学でロボティクスの研究に携わる川崎陽祐氏率いる研究開発チーム「Humonii」による、ユーザーの操縦と自動運転技術を掛け合わせたハンズフリーの半自動車いす「Feeling」や、同大学 の牛場潤一研究室と高橋正樹研究室が共同で開発中の、脳波でコントロールする電動車椅子「Brain GO」も紹介。体重移動や脳波で手を使わずに操作できる未来の技術に、会場の期待は一気に高まりました。

mercari R4Dが開発した空気で膨らむ折りたたみ車椅子「poimo」も紹介されました。漫画『ドラゴンボール』に登場する、持ち運びでき、使うときは投げると展開されるホイポイカプセルをイメージしたデザインで、空気で膨らむため軽く、持ち運びも自由。どこでも使える次世代の車椅子として注目を集めました。

日常で感じる不便と小さな改良
トークショーではまず、日常生活で感じる小さな不便がテーマに。

高い棚の物が取りたい
アフロさんは、スーパーやコンビニで手が届かない棚の商品をどうしても取りたいと語りました。現在の車椅子は座面の角度を変えられても高さそのものは調整できないため、手が届かない物があると日常の小さなストレスになるといいます。
充電問題
東京ビッグサイトのような広い展示会場では、帰り際に車椅子のバッテリーがギリギリになることも。アフロさんは「お喋りな自分のお喋りパワーで、喋った分だけ充電できればいいのに!」と冗談を交えながら語りました。
現実には、大型の充電器を持ち歩くのは大変です。外出先でも気軽に充電できる環境があれば、行動範囲はもっと広がるでしょう。
背中・腰の疲れ
長時間座ることが多い車椅子ユーザーにとって、リクライニング機能の有無は体の疲れに直結します。背もたれの角度を調整できる車椅子であれば、長距離移動もずっと快適になるはずです。しかし、オプションで取り付ける場合はかなり高額になるとのこと……
10年後の夢の車椅子
そして、トークショーの話題は10年後の“夢の車椅子”へと移りました。
- 段差スロープ機能:段差の前で車椅子から自動的にスロープが出ることで、どこでも移動可能に。
- 空飛ぶ車椅子:階段も段差もふわっと飛ぶことができれば全て解決。会場からも「乗りたい!」という声があがりました。
- 脳波操作や手を使わない操作:脳波や体重移動で操作できる車椅子の開発が進んでおり、実用化が現実味を帯びています。
さらに、「みんなが乗るものになれば、車椅子の開発スピードもグンと上がる!」という意見も。パーソナルモビリティ化により、誰もが簡単に移動できる未来の世界も想像されました。
会場から飛び出したアイデア
観客からもさまざまなアイデアが寄せられました。

- バッテリー交換スポットの設置:スマホのモバイルバッテリーレンタルのように、大手の車椅子メーカーであれば気軽にバッテリー交換できる場所があると便利。
- 統一規格の充電器に(Type-Cなど):車椅子の充電器の規格がスマホと同じなら、どこでも充電可能で荷物も減らせます。
- ロボット型車椅子:乗って楽しい、変形する車椅子。ガンダム風に空を飛べたら最高。
切実な充電問題の解決策から、乗る楽しさを追求した夢のアイデアまで、話題は多彩に広がりました。気軽に使えて、乗って楽しい車椅子なら、未来のパーソナルモビリティ化も現実になりそうです。
新技術と開発者の挑戦
トークショーの客席には、電動車椅子を開発している樋口氏が、実際に開発中の車椅子に乗って登場しました!その車椅子の特徴は次の通りです。

- 段差乗り越えが可能:ローラー付きで、段差だけでなく、山登りや海辺のアクティビティにも対応。
- リチウムイオンバッテリー搭載:約3時間の走行が可能で、ライトも装備。
- 無人走行(GPS連動):ラジコンのように決められた距離を自動走行でき、車椅子から椅子に移る際などに便利。
また、H.C.R.のトークショーをきっかけに電動車椅子の開発を始めた橋本氏は、「軽くてかっこよく、持ち運びできる電動車椅子」を目指していると語ります。狭い玄関でも置けたり、トランクに積める電動車椅子を開発中とのことです。
とりちゃんは「玄関に簡易電動車椅子を置いていると、人が出入りするときにちょっと邪魔なんですよね。軽くてボタンひとつで簡単に畳めたら便利だなぁ。」と語り、期待に胸を膨らませていました。

さらに、Humoniiの川崎氏は、これまで一台ごとに作っていた体重移動で操作できる車椅子「Feeling」を、既存の車椅子に後付けできるようになったと語り、「みんなの車椅子をFeelingにしていきたい」と意欲を見せました。未来の車椅子がますます身近になりそうだという期待が感じられました。

まとめ:声が未来を変える
今回のトークショーでは、車椅子ユーザーのリアルな声と開発者の挑戦報告によって、未来の“夢の車椅子”が、着実に「1段越えたら次の段へ」と挑戦を重ねられる存在になりつつあることを実感しました。
日常の小さな改良から未来の夢の技術まで、さまざまなアイデアが飛び交った本トークショー。会場全体で笑いながら課題解決を考える時間は、車椅子が単なる移動手段ではなく、「楽しさや自由を広げる存在」であることを改めて実感する場にもなりました。
ユーザーの声は、車椅子の進化を加速させる原動力です。こうした場を通じて、未来の車椅子はより自由で便利、そして楽しいものになっていく――そんな期待に胸が膨らむトークショーでした。



