イベントレポート

「ともいきゆうえんち」スタッフ参加レポート -心のバリアフリーを目指したeスポーツのおもてなし-

2025年9月13日(土)、茅ヶ崎市総合体育館(神奈川県)にて、障害の程度に関わらず誰もが一緒に楽しめる「ともいきゆうえんち(インクルーシブ移動遊園地)」が開催されました。神奈川県では、津久井やまゆり園事件をきっかけに定めた「ともに生きる社会かながわ憲章」に基づき、共生社会を推進する取り組みをしています。そのなかで、ePARAは、県からeスポーツブースの運営を委託され、障害当事者メンバーが来場者による体験のサポートなどを行いました。

今回は、eスポーツブースの運営スタッフとして参加された浅瀬シャロさんより、準備から当日までの様子をレポートいただきました。ぜひお楽しみください。

はじめに -浅瀬シャロ-

初めましての人は初めまして、浅瀬シャロと申します。

浅瀬シャロのアイコン

今回、私はePARAからお誘いいただき、2025年9月13日(土)に茅ヶ崎市で開催されたイベント「ともいきゆうえんち」のeスポーツコーナーに、スタッフとして参加させていただきました。イベントの準備から当日あった出来事まで、いろいろとお話しさせていただければと思います。楽しく読んでいただければ幸いです。

おもてなしの準備

このイベントにスタッフとして参加することが決まってから、私は、ずっと「子どもたちに楽しんでもらえるのか?」ということが心配でした。

記憶が定かではないけど、幼いころに誰かの家で、ルールもわからず、わけのわからないまま何かの格ゲーをやることになったことを、ずっと覚えている。誰を選んだのかも、勝ち負けも覚えていない。
そんな記憶があってから20年近い間、格ゲーはよくわからないものというイメージがずっと付きまとい、格ゲーを避け続けてきた私は、1年半ほど前に「ストリートファイター6」から格ゲーの世界に足を踏み入れて、やっと格ゲーの楽しさを知ることになりました。

このイベントを、みんなの嫌な思い出にしたくない。格ゲーは楽しいものだと思って帰ってほしい。
そういう心持ちで、イベントの開催に向けていくつか準備をしました。

楽しく待ってもらうには? -「ファイターのひみつファイル」をつくってみた-

机の上にキャラクター一覧の紙が数枚並べられている
とても簡単なプロフィールを添えたキャラクター一覧を用意しました

私がイベントに向けて自主的に準備したのは、「スト6」に現在実装されているファイターの一覧表です。せっかくなら、ファイターのプロフィールやビジュアルから興味をもってもらい、楽しくキャラクターを選んでもらえたらいいなという意図です。
最初はファイターの顔の画像に数行程度のプロフィールを添えて、来てくれた子どもたちが待ち時間の間に見ながらどのファイターにするか、家族と話しながら楽しく選べるように、と考えて作ってみました。

ストリートファイター6のキャラクターであるリュウ、ルーク、ジェイミー、チュンリー、ガイルの簡単な紹介を記載した一覧表
一覧表の初期案。春麗(チュンリー)の名前にちゃんとフリガナを振ったのは個人的にはファインプレーだと思う

しかし、このままだとどうしても「自分の推しキャラクター(エド)のプロフィールにだけバイアスがかかってしまいそう」という不安があり、箱推し(全キャラクターがまんべんなく好き)の友人にちょうど連絡が取れたので、見せてみました。その返事は……

「長文のプロフィールはオタクしか喜ばない!」

……ごもっともです。下手したら未就学児もいるかもしれません。お子様たちがそんなに長くない待ち時間に、そう長文をじっくり全部読むとも思えません。私にはその感覚が欠如していました。そうして、友人たちにアドバイスをもらいながら、キャラクター一人ひとりにプロフィールを数文字~1文程度で簡単に書いていきました。

結果、このようにとっても簡潔になりました。友人の提案で、ファイターの姿は全身の画像に加え、デフォルメイラストでも簡単に見られるようにしました。お子様たちに、待ち時間を楽しく過ごしてもらいながら、「スト6」に興味を持ってもらえる流れを作れたように思います。

ファイターのひみつファイルと題された、シンプルなキャラ紹介用紙
ファイターたちの出身国はカプコン様公認のファイター図鑑(洋書)から引用しています。
(ちびキャライラスト制作: とりあか様)

楽しく帰ってもらうには? -笑顔を与える創意工夫-

それから私が心構えとして注意したことは、「わけのわからないままボコボコにされて終わる」というような流れを作らないこと。
障害のある子どもたちの中には、私と同じようにこだわりの強い特性があるお子様もきっといらっしゃるだろうと考えました。母親からよく、公園などから帰るとき、人一倍駄々をこねて困らされた……という話を聞かされました。当時の私の気持ちは想像の域を出ませんが、きっと物足りない、まだ帰りたくない!という気持ちでいっぱいだったのでしょう。
楽しかったね、また一緒に遊びたいね、という気持ちで帰ってもらえるようにするには?
子どもたちにゲームを楽しんでもらい、笑顔で帰ってもらうには?
そんなことを考えながら臨みました。

まずはファイターを自分で選んでもらう

ファイターは自分で選んでもらうようにしました(それもあって、先述のキャラクター一覧表を作りました)。自分で選んだ!という気持ちは大きな満足感につながります。

最低限の攻撃ボタンを教えて、出来たら褒める

まずは「このボタンを押したら攻撃できるよ」ということを教えます。
本気で上を目指すコーチングならガードやら何やらも教えなければなりませんが、短い時間の間での体験なら、小さな達成感をたくさん味わってもらうのがとっても大事。攻撃ボタンを押して、私たちの操作するキャラクターに当たったら「いい攻撃だね!」と褒めることにしました。

……さて、こんなことを考えていたら、あっという間にイベント当日になりました。

ともいきゆうえんち開園

イベント当日は、開場より少し早めに会場に集合して、コーナーの設営やミーティングを行いました。ユニフォームに着替えてみんなで集合。

輪になって並んで打ち合わせを行う十数名のスタッフ
ミーティングの様子。右下の後ろ姿が私です。
気合を入れて前日に後頭部をエドっぽく刈り上げてきました。

当日は私たちが担当した格闘ゲーム「ストリートファイター6」に加え、レーシングゲーム「グランツーリスモ7」、音だけで楽しめるスマホアプリの対戦ゲーム「音戦宅球eSports」の3つのゲームを出展しました。果たしてどんなお子様が来るのでしょうか……!?新しい出会いにわくわく、そしてそもそも誰か来てくれるのか、不安でドキドキしていました。

驚きのお客様!?

最初こそ人もまばらでしたが、しばらく経つとお子様たちを中心にどんどんにぎやかになっていきました。

そんな中で、アロハシャツを着た男性が「スト6」のブースを訪れました。

並んでゲームをプレイする河野太郎氏と直也
このアロハシャツの方は――!?

なんと、河野太郎衆議院議員がイベントの視察に来てくださいました!ePARA所属の全盲プレイヤーNAOYA選手が、「スト6」に搭載されたサウンドアクセシビリティ機能により、目の不自由なプレイヤーも対等に対戦できることを紹介しました。河野太郎衆議院議員は、とても熱心にNAOYA選手の話に耳を傾けてくださっていました。そして、SNSではこんなコメントも!

河野太郎衆議院議員のXのポスト

河野太郎衆議院議員、ご来場ありがとうございました!

さらに、「音戦宅球」ブースには佐藤光・茅ヶ崎市長もいらっしゃいました。佐藤光市長は、スタッフの会場視察でも偶然お会いし、「見に行くよ!」とのお言葉があったとのこと。
約束通り、本当に来てくださるなんて嬉しかったです

茅ヶ崎市の佐藤市長
佐藤市長、ご来場ありがとうございました!

子どもたちと接してみてどうだったか?

イーパラのユニフォームを着たasaseが来場者と話す様子
私が来場したお子様の親御さんと話をする様子

さて、私がこのブースで対応をしていて最も印象に残っているのは、お子様の意志を尊重している親御さんがとても多かったことです。

以前別所で参加した「スト6」の体験イベントでは、「○○ちゃんはこのキャラクターがいいんじゃない?」と自分の子どもに声をかける親御さんがいらっしゃったのが印象に残っていました。親御さんが焦っていたのかもしれませんが、「子どもが自分の意志で選ぶこと」を大事にしている私にとっては、少しモヤモヤした場面でした。
今回のイベントでは、お子様たちがファイターを選んでいる間、親御さんたちは特に口を出さず、見守っていらっしゃることがとても多かったです。

また、お子様と直接話をするのは主にNAOYA選手とsasadan5選手が担当していたので、私は後ろから「今のいい動き!」「(そのタイミングで攻撃ができるのは)将来有望!」とお子様を褒める役に徹しました。操作方法で迷っている様子が見えるときには操作方法の説明について軽くフォローしたりもしました。
基本的には、楽しそうなら無理に新しいことを教えない方向で、のびのびと楽しんでもらうようにしました。

SA(超必殺技)を教えると盛り上がる!

NAOYA選手が休憩中には、1時間少々という短い間ではありますが、私もピンチヒッターとしてお子様と一緒にプレイする役に回らせていただきました。
そこで何度かお子様と接していて、パンチやキック(通常攻撃)、波動拳や昇龍拳(必殺技)に加えて絵面が派手な技を教えたら達成感につながるのではないかと考えました。
そこで、「こことここのボタンを同時押ししてみて」とSA(超必殺技)の出し方を紹介しました。ファイターごとの個性的な技を、かっこよく出すことができます。
正直、アシストコンボによって連続で技を出すことよりも、SAという派手な技を1発使えることのほうがお子様たちには盛り上がったようです!アシストボタンを押しながら攻撃ボタン連打という操作は、一部のお子様にとってはちょっと難しい説明だったように見えたのもあります。

何度も来てくれるのが楽しんでもらえた証!

当コーナーの3つのブースの中では、身近に感じられる、車の運転が体験できる「グランツーリスモ7」が一番人気だったようです。お子様を案内しようと受付担当の方に確認をしに行ったら、「みんな車(グランツーリスモ7)待ちですね」という状況も結構ありました。
そんな中で「スト6」のブースを担当していて気づいたのは、何度か見た顔のお子様が並んでいたこと。つまり、リピーターのお客様です。中にはなんと、7~8回も並びに来てくれたお子様もいらっしゃったそうです!
1回遊んで面白くなかったら、わざわざ並び直すなんてことはしないでしょう。NAOYA選手やsasadan5選手をはじめとしたブース担当みんなの努力の甲斐がありました。

ところで、「ファイターのひみつファイル」の効果は……!?

私が作ったファイター一覧表は、待機列のそばにある机に、印刷したものを置いていただきました。何度か並んでいるお子様に「気になった人はいる?」と聞きに行ってみました。

「テレビ(テレビ東京の番組「有吉ぃぃeeeee!そうだ!今からお前んチでゲームしない?」)で見た気がするからこのキャラがいい!」といったふうにきっかけを教えてくれるお子様や、「この人がいいな」とそっとファイターを指さして教えてくれるお子様がいらっしゃいました。私が使っているのと同じ、エドでした。

ストリートファイター6のキャラクターであるエドのイラストと「見た目はおとな、中身はこども」と書かれた説明文
そっと指さされたファイター
(ちびキャライラスト制作: とりあか様)

何に惹かれてエドを選んだのかはわからないけれど、個人的にすごく嬉しかったです。
このように、私の期待通り、コミュニケーションのきっかけとして楽しく活用することができました。

ちなみに、イベントをやっていて人気だったファイターはこのあたりです。

リュウ、テリー

本当に多かった!「スマブラ」で見たことがあるから、という理由が多かった模様。
しかし、同じくスマブラに出ているはずのケンはあまり選ばれなかったようです。スマブラのケンとはイメージが違うからかな?

ジュリ

かわいいものが好きなお子様に人気でした。
結構悪い顔をするファイターなので最初は怖がられるかな?と思っていたのですが、やはり「カラーリングがかわいい」という第一印象が勝ったようです。モノクロにピンクと水色はかっこいいしかわいい。

エド

私の持ちキャラであり、おそらく来場されたお子様たちと最も年齢が近いファイター。選んでくれたお子様は3人ぐらいいらっしゃいました。
理由は聞けていないのですが、「なんだかかっこいいファイターがいる!」と印象に残っていてくれたら、個人的に嬉しいです。

ジェイミー

最初はあまり選ばれていなかったのですが、イベント後半になって2人ほど選んでくれたお子様がいらっしゃいました。お子様のプレイを後ろで見ていた親御さんが技を見て「かっこいい!」と言っていたのが印象的でした!酔拳とブレイクダンスの合わせ技、かっこいいですよね。
ジェイミーの特徴である薬湯を飲む技の使い方が少々難しいので、サクッと教えてあげられたらよかったなあと思っています。

イベントを終えて -心のバリアフリーのきっかけに-

補助輪付きバイクにまたがる笑顔の直也と周りでサポートするスタッフ
突如バイクに乗って現れたNAOYA選手!
障害のある方でも乗れる「インクルーシブなバイク乗車体験」に参加されていました

イベントは大盛況に終わりました。「ともいきゆうえんち」全体では1000人の方が来場されたそうです!
eスポーツのコーナーでは、どのお子様も、のびのび遊んで、満足して楽しそうに帰られていました!私が「もしかして楽しんでもらえないのでは?」ということを気にしすぎていたのかもしれません。

今回のイベントでは、参加スタッフがそれぞれ担当するエリアを楽しんでいただくためのおもてなしを工夫して臨みました。
その試みが少しでも、ともいきゆうえんちという空間内で築き上げる「心のバリアフリー」につながってくれていたら、と願っています。

改めて、ご来場いただいた皆様、また、一緒にイベントを盛り上げてくださったスタッフの皆様に、感謝を申し上げます!
このような機会を与えていただけて、私たちにとって素晴らしい経験になったと思います。
そして、はじめてバリアフリーeスポーツを体験した子どもたちにとっても、記憶に残る思い出になっていたら嬉しいです。

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浅瀬シャロ

神奈川の隅に住んでいる、ゲームとお絵描きを趣味でやっている社会人。思い立ったらすぐ行動し、興味を持ったことにはなんでもまっしぐらに挑戦しています。興味関心は狭く深く、一つの事柄をどんどん掘り下げるタイプ。思ったことを文章にするのも好き。

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