
夢との出会い――プロのナレーターを目指して
初めまして。埼玉県出身で全盲の長谷川広美と申します。
昨年4月よりナレーター志望で就労支援事業所「ライフスクエア五香」に通所し、ボイストレーニングの他、ビジネスマナー、SNSやAIを活用した様々な作業を学んでおります。
きっかけは、NHKのラジオでした。『ラジオ深夜便』のインタビューコーナーに、視覚障害者のナレーター専門の事務所の代表の方が偶然出演されていたのです。この時初めて、自分と同じ全盲でありながらもプロの声優として活躍している人たちがいることを知りました。
当時私は、両親が他界して在宅介護が終わったばかり。いちおうあんま・マッサージ師の資格だけは持っていますが、ようやくゆっくり自分と向き合う時間ができ、(この先何を目指して歩いていけばいいのだろう?)と悩んでいる最中でした。
それまで特に声の仕事に興味を持っていたわけではなかったのですが、幼い頃から本を読むのは大好きでした。そういえば10代・20代の頃、盲学校での文化祭の放送係や、町内行事での朗読を頼まれたことが何度もあったっけ。
(これだ! この世で私が果たすべき使命は、これだったんだ)
ビビビと衝撃が走り、この瞬間「プロのナレーターを目指そう」との決意が固まりました。
その後「ライフスクエア五香」に巡り合い、現在はブレイクスルーコースでその夢に向かって日々訓練に励んでいます。
そうして積み重ねてきた訓練の成果を発表する場として、2026年4月25日にオンライン発表会が開催されました。受講生一人一人が練習の成果を披露する大切な機会です。
この記事では、私の視点から発表会までの練習の様子や、本番当日の出来事についてお伝えしたいと思います。
憧れの落語に挑戦! 練習の中で見つけた「自分らしさ」

発表会で私たち五人の受講生が挑む演目は、個人で行うものと、二人組で行う朗読劇。
個人の部の内容は歌舞伎、詩の朗読、場内アナウンスなどなどさまざまなジャンル。一人で複数の演目に挑戦することになったクラスメイトもいます。
私が披露する個人演目は、落語「まんじゅう怖い」。若者たちが長屋に集まって「この世で一番怖いもの」の話題で盛り上がる、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう小話です。
ここで初めて打ち明けますが、昨年地元の市民会館などでの寄席を観覧してから、周りを笑いの世界に引き込むプロの落語家のパフォーマンスに魅了された私は、(自分も、一度でいいから落語をやってみたい)とずっと願っていたのです。胸の奥にしまっていた希望が天に届いたのでしょうか? 講師の富田先生からこの作品を勧められた時、もう嬉しくて、嬉しくて、しかたがありませんでした。
2月、いよいよ練習が始まりました。ボイストレーニングの受講生は、出身地もばらばらで遠方に住んでいる人が多いため、レッスンはいつもZoomで行っています。当日演じる作品を、先生やクラスメイトの前で披露します。みんな台本がいらないほど原稿を読み込んでいて、訓練を忘れて聞き入ってしまうほどの仕上がり。私も先生からのご指導を思い出しながら、自分の声を録音して何度もチェックしたり、いろいろな落語家が演じている「まんじゅう怖い」をYouTubeで見たり。親しい友人にも実際にパフォーマンスを見てもらって感想を聞いたり。憧れだった落語ができる。そう思うと、稽古もちっとも苦ではありませんでした。
このまま順調に進み、当日を迎えられると思い込んでいた私。
ところがトレーニングの回を重ねるごとに、クラスメイトたちの演技や声の響きが見違えるように輝きを増していきます。
一方私は、いつまで経ってもお子ちゃまの真似っこ。自分だけ置いてきぼりにされてしまったような・・・。
(このままじゃダメだ。でも、どうしたら?)
あんなにわくわくだったのが一転。迷いと焦りを抱えたまま、ただただ練習を繰り返すだけの日々が、いたずらに過ぎていきました。
本番まで一ヶ月を切ったある日。練習の合間の息抜きにネットをのぞいていた時でした。『自分らしく生きるとは』というタイトルの記事で紹介されていた「桜梅桃李(おうばいとうり)」というキーワードに、私は思わず釘付けになりました。
桜、梅、桃、李の四種類の花。
この花々の違いを人間一人一人の個性に例えたのが、「桜梅桃李」という言葉なのだそうで、鎌倉時代の本に書かれていた、ふるーい教えらしいです。
その記事のラストには、こうありました。
〜〜「自分らしい生き方」。それは、今いる場所で、自分の使命を見つけ、挑戦していくこと。その、「桜梅桃李」の生き方に、勝利の花は必ず咲き薫っていくはずです。〜〜
(そうか。みんなはみんな、私は私。他の人のようにはできなくたって、演技が下手だって、今自分にできることを精一杯やろう)
この言葉のパワーで心が定まり、もやもやがぱあっと晴れました。
そうして、無事4月25日 リンク を迎えることができたのです。
いよいよ本番! 温かな応援に包まれた発表会
発表会のスタートは、13時30分 リンク。その模様は、事前に視聴登録していただいた方にのみYouTubeでライブ配信されることになっていました。
私は直前まで、その視聴者の皆さんから出場者に寄せられた応援メッセージを拝見しておりました。
「はるもけあ」の職員さんをはじめ、21名もの方々からのエールがどれも温かくて、もりもり元気が湧いてきます。
そのうち、私宛にコメントをくれた方の中で「ジョン」という名前に、ふと目が止まりました。
(あれ? 「ジョンさん」なんて友達、いたっけ?)
発表会の日からかなり後になって、そのペンネームの由来が以前彼女が可愛がっていたワンコの名前だということが判明するのですが、コメントを何度も読み返しながら考えているうちに、気がついたらZoom内への開会30分前の集合時刻をとっくに過ぎてしまっていました。
(しまった! また遅刻だ)
私が慌ててライブ配信用のURLに入った時、すでに本番開始まであと10分になっていました。
誰もがぴりぴりと押し黙って開会を待っており、私の緊張は一瞬にしてピークに!
・・・と思いきや、そこには冗談を言って和やかに談笑するいつも通りの先生とクラスメイトたちがおりました。この明るく温かな数分間で、どれだけ気持ちがほぐれたことでしょう。
そうして13時30分 リンク、いよいよ『ライフスクエア五香 ブレイクスルーコース×ePARA Voice』オンライン発表会がスタートしました。
声で届ける物語――演じる喜びと心に響いた朗読

発表会は、前半が個人の演目、後半が二人一組での朗読劇の披露。そしてトリは、私たちの先輩でプロのナレーターの北村直也さん・関場理生さんによるエキシビジョンという内容で行われました。
トップバッターの見事な「ういろう売」の口上に続いて、いよいよ私の「まんじゅう怖い」の番になりました。
出演者にお寄せいただいた応援メッセージ、ボイトレの皆さんとの和やかなひと時のおかげで、ゆったりした気持ちで演目に臨むことができました。普段の練習通り身振り手振りを入れながら、熊さん・松つぁん・巳之助をのびのび演じることができました。ついつい叫び声が大きくなりすぎ、マイクが拾いきれずに声が途切れてしまう残念な部分もありましたが、(一度落語をやってみたい)との望みが叶って、私は幸せでした。
後半の朗読劇では、子供向け科学番組のキャラクターと、ホームドラマのお母さん役に挑戦。全く異なる役柄で、お母さんは自分の母とも違うタイプでしたので特に難しかったです。でもどちらの朗読劇も、それぞれの相手役がすばらしい演技でリードしてくれたおかげで、最後まで楽しく演じることができました。
ついつい自分の出番の話ばかりになってしまいました。ではここで、特に印象に残ったものをおひとつ。
個人の部・四番目の伊藤さんによる、筆先ちひろの詩『今日を生きているだけで』の朗読。
私もこの原稿を点字に書き起こして持っております。一行一行温かく包み込んでくれる言葉が散りばめられた、ふと思い出して読み返したくなる作品です。
普段音楽や小説で感動しても泣かない私。
ところが伊藤さんの声に乗せた途端、筆先さんの紡いだ言葉たちがじわじわと心に染み込んできたのです。後半の「どうにかなるっていう言葉が届かないほどに今が辛いなら立ち止まって/たくさん泣いても大丈夫」という部分まで来た時には、思わずじーんと目の奥が熱くなって、涙が溢れそうになりました。これが人を感動させる声なのですね。
本当は、お一人お一人の演技の模様を丁寧にお伝えしたいところなのですが、誌面に限りがございますため、詳細はぜひともYouTubeの第一回発表会のアーカイブでご覧ください。
次なる舞台へ! 第二回オンライン発表会のお知らせ
おや、「第一回」だって? そうなのです。今私は、第一回と申し上げました。ということで、この場をお借りしましてこの記事をお読みいただいているあなたにお知らせです。皆様の応援のおかげで、2026/11/07(土曜日)リンク「第二回『ライフスクエア五香×ePARA Voice』オンライン発表会」が開催されることになりました! 前回同様ライブの視聴には専用フォームへの登録が必要ですが、周りの方々にもお知らせいただき、一人でも多くの皆様にご参加、ご覧いただけると嬉しいです。今回の演目も、自作のストーリー・エッセー・ヒューマンコメディなどなど盛りだくさん。
障害者の就労訓練やボイストレーニングに興味がある方も、それ以外の方もお楽しみいただけるよう、受講生一同精一杯頑張ります。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。




